GT-R Magazine 2018年1月号
〜板金塗装店との付き合い方〜
まず、誌面にあるこの言葉から深めてみたいと思う。
『チューニングでは当たり前に気にされている、誰が、どこで、何を使って、どんなことをやっているのか、をそこまで追求されていないように感じます』
なぜこう思うのかといえば、それはたぶん、どこで修理をしても大差なし。
さして変わり映えはしないと思うからなのだろう。
ようは、ボディ修理というものは、修理をした結果パワーがあがるわけではなく、
フィーリングやパフォーマンスの向上が体感できるようなものではないから。
チューニングショップが担当するエンジン関係に手をいれたときほどの違いは感じられにくい。
だから、どこで修理をしても同じ。
同じ形、同じ色のボディに戻るだけ。
そう思ってしまうとしても、それは無理のないことだろう。
なにしろ依頼内容の目的、完成形が「元に戻ること」なのだから。
ユーザにしてみれば、ボディに対して、そもそも変化など求めていないし、
むしろ変化があってはいけない。
だから、ボディ修理に個性を出す余地などない、というのが常識的な考え方であって当然なのだろうと思う。
でも、実際は違う。
ほんとうのところは、
エンジンチューンと同じかそれ以上に個性が出るのが板金塗装なのだと思う。
板金塗装業界のひとたちにしてみたら、
常にと言ってもいいくらい「ボディは蔑ろにされている」と思っている。
しかし、世間的な位置付けとしては、
あいかわらずレストアはマニアのすることかキワモノ扱いであったり、
事故車などの大破起こしはアヤシイひとたちが一枚噛んでいそうな雰囲気をもっているような気がする。
ま、これは、自分自身が板金塗装業界に携わってきて肌で感じてきたことから思うこと、つまり、自分の意識の投影ではあるのであるが。
では、板金塗装の個性とはなにか?というと、
それが、冒頭の『誰が、どこで、何を使って、どんなことをやっているのか』という部分であり、具体的に一例をだして言えば、板金方法であり、溶接方法であり、
塗装下地の作り方であり、もっとわかりやすくいえば、パネルを交換するのか板金して叩き出すのか、ということであると思う。
これを、もうすこし補足して書いてみる。
掲載の写真にサーキットで追突された32GTRのデモカーがあるが、
トランクフロアが製造打ち切りのために新品部品への交換ができないようだ。
そういった場合どうするか?
かつて大破起こしをしていた者の見立てからすれば、たしかに誌面にあるように、ドナー車からの移植という方法も一法。
ドナー車を用意するという手間はかかるが、たぶん考えられるなかでの一番無難なやりかただろう。
そして、もし、ドナー車がない場合など、ほかに方法があるとすれば、
それは板金していくというものになると思う。
手順としては、次のような流れ。
①修正機を使ってリヤストラットとリヤフレームの大まかな位置修正
(写真から、やや上方への入力もある様子なのでルーフへの波及もチェック)
②クオーターパネルの取り外し
③ホイールハウスアウターの取り外し
④トランクフロアの取り外し
⑤フレーム類の位置合わせ・修正(寸法図での正確なあわせ)
⑥外したホイールハウスアウターとトランクパネルを単体で板金
⑦フレームと合わせて位置調整の後に溶接
(最重要項目はリヤストラット)
⑧クオーターパネルの取り付け
なお、場合によってはトランクヒンジ周辺の修正も。
部品のないときの方法として、このようなパネル単体にして板金をして再度取り付けるというのは有効。
そのとき、さらにこだわるとしたら、取り外しの際に開いたスポット溶接の穴部分を切り貼りなどで作り直しておくと、見栄えが、よりいい感じで仕上がる。
仕上げの塗装を純正ふうプラスアルファで、少々ザラっぽく仕上げておけば、
パッと見で違和感なく、事故歴すらわからなくできるかもしれない。
もちろん手間は相当かかるが、部品がなくても方法はあることはある。
今回の誌面記事で一番伝えたいことは、『作業者との対話』であるように思う。
そして、その目的は『自分の思いを伝えて作業者の引き出しを開けること』であると。
そうすると、そこで大切なことは、やはり『人となりの見極め』なのだろう。
作業者の引き出しを開ける、その結果、なにが出てくるのか?
聞くべきこと、確かめるべきことはそこになるのだろう。
とはいえ、すべてを実地で見られるものでもない。
そのようなとき役立つのは、自身の直感。
作業者の人物的な雰囲気はどうか?
工場内で感じる雰囲気は?
入庫している他の車の作業。
工具・機械の扱い方、整理。
もし工具類が床に転がっているようであれば、それは僕ならばNG。
同じ置くにしても、かならず何かを敷くのがベスト。
(工具について語りだすと話が長くなるので、またの機会にでも)
それは作業者の仕事風景においても同様で、
たとえば車の下に潜るとき、何かを敷いているかどうか。
作業者自身が自分を大切に扱っているかどうか。
これも実は大事なポイント。
汚れやケガを恐れないようなワイルドなスタイルが
職人らしくてカッコよく見えるかもしれないが、これも僕にすればNG。
自分の身や、身なりを守れないひとが、客の車をどういうふうに仕上げてくるのか、
それだけでもわかるような気がしてくる。
丁寧な仕事をする職人というのはライフスタイルが安定している。
丁寧さというのは、作業そのもの以外の部分にもわかりやすく現れるものだから。
実際に会ってみることによってわかる情報はたくさんある。
このような感じでもって作業者との対話をしていくと、
また違ってみえてくるかもしれない。
心がけておくといいと思うことは、作業者の個性を見出してみようと思うこと。
そして、そこで見出した個性は、じつはあなた自身の個性と通じるものがあるか、関連することに気づいていくだろう。
そうすると、おたがいの意識に共通する部分がわかってくるから対話はより一層スムースになり、深まっていく。
車好きの同士の気持ちが通じると、それはとても楽しいこと。
当初は修理費用にお金がかかり、気の重い修理依頼で訪ねてきたはずが、
いつしか楽しいひとときになっているかもしれない。
さらには車に対しての知識や見方への変化や気づきも起こるかもしれない。
だとすれば、まさに『事故は愛車を見直す好機』にもつながることだろう。
speed groove. yoshi