値付

　老舗経済誌・週刊ダイヤモンドが運営する情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」の配信記事から『安宅さんに聞く「人口減でも日本は成長できる。G7並みは無茶じゃない」』に注目。

　かつて経済学を学んだ者として、かつ建設分野の現役エンジニアとして、面白く読ませていただいた。

　品質の高い製品を安価に供給することで、国際的な評価を獲てきた我が国経済の基本構造は、他の先進諸国に比して低い水準に抑制されてきた労働分配と、必要以上に長時間に亘る、或いは過度に労働集約的で非効率な生産体制が支えてきた、ということに尽きる。

　中段で「i-construction」の話題に触れているが、建設業(特に土木)はほぼ完全にドメスティックな産業分野であったがため、国際競争に曝されている他の産業よりも、更に効率化が遅れている。
　一部の超大型案件を除き、外国企業が参入してくる可能性は今なお限定的であるが、少子高齢化に伴う致命的な人手不足の進行、人材確保のため職場環境を大きく改善する(社会保険の完全加入／週休二日制の完全導入等々＝即ち、現時点では達成されていない)目的で、革命的な生産性向上が政策的に要求されている。


　価格勝負なら、より低賃金で生産が可能な国が次々出現すれば、コスト面での競争力は簡単に喪失してしまう。それでも明確な進路変更をせず、相も変わらずコストパフォーマンスを追い求め続け、一方でイノヴェーティヴな商品開発・他社との差別化を明確にして付加価値を高めるブランディングを疎かにしたことで、上昇圧力が続くコストの回収すら侭ならなくなり、無為に利益を削ってきた。
　その結果として非正規雇用が拡大し、労働力の再生産が立ち行かなくなるのと並行して、経済の縮小・デフレ傾向が進行、更に安定雇用が脅かされるという悪循環に陥った。



　最初からコスト＋利潤で値付けするのではなく、精度の高い顧客ニーズ把握と、緻密なブランディングで「幾らなら売れるか」という値付けが、人口減少で担い手が決定的に不足する経済を維持するためには、欠かせない。

　但し、「幾らなら売れるか」というポイントは移ろい易く、その水準が旧来の「コスト＋利潤」を常に上回るとは限らない。
　モーターの例で示されたように、枯れた技術に基づくプロダクトであっても、常に革新を続けなければコモディティー化した末に、コスト割れした価格でしか売れない可能性も十分にある。

　
　記事に登場する専門家両氏の認識および指摘が正しければ、日本経済の後進性・非効率性は即ち、生産力の余裕であり、潜在的な付加価値である。
　
　問題は、喪われた10年で日本人の心胆に染みこんだデフレ根性を、如何に叩き出し、イノヴェーションへ導くか。
　まずは生産性向上の恩恵を、働き方改革の推進に集中させて労働力の再生産を確実なものとし、担い手が不足する中でも経済が回るよう体制を整えた後に、官民を挙げて真剣に考えていく必要がある。