トヨタに惚れっちまうだろ

　令和２年（2020年）1月12日（日）、東京オートサロン最終日での屋外会場。
　YARIS WRC のデモランがあるというので、見学へ。



　現役ラリースト、勝田貴元選手が、デモランを披露。




　もうもうたるタイヤスモーク。
　新品タイヤを使い切ってのパフォーマンスにギャラリーは、満足。




　そこで、トヨタの豊田章男社長が登場。
　オートサロンにメーカー社長が登場すること自体異例。
　しかし、豊田章男氏は、これから自分がこのYARIS WRCに乗ってデモランをするとマイクを使って発言。
　会場は、『冗談…かな？』という微妙な雰囲気。
　司会も、予定にはないことなので、どう対応して良いか困惑している。




　しかし、それは本気だとわかり、メカニックが慌てて勝田選手が使い切ったタイヤをニュータイヤに交換し始めると、ギャラリーが興奮しはじめる。




　グローブを忘れた豊田"選手"は、勝田選手のグローブを奪い、勝田選手をコ・ドライバーにして自らステアリングを握り走り始める。




　写りが悪いが、サスペンションの伸縮で、いかに本気で走っているか、いかに技量があるかが、わかっていただけるだろう。




　『これが、大会社のメーカー社長がやることか?!』と思いつつも、会場は大いに盛り上がる。




　ドーナツ・ターンが凄すぎて、クルマが見えない。

　東京オートサロンと言えば、今や、「クルマ好きのお祭り」。
　しかし、元々は、「改造車の祭り」として、東京モーターショーに対し、どちらかと言うとお天道様を真っ向から仰ぐことのできなかった存在だったと思う。
　「でも、クルマが好きなんだ」という者たちが集まる。
　自動運転や電気自動車が幅を利かせてきた近年。
　自分好みにモディファイすると、クルマを買ったディーラーからにすら門前払いを食らう。例え車検に通る仕様であってもだ。
　『正しい未来とはそういうものなんだろう』と理解せざるを得ない。
　「それでも、俺たちは、自分でクルマを操るのが好きなんだ。自分らしさを大好きなクルマに盛り込みたいんだ。」
　だが、そういう意見は一般には受け入れられない。
　正論に対する、異論。自分たちが異端者になりつつある哀しさ。
　一種、異端者同士が傷をなめあう場にもなる雰囲気のあったオートサロン。
　しかし、そこに大会社トヨタの社長が登場して、エコカーでも何でもない、競技車両で驚愕のパフォーマンスをやってみせる。
　「クルマ、好きだよね。クルマを運転するのって楽しいよね。」と、社長が全身で表現する。
　『救われた…』明確には、そう言葉にならなかった人もいるかもしれない。
　しかし、私は、そう感じたのである。『我々は、救われた』、と。
　我々は、異端者かも知れない。だが、肯定されたのだ。

　こんなことされたら、惚れっちまうだろう。トヨタに…




　豊田章男"選手"のために用意された新品のタイヤは、やはり使い尽くされ、また新品のタイヤに、静かに交換されたのだった。