ムーブキャンバス、君に決めた！

　「たまご色のキャンバスを二台続けて見た。めちゃカワイイ」と、買い物帰りに妻が言った。我が家は都合により二台目の車が必要になったので、車選定の儀が始まった。

　以前お世話になったホンダディーラーで買おうと思ってフィットeHEVを候補に挙げた。個人的にはRSが気になるが、出力性能はHOMEも変わらない。それにミニJCWのせいでどうせなら乗り心地のよい方がいい。
　今なら特別仕様車のブラックスタイルが存在し、カタログに掲載されている赤色は、特別仕様で付加されたブラックパーツやブラックホイールが引き締め役として成り立っており、RSほどでは無いが素のホームより格好良い。早速妻を連れて試乗するためにホンダディーラーへ出かけた。

　試乗車は購入候補のHOMEブラックスタイル。妻が運転席に座っていつもの試乗コースを走る。

「出だしも力強さも、扱いやすさも完璧！」

　妻はフィットが気に入ったようだった。以前もフィットに乗っていたし、その車が最新にバージョンアップしたけれども感覚は同じらしく馴染むのだそうだ。視界も室内空間も広く、モーター駆動はミニJCWよりスムーズで静かだ。

　見積もりを頂き、ほぼほぼこれで良いかなと思っていたが、やはりムーブキャンバスが気になるらしい。商談は一旦保留にしてダイハツのお店に行く事にした。

　妻がムーブキャンバスで気に入ったたまご色は初代のカラーバリエーションで、二代目には設定されていなかった。近似色ではサンドベージュになるのだが、カタログでは思い描くイメージとは違っていた。お店から少し離れた場所に置いている実車も見せて貰ったが「なんか違う」と言う。ふむ、ならばフィットだ。赤二台を我が家の駐車場に並べよう。

　ところが、お店に戻る時に見かけた店長のムーブキャンバスのカラーがピンときたようで「この色もかなり良い！」と妻は言う。ストライプスというグレードの白とグレーのツートンカラーだ。後で調べたところ、ムーブキャンバス人気カラー第四位なのだそうだ。

　じゃあ試乗してみますかとお店の人に勧められて、妻はターボモデルの運転席に乗った。

「ヒャッハー、この軽ならではの操作感、好き！」

　いつになくハイテンションになった妻を助手席から眺めながら、ムーブキャンバスのレビューで言われているネガティブポイントを聞いてみる。

「信号が見にくいと言われてるけど、どう？」
「気にならない。ミニより見やすい」

　ぐぬぬ。

「バックミラーが随分手前から生えてるけど違和感は？」
「無い、全然気にならない」

「ターボ付きではあるけど、どう？」
「完璧なのはフィットだけど、これも充分。でも、出足は悪くないけどエンジンに頑張らせているようで、無理させて悪いような気がする。伸びはない感じ」

　ふむ、NAだと物足りなさそうか。まぁミニJCWでお買い物に行っていたのだから、そりゃそうかも。けれども、随分と試乗が楽しそうでなにより。

　この日は見積もりを貰って帰宅し、どちらにするか考える事にした。妻は悶える。気持ちはキャンバスなのだが、フィットを捨てるのは惜しいのだとか。見た目を取るか、実力を取るか。価格差はおよそ30万。フィットの実力、燃費は驚異的だ。

「じゃあ、フィットかな？」

　だか正直言ってフィットはミニすら脅かす存在である。その燃費性能と現状のガソリン高騰で「ガソリン代勿体ないからミニで行かないで、フィットで行って」と言われる未来が見える。そうするとミニに乗る事が出来ず、いずれ存在さえも許されなくなるかもしれない。ミニは手放したくない。けれどもフィットは良い。本当に良い。HOMEブラックスタイルにシートヒーターが付かない事を除けば完璧だ。

「うーん、悩むけどフィットはハンドル周りがミニに比べて見劣りする」
「いや、ミニと比べてやるな。それだったらキャンバスだってそうじゃん」
「キャンバスはカワイイ」
「真面目な優等生がカワイイ系男子に負けたのか」

　妻が見積書を眺めながら聞いてきた。

「ねぇ、知ったお店に行くくらいなのだから、この30万くらいしてるナビは要らなくない？」

　ナビ無しでは生きて行けない自分からすると、ナビを取るのは不安で仕方がない。運転中には地図が表示されている事が心の癒しなのに。
　妻はナビ無しでも問題無いようだ。ならばディスプレイオーディオにすれば20万安くなる。フィットとの価格差は50万。燃費の優位性を換算すると、どちらを選んでも好みの差になった。
　軽とコンパクトカーとでは比較対象としてどうかとは思うが、一般のご家庭においては同格の車の中から比較するケースの方が少ないのでは無いか。いや知らんけど。

　個人的にはフィットが嬉しい。けれどもミニの存在が消えるし、次のミニ乗り換えは極めて厳しいプレゼンを強いられる。ここは…

「キャンバスの試乗で嬉しそうだったから、キャンバスが良いかもね」
「ん、じゃあそうしよっか」

　そして翌日、キャンバスを契約。

　フィットさん、ごめんなさい。
　私の邪な心で貴方の活躍の場を無くしてしまいました。