市長

　全国紙・産経新聞が運営するニュースサイト「産経ニュース」の配信記事から『ロンドン市長にイスラム教徒・カーン氏「市民は融和を選んだ。誇りに思う」　欧米主要都市で初』に安堵す。

　イスラム原理主義組織との果てし無く続く闘い、中東・北アフリカ地域からの移民流入、それらが複合して生じる社会・経済の不安定化を経てもなお、佳き市民として暮らしてきたイスラム教徒を市長に選出する民意の健全さ。
　かつて政治を学び、今も理想は何処にありやと探索を続ける私は、報道に触れ大いに喜んだ。


　国政与党・保守党が、イスラム原理主義組織との関連を匂わせるネガティヴ・キャンペーンを張り、却ってリベラルなロンドン市民の反感を買ったとも云われる。

　またイスラム教徒排斥を公然と叫ぶ某国の大統領候補は、英国では軽蔑と嫌悪の眼差しが注がれているそうだが、彼の躍進が英国では反作用として「カーン市長選出」に加担したかもしれない。




　私の海外渡航先の中でも、英国は比較的回数・期間ともに多い方に位置づけられる。
　長期休館で見学できなかった地下鉄博物館へ、どうしても行きたくて翌年に再びロンドンを訪れた（ほぼ地下鉄博物館のためだけに）こともあった。
　
　イスラム原理主義組織の台頭や、移民問題が顕在化する以前から、ロンドンは外国出身者が多い街だった。
　学生時代の昔話で恐縮だが、貧乏旅行をサポートする安価なホテルや、休日・深夜に営業しているレストランは、イスラム系か中国系の住民が多い地域に集中している。

　食いしん坊の私が記憶に遺す、ロンドンのグルメと言えばフィッシュ＆チップスを除けば、インド料理・中華料理・イスラム系のケバブ等々、殆どがエスニック料理である。


　そもそも世界に版図を拡げ、帝国主義の覇権を恣にした植民地国家の首都であり、異国民・異教徒が身近に暮らすことへの慣れが、歴史的に醸成されていることもあるだろう。




　振り返って、間もなく大統領候補が出揃う某大国。覇権を唱えようとも、所詮は建国240年そこそこの若い国である。
　我が日本。歴史は長いが、異民族との共存には不器用なほど慣れていない。

　一時、欧米列強に倣い植民地経営に奔ったが、その何たるかを全く理解せぬまま失敗。無謀な戦争に因り、その全てを手放すに至った。

　
　日本でヘイトスピーチを口にする者は、ロンドン市長選にどんな感想を抱くのか。

　彼らが口汚く罵る民族は、つい十数年前まで同国民だったのだが。
　日本が英国の如く植民地経営に成功していれば（それは保守派が涎を垂らすような理想状態であろうが）、敗戦によりスタートした現状よりも多くの外国人との共存を迫られただろうと思うのだが。