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2017年02月06日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第4話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第4話





    



 それから、何か少しでも情報収集をしようと思い、給油も兼ねエネオスのガソリンスタンドに立ち寄った。


「いらっしゃいませーー」








元気な声が響き渡り、若い店員が駆け寄ってきた。名札には 『 田城 』 “ たしろ ” と読むらしい。
そんな田城は落ち着きのない様子で俺の姿と、バイクをあれこれ見た後、少し “ ほっ ” とした様子で話しかけてきた。

「いやー、びっくりしちゃった。旭川ナンバーっすねオニーさん。バイクフェスタに行く途中っすか?」




ん?何がびっくりしたんだ?

「なにか驚いたかい?」


つい聞いてしまった。




「ああ、すんません。いや、どこのチームの人かなって、思ったもんで」

「ああ、そういうこと。縄張りみたいな?」

「そうなんす。それらしいバイクやクルマのお客さんは、まず新規では入ってこないんで」




なるほど。つまりこうだ。誰かしらチームの人間がそこに勤めているとか、OBがいるとか。この街じゃ、そんな感じに繋がった固定客が大半だと言いたいんだな。

「ところでオニーさんは、スティール・ランナーに会いに来たんすか?」




ああ、そのとおりだが…




「今日のフェスタはSANTANAが催してんすよ」




ああ、そうなんだ…




「いやぁ~、自分も行きたかったっすよ。このフェスタの売り上げってね、自分たちの収益にするんじゃなくて、恵まれない子供達へのチャリティーイベントなんすよ !! 」




ああ、そうなんだ…




「あっ ! そうそう、いまSANTANAの人達、少しピリピリしてるから気を付けた方がいいっすよ」




ああ、それしても君はよくじゃべるなぁ…

「え~と… “ 人達 ” って? チームなのかい?」

「そうなんすよ。スティール・ランナーの所属する、チーム『SANTANA』っす。いまサイコーにクールなチームなんすよ~♪




ああ、キミなんだか楽しそうだなぁ…




「で、イチャモン付けたりするのは、絶対にダメっすよ!何故なら、スティール・ランナーには常にボディーガードが近くにいて、そんな連中はそく排除されるんすよ!」

「はあ?ボディーガードぉ?」

なんじゃそら?




「ええ、ええ。たまに走りで勝てないハネッ返りが、スティール・ランナーにケンカふっかけたりするんすよ。んで、おっかねーボディーガードがそういった連中を排除して、スティール・ランナーには走りに集中して貰うって寸法なんす」




ああ、なるほど。それは有益な情報だな。




「それでね、それでね…」




田城はすっかり話に夢中になり、給油の手が少しおぼつかない様子になってきたので、俺は一瞥してからこう言ってやった。

「おい、こぼすなよ」




“ はっ ” とした顔の田城。それから妙に脅えた様子となり、彼は黙って給油を続けた。
あれれ?脅かすようなことは、何もしてないつもりだけど…













    


バイクフェスタのイベント会場は、少し郊外にあった。元は小型飛行機の滑走路だったらしいのだが、現在は使用されておらず、こういった催し物が開催される時に開放し、利用されているのだという。
コレもアレだね、行政のやる3セク(第3セクター)の失敗例の一つって訳さ。でも用途は違えど、こうして大いに利用されてんだから、まあ、良いんじゃねーの。と、俺は思う。
それにしても、人と出店の数が凄い。縁日でよく見るような屋台はもちろん、ヘルメット、ウェアー類を売る店、パーツ屋、個人のフリーマーケット、なんでもござれだ。









なかでも一番目を引いたのは 『 ウォッシュ屋 』 なる存在だ。つまりこいつは、1回三千円で、バイクを洗車してくれるのだが、普通そんな事に、そこまで金を使ったりはしない。だが、その洗い手がビキニを着たモデル並みの美女だったらどうだ!?その美女が泡にまみれ、水浸しになりながら艶めかしくバイクを洗うのだ。どうだい?気になるだろ !?





まだまだある。 『 ポールダンス屋 』 『 タトゥー屋 』 『 シャワー屋 』 『 シャツカット屋 』 に 『 チョコバナナショー実行員会 』 ? もうなんだか訳がわからない。








音楽に合わせ踊っている奴、ビールを飲み過ぎてフラフラな奴、ナンパに精を出している奴。まったく様々だ。それに女達のファッションも過激で、ビキニの上に破れたTシャツや、ショートパンツを身に着けている。これはさっきの 『 カット屋 』 で切ったのかな?












あと、チーム看板が背中に入った、Gベストや、革ジャンを着た奴もたくさんいる。まあ、なんにせよ楽しい雰囲気が溢れているイベントだ。







「さて、どこにいるんだ修二…」

俺は修二の姿を探した。














    10


人ゴミのなか、辺りを眺めながら、ふらふら歩いていると、突然前方から、怒声が響いてきた。

「おいテメェーー!●×△※Д!!」




途中、なにを言っているのか聞き取れない。周りの人達もどよめきと共に、その声の方向を目指し、あっという間に人だかりのステージをつくってしまった。

「はは、修二みつけた♪」




どうやらそこは 『 SANTANA 』 のブースだった。修二はもちろんだが、10人ほどの仲間と CB750F。スティール・ランナーのバイクが、堂々と展示されていた。




