• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

むらっち2のブログ一覧

2016年12月13日 イイね!

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第五話

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第五話  
     10


街灯が点在する薄暗い夜の田舎道。いつもの普段着にバイク用ウインドブレーカーを着用し、KX500を走らせる成海の姿があった。






先程嬉しい知らせがあり、なんとも飛び上がらんばかりに、ワクついた気持ちに占拠されてしまった成海は、ついヘルメットの中で笑みが漏れてしまう。 その喜々たるニュースは、数時間前に源三から知らされた。




「成海や。下村くんから連絡があったぞ。お前を正式にTEAM SANTANAに迎え入れたいそうだ。それでチームワッペンをお前に渡したいから20時に旭川の堀内繊維店へ来て欲しいと言っておったぞ」




予想していなかったと言えば嘘になるが、いざその知らせを聞いた時は、歓喜のあまり、小躍りしたくなる衝動に駆られたが、その気持ちをぐっと抑え、赤い顔をしたまま無言で頷いた。




KX500の甲高い音が心地良かった。そこで下村の笑顔を思い出しながら、またもや成海はニヤついてしまう。

「SANTANAかぁ。下村さんアタシのこと認めてくれたのかな♪それとも…(悦)」




妄想に喜びむせぶ。 遂には、バイクの上で身体をクネらせる程に気分が昂ぶった。

そんな時、ふと悪い事、いや、喉の奥に引っかかっていた魚の小骨のような不快感も込み上げてきた。 急に上場見のヘラヘラした表情が脳裏をよぎる。

「それにしてもアイツ…」




先程とは打って変わり、厳しい表情になる成海。 嫌な瞬間を思い出してしまった。 それは、七菜香の乳房を鷲掴みにする上場見と、泣き叫ぶ七菜香の姿であった。




思わず歯ぎしりをしてしまった。

「チクショウ ! もう一発ぶん殴ってやりたかった」




届きそうで届かない魚の小骨。もはやどうしようもないだけに、悔しさばかりが募る。

「チクショウ…」




成海は乱暴にアクセルを捻り、KX500を加速させた。







        11


旭川市街の車の通りは少なかった。平日だったせいもあるのだろうが、それでも変な静けさを感じてしまう。時折すれ違うタクシー以外に一般の車両があまりいない。
それでも成海は、街中で乱暴な走りはしない。KX500を極々スムーズに走らせる。穏やかなリーンアウトで交差点を曲がり、更に人通りの少ない一方通行の4条通りに入る。もう2丁も行けば『堀内繊維店』だ。







その時だった、成海の右前方から黒い影が勢いよく飛び出してくる。 『 あっ !? 危ない !! 』 視界の端に捉え、反射的にブレーキを握りそうになった瞬間だった。その影は鉄パイプで成海に殴りかかり、ヘルメットの上から頭部を強打されてしまった。

成海はバイクから転落し、路上に叩きつけられ転がった。火花を散らせながらアスファルトを滑るKX500。ライトとミラーが砕け散った。




「…あ…ぐっ…」

気は失っていない。生暖かくザラつくアスファルト。倒れた状態で潰れたヘルメットを脱いだ成海は、あちこち服が破け、擦り傷だらけになった身体を、震える手で触診し、骨折が無い事を確かめた。




「クッソ…誰が…」

それからフラフラした様子で立ち上がり、“ぐわんぐわん” と鐘の音が鳴り響く頭を押さえながら、周囲を見渡すため顔を上げると、先程の自分と同じく、アスファルト上に沈む、ある物が目に映った。




「えっ?動物…?」

だんだんと頭がはっきりしてきたと同時に、とんでもない事に気付いた。




『ちがう ! 動物なんかじゃない !! 』 眼を見開く成海。 それはうつ伏せに倒れている人間。 しかも動物に見えた毛皮は 『あれはデスペラードジャケットだ ! 下村さんっ !! 』












Z1000MkⅡも近くに倒れていた。

「下村さん !! 」




呼びかけ歩み寄ろうとした時、後方から “ジャリッ” という小石を蹴る靴音がした。 なんとも嫌な雰囲気を感じた。成海はゆっくりと後ろに振り向く。するとそこには、黒いN-3とカーゴパンツ、ジャングルブーツを履いた上場見が、鉄パイプを右肩に担ぐ様な格好で立っていた。

「よう」












成海は震える声を絞り出した。

「お前まさか下村さんを !? 」




ヘラヘラと笑う上場見。

「ひっひっひっひ」




成海は下村の元へ歩み寄ろうとした。しかし行く手を上場見に阻まれる。
一気に頭に血が昇った。歯を食いしばる成海。

「ふざけんなー ! お前、下村さんに何したんだぁーー !! 」




言うや否や、得意の右前蹴りを放つ。が、キレが悪い。転倒のダメージが残っている。上場見はあっさりとかわし、今度はヘラヘラと薄笑いを浮かべながら、鉄パイプを振りおろす。やはり今の成海はそれを捌くことが出来ず、ただ左腕でガードした。

“ガツッ” 『 痛っ !! 』 骨身に突き抜ける、耐え難い痛みが響く。
そこから一方的に滅多打ちにされた。成海はほとんど抵抗ができず、頭部をかばう形でガードを固める。 “ ニヤリ ” と口角を吊り上げる上場見。 今度は隙とばかりに、ガラ空きとなった成海の腹部に前蹴りを叩きこんだ。




「ぐふっ」

体がくの字に折れた。たまらず膝をつき地面に倒れた後は、亀のように丸くなるしかなかった。




「ひ~っひっひ」

それから上場見は、倒れた成海に容赦なく鉄パイプを打ち込み続けた。












つづく








Posted at 2016/12/13 22:31:57 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年12月02日 イイね!

