
『本陣殺人事件』/横溝 正史/角川文庫
'20/4/14読了
かの有名な「金田一耕介シリーズ」の記念すべき第一作目、『本陣殺人事件』を読み終えました。
これまで横溝氏の作品は『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『犬神家の一族』の三作品しか読んだことがなく、予てより他作品も読みたいと『本陣殺人事件』は手許で温めていたのですが、中々時間をとることができず……。昨今のコロナウィルスで迂闊に表へ出られないので、これを機会にと読むことができました。
私の手許にあるのは、「金田一耕介ファイル」と銘打たれた角川文庫版のもので、これはそのファイルの2番に当たるもののようです(1番は『八つ墓村』)。更にこの本には『本陣殺人事件』の他に二つの短編、即ち『車井戸はなぜ軋む』『黒猫亭事件』も収録されていて、とってもお得な仕様となっていました(笑)
なぜ金田一シリーズの第一作目がファイル2なのかは解せないけれど、いろいろ事情があるのでしょうね。
さて、各物語の感想の前に、まず簡単に、金田一シリーズがどいうものかについて私なりに書いてみようと思います。
金田一シリーズは第三者視点で書かれています。物語を書いている著者は、探偵である金田一耕介が活躍している世界と同じ世界に生きており、実際に起こった事件として、金田一耕介の活躍を小説にして発表しているという体を成しています。ですので、作品によっていは金田一耕介が直接著者に会いにくる場面もあります。
上記のように第三者的視点から書かれている為か、内容はけっこう説明的というか、論理的な構成になっていると思います。冒頭で事件の起こる家や地方についての謂れや、人物について経歴などの説明が一気になされて、それから物語が展開してゆくという形式も多くあります。慣れていないと、ちょっと読みにくいかもしれません。
次に、登場人物についてですが、人間関係が結構複雑です。登場人物がたくさんいるうえに、物語によっては腹違いの子だの愛人だの更にその子供だのといろいろ登場するので、注意深く読んでいないと誰が誰だか分からなくなります。この複雑さは、多分に時代背景的なところもあるのでしょう。個人的にはこの複雑な人間関係こそ、金田一シリーズの面白いところでもあると思っています。
時代背景繋がりで、これは慣れるしかないことなんですが、文章が読みにくく、イメージしにくいことがよくあります。
これは、文章が稚拙だとかそういうことではなくて、今の時代では使わないよな単語だったり言い回しがしばしば出てきます。場合によっては単語の読み方やその意味などを調べないとならないことがあります。普段あまり読書をしない人には、これが結構なハードルになると思います。
さて、前置きが長くなりましたが、いよいよ今回の物語について書いていきましょう。三作品収録されていましたが、今回はタイトルににもなっている『本陣殺人事件』について書いてゆきます(残りの二作品については、いずれ書くかもしれません)。
以下、がっつりネタバレなのでご注意ください。
―――――
記念すべき金田一耕介初登場作品。
岡山の江戸時代から続く本陣である、一柳(イチナヤギ)家という旧家を舞台に繰り広げられた、密室殺人事件ものです。
一柳家の長男・賢蔵と、女学校の教師であり、或る集会で講演をしていたところ賢蔵と出逢った久保 克子(カツコ)が結婚します。そして夫婦となったその夜。いわゆる初夜というやつですが、二人のいる離れの方から悲鳴が聞こえてきます。続けて琴の音も。ただならぬものを感じた一同は、急いで離れへ向かうのですが、果たして、そこには無残な姿に成り果てた賢蔵と克子の姿が。賢蔵が克子に覆いかぶさるようにして、血みどろになって斃れていました。現場には意味ありげな琴と、三本指の血の跡が残されていた。
誰がどう見ても殺人事件、つまり他殺だと思われるのですが、奇妙なことに、一同がこの離れに駆けつけてきたときには、窓は雨戸が閉まり、玄関には鍵がかかっていた。つまり密室だったのです。更に奇妙なのは、この夜は雪が降っていたのですが、離れの周りには犯人のものと思しき足跡すらありませんでした。
当然警察が呼ばれ、岡山県警ご一行は操作に乗り出します。そんな中、克子の育ての親であり、克子から見ると叔父である久保 林吉(リンキチ)は一柳家にキナ臭いものを感じ、金田一耕介へ捜査願いの電報を出します。そしてやってくる名探偵……。
あらすじは上記の通りです。
物語の結論から言うと(つまりネタバレすると)、これは、賢蔵による自作自演の犯行でした。
賢蔵というのは非道く潔癖な性格であり、自分にも他人にも厳しい人でした。今回の克子との結婚も周囲の反対を押し切って行ったものでした。
ですがいざ蓋を開けてみると、克子は処女ではなく、過去に不義あったのでした。潔癖である賢蔵は、そのことを許せなかったのです。そして克子を殺そうと画策します。ですが、周囲の反対を押し切って結婚してしまった以上、賢蔵自身の面子も立てておきたい。そう考えた時、自身も誰かに殺されたことにすれば良いと思いついたのです。二人とも何者かに殺されたことにすれば、あらぬ疑いを着せられることはない。死んでもなお潔癖であり続けたかったのですね。
そして密室に使われたトリック。これがかなり大仰です。
琴が鍵になってくるのですが、まさかこんな使われ方をしていたとは!
私は残念ながら一読してそのトリックを理解することができませんでした。YouTubeで検索して実写化された映像を見て、やっと理解できました(^^;
ただただ凄いの一言です(実写化したのも凄いけれど)。
このトリックに大きく関わるものに、「三本指の男」というのがいます。
冒頭、村の食堂に一柳家の場所を訊ねてくる、いかにも怪しい風貌をした男なのですが、警察はこの男こそ犯人なのではないかと捜索するも見つかりません。
最終的には見つかるには見つかるのですが、とんでもない所から見つかります。
物語を通して、その種明かしのときまで謎につつまれた「三本指の男」ですが、実はミスリードだったんです。
更に、この一大兇行にはミステリー小説の大ファンである、一柳家三男・三郎も大きく関与しており、私も読んでいて「こいつ、なんかあるんだろうな」とは思っていましたが、見破るには至りませんでした。
極めつけは、最後の最後に作者から叩き付けられる、読者への挑発とも取れる文言。
「言われてみればそうだよねぇ」と納得せざる終えません。
推理小説の読み方というものを、改めて教わったような気がします。
『本陣殺人事件』は長編でありながら200頁ほどの分量なので、難解な単語や難しい言い回しなどもありますが、さして時間もかからず読めると思います。
何か推理小説読んでみたいなぁという人があれば、是非読んでもらいたい一冊です。
=おしまい=
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Posted at
2020/04/14 20:10:11