「テメェーー、俺ぁゼッテー認めねぇーー !! 」

尚もその男は喚いた。素肌の上に着た革ベストの背中には 『 BAEL (バエル) 』 と書かれている。




「東の悪魔王か…」

なかなか面白い名前を付けるもんだ。俺のいた施設はカトリック系だったからな。そういうのはなんとなく知っている。
そして突然、この息巻いているバエルの男は、手に持っていたバドのビール瓶を割り、修二に向かって構えたのだ。




「きゃあーーー !! 」

今度は女の金切り声が響く。修二は少し悲しそうな顔をして、首を小さく横に振って一言つぶやいた。




「ハック…もうやめろよ…」

「スカシてんじゃねぇーー ! 」




ハックと呼ばれた男は、尚も興奮した様子で、修二に襲いかかろうと踏み込んだ瞬間だった。修二の横に控えていた2人の女、しかも双子が同時に飛び出し、一人がスラッと長い右脚で、男の手にあるビール瓶を横から薙いだや否や、もう一人が、胸元に強烈なサイドキックを放ち、バエルを弾き飛ばした。それは見事な連携だった。









だが、当然それでは済まない。ヤラレた方の仲間がワラワラと集まって来て、その場は大乱闘に突入しそうな様相を呈してきていた。




「そろそろ、こりゃヤバイな…」

そんな風に思い、仲裁に入ろうかと考えていた時、これまた修二の側近?ボディーガード?と思われる、身長2メートルはありそうな筋骨隆々のスキンヘッドが、バエルの数人を掌で弾き飛ばし、その場を制圧してしまった。




「ははぁ~。なるほど。鉄壁だね」

そう、鉄の壁である。修二の近くには、常にこの3人が寄り添い、がっちりガードされている。さっき田城が言った事は、嘘ではなかった。そして一つ気付いた。

「あっ !? あの女共…、さっきの XLCH と XR750 だな」





完全に見落としていた。だが今はっきりと確信した。何故なら、2人ともライダースの左肩エポレットに、赤いバンダナが特徴的な形で結ばれていたのだから。同時にもう一つ大事なことを思い出した。アレはその昔、俺達 SANTANA のメンバーがやっていた、仲間の証なのだ。

なんてことだ。俺は捨てたつもりだったのに、修二はSANTANAの誓いを、いまだに守っているんだ。捨てた?いや違う、忘れようとしていたんだ。永遠と言ったあの誓いを。




「くそっ ! くそっっ !! 」

思わず舌打ちをしてしまう。




修二、修二…。お前って奴は…。お前って奴はよぉ…。涙が流れそうだった。ああ、今いくぞ。




「お~~~い。修二ィ~ ! 」

この際、その場の空気なんて関係ない。修二と話さなきゃいけない。あの誓いを。




「お~~~い」

もう一度、人だかりの中から、修二に声をかけ、こう着状態のピリピリムードの中に、ずかずかと割って入っていった。
当然周囲はざわめき、全員が俺へ視線を集める。ふんっ、関係ない。俺は修二と話さなきゃいけないんだ。




「久しぶりじゃねぇーのよ。元気だったか?」

「下村…さん…!?」

修二は、一瞬呆気にとられた顔をした。




修二、お前は…お前は…。懐かしさと同時に、あの頃、俺達が味わった痛みも思い出す。そしてそこに邪魔が入った。




「おい!てめぇどこのモンだぁー !? 」

スキンヘッドの大男だ。邪魔すんな。俺は修二と話がしたいんだ。話さなきゃいけないんだ。が…。




「うるっせぇ!黙れぇぇぇーーー!!」


いけない。つい怒鳴りつけてしまった。違う、俺は修二に用があるんだ。




「うがああああーーー ! 」

興奮の臨界点。スキンヘッドが言葉にならない奇声を発し、右拳を大きくスイングバックして、突然殴りかかってきた。




「待てぇぇぇぇーーーーー !! 」

修二の叫び声、だがもう遅い。まるで隕石の墜落だ。大上段からデカイ拳が、凄いスピードで落ちてくる。俺はその隕石の墜落に対し、左足から一歩前に踏み出し、かがみ込むようにダッキングで隕石を交わした。それから間髪を入れず、強烈な右のボディーアッパーを突き上げ、鳩尾の辺りに、拳を深々とめり込ませてやった。

 スキンヘッドは体を “ く ” の字に折りながら、目を剝き苦悶の表情で、一度大きく息を吐く。次には膝が折れ、スローモーションのように前向きに倒れ、そのまま立ち上がってはこなかった。




「ちょっとアンターーー ! 」

XLCH と XR が、2人同時にステレオで叫んだ。




「おい、邪魔すんじゃねぇよ」

俺は少々凄みを利かせ周囲を睨みつけたのだが、修二の仲間は臆することなく、俺の前に立ちはだかった。しかもすぐ目の前に現れた、まだ10代と思われるガキは、瞳に涙を浮かべ、ガタガタと震えながら、 “ とうせんぼ ” するように両腕を広げ、逆に俺を睨み返している。