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第四話

 Def busta 第二章 ~recovery line~ 第四話












        


レース終了後、コース脇に設けられている駐車場で成海は着替えをしていた。もちろん更衣室などシャレたものは、こんな所には存在しないので、青空生着替えが通常なのだ。しかしながら、いかに成海といえど一端の女子である。そこは男並みの事はできないので、タオルケットで作ったポンチョに身を包み、その中での着替えを行う。そしてあおりを倒した軽トラの荷台に座り、不機嫌そうにオフブーツを脱ぐ。その近くには七菜香の姿があった。




そこへ、MXジャージを着たままの岩野がやってきた。

「どうっスか成海ちゃん。足回りのセッティングの奥深さが分かったっスか?」




などと痛いところを付いてくる。ふくれ顔の成海は、コンバースオールスターハイカット履く。
一息吐きながら、『やれやれ』 といった表情の岩野。




「ナルちゃん、そんなに怒らないで」

七菜香が心配そうな表情で成海をなだめる。




「いや別に怒ってなんか…。ただ下村さんが観てたのに…ブツブツブツ」

更に心の中でもブツブツ呟く。

『あんな邪魔さえなければ…。いや、違う。こんなんじゃダメなんだ。もっと速くならないと !! そうじゃなきゃ、下村さんに喜んで貰えない…』




その時だった。妙な雰囲気の上場見がフラリと現われ、少しラリった様子で横から声をかけて来た。




「おうコラ、このクソアマァ~、人の目の前をチョロチョロとウゼェ走りしやがってよぉ~」




上場見に視線が集まる。明らかな敵意であった。しかし成海は、少しも臆することなく、凛々しい表情で上場見を睨みつけた。




「お~お~怖ぇ~なぁ~」

ヘラヘラとした表情を一変させ、凶悪な蛇顔となる上場見。

「俺のバイクまで壊しやがってよぉ」




その言葉を聞き成海が喰ってかかった。

「ふざけんな ! あれはアンタがアタシに向かって突っ込んできたんだろ !! 」




またヘラヘラとした表情に戻る上場見。

「まあいい。テメエは無理だろうけどよぉ、そっちのメガネのお友達に修理代を払って貰おうかぁ~。あん !? 」




そう言うや否や、上場見は蛇のように素早い動きで、スルスルと七菜香に詰め寄り、右手で彼女の胸を鷲掴みにした。

「ひゃうっ」

七菜香の身体が硬直する。





「ひっひっひ。お前がウチの店(デリヘル)で働けぇ。俺が直々に仕込んでやっからよぅ~」

上場見が、ハ虫類を連想させる細長い舌をベロリと垂らした。




「いやだぁやめてーー ! 」

抵抗する七菜香。しかし上場見はこれ見よがしに胸を揉んできた。




その時、成海の中でブチッと何かが音を立ててキレた。 弾かれた様に身体が動き一瞬で間合いを詰め、間髪を入れずに上場見の右手首へ前蹴りを放った。濡れタオルで叩かれたような音が響く。そこで纏っていたポンチョを脱ぎ捨てながら、怪鳥の鳴き声にも似た気合を一閃いれる。

「シャラーーー !! 」



しなやかに引き締まった、成海の上半身が露わになった。黒いスポーツブラを着用はしていたが、小振りながらも形の良い乳房が見て取れる。

七菜香から上場見が離れ、その間に成海が立ち塞がる。左構えのオーソドックススタイルを取った。




「こおのクソアマがぁ~ !! 」

凶悪な蛇顔に戻る上場見。




「クソは手前ぇだぁーー ! ゲスヤロー !! 」

成海が吼えた。




そんな成海の気合いに呼応したかのように、岩野が上場見に飛び付いた。後ろから抱きつく形となり、左腕を後ろ手に取り押さえる。

「もうやめるっスよ ! 」




「ひっひっひ。なんだぁ~オイ !? 」

上場見はその体勢から、平然と体を右に捻り出した。奴の左腕から岩野の手に “ゴリゴリ” と骨の軋む感触が伝わってくる。そして間もなく、上場見の左肩が嫌な音を立てて外れた。




