解体

　旧大井町の司令塔として機能してきた、ふじみ野市大井総合支所(旧大井町役場)の解体作業が進んでいる。

　周辺の増築部分やガレージなどは早くに姿を消し、年末から庁舎躯体の解体作業に着手。元町役場とはいえそれなりに大きかった建物は概ね姿を消した。
　あるべきものが無くなり空虚な印象を抱く反面、通りから望める空の広さと碧さが新鮮だ。

　よく見ると、何故か「ふじみ野市大井総合支所」と表示されたエントランス部分の屋根はそのまま残されている。



　大井総合支所の問題については一昨年前の暮れに記事とした。
　その「ふれあい座談会」後に知ったことだが市長の議会根回しは磐石で、最も反対してくれそうな日本共産党議員団まで予算案に賛成に回り、会派のＨＰ上でもまるで自らの活動業績のように大井総合支所の解体が報告されている。
　革新系議員まで賛成している案件が、「成田空港問題」のような反対運動にまで発展するはずもなく、「大井総合支所問題」は早々に条件闘争へ移行していた。


　政治が「結果責任」しか求められないのであれば、今回の件はなんら問題ないのかもしれない。
　新庁舎の計画を鵜呑みにすれば、行政窓口機能の強化に加え、児童センターや多目的ホールが新たに整備される。移転してくる消防組合本部にしても、総合支所周辺地域のことだけを考えれば、災害時の初動対処を受けやすくなる訳で、決して悪いことではない。
　　
　
　しかし日本を訪れたこともある英国の政治学者、ジェームズ・ブライスの「地方自治は民主主義の学校である」という金言に照らせば、周辺住民の知らないところで市財産の処分を伴う消防本部移転が決まっていた今回の件は、政治家としての市長・その市長から根回しを受けた市議会議員とも胸を張れることではあるまい。

　また合併自治体だったらどこでもあることだろうが、今回の件が旧上福岡市と旧大井町の地域対立・・・・とまでは言わないが、感情的なしこり、あるいはわだかまりのような文脈で語られてしまったことも見逃せない。
　合併当初は旧大井町長がふじみ野市長に横滑りしたので、少なくとも旧大井地域ではあまり問題が表面化してこなかった(決して問題がなかったわけではない)が、一昨年前の市長選挙で現職に勝利した現市長は旧上福岡市議会議員出身のため、旧大井町地域住民から警戒感を持たれてしまったことは否定できない。
　仮に同じことを前市長(旧大井町長)がやろうとしたなら、違う展開になっていたのかもしれない。その点、現市長に同情できる点もあるが、合併自治体の運営の難しさは既知の事実だったはずで、もう少し慎重な対応をすべきだったと考える。



　「ふじみ野市大井総合支所」と表示されたエントランス部分の屋根が残されているのは、もしかしたら旧大井町役場が消え去ることに対する、地域住民への配慮なのかもしれないが、そんな表面的なことで「配慮した」などと考えているなら、さっさと止めてエントランスを潰してほしい。

　新しい総合支所が最終的にどんな機能を持ったどんな施設になるのかは、未知数や変数が多く、明確な解は見えていない。また緊急出動する消防車や救急車の騒音がどの程度なのか、実際に運用が始まってみないと判らないというのが正直なところだろう。慢性的に渋滞が起きる中、緊急車輌が川越街道以東へスムーズに移動できるかどうかも不明だ。


　旧町のシンボルを喪った空虚さを抱えたまま、地域対立が増幅されていくのか。
　真に地域に配慮した融和の象徴となり、今日の青空のように晴れやかな気持ちで新施設を迎えられるか。

　行政や議会の手腕が問われるのは、むしろこれからである。