「止めるんだ !! 」

威きり立つメンバーの前に、修二は割って入った。

下村さんお久しぶりです。ほんと突然ですね。全く気が付きませんでしたよ」




それは冷笑だった。以前、あんなに明るく笑っていた修二からは、考えられないほどの冷たい笑みだった。




「急にこんな場面にまた…。おい、この人があのDef bustaだ。僕の先輩だよ」

更に周囲の空気が張り詰め、ざわめき立つ。




「修二、あのな…」




言いかけた時、また邪魔が入った。

「オイ ! てめぇーー !! 」



バエルだった。後ろから左肩を掴んできた。
『 邪魔だ 』 俺は力任せに左鉄槌のバックハンドブローを顔面に飛ばし、一瞬で打ち倒した。








「なんだぁーてめぇ ! 」




 は?なんなんだコイツら…。

「なんだって聞いてんだよコラァーー !? 」




くっそ邪魔くせぇ…。 俺は更に違うバエルを、右フックで殴り飛ばす。




「てめぇーー ! 」

「なめんなぁーーー!」




次々、次々、ワラワラワラワラと、邪魔なバエルが湧いてきて、俺はあっという間に取り囲まれた。




「ふざけんな…」

小声で呟いた。




「ああーーん?なんだぁ !? 」

「邪魔だ…」

更に小声で呟く。




「ああ~~ん!?」




それから、少し溜めをつくってから、腹の底からおもいきり吼えた。

「退きやがれぇぇぇーーー !! 」




そう叫んだのと同時に、目の前の奴を殴りつけ、次には宙に跳び上がり、バックスピンキックを見舞った。


「だらああぁぁぁーーー !! 」








右に左に激しく動きながら、次々とバエルを打ち倒したが、その間、何発も殴り返され、蹴り倒されそうになった。しかし、それでも動き続け暴れまわった。




「俺は修二に話があんだーー !! 」

だが、どんどん目の前に敵が現れ、修二が更に遠のく。




「修二に話があんだよ !! 」

何発もの拳が飛んでくる。




「修二ィーーー」

俺は倒れず、更に暴れ続けた。










つづく


Posted at 2017/02/06 12:03:10 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2017年01月28日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第3話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第3話
      


ここ数年、北海道の高速道路事情は、飛躍的に進歩した。以前なら、半日かけて移動していた場所でも、ものの数時間で目的地に到着出来るようになったのだからな。

「高速道路さまさまだね♪」









俺は旭川鷹栖インターチェンジから札幌ジャンクションを経由し、一気に苫小牧東インターチェンジに向かった。 鷹栖、奈井江間は。少々横風がきつかったがそんなのは関係ない。逸る気持ちが高揚を抑えきれない。
走れば走るほど俺の腕はバイクのフロントフォークに同化し、右手の指先にはキャリパーがローターを掴む感覚が宿る。 更にそこから、腰とリヤショックまでもが同化したような一体感が生まれる。




「ノれてる」

そう、それはバイクに 『 乗れている 』 証拠。 『 Ride ( ライド ) している 』 じゃなくて 『 ノれてる 』 んだ。
オートバイという乗り物は不完全である。自分単体では立っていることも出来ない。止まれば倒れる。そんなオートバイは 『 バイク乗り 』 という意思が居ないと完全な姿にはならない。
そして共に求めるものは 『 スピード 』 。
はは、かの巨匠はほんとよく言ったもんだね。 『 言い得て妙 』 全くそのとおりだよ。

200Km/h 巡航、エンジンのタレ無し、車体も安定。そこから更にアクセルの鞭を入れ、Z1000MkⅡを加速させた。
途中、白黒パンダの車が停まっていたが、気にせず加速する。そいつはルーフ上に設けられた不細工な飾りを一瞬赤くチカチカッとさせたが、ただそれだけでとくに追ってはこなかった。













    



今や北海道の一大工業都市となった苫小牧市。 あらゆるメーカーの工場があちらこちらに立ち並び、そこには膨大な数の期間社員達が働いている。

しかも、雇用は雇用を生み、街には個人経営の飲食店や、バイク、クルマのショップが軒を連ね、ちょっと郊外には巨大ショッピングモールまでもが進出しており、主要道路は片側6車線ときている。
またそこにはアメリカ並みのトレーラーヘッドがばんきり走り回り、荷積みが完了した箱(トレーラー)を連結させては次の目的地に向かう。









俺は、道路際に面したコンビニ ( セイコーマート ) の駐車場にバイクを止め、ジョージア・エメラルドマウンテンブレンドのブラックコーヒーを飲み、産業の動脈ともいえる営みに、ひとしきり感心しながら休憩を取っていた。そんな時、店長と思われる初老の男が店から出てきて、タバコをくわえながら話しかけてきた。


「やあ、旭川ナンバーだね。 A3 のお兄さん」








おっと驚いた。Z1000MkⅡ の事を A3 と言うなんて。




「初期型だろ、それ?」

「ええ、そう。 詳しいんだね」

「はは。まあな」





少々小太りの店長だった。その言動に嫌味はない。むしろ有効的な態度ともとれる。

「あ、あいつら…。おい見てみな、エミーとマリーだ」





なんだ?店長の指さす方向、目の前の交差点。そこに現れたのは、2台のハーレー・ダビッドソンだった。 トレーラーヘッドの排気音に負けないくらい、すごい爆音をまき散らしている。

  







二台ともスポーツモデルのようだが… いや違う ! ソリッドブラックの車両は、Kフレームのレーサー、ハイコンプレッションモデルの XLCH だ。 それに、もう一台、オレンジのダートラ仕様。 コイツも何か様子が違う。俺は目を凝らしながら、小さなオレンジタンクの文字をよく見つめた。そこに書かれていたのは。







「ああん !? XR750 だと !! 」

驚いた。 XR750 だ。 コイツは高圧縮比のスペシャルヘッドを組み込んだワークスマシンだ。
ハーレー唯一の後方吸気と前方排気システムを持ち、フロントフォークには当時のレーサーの定番、イタリア・チェリアーニGPフォークが採用されている。