「何考えてんスか !? 」

岩野は思わず手を離してしまう。




今度は正対した上場見が、岩野のこめかみの辺りに、勢いよく右肘を打ち込んできた。

「グッ」

驚きと意表。まともに肘を食らった岩野は片膝をつき、上場見を見上げた。
左腕はだらんと垂らしたまま、奴はヘラヘラと笑っている。




「痛みを感じてねーんスか !? 」

「ひっひっひ」

更に下卑た笑いをする上場見。




その場にいた全員に冷汗が流れた。が、その時だった。とてつもない威圧感と共に、下村が現われ、成海と七菜香の前に立ち、上場見を睨みつけた。

「何してんだ上場見」

下村の低音の声には相当な凄身がある。




そこで上場見は急に態度を変え、慌てた様子で答えた。

「あっ、いやいやいや下村さん。別にSANTANAと事を構えようなんて気はサラサラ無ぇーんですよ」




下村は更に睨みつけた。

「…じゃあナンだ !? 」




口元を吊りあがらせる上場見。

「いやただね、手ぇ出されたらこっちだって降りかかる火の粉は払いますぜ」




それを聞き “カッ” ときたのは成海だった。

「ふざけんなぁーー ! お前が先に…」




言いかけ、後ろ手に成海を制する下村。

「文句があるなら俺に言え」




ヘラヘラと笑いながら答える上場見。

「SANTANAに文句なんてありゃあしませんぜ。しかしそっちのお嬢ちゃん達は別ですがね ! ひっひっひ」




「なんだと !? 」

一歩前に踏み出す下村。それを見て後ずさりする上場見。




「おお~~怖い怖い。俺ぁさっさ退散しますわ」

左腕をだらんと垂らしたままの状態で、奴は成海を睨み付けた。

「じゃあまたなお嬢ちゃん達。ひっひっひ」




そう言い上場見はそそくさと退散していった。




しかしながら下村は、そんな奴の後ろ姿を、なんとも寂しそうな表情で見送っていた。

「バイクは良い腕してんのにな…。どこであんなんなっちまったんだろ…」




うずくまる七菜香の肩を抱いていた成海は、複雑な気持ちで下村を見上げていた。









    


その夜。ペンション輪道のガレージで、成海はKX500の整備をしていた。オフ車用レーサースタンドにバイクを載せ、リヤサスのプリロード調整を行っていた。やはり岩野の言葉が成海には響いていたのだ。
だがそれ以上に、『もっともっと速く走れるようになりたい』 そんな気持ちが成海を突き動かしていた。

しかし、そんな衝動とは裏腹に、近くに置かれたラジオからは流行りのラブソングが流れ、なんともゆっくりしたメロディーを奏でている『~♪』

そして甘い2ストオイルの香りが充満するガレージ内には、KTCの大型工具箱、その他にアーク溶接用酸素ボンベ、フライス、旋盤があり、壁にはチャンバーが4本ぶら下がっている。その殆どは源三にしか扱えない代物だが、それなりに知識のある者がその気になれば、かなりの重整備が可能なガレージであることが見て取れる。

成海にとっては心落ち着くスペースであるのと同時に、祖父・源三と、堅い絆が結ばれたガレージでもある。幼い頃からここでたくさんの事を教わった。祖父は本当にあらゆることを伝えてくれた。それは妹の七菜香も同様で、彼女にとっての思い入れのある場所とは、ペンションのキッチンであろう。

両親を失っている彼女達にとって、祖父はあまりにも偉大であった。時には厳しい父親であり、また時には優しい母親のような存在。それに成海にとってはバイクの師匠であり、空手の先生でもあった。

一人で作業をしていると、様々な事が頭を過る。 そんな時であった。入口付近に七菜香が現われた。少し様子がおかしい。




「ナルちゃん…」

少し脅えていた。か細い声で成海を呼ぶ。




異変に気付いた成海が七菜香に歩み寄る。

「どうしたナナ?…まさか胸痛むの?」




パジャマ姿の胸元に、赤くなった痣が見えた。

「ううん…そうじゃないけど…なんだか怖くて…」

言うや否や、七菜香は目に涙を浮かべながら成海の胸に飛び込んだ。




「わたしナルちゃんが羨ましい。強くてたくましくて、バイクに乗るのが上手で…わたしは何にも…」

最後の言葉を遮るように成海が言う。

「ううん。そんな事ない。アタシはね、逆にナナが羨ましいよ。アタシはガサツだけど、ナナは優しくてカワイくて料理が上手で。ナナはお母さんによく似てるよ」




そう諭しながら、幼い記憶に残る、とても優しくて綺麗だった母の姿を思い浮かべていた。それから2人はきつく抱き締め合った。少しの間、七菜香は声を殺して成海の胸で泣き続けていた。
   














        


次の日の朝。そこにはいつも通りの日常があった。








パイプを吹かしながら濃いコーヒーを飲む源三の姿と、朝食の用意をする七菜香の姿。成海は寝ぼけ眼でそんな風景を見ながら、“ホッ” とした気持ちになっていた。

しかしその穏やかな朝とは裏腹に、テレビから強烈なニュースが流れた。それは指名手配となった上場見のニュースであった。




テレビ 『昨晩午後9時、道警は売春防止法違反の疑いでデリヘル店経営の店長「上場見顎(25)」容疑者を全国に指名手配しました。現在上場見容疑者は逃走を続けており、道警は行方を追っています。その他にも麻薬取締法違反の疑いもあり、逮捕後には容疑を固める方針です』





女のキャスターが硬い表情でニュースを伝える一方、平静を装う七菜香ではあるが、動揺は隠しきれない様子だった。手が細かく震えている。 が、成海は無表情にテレビを見つめながら、努めて興味無さ気に呟いた。

「アイツはもう終わりだね。ナナも気にしなくていいよ。どうせどっかにトンズラして、この辺になんか居やしないんだから」




無言で頷く七菜香。しかしそんな成海も少なからず動揺していた。身体の中で小さな不安が一つ脈を打ち、机の下では脚が一瞬 “ブルッ” と震えた。










つづく



Posted at 2016/12/02 20:26:25 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年11月26日 イイね!

