嗅覚

　　在京キー局・フジテレビが展開するニュースネットワークFNNが提供するニュース動画コンテンツから『高速バスにはねられ女性死亡　東北道SA』に心痛す。


　以前、弊サイトでは「スズキ・スペーシア」のCM映像表現についてオブジェクションを呈した。

　犠牲となった女性の様子は、事故を起こしたバス会社のコメントなので今後変わる可能性もあろうが、その通りだとすれば「女性の願いをかなえた軽」とやらを大型バスへ、不用意にしゃがみ込む子どもを中年女性へ置き換えたならば、シチュエーションがそっくり重なる。

　私の危機感が正しいことが証明された一方で、事故に因りかけがえの無い人命が喪われ、無念を禁じ得ない。


　ブログ記事としてアップするのと並行して、メーカーに対しても直接意見表明させていただいた。
　それが影響したわけでもないのだろうが、「スズキ・スペーシア」のCMは程なくして差し替えられたものの、今でもなお自動車メーカーのCMとしては、極めて不適切な映像表現であったと思っている。

　「スズキ・スペーシア」CMにも、この度の事故にも、共通しているのは「危険」に対する嗅覚の鈍さである。

　解けた靴紐が気に障るのは分かるが、アイドリング中ながらもエンジンが動き、微振動しているバス車体の死角へ、わざわざ潜り込んでいる。ちょっと冷静になれば、考えられない行為だ。

　危険自体は理解していながら、行動が結びついていない「迂闊さ」とも違うように思う。
　強いて似たような行動を挙げるなら、高層マンションで暮らす子どもたちが、高さに対する恐怖心を喪失して、転落事故を起こしてしまう「高所平気症」が相当するだろうか。


　誤解を招かぬよう願いたいが、犠牲となった女性個人を責めているのではない。
　世の中を俯瞰してみれば、デヴァイスに目と耳を奪われたまま、彷徨する者が多数いる。それを指摘する私とて、どこかでリスク認知に遺漏があるかもしれない。

　自戒の念も込め、改めて身の回りに潜む「危険」とは何か、洗い出しと分析が必要ではないかと考える。



　同時に、当事者となってしまったバスのドライヴァーの処分についても指摘しておきたい。
　ホーム上や踏切での不用意な行動で、通行人または旅客が列車と接触し死亡した事故の場合、列車運転士には何のお咎めも無い。

　恒常的に歩行者がいるが、しゃがんでいるとは想定し難い場所での事故で、ドライヴァーが厳しく処分されるとしたら、法的に公平性を欠くように感じるのは私だけではあるまい。

　犠牲者への補償は手篤くあるべきとしても、ドライヴァー個人への責任追及は寛大に願いたい。