「おいおいどうなってる !? 」

この二台、こんな貴重な個体がこの街で平然と走っているなんて。日本ではあまり知られていないが、ハーレー・ダビッドソンは創立当初から、モータースポーツに並々ならぬ情熱を注いできたメーカーだ。 特に象徴的なのは、アメリカで高い人気を誇る “ ダートトラック ” と呼ばれるダート周回レースだ。古くからH・Dは、ワークス体制で専用マシンをAMAのダートトラック選手権に投入し、華々しい活躍を続けている。






「すげ~な、オイ」

感嘆の声が出てしまった。それを聞き、ニヤリと笑みを浮かべる店長。




「XLCH が エミー で XR が マリー。 この街の名物姉妹だ」











そう、乗り手は二人とも女なのだ。ダースベーダーを連想させられる、ブラックのシンプソン M30 からは長い髪がなびいている。それに、タイトなダブルのライダース、左肩のエポレットには赤いバンダナを結び、細いウエストラインは形の良いヒップと非常に良くバランスしている。













そしてお決まり、交差点ではシグナルグランプリ(ゼロヨン)が、突然始まったりするもんだ。まあ、こんなとこでレースをやるなって方が無理だよな(笑)











更に感心したことがもう一つ。女共の後ろについている数台のトレーラーヘッドは、目の前のバイクを無駄に煽ったり並んだりもせず、ちょっと距離を置き二人の様子を興味津々で眺めていた。

つまりこの街では、バイクもクルマも独自の文化が発展いるからこそ、ことモータースポーツの分野においては非常に理解がされている。 というか、乗り物好きが大勢いて、自然とチームが出来上がり、様々なイベントを催すようになった。 当然、皆がバイクやクルマを楽しんでいる。そんな感じだ。




「はっは。そろそろだぜ」

なおも楽しそうな店長が言う。







2台のハーレーはエンジン回転を上げ、クラッチを繋ぐタイミングを虎視眈々と見計らっていた。

そしてレッドシグナルからブルーシグナルへ。
けたたましいほどの、エキゾーストノートと、スキール音。まさにロケットスタートだった。




「すげぇ~~♪」

つい口に出た。上手い ! それが感想だ。絶妙なクラッチワーク。 
あっという間に走り去った。なんとも来て早々、良いもんを見せて貰った。




「良~い音だ。ちゃんと維持できている。それにしてもあいつら、ここの交差点で信号に捕まるたびに、必ず2人でゼロヨンをやるんだよ」

楽しそうな様子の店長。 なんだか、俺もムズムズしてきた。Z1000MkⅡに火を入れ、ヘルメットを被った。





「ああ、こっちも良い音だ。1105… いや 1135 cc か !? 相当なハイチューンだな !! 」




オイオイ ! まったく何者だよこの人は !? 音を聞いただけで言い当てやがった。
でも一つわかった。 このイカレた街は、たとえコンビニの店長であろうと、女であろうと、全くを持って油断ならねえな(笑)。




しかし、期待は高まるばかりだ。










つづく













Posted at 2017/01/28 10:48:44 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2017年01月21日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第2話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第2話



   4

俺達は、Garage SANTANA の事務所内で、スツールに腰掛け、淹れたてのコーヒーを啜りながら、昔話に花を咲かせていた。










 
「親に捨てられた俺(シンジ)。母親に死なれ、保護者不適格の烙印を押された父親から、引き離されたお前(下村)。そんな俺達が出会ったのは、あの札幌の児童養護施設…、中1の春だったな」

「ああ、出会ったその日にもうケンカだ。笑っちまうよな。でもお前はキックボクシングをやっていたろ、俺は毎日負け通しで気分が悪かったぜ」

「はっ ! そんなお前は俺とケンカする度にどんどんテクニックを盗んでいきやがってよぉ。気分が悪かったのは俺の方だぜ」

「お互いバイクに出会うまではよくケンカをしたな。行き場のない感情を受け入れてくれる器が無かった。とでも言うのかな…。あの常にイラつく激情…。眼に映るもの全てを壊してやりたくってな。あの頃の俺等は人間じゃ無かったな(笑)」

「はは、全くだ。それよか下村、バイクっていやぁ、あの当時乗ってた “ ゼファー400改 ” はまだ持ってんのかよ?」

「もちろん。16の誕生日に親父が贈ってくれたバイクだからな。大切に持ってるよ。裏の倉庫で眠ってる」

「お~お~、でもあのゼファーは反則だろぉ !? 550エンジンをベースに、ワイセコピストン組んで615ccにボア(ボアアップ)。でツインプラグ。敵わないわけだよなぁ」

「ああ、でもお陰で楽しい高校生活を送れた。ところでお前は?まだKH400は持ってんのかよ?」

「いや、残念だけど…。ありゃあ沖縄でスクラップにしちまった。色々あってな…」






急にシンジの表情が曇ってしまった。

「プロライセンスも剥奪され、病気で肺も潰れてよぉ。今じゃ1分もまともに動けねぇ。そんな時、オヤジに拾われてな。新しい人生を貰ったんだ…」





「そうか…」

俺は言葉に詰まってしまった。シンジのライセンス剥奪は知っていた。試合中、相手選手の度重なる故意のバッティング(頭突き)にブチギレてしまったシンジは、ダウンを奪った際、馬乗りなって相手を殴りつけ、失明させるほどの重傷を負わせたのだ。その後、シンジは行方不明となり、俺は帯広、旭川と移り住み、このショップを受け継いだ。お互い本当に色々あったのだ。