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第三話

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第三話












     5


そこは旭川市郊外、下村の経営するショップ「Garage SANTANA」だった。主にアメ車の中古車を取扱い、トランスポーターとしての偽装などを手掛ける。が、当然バイクのカスタムも行っている。
ここへKX500の改造をするため、バイクを運んできたのである。もちろん他の目的が無いわけでもないが…。










『Garage SANTANA』の室内整備スペースには、Snap on大型工具箱が並び、下村の愛車Z1000MkⅡと、ここでメカニックをやっている岩野のSUZUKI DR-Z400改450SMヨシムラ仕様も置かれている。

その横で岩野は、KX500をいじり始めた。今回はKX500に、17インチスリックタイヤ付きスポークホイールを取り付け、富良野市郊外で行われる「FURANO SUPER MOTO」に出場するための改造を施しているのである。




「いよいよ来週っスねFURANO SUPER MOTO」

メガネレンチを手に成海に話しかける岩野。




「うん。いよいよレース常勝軍団SANTANAに挑戦だよ ! 」

成海はにこやかに答え。右拳を岩野の前に突き出してみせた。

「でも手加減抜きで走ってよね。そうじゃないと本気で怒るからね ! 」




「もちろん ! でなきゃ社長… いやいや下村さんに怒やされちまうっスから」

同じく右拳を突きだす岩野。




それから程なくして、ホイール取り付け作業が終わり、岩野は右腕で額の汗をぬぐいながら、急に違う話題を成海に振って来た。

「ぶっちゃけ聞くっスけど、成海ちゃんて下村さんの事が好きなんスよね?」




急に後ろに向きを変え、KX500を点検し始める成海。顔が真っ赤になってしまったが、声だけは冷静に答えた。

「別にそんなワケじゃ…ただウチのおじいちゃんの代りに、アタシが下村さんと走れればなんて思ってるだけで…」




今度は成海の背中越しに語りかける岩野。

「その下村さんなんスけど、今度のレースは観戦に来るって言ってたっスよ」

体がピクリと反応する成海。




「なんせ成海ちゃんは、レジェンド・サードアイ輪道のお孫さんっスからね~。かなり気になってるみたいっスよ」




成海は真っ赤な顔を更に赤く染めあげ、嬉しそうな表情でKX500を見つめる。

「へぇ~そうなんだ」

しかし後ろを向いたまま、つれない態度で興味が無さそうに答えた。




『ふふふ。後ろを向いてても、耳まで真っ赤っスよ(笑)』 岩野は心の中で微笑ましく成海を見つめていたが、急に気になっていた事を付け加えた。

「あっ、そうそう ! 足回りのセッティングは自分で考えながら出すっスよ ! そうやって少しずつ速くなれるんスから」




ヘルメットを被る成海。聞き流すように空返事をする。

「ふ~~ん…」





「成海ちゃん、いいっスか…」

岩野がそう言いかけた時、成海は勢いよくキックを踏み下ろしエンジンをかけた。無情にも岩野の声が途中で遮られる。それどころか、周りの音すべてを掻き消すような、KX500の炸裂音が響き渡った。アクセルを吹かす成海。FMFサイレンサーから勢いよくスモークが吐き出される。

それからKX500と共に勢いよく外に飛び出し、その場でフロントタイヤをロックしたまま、右にリヤタイヤを滑らせ円を描く。新品のタイヤは激しいスモークを吐きだし焦げ付いた匂いを辺りに振り撒いた。

そして今度は左に向きを変え、更にタイヤを滑らせる。成海は一瞬でタイヤの皮むきを完了させ、ヘルメットの中で “ ニコッ ” とほほ笑み、次の瞬間にはウイリーしながら走り去ってしまった。





茫然とする岩野。

「ふう(ため息)。 たしかに…。あんなじゃじゃ馬ムスメを扱えるのは、下村さんくらいしかいないっスね」




汗をかきながら、苦笑いで遠くを見つめた。













      6


それからあっという間に一週間が経ち、FURANO SUPER MOTO当日を迎えた。




スタートラインに並ぶ15台のバイク。既にスイッチの入った成海の顔は、一見冷静を装っているが、心の中では緊張と興奮と高揚と闘争心が入り混じり、自分自身を押さえつけているのが大変なくらいだった。







その時、オフィシャルがフラッグを構える。横一列、すべてのバイクが一斉にエンジンをスタートさせた。
高鳴る鼓動、そしてバイクに乗るという闘争心。誰の心にも『はやく走らせろ』そんな思いが渦巻く。
回りで煩いくらいに響くエキゾーストノートは、既に聞こえなくなるほど集中していた。アセファルトの陽炎に揺らめくフラッグを、今か今かと待ちわびる瞬間の緊張感がたまらない。成海は、腹の底からゾクゾクと湧き上がる、アドレナリンの感触を楽しみながら、全神経を左手のクラッチレバーに集める。

