送別の酒

　秋が深まりつつある夕刻

　北千住で旧くからの友人と待ち合わせた




　正規の仕事が決まって福島に行くのだと言う

　二人だけの送別の宴




　元は職場の同期

　しかし、辞めてから転職先が倒産

　雌伏の8年を派遣で食いつないだ

　奥さんには去られ

　クルマも手放した

　能力はさして変わらぬのに、私とのこの違い




　「しかし、人生、長く生きれば風は変わるものだな・・・」

　そう言った私に彼も

　「ああ、風は変わるものだな」

　と、短く答えた




　「ところでさ、クルマどうすんの？クルマがないと生活できない場所だろ？」

　「ああ、最初は中古の軽かな。でも２～３年したら少し趣味の入ったクルマに買い替えたいな」

　「お前、フランス語が喋れるんだから、プジョーかシトロエンか、それともルノーがいいんじゃないの？」

　「あ、プジョーいいよね。307とか」

　「え？プジョーは、偶数番がいいんじゃないの？206とか208とか」

　「206はちょっと古くなり過ぎているし、208はまだまだ高いし・・・」

　「ま、フランス語ができてフランス車に乗ってれば、いいオンナとの出会いもありそうだし」

　「んー、出会いがあるといいなぁ・・・」


　クルマ好きの友との夜はこうして更けていった

　御互いに嬉しい送別の酒もあるものだと知った夜だった