「下村よぉ、暗い話は止めようぜ、それよか修二だよ ! スティール・ランナー」

「おお、まさかアイツがなぁ。ケンカの腕はからっきしだったけど、バイクに乗った時はなかなかだった。当時は 89式 の NSR250R に乗ってたよな。走り出して半年も経たないうちに、俺のケツに張り付いてくるようになって。それで天才なんて呼ばれるようになってよぉ」

「そう、そして間もなくチーム 『 SANTANA 』 は解散する…。だけどアイツは走り続けていたんだ。今は苫小牧市の、自動車部品工場の期間社員だと聞いた。バイク文化が独自に発展したあの街で、アイツは一人、SANTANAを名乗り走り続けていたんだよ」





俺は無言で、シンジの話に耳を傾けた。

「そして、どういう経緯かは知らんが、奴は初代スティール・ランナーのCB750Fを手に入れ、現代に蘇らせる。で、先日行われた『Steele Runner battle (スティールランナーバトル)』で見事勝利し、十数年ぶりに二代目が誕生したってわけだ」








シンジは少々興奮気味に語った。

「ああ、そのバイクは知ってる。スペンサーカラーのFだ。いや誰もが知ってる。皆の憧れスティール・ランナー…。まさかそのバイクを」








「そうだ。 Iron bound (アイアンバウンド 『 鉄張り 』 ) と呼ばれる、レースウィークに開催される『 Steele Runner battle 』。 ドラッグ、ストリート、サーキット、全てのステージを同じバイクで駆け抜け、全てを勝ち取った、タフな者だけが名乗れる称号 “ スティール・ランナー ” だ」




シンジの身振り手振りが大きくなる。

「あまりにも過酷。だからこの十数年、キングは不在だったんだ。初代以外は誰一人として達成出来なかったからな。これは大いなる偉業なんだよ」




顔が少々紅潮していた。シンジはまるで自分の事の様に楽しげだった。

「アイツはやった ! やったんだ !! 修二のヤツはキングの座を見事にもぎ獲ったんだよ !! 」




CB750F。修二が駆るキングのバイク。 「ふぅ~」 思わずため息が漏れる。過去、自分も憧れた、初代スティール・ランナー。ストリートを颯爽と駆ける、あの勇壮なる姿。

ふとそのイメージを修二と重ね合せた時、自分の中に嫉妬心が生まれていたことに気付き、つい驚いて思わず苦笑してしまった。














    5



それから次の週末が、非常に待ち遠しくてしかたがなかった。なんせ、シンジの奴が 「今度の週末、苫小牧市でチャリティーイベントのバイクフェスタがあるぞ」なぁんて、言い残していきやがったもんだから、そわそわするのなんのって。

修二がその中心に居ると思うと、いてもたってもいられなかった。だけど、どんなに気が急いても、時間が早く過ぎることはなく、ましてやその逆で、長く感じてしまったりするから非常にタチが悪い。まるで遠足を心待ちにしている子供と一緒だな。

しかし、俺のそんな様子を見ていた岩野が 「なしたんスか?」 「なしたんスか?」 と何度も尋ねてくるのが、とてもうっとうしかった。うん、本当にうるさい奴だ。いや、なんかムカつくなぁ…。そう、この時決めたんだ。俺は絶対に理由を言わない事にした(笑)。

そんな日が数日続き、ようやく日曜日となる。定休日ではないので、ショップは開店しているのだが、岩野がここ数日、非常にうるさかったので、仕事を全部押しつけて、俺はZ1000MkⅡに跨り、一人で苫小牧市に向かう事にした。

「なしたんスか急に?何があったんスか?教えて下さいよぉぉぉぉ~~」  なんて言い出したので、ちょっと可哀想だなと、3秒ほど考えたが、デスペラードジャケットに袖を通し、バイクで走り出した途端、そんな事は全て忘れてしまった。










つづく


Posted at 2017/01/21 16:58:23 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2017年01月08日 イイね!

第三章・登場人物追記

第三章・登場人物追記



大事な登場人物を載せ忘れてました^^;










●エミー&マリー(24歳・女)
 クォーターの双子。 イメージキャラ ・ E-girls 藤井姉妹
 真田修二の側近にして、美しきボディーガード。
 ハーレーダビッドソン ・ XLCH と XR750 を駆る。
 






イラストは >「ZOOID恐怖館」 の主様より提供して頂いてます!

なんと! 館のギャラリーには 「ギャラリーDef busta」 まで!!







それではよろしくどーぞ








ごめんなすって












Posted at 2017/01/08 07:52:39 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2017年01月07日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第1話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第1話


あけましておめでとうございます。 

今年もデフバスタをよろしくお願いします(=^∀^=)











   登場人物



●下村 貴 “しもむら たかし” (24歳・男)
 TEAM SANTANAのリーダー及びGarage SANTANAの代表。
 過去に「Def busta下村」と呼ばれていた。Kawasaki Z1000MkⅡ改を駆る。

●真田 修二 “さなだ しゅうじ” (22歳・男)
 もう一つのSANTANAのリーダー。下村の後輩。

●南條 零 “なんじょう れい” (24歳・女)
 通称レイ。MBM社を母体とする新興バイクメーカーKAMUI社の若き女社長にして、南條家の令嬢。
 下村に淡い想いを寄せている。