そして運命のフラッグが振られた。

FURANO SUPER MOTOレーススタートだ。





2ストロークと4ストロークの混走レース。まるで地鳴りのような音が、腹の底に響いてくる。色とりどりのMXウェアー姿のライダー15人が、一斉にスタートを切った。
大混乱であった。だが、ターマックの第一コーナーを抜け、第二コーナーを回った頃には、概ねの集団グループが出来上がる。トップグループは3台のマシンに絞られ、レースを牽引する体制ができていた。




トップはチャンピオンマシンの、ゼッケン#1岩野DR-Z400改450SMヨシムラ仕様。 続く2位は、ゼッケン#9成海KX500。 少し離れた位置には、3位ゼッケン#5上場見。KTM450 EXC SUPER MOTO仕様。がつける。

三つ巴でコースを周回。成海と岩野は僅差のデットヒート。そして少し離れている上場見は、虎視眈々と二台の行方を見つめる。

観客スタンドの中には、源三と七菜香の姿があり成海を応援している。また違う場所には、異彩を放つデスペラードジャケットを纏う下村の姿があった。




3台ともターマックではブラックマークを残しながらドリフトし、グラベルでは必要以上に滑るタイヤをコントロールしながら走る。
一番安定した走りの岩野。それに必死に食らい付く成海。だがKX500は、ターマックにおいてアクセルオンでリヤが沈む姿勢変化を起しており、コントロールが上手くいかずアンダーステアを出していた。





そこで3位上場見の走りが変わった。勝負どころを見極めたのだろうか。荒々しいライディングで各コーナーを攻め出した。

タイヤスモークの焦げた匂いと、泥埃が舞うFURANOサーキット。順位に大きな変わりはなく、いよいよ大詰めのレース終盤に差しかかる。 ゴール間近のグラベル20R左コーナー。そこで岩野が魅せた!お手本のような綺麗なドリフトで、スピードをのせたままRを描き、コーナーを駆け抜ける。







だが成海も負けない。岩野にピタリと張り付き、僅差でコーナーリングする。その時、何かを確信したように、ヘルメットの中で、口元に笑みを漏らした。

「イケる ! ゴール前で差す !! 」




が、そんな成海の企みとは裏腹に、一つの危険が迫っていた。それは3位の上場見だった。スピードを落とさず成海めがけてイン側へ突進してきたのだ。

上場見は、イン側から成海を抜きにかかると同時に、オーバースピードを相刹するため、スライドしながら、リヤタイヤアタックをKX500のフロント部へめがけて敢行してきた。




“ドッ” と湧く観客達。

不安そうに見つめる源三と七菜香。
下村は腕を組みながら、非常に厳しい表情で事の成り行きを見守る。





突如成海の脳裏に、電気信号のような感覚が走る。それは直感だった。上場見のアタックを間接視で捉えたのだ。一瞬で身体じゅうから“ドッ”と汗が噴き出た。
そこからは、まるでスローモーションのようだった。上場見の動きを視界の端でしっかり捉え、次のアクションを起こす。自分の鼓動さえゆっくりと聞え出す。




『ここだ !! 』 コーナーのバンクが見えた。

渾身の力でフルブレーキを敢行。そしてバイクの向きを変えるのと同時に、車体の動きを一瞬だったが無理やり止めた。

重力や慣性、それに摩擦。そんな物理の法則にストップをかけるような、力技の強行はその身に受ける代償も大きい。あらゆる負担が身体に重く圧し掛かる。が、そんな事は全く意にも介さない。彼女には鍛錬による蓄積がある。膨大な時間の走り込みが、技術と自信に繋がっているからだ。




『なんだ !? 』 血走った眼を見開く上場見。アタックを成海に交わされた形となり、勢い余ってコース外へ飛び出してしまった。




「はっ ! 」

事なきを得た成海は、肺に溜まった熱い空気を一息吐き、再びアクセルオンで走り出したのだが、その目に映ったのは、岩野がゴールの大ジャンプをFMXライダーの様に車体を斜めにして跳んだ瞬間の映像だった。







「あっ…チクショー…」

その姿を見た成海は、小さな声で一つ悪態をつき、少し遅れてゴールの大ジャンプを跳んだ。





つづく





Posted at 2016/11/26 18:22:17 | コメント(1) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年11月22日 イイね!

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第二話

Def busta 第二章 ~recovery line~ 第二話
    


同じく1年前。


そこは美瑛町・白金温泉郷の外れにある、成海の祖父が経営する

“ペンション輪道”。











ログハウス調ペンションの前で、祖父源三が薪割りをしていた。向かって左側の大きなガレージのオーバースライドドアの奥にはKX500が静かに佇んでいる。

そこへ軽トラ・スズキキャリィに乗った成海が帰ってきた。軽トラのドアには“ペンション輪道”の文字が描かれている。その運転席から、勢いよく成海が飛び出してきた。




「おじいちゃんただいまー。お野菜買って来たよー」

成海が明るい笑顔を振りまく。




「おお、おかえり」

同じく源三も笑顔で応える。




成海は荷台の幌を解き、野菜の入ったダンボールを降ろして、ペンション内に運んだ。




N『10年前に交通事故で両親が他界し、アタシ達姉妹は、おじいちゃんに引き取られ育てられた。今は妹の七菜香と一緒に、このペンションのお手伝いをして、3人で暮らしている』




