製作の最後に、塗装について語りたいと思います。
まずは艦体色ですが、今回は佐世保工廠色で塗っています。
竹は横須賀で竣工し呉に移動した後、フィリピン方面へ派遣され、そこでオルモック輸送を行っています。
艦船の塗色は経年劣化すると塗り直されますが、その際は必ずしも竣工した工廠色で塗られるわけではないようです。
竹の場合、呉にいた期間中に塗り直されていれば呉工廠色となるわけです。
ならば佐世保カラーはおかしいのでは?
はい、おかしいです。
今回の塗色は完全に私の好みで選択しました(笑)
主砲周囲にある円形の操作フラットは木製だったようです。
上空からの視認性を低くするためには木を軍艦色で塗るほうが良いと思われますし、そのようにしている作例も見受けられます。
しかしここもあえて私の趣味で数種類の茶色で塗り分けました。理由は「戦艦や空母の木甲板も迷彩以外は軍艦色としていない」ことと「模型としての見栄え」です(笑)
また主砲周辺と艦橋後部右舷側の一部の甲板にはリノリウムが敷かれていました。
リノリウムとは亜麻仁油の酸化物に、樹脂・コルクくずなどを混ぜて、布に塗り伸ばしたもので、竹の甲板敷物図には「厚さ3mm」との記載があります。
リノリウムはその材質から可燃物であるため、戦争後期の不燃化対策として剥がされたという意見が一時は主流でしたが、どうやら剥がした艦と残した艦の両方あったようです。
竹については竣工自体が戦争後期だったことから、当初より敷物図通りに設置され、その後も剥がされることはなかったと考えました。
なお工作の都合上、リノリウム押さえは今回設置していません。リノリウム押さえは亜鉛メッキを施した金物で、一定間隔でリノリウムをビスで固定するものです。昔は金色で表現していましたが最近の研究でシルバーで表現するように変わりました。
(参考:S&Sホームページ)
ちなみに同HPの記載(旧海軍資料)によれば、リノリウムは甲板下にある居室天井の断熱や吸音のためではなく甲板表面のメッキ保護のためだったとのこと。確かに厚みが3mmなら吸音はともかく断熱効果は限定的だったと思われます。
艦首にあるアンカーチェーンですが、長いチェーンはいくつかの「節」に区切られていて、節の継ぎ目には白で印が付いてました。アンカーに繋がる節が第一節、そこから艦内に向かって第二、第三とつながっていきます。
塗色については第一節は外舷色、第二節以降は黒だったようです。
(参考:桜と錨の気ままなブログ)
昔の私は「チェーンだから黒」という根拠のない表現をしていましたが、今回は外舷色としました。
艦橋両サイドには舷灯が付いており、左舷は赤、右舷は緑と決まっていますが、舷灯のつくりは灯火本体とその壁面に付く小さな板で構成されます。このうち板が灯火と同色なのか、外舷色なのか、あるいはそれ以外の色なのか疑問に思い、調べてみました。
戦時中の艦船のカラー写真でこれが分かるものは見つけられませんでしたが、竹や他の艦船の白黒画像からは、板部と灯火部が同じ色をしていると思われました。
よって今回の作品もそのように塗り分けてあります。
2本ある煙突の頂部はフラットブラックですが、横から見た縦幅はウォーターラインガイドブックによれば「煙突の長径+短径の1/2の1/3」とのことです。

竹の図面から計算すると3.0mmとなりますが、同ガイドブックの図のようにファンネルキャップ最上部から測るとファンネルキャップ下端までとなります。
しかし実艦写真ではもう少し下まで黒く塗られています。
リアルさを追求するなら実艦写真から寸法を割り出すとよいのですが、ジャッキステーの上からマスキングテープを貼るのが怖かったので、フリーハンドでファンネルキャップ下端まで塗りました。
なお、松型同型艦でも塗り幅は異なっており、さらには煙突頂部のラインと平行なのか甲板と平行なのかも艦ごとに異なっています。
後部マストは上記ガイドブックに「煙突の黒い部分の下端の延長線と、煙突上端から9mの間」が黒とされています。
実艦写真も調べましたが、マストが細すぎて確認しづらいものの、黒と思われるものと外舷色と思われるものの両方がありました。竹がどちらなのかは判別が付きませんでした。
結局外舷色としましたが、これは同マストに増設された13号電探を外舷色で塗ることとのバランスを取ろうと考えたからです。
甲板上の随所には防舷物が設置されていますが、これが何色なのかいくら調べても明確な根拠が見当たらず、そもそも材質が何なのかも分かりませんでした。
形状は縦長の球体という感じなのですが、近年ならばゴム製=黒で塗っておけばまず間違いはないでしょうが、多くの作例では茶色や赤で塗ったものが見られます。悩みましたが、結局フラットブラウンで塗りました。
発射されている魚雷は本体=フラットアルミ、先端=フラットブラックとしました。
本体は外舷色の可能性もあると考え色々調べましたが、靖国神社や大和ミュージアム等に展示されている魚雷はシルバーだったので、一応これを決め手としています。
ちなみに訓練用の場合、先端は赤のものを使ったようです。模型的な見栄えだけを考えれば赤のほうが目立ちますが(笑)
最後にウェザリングです。
旧海軍艦船は大変手入れが行き届いていたようで、その点からは全くウェザリングしないという選択肢も「あり」ですし、そうしている作例も少なからず見られます。
しかし竹が活躍した頃は物資不足で塗料の質も低下していたでしょうし、空襲の連続で手入れもままならなかったかもしれません。
何より公試運転時の竹の写真を見ても、外舷ですらところどころ色が変わっているのが確認できます。
これらに加えて模型的な見栄えも考えた結果、全体にスミ入れ塗料によるウォッシングをかけるとともに、錨と喫水線近くの舷窓に限ってはブラウンによるサビだれの表現を行いました。
滑り止め甲板製作にあたって細切れ伸ばしランナーの貼り付けにこだわったのは、ウォッシングした際の立体感演出効果が高まることを期待したものでもありました。
実際、苦労して施工した効果は上がったように思います。
以上で駆逐艦竹とそのジオラマ製作記は終了。
↓は今回の製作で使用したインジェクションのアフターパーツとエッチングパーツです。

インジェクションではナノドレッドの精密さと正確さに驚かされました。
フジミのパーツもかなり出来が良く、巡洋艦以上で使えばサイズ的にも問題がないと思われます。
ヤマシタホビーも素晴らしいディテール再現度です。恥ずかしながら今回の製作まではよく知らないメーカーでしたが、艦船キットの世界では急激に知名度を上げています。キットやパーツのラインナップが今後充実してくればナノドレッドの対抗馬になると思います。
エッチングパーツは初めて使いましたが、自作やインジェクションでは表現できない精細な表現はエッチングならではだと感じました。
ただ爆雷装填台のようにコンマ数ミリ(率にして数%)大きめなのが難点です。
コピーした図面には無数の書き込みを行いました。

スケールモデルの原則通り、「写真第一図面第二」という姿勢で製作に取り組みましたが、戦時中のものでもあって写真が限られるため、今回の製作はこの図面なしにはできませんでした。
図面に頼る部分がかなり多かったので、今後艦船を作る際は「図面があるか」を基準にキットを選定してしまうかもしれません(笑)
次回はいよいよ完成アップです。