●牧 真志 “まき しんじ” (24歳・男)
 下村の悪友。かつてはプロのキックボクサーだった。現在は高利貸業を営んでいる。

●府月 周遠 “ふづき しゅうえん” (32歳・男) 
 HN社の重役。KAMUI零の一件以来、下村に深い恨みを抱くようになった。

●岩野 剛 “いわの つよし” (27歳・男)
 Garage SANTANA のスゴ腕メカニック。

●進藤 諒一 “しんどう りょういち” (27歳・男)
 TEAM SANTANAのメンバー。職業は北海道警察の私服警官。

●坂本 仁 “さかもと ひとし” (22歳・男)
 TEAM SANTANAのメンバー。通称ドラッグの坂本と呼ばれている。

●輪道 成海 “りんどう なるみ” (19歳・女)
 TEAM SANTANAの新メンバー。3眼ライトのkawasaki KX500改(通称サードアイ)を駆る

●堀井 士郎 “ほりい しろう” (88歳・男)
 MBM社を母体とする新興バイクメーカー「KAMUI」の特別顧問。

●上場見 顎 “うわばみ がく” (25歳・男)
 麻薬のジャンキー。デリヘル店を経営者していたが、現在は数多の犯罪容疑で逃走中。

●六部 本気 “ろくべ もとき” (50歳・男) 
 通称ロブ・マジー。謎のチューナー。現在はコンビニエンスストアー(セイコーマート)の雇われ店長。










     あらすじ

「Steele Runner(スティール・ランナー)」それは、まだ不良少年だったあの頃、誰もが憧れた伝説の男。皆が彼のように成りたくて、バイクに乗り、誰もが彼の幻影を追った。
 しかし、スティール・ランナーは。夢や幻じゃない。十数年ぶりに、その名を現代に甦らせ、二代目となった、もう一つのSANTANA・真田修二。
 その真田を利用し、下村を付け狙う府月。あらゆる想いが交錯し、下村は渦中のスティール・ランナーを巡る闘いに、巻き込まれて行くこととなる。
ここに、己の想いとプライドを賭けた男達の、一大レースの幕が、切って落とされる。
 






     1.Steele Runner



 道央サーキットは、TSW(十勝スピードウェイ)の全長3,405mクラブマンコースを模倣し、建設されたサーキットであるが、各コーナーには様々な角度のバンクが設けられており、本場クラブマンコースより、2秒程度(速い)タイム差があると言われている。
 この日は、これから北海道の一大レースイベントである「Steele Runner battle(スティールランナーバトル)」が開催されようとしていた。










5番ピット、真田修二はベイツの革ツナギを着て、愛車・スペンサーカラーのCB750F(FB)を前に、ステップ回りの点検を行っていた。
跪いたその姿は、まるで祈りを捧げているようにも見える。それは、背中に大きくペイントされたチーム名 『 SANTANA 』 、Saint Ana 《 聖なるアナ 》 への礼拝にも似ていた。




「いよいよ今日、二代目スティール・ランナーの誕生ですねぇ。十数年ぶりに栄誉あるその名が復活するとは、今からわくわくしますよ」

修二の後ろから、非常に爽やかで、物腰が柔らかく、紳士的な府月が声をかけてきた。端正な面立ちで、一つ一つの振る舞いに、気品すら感じる程だった。









「府月さん…」

修二は立ち上がり、深々とお辞儀をした。


「それもこれも、全て貴方のお陰です。パーツ提供のみならず、資金まで出して頂いて…。 でも… どうして僕に、ここまでしてくれるのですか?」




「はっはっは、簡単な事です。スティール・ランナーは皆の憧れ。その初代のバイクに拘り、それを復活させ、ましてや現代のマシンと同レベルになるまで改造を施して、その名を復活させようとしている、そんな真田さんの情熱に私は心を打たれたのですよ」

優雅なその振る舞い、声の音質、府月のそれは、男であろうと女であろうと、たちまち虜にする。


「それに、今後は真田さんのように、才能ある若い方がリーダーとなり、皆を牽引する指標となるべきなんですよ」




「はあ…、でも本当に感謝しても、しきれないくらいです。こんな僕に何か出来ることがあれば言って下さい… あ、いや、僕ごときが貴方ほどの人に出来る事なんて何も無いか… ははは」




そのとき府月は “ ニヤリ ” と口角を吊り上げた。

「いやいや、真田さんのお気持ちが、本当に嬉しい。そうですね。一つだけお願いしたい事があります」




そう言い、府月はスーツの内ポケットから、一枚の写真を取り出し手渡してきた。 すると、修二は驚きの表情となる。

「え?これって、下村…さん」

「おや、ご存じでしたか?」




それは確信犯の問いだった。さっきとは打って変わり、今度は顔を歪めた、冷たい冷たい笑みとなる府月。

「今回のレースで、貴方がスティール・ナンナーとなった暁には、必ずこの男が真田さんの前に現れるでしょう。そうなった時、この男を完膚無きにまで叩き潰して欲しいのです」




一瞬言葉を失う修二。

「そんな…下村さんを…」




修二の内で下村への、あらゆる想いが交錯する。 過去の栄光、尊敬、憧れ。 そして今ある障害、義理、意地、自尊心。本当にあらゆる想いだった。




ひとしきり思慮した末、意を決し答えた。

「私怨ですか?…いや、すみません。そんなのは問題じゃないですね。彼は僕が超えなくてはならない壁であり、目標でもあった。 だけど…だけど…」




修二は急に表情を曇らせた。彼にも一抹の苦い思い出があったのだ。

「うん。そう、私怨は僕の方だ…」




修二の顔つきが変わる。

「わかりました。彼は敵だ!必ず叩き潰してみせますよ!!」

「はい。期待しております」


その言葉に呼応し、府月の冷笑は、更に冷たさを増していった。





















      