ペンション内部のホールは、大型の西洋薪ストーブ1台、手作りの丸テーブルと椅子が5組ある。そしてホールとカウンタードアで隔てられた厨房内では、セーラー服姿にエプロンを着けた妹の七菜香が、本日の料理の仕込みを行っていた。

N『この娘が妹の七菜香。まだ高校生だけど料理の腕はプロ級なんだ!』




成海は、七菜香の近くに野菜入りダンボールを置いた。

「ナナただいま~。ここに置いとくね~♪」

矢継ぎ早にその場を後にする成海。




「うんありがと♪」

七菜香は成海の背中越しに声をかけるが、そこにはもう成海の姿はなかった。

「ふふ。ナルちゃん楽しそ(笑)」

七菜香は意味深にそう口にした。




それから成海は、少し慌ただしい様子の小走りでガレージに駈けこんだ。

少し間を置いた次の瞬間、ガレージ内から唐突に、炸裂音に似た2ストローク初期始動の排気音が聞こえてくる。なんと成海は、ノーヘルのままスタンディングでKX500に乗って表に現れ、軽トラの後ろにまわった。後部のあおりは開けたままの状態である。

それから何度かアクセルを煽り、エンジンの回転数を上げた後、瞬間的にしゃがみこみ、バイクをリヤ荷重にしてから一気伸びあがってクラッチミートする。




「しゃらぁーーー」

成海の掛けが響く。




フロントタイヤが“フワリ”と持ちあがり、続いてリヤも “ポンッ” と跳び上がる。成海は 「 ウィリージャンプ 」 という高等技術を難なく駆使し、軽トラの荷台にKX500を積んでしまった。







「ふぉっふぉっふぉ」

源三はさも愉快そうに笑った




「じゃあGarage SANTANAに行ってくるから。お客さんの夕飯までには戻るね」

軽トラに乗り込みながら、楽しそうにそう言った。




「おおわかった。でも気にしないでゆっくりして来ても良いぞ。気ぃつけてな」




KX500を乗せた軽トラが走り出し、源三はその姿をいつまでも見送っていた。









   



軽トラの車内で、広く真っ直ぐな北海道の風景を横目に、成海はナルディークラシックのステアリングを握り、カントリー&ウェスタンの音楽を聴きながら、愛しの下村と祖父が、初めて邂逅した様子を思い浮かべていた。




N『何を隠そう、祖父源三は、かつて“サードアイ”の異名をとったKawasakiのワークスライダーだったのだ』











≪回想始まり≫

腕と腿にKawasakiロゴが入り、年季を感じるラリージャケットとモトパン。それにアルパインスターの革ブーツ。そんな凄みのある雰囲気の源三の隣には、KX500に跨った成海の姿があった。




「もう一度俺とハッて貰えませんか?」

真剣な表情で源三に向き合う下村。
それは数日前に、下村と源三が、新道でバトルしたことを意味していた。




モタードライディングで、夜の峠を駆け抜ける三眼ライトのKX500と源三。そしてそれを追うZ1000MkⅡの下村。

「君を見ていると、昔ライバルだったラリー・ロズラーを思い出すよ」

穏やかな表情の源三。




N『ラリー・ロズラーは、80年代Baja 1000において、最速と謳われたkawasakiワークスライダーである。源三はオフロードレースの神とも謳われた人物と、ライバル関係にあったのだ』







「しかし、ワシ等の時代はとっくに終わっておる…」

寂しげに空を見上げ、成海の肩に“ぽん”と手を置いた。




「この娘には、ワシの全てを伝えたつもりだ。これからは君達の時代だよ」

成海は少々戸惑った様子で源三を見つめた。


≪回想終わり≫





『そう、その時に決めたの! 下村さんの願いを叶えるために、アタシがおじいちゃんの代りに走るって』

凛々しい表情の成海が心の内で、固い決意表明をした。




そんな回想をしているうち、軽トラのフロントガラス越しには、ダッジラムバン、シェビーバン、シボレーC1500、エルカミーノ等、トランポベースとなる車両が並べられた「Garage SANTANA 」が見えてきていた。







つづく
Posted at 2016/11/22 14:40:05 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年11月16日 イイね!

Def busta 第二章 ~recovery line~

Def busta 第二章 ~recovery line~     あらすじ

恋には不器用だが、オフロードバイクのライディングテクニックは一流。そんな男勝りな輪道成海が織りなす、バイクアクションストーリー。そして苦難を乗り越え、彼女の導き出した答えとは…。


Def bustaシリーズ第二弾。今後この物語を彩るキャラクター達の集いです。新たな登場人物や、輪道成海の活躍をお楽しみ下さい。













●輪道 成海(りんどう なるみ)(19歳・女)
  イメージキャラ ・ 武田 梨奈。
  性格は負けん気が強く元気でじゃじゃ馬。
  ライムグリーン3眼ライトのkawasaki KX500改(公道&Baja仕様)を駆る。   






●下村 貴(しもむら たかし)(24歳・男)
  イメージキャラ ・ 坂口 憲二。
  “TEAM SANTANA” のリーダー及び “Garage SANTANA” の代表。
  フルカスタムでスカチューンが施されたKawasaki Z1000MkⅡ改を駆る。






