その昔、乗馬を嗜む母方の祖父がよく言っていた言葉があります。
「馬は乗る人間を品定めする。自分が納得した人間でないと、決して服従しない」
それは単に馬を服従させるだけでなく、馬との信頼関係みたいなものを構築しないと人馬一体とはなれないのだろうと私なりに解釈します。
そんな人馬一体をキャッチフレーズにしたこの車で一日遊んで参りました。

御存じマツダのロードスターであります。全長3915mm、全幅1735mm、全高1235mm、ホイールベース2310mm、車両重量1060kgと初代に比べれば確実に大型化されてはいますが、現在絶滅状態にあるライトウェイトスポーツを牽引する貴重な一台だと思います。

リアスタイルにどことなくフェラーリ・カリフォルニア的な雰囲気もありますが、全体的によく纏まったスタイルだと思います。

この個体は6EC-ATと呼ばれるパドルシフト付きアクティブマチックですが、ギア部分もMT的なブーツが付いていたりと雰囲気あるデザインです。

どちらかと言えばこの車にはスパルタンな印象を持っていたのですが、現行モデルでは乗用車的というか快適装備が揃っています。

流石に夏場に冷風が出るエアシートではありませんが、ヒーターが装着されたレザーシートです。この個体は限定でソフトトップとシートがバーガンディのカラーですが、とても良い雰囲気です。

メーターには200km/hまで刻まれてはいますが、レクサスと同様にリミッターは存在します。

195/50R16と、決して無理のないサイズのタイヤを履いています。ディーラーさん曰く「玄人さんはこれを更にサイズダウンする方も居ます」との事で、コケオドシに18や19を与えない見識なのでしょう。

樹脂カバーの無い、ちゃんとエンジンが見える直4DOHCは132psを発生します。
さて、街に出てみると大型セダンに慣れた目にはゴーカート並みに低いポジションであります。このポジションでルームミラーに映る後続のクラウンはものすごい威圧感を感じました。
曲がる、停まる、パワーを乗せるという一連のタイミングはある種のコツみたいなものが必要で、それを掴むには少し走り込む必要がありました。エンジンパワーもブレーキ制動力も現代の水準としてはごく普通で可もなく不可もない印象ですが、必要なパワーを必要な分だけ自分で引き出して、必要な時には必要なだけブレーキを踏んで減速するという一連の流れは全てドライバーに委ねられた感があり、何でも電子制御の高級スポーツカーとは対極にある古典的なスポーツ解釈であります。
誤解を恐れずに申せば、最初に走り出した時はお世辞にも乗り易い印象ではありませんでした。しかし一時間くらい乗り続けて車との信頼関係が出来始めたかなと思う頃には自分の感覚も研ぎ澄まされて「これは唯一無二のスポーツカーだ」と納得でありました。ハンドリングも遊びの少ない昔の英国スポーツカーに近く、レーンチェンジでもミズスマシ的に動けるクイックさを残すにはこのサイズが限界の大きさなのかも知れません。

ソフトトップの開閉も手動で容易に出来るので、重量の増える電動式を採用しないのは正解でしょう。

そんな訳でウチの車とは全く異なる性格の一台を試して、今の世の中でこれほどドライバーに従順ではない車が存在する事が良い意味で喜ばしく感じました。例えばポルシェ911などはドライバーの腕に多少問題があっても車がカバーしてくれる鷹揚さみたいなものがありますが、このロードスターはそうした鷹揚さを持ち合わせておらず車とドライバーの技量をすり合わせる必要があります。それは正直少し疲れますが、実に愉しい時間を過ごす事が出来る車です。
そう考えると、今のスーパープレミアムクラスのスポーツカーはどれも肥大し過ぎた感があり、もはやスポーツカーでは無くラグジュアリーカーなのでは?と感じるのでありました。
で、ラグジュアリーカーならばドアが4枚のがいいじゃんと思ってしまうのですが…
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2018/09/09 17:30:03