  






 俺の名前は下村貴。学生だった頃のあだ名で “ Def busta (デフバスタ) ” なんて呼ばれる事もあるけど、ほとんどの奴は俺のことを下村と呼ぶ。
2年前、北海道の旭川市で、親父が残してくれたこのショップを継ぎ、『 下村輪業 』 から 『 Garage SANTANA 』 と店名を変え、中古車の販売、整備、トランスポーターのぎ装なんかをメインとし、細々と営業している。

あ、もともとはバイク屋だったんだけど、それだけじゃ、食っていけないってことで、親父は岩野を雇い、メカニックとして育てクルマの整備を始めたんだ。で、今にいたっている。

ん?親父?ああ、親父はさ、死んじまった。その2年前にね。酒の大量摂取による、急性アルコール中毒だったと聞いている。親父は、アルコール依存症だったんだ。だけど、依存症がアル中で死んだなんて、シャレにもならんよな…。でもそれは、酒で家庭を壊しちまった、寂しい男の末路…かもな。

それで俺はというと、その頃は、帯広市のバイク屋で働いていた。親父の死に目にはあっていない。裁判所の命令でね。家庭の事情ってことで、施設に預けられ、就職した後も、滅多に親父には会えなかった。
それから、このショップとZ1000MkⅡ、あと、デスペラードジャケットを相続した。これは親父の形見でもあるんだ。

『 Garage SANTANA 』 はさ、なんていうのかな、不思議とこの店には、同じ匂いの仲間が自然と集まり、一つのチームが発足した。そして必然的に、バイクのモータースポーツにも、興じるようになり、『常勝軍団TEAM SANTANA』なんて、呼ばれるようにまでなったんだ。
それに、ときおり、刺激的な事件も起こるしね!退屈はしていない(笑)。つまり、まあ、毎日それなりに、楽しくやっている。










      



そう、この年、夏の始まりは急にやってきた。ついこの間までの寒さは、一体どこにいったのやらだ。

朝なのに、遠くから聞こえてくるセミの鳴き声は、これから暑くなることを否が応にも想像させられる。だが俺はこの時期、気温がまだ低い朝の清々しいこの時間に、Garage SANTANAの玄関前を掃除するのが好きだった。別に掃除が好きってわけじゃなくて、こんなのんびりした瞬間が、ただ好きなだけなんだ。
一つ大きく伸びをして、まだ冷気を感じる新鮮な空気を胸いっぱいに取り込むと、全身の細胞が瑞々しく活きてくるのがわかった。

そんな気持ちの良い朝、俺はムーンアイズ “ アイアンクロス・玄関マット” の埃をほうきで掃っていると、店先の歩道に一人の男が立っているのが見えた。その男は俺と眼が合うや否や、音も無く近寄ってきた。 最初は 「 客かな?」 とも思ったが、違うことがすぐにわかる。 男が近づくにつれ、俺の肌はヒリつき、背筋には寒気が走る。 それは明らかな殺気だった。

こちらもとっさに身構えたが、その男の顔を見た時、更にヤバさを感じた。その顔には表情が無かった。 笑うでも、怒るでも、睨むでも、泣くでもない、いわゆる能面のような無表情ってやつだ。つまり、これだけの殺気を放ちながら、表情を消すことができるってのは、相当な訓練を受けたか数々の修羅場を潜り抜けた猛者 ! そうとしか考えられない。




「やっべぇ ! 」

ついそんな言葉を、漏らしてしまった。その男は鋭く踏み込んできて、高速のワンツースリー、右ローキックを、コンビネーションで打ち込んできた。 が、そんな程度の攻撃をかわすのはわけもない。



「ヒョウ ! 」

ウェービングでパンチを避け、左脚でローキックをガードしたと同時に、短く息を吐き左右のワンツーと、右前蹴りを返した。




「あっ !? 」

ミスった ! 不用意に出してしまった前蹴り。それを交わした男は胴タックルに入ってくる。しかもコイツの頭は、フロントチョークを取られないような位置、つまり俺の胸元付近にあった。




『 転がったらヤ(殺)られる !! 』  本能がそう叫んだ。マウントポジションから、次々と打ちおろされる拳を一瞬でイメージしてしまった時、俺の中で完全にリミッターが外れ、戦闘スイッチがONとなった。




 これは試合じゃあないケンカなんだ ! この訳の分からない輩は、間違いなく俺を ヤ(殺)り に来ている !!

「くそったれーー !! 」




俺は体幹の強さだけでこいつの胴タックルを止め、右手で背中を掴み、左腕は相手の頭を抱えるような状態となった。

「んっだらあああぁぁーーーー」









一切容赦はしなかった。相手の頭を抱えていた左手で男の左耳を掴み、何のためらいもなく思い切り後方へ引き千切ってやった。俺の万力のような握力からは決して逃れられん !





「ぎゃああああ!!」

音をたて、耳が千切れるその感触は、雑草の束を鷲掴みにして引き抜いた感触にも似ていた。そこで男は始めて声を上げ、喚きながら俺から離れた。さっきまでの能面のような表情は人の “ それ ” に変わっていた。




「もらったぁーーー ! !」

すでに俺は相手を一撃で仕留める技を持って、確実に決める距離にいた。 極限まで捻じった右腕を肩口に折り畳み、一気に力を爆発させようとしていた。 それは、今までどんなヤツだって、確実に仕留めてきた必殺のコークスクリューブローだった。










「終わりだ」

拳を突き出す瞬間だった。視界の端に何かが映った。戦闘スイッチの入った俺の感覚は、極限まで研ぎ澄まされている。 故に、感じ取った新たなる危険だった。




「くそっ !! 」

自分の突進力を一気に相刹し、反作用になるスウェーバックで、こちらに飛んできた物体をかわす。
その物体は革のブリーフケースだった。目の前を勢いよく通過し、その後、鈍い音をたて地面に転がり、その衝撃で蓋が開いたと思いきや、中からは、大量の札束がこぼれ落ちてきた。




俺は対峙していた男から決して眼を離さないよう、バックステップで距離を取りつつ、横目で新手を確認する。 だがそこで、思わず驚いてしまった。それは、思いがけない人物との再会となったからだ。

「あん?お前、まさか…、シンジ?シンジじゃねーか !? 」




新手の男は、かつての悪友、牧真志だった。オールバックに撫で付けられた頭髪、ダークスーツに、チャコールグレーのYシャツ。それに、こんな大量の札束まで持ち歩き、すっかりと変貌を遂げていたので、ヤクザにでもなったのか? と、少々勘繰った。

しかし、コイツに関しては懐かしさというより、常にケンカをしている苦い思い出しかない。コイツはガキの頃から、キックボクシングに慣れ親しみ、いつもそのテクニックで俺をサンドバック状態にしていたのだからな。俺はまだ警戒を解かなかった。





「よう、久しぶりだな。 って、もうそんなに警戒すんなよ、ケンカは終いだ」

「あん?手前ぇ、一体どういうつもりなんだ !? 」





そんな、今にも噛みつきそうな俺を尻目に、シンジは怪我をした男の元に歩み寄り、耳の状態を確認し、こう言った。

「もういいだろ。早く手当てしてこい」




そしてその男は、シンジに一礼し、その場から立ち去った。やはりネコ科の動物のように、音もなく消える。 しかしどういう事だ?事情が全く飲み込めん。

「おいシンジ」

「ああ、待て待て、悪かったよ下村」


今度は急に謝りだした。何だっていうんだよ?




「俺は、いや、俺達はな、数年前から札幌で高利貸しをやってんだ。相手が誰であろうと、どんな奴であろうと、きっちり取り立てる。それがモットーだ。だけど、そんなアンダーグラウンドな世界じゃ、理屈が通じない場合もあってよぉ、俺達はどんな奴にも負けない力が、どうしても必要になる時がある」

シンジはそう言いながら、地面に散らばった札束の埃を払いながら、ブリーフケースに納めていった。

「先代から…、いや、オヤジからこの稼業を受け継いだ時によぉ、俺を慕ってついて来てくれた若い奴が3人もいてな」




この場合の “ オヤジ ” は実父ではなく、組長、社長、カシラ、まあ、そんなとこだ。

「今の奴は黒崎ってんだけど、俺が育てた中でもとびきり優秀なんだ。取り立てに関しても、腕っぷしに関してもな」

「だからって、なんで俺に殴りかかってくんだよ?お前から借金した覚えなんて無ぇぞ」

「ああ、そこなんだ。黒崎はな、あまり自分の感情を表に出す奴じゃ無ぇんだけどよ、お前に会いに行くって俺が言ったとたん、どうしてもお前と立ち合いたいって頑として譲らず、ここまでついて来ちまったんだ」




シンジは頭を掻きながら、困った表情を見せた。

「ま、なんて言うか、俺がお前の事を大袈裟に話し過ぎたのかな。一度でいいから本気の “ Def busta下村 ” と闘いたい。って言い出してな… でも、まさか、こんななぁ… 手痛い授業… いや…」


言葉を選ぶ。




「いや、いい勉強になったな。お前みたいなバケモンが現に存在してるってな」

「おい ! なにを勝手に… テメッ… ああ… くそ…」


どうにも後味が悪過ぎる。




「わぁーってるよ。アイツだって覚悟の上だ、文句は言わん。でもお前、最後に狙ってたのは右のコークスクリューだろ?そんなん貰っちまった日にゃあ、黒崎がぶっ壊れちまうからなぁ、途中で水入りさせて貰ったんだ。 しかし…」




シンジは一瞬口ごもった。

「しかしソイツは、元々俺の技だろ。それを俺とのケンカの中で盗んだうえ、自分の技として完全に昇華させちまいやがってよぉ… 全く嫌な奴だよお前は」

「おい、そんな事よりお前はいったい何をしにきたんだよ?」

「はっは、そうだ、それそれ。お前、真田修二を覚えてるか?」

「あん?真田って、俺達の後輩だった、あの修二の事か?」

「そう、その修二だ。高校時代お前が作ったチーム 『 SANTANA 』 で、唯一バイクの走りでお前に付いていく事が出来た、天才と呼ばれたあの男だ」

「おう懐かしいな。元気にしてんのか?あいつは」

「ああ。元気どころか、今あいつは二代目のスティール・ランナーに成ったんだぞ」




スティール・ランナーだと !? 一瞬我が耳を疑った。その名は、俺達がまだ、街の不良少年だったあの頃、誰もが憧れた、伝説の男の名前だ。皆が彼のように成りたくて、誰もが彼の幻影を追った。




『まさかあの修二が…』 俺の中で、何度も何度も、修二の無邪気な笑顔が、反すうされては消えていった。








つづく








Posted at 2017/01/07 11:27:08 | コメント(2) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

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