●上場見 顎(うわばみ がく)(25歳・男)
  ヘビ顔の男。残忍な性格。麻薬ジャンキー。デリヘル店を経営者している。
  KTM450EXC SUPER MOTO仕様を駆る。





●岩野 剛(いわの つよし)(27歳・男)
  イメージキャラ・クッキングパパ。 Garage SANTANA で働くスゴ腕メカニック。
  黄色のDR-Z400改450SMヨシムラ仕様を駆る。



●輪道 源三(りんどう げんぞう)(65歳・男)
  イメージキャラ・アルプスの少女ハイジのアルムおんじ。
  元は国際的な2輪ラリースト。10年前に事故死した息子夫婦の子供達である、 
  孫の成海と七菜香を引き取った。 「ペンション輪道」を経営。



●輪道 七菜香(りんどう ななか)(17歳・女)
  イメージキャラ・白石麻衣。 高校生、成海の妹。
  性格はおっとりしていて料理が上手。ペンションではシェフを務めている。












     1 プロローグ



曇天の空、今にも雨が降り出しそうな蒸し暑さのなか、輪道成海は旧道・白金峠の中腹に位置する、大きな白樺の木の前に佇んでいた。
成海はミドルヘアーのウルフカットで、美しい顔立ちだが風に揺れる髪の毛の下から、まだ新しい生傷と痣が見え隠れする。彼女の出で立ちはMXウェアーにオフブーツ、肩から背中にかけ、毛皮のついたM65フィールドジャケットに身を包んでいる。そしてその傍らには、愛車のKawasaki KX500改が佇み、彼女がバイク乗りであることを物語っている。





哀愁にみちた愁いの表情で、大きな白樺の木を見つめる成海。それは、愛する下村と初めて出会った思い出の場所だったのだ。成海はその彼を思い出していた。
色黒で顎髭を蓄え、野生に満ちた鋭い表情の下村だが、自分を見つめてくれるその瞳は、とても温かく穏やかだった。細く引き締まった筋肉質な身体は、しなやかでかつ力強く、男の色気を醸し出している。そんな彼に見つめられ、成海は身も心も蕩けてしまいそうな快感に疼いた。





優しく微笑む成海。しかし次の瞬間、その甘い思い出の映像に砂嵐のようなノイズが走り、凶悪な蛇顔の上場見が現われる。上場見は長い舌をベロリと垂らし、下卑た笑いで成海を見下す。



またその映像にノイズが走り、場面が変わった。今度は自分の腕の中で、血まみれの下村が震える左手を成海の頬に当て、そのまま力なく崩れてしまった。泣き叫ぶ成海。




大きな白樺の木を見つめる成海の頬に、大粒の涙が流れる。そして自分の肩を抱きしめるようにして膝から崩れた。




「下村さん…」

成海の口から小さく言葉が漏れた。

「絶対に仇を取るから…アイツだけは絶対に許さない !! 」

今度ははっきりと聞き取れる声を発し、成海の美しい表情が、鬼の形相へと変化していった。















その出逢いは1年前のことだった。

北海道十勝岳の西麓。町道・白金温泉15線。通称白金峠。その深緑の峠道には、整備されたターマック(舗装路)の新道と、地元の人間も滅多に通らない、グラベル(未舗装路)の旧道がある。

その旧道を豪快な2輪ドリフトで駆け抜ける2台のバイクがいた。
先頭は毛皮のついた革ジャンを着た男で、フルカスタムのKawasaki Z1000MkⅡ改を駆っている。左ヘアピンコーナーへ、左足を前に突き出しフルカウンターで飛び込む。後方は成海Kawasaki KX500改。同じく左足を前に突き出しドリフトしている。
前方の男を睨む成海。そのまま右ヘアピンコーナーへ飛び込む。男はコーナーリング中に2回アクセルを煽り、絶妙なトラクションコントロールで車体を安定させる。レスポンスよく歯切れのある乾いた排気音のMkⅡは、タイヤがダートを蹴飛ばす音と共に、スマートにコーナーを抜け、フロントを軽く持ち上げながら立ち上がってゆく。




更に男の後ろ姿を睨みつける成海。

「どうしてあんなバイクでダートを速く走れるワケ !? マジでカミ(神)っんだけど !! 」

全く不可解な現実に、成海は困惑していた。




次の左ヘアピンコーナー。2人とも同時に左足を前に突き出し、派手に車体を流しながらコーナーリングするが、成海のKX500が少し遅れだした。
Z1000MkⅡの4ストロークの排気音と、KX500の2ストロークの排気音とが、峠道に木霊する。

そして次の右ヘアピンコーナー。もはや旧車のオンロードバイクが、ダートで走れるようなスピードではない。成海にとって理解不能なスピードで、男がコーナーに飛び込んで行く。
男は、先程と同じようにアクセルを煽りシフトダウンし、リヤを滑らせながらスライドコントロールをする。そして若干フロントをアップさせて、コーナーを立ち上がる。
 
見事だった。それは溜息が漏れる程に。しかし感心している暇はない。成海も負けずに、オーバースピードでコーナーに突っ込む。しかし、もはや自分の許容スピードを超えている。心臓が口から飛び出て来そうな恐怖と緊張で、全身から汗が噴き出る。




「ひよる(日和)なアタシ !! 」

いまにも硬直しそうな身体。だがそれでも成海は、必死でKX500を操り、リヤを滑らせスライドコントロールし、アクセルを煽りながら車体を安定させようとした。が、立ち上がりでリヤタイヤが余計に滑ってしまい、アンダーステアを誘発させてしまう。




その時点で成海は、その男に引き離された。走り去ろうとする男の後ろ姿を見つめる成海。

「ダメ… リカバリーライン出来ない… 一体何者なのアイツ !? 」




ここで完全に気持ちが折れてしまった。自然に右手がアクセルを戻してしまう。KX500が軽い排気音を漏らしながらスローダウンした。




「ん ? なに !? 」

また不可解な事が起きた。成海のスローダウンと同時に、前方の男も速度を落とし、右手で 『スピードを落とせ』 というハンドサインを送ってくる。




「なに ? なんなの ? 」

頭を軽く傾げる成海。そして2台とも、大きな白樺の木の近くにバイクを停車させた。エンジンの熱が陽炎のように揺らめく。






その揺らめく熱気の中、男はヘルメットを脱ぎながら、成海より先に話しかけてきた。

「お前さん速ぇ~なぁ~」




低音でよく響く澄んだ男の声は、成海の身体に心地良く響いてきた。

「えっ? あの…」

成海には初めての感覚だった。力強くも優しい響き。




顎ひげを蓄え無骨な感じの男が、まるで子供のように無邪気な笑顔を見せる。
クセのあるミディアムヘア・ウルフカットの成海が顔を真っ赤に染め、胸をときめかせた瞬間だった。

『やだナニこの人 ♡ マジで渋系池様(渋めのイケメン)なんだけど♡ 』 心のなかで、何度も男の笑顔が反芻される。しかしそんな心とは裏腹に、このような経験は初めてである成海は、ついつれない態度をとってしまった。

「なんなの ? ナンパならお断りだけど ! 」




赤い顔のままでそっぽをむく成海。
『いや~~ん!そうじゃない!ちがうよぉ~~~!!』成海は思わず心の中で、力いっぱいに叫んだ。




「はは違う違う。ムキんなってお前さんから逃げてたらよぉ、リヤタイヤがイカレちまったんだ」

親指で後ろを指さす男。そこでふと後方に視線を移すと、確かに男のバイクはリヤタイヤがパンクしていた。





「ワリィんだけど、携帯貸してくんねえかな?仲間に連絡取りてぇんだよ」

少し困った表情の男は、やはり子供のように無邪気に見える。




そして成海は、顔を赤く染めたままの状態で冷静を装い、ヒップバックを探った。

「ケータイも持ってないの?もう~しょうがないなあ」

その様に言いつつ、心の中では 『 いや~~ん、だから違うんだってぇ~(泣)  なんでこんな態度取っちゃうのぉ~~~ 』  繰り返し叫んでいた。





成海は、細かく震える指先で携帯電話を手渡す。そこで男と手が触れ合い “ピクッ” と反応してしまう。
完全にノックアウトされてしまった。 その優しい眼差しに身悶えしそうになる。




「ありがとう。俺、下村ってんだ。よろしくな」

あまりにもその笑顔が眩しかった。





成海M 『 キュン死。それはアタシの遅咲きの初恋だった… 』















そして現在の成海。

過去とはうって変わり、笑顔が消えた寂しい表情となり、過去の回想から戻って来た。






N 『少年のように屈託のない笑顔の彼。これが、道内のモータースポーツに関わる全てのバイク乗り達の頂点に立つ、TEAM SANTANAのリーダーDef busta(デフバスタ)下村との出逢い…。 そうこれが全ての始まり。これから訪れる悲劇。アタシの孤独な闘いの始まりだった』







Posted at 2016/11/16 12:02:22 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

プロフィール

「91時限目 第2弾!カントク冒険隊! 神の湯へ http://cvw.jp/b/381698/45694253/
何シテル?   12/11 14:56
☆Youtubeで動画投稿してます。  「カントクの時間」です。よろしければ寄って行って下さい。 https://www.youtube.com/chann...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/7 >>

  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

リンク・クリップ

Z乗りさんのホンダ CRM80 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/23 23:46:46
インチアップ話の続き 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2020/05/17 15:25:11
チョットここで、アーカイブ~♪ 10  もう二度と見られない此の光景・・・ 2 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2019/03/05 19:01:18

愛車一覧

ヤマハ セロー225W MOTARO 241K レプリカ (ヤマハ セロー225W)
二代目の 93年式 ヤマハ・セロー225W 2020.6 .6 納車。 ただいま 「 ...
マツダ ボンゴフレンディ タートル號二世 (マツダ ボンゴフレンディ)
2019年7月納車 命名: ドン亀 ” タートル號二世 ” キャンプに車中泊、さら ...
トヨタ ラッシュ トヨタ ラッシュ
2021年6月、実父他界により遺品として当方が引き取る。 親父のメインカーはZEROクラ ...
スズキ ジムニー 神威號 (スズキ ジムニー)
当方の狩猟道! あらゆる願いを込め 「神威號」 と命名する! こだわりの4型ワイルド ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation