旧式

　業界紙「電氣新聞」のHPから、本日付け『増える送電線建設計画。しかしクレーンが調達できない可能性も～クレーンを確保せよ　送電用建機の課題』に注目。

　今月1～３日に連載された特集記事「クレーンを確保せよ　送電用建機の課題」のダイジェスト版。連載記事全文を読むには会員登録が必要なので、もしご興味がおありの方がいらしたら、ご一報いただきたい。
　電力会社が重宝していた特殊・軽量なクレーン装置が、需要減退に伴い次々廃盤となる中、現有機の寿命を如何に伸ばし、性能と安全性を維持していくかに苦悩する現場の様子が描かれている。

　全くの偶然なのだが、電力系とは無関係の発注者から鉄塔建設用のジブ・クレーン「HS-36」(日立建機製)の照会を受けていたところだった。何分にも特殊用途かつ古い機械なので、可動機の調達そのものが可能なのかの調査を進める中で、このコンテンツに巡り合った。
　ダイジェスト版ではIHI(旧・石川島播磨重工業)のクライミングクレーン・U-65の画像が貼付されているが、記事中の「傾斜地でも吊り運びができるジブクレーン」が該当し、連載記事本文では実際のメンテナンスの様子が紹介されていた。
　

　HS-36は斜面への設置に対応すべく、アウトリガは仰角方向へ展開が可能で、カウンタウェイトを兼ねるエンジンユニットも、旋回時に斜面上方と干渉しないよう、敢えて斜め後方へ高くリフトアップされている。
　吊トン数2.8ｔは、町場で見かける「ユニック車」でも2.9tのマシンが多数あるため一見小さいようだが、構造上半径12mまで2.8tの能力を発揮できる(ユニック車2.9tは最大でも4.1m。半径が広がれば不安定度も増すため、吊トン数は漸減する)。また吊トン数を3t未満に抑制することで、労働基準監督署の落成検査を省略できる(設置届の提出のみ)こともメリットとしてあげられる。
　分解・組立・輸送に関しては、自走できるラフターやトラッククレーンには劣るが、ほぼ低床平ボディの10t車1台に納まり、定置式としては機動性が極めて高い。そもそも道路なき斜面の現場に移動式のクレーンは進入できない。
　

　科学技術の進歩で、様々な製品が高度化していく中にあって、サイズや性能といったスペック、或いは購入価格やメンテナンス費用といったコストの面で「手頃」な製品が、製造・供給側の合理化で駆逐されて調達できなくなる経験は、建設分野に限らず誰もが経験していないか。

　例えばクルマだって、頼みもしないのに年々大型化し、装備が充実するのと並行して、価格もインフレしている。　
　その結果として、快適さや便利さを享受できる点は否定しないが、一方で狭い道の通行で傷付けやしないか肝を冷やしたり、納車以来一度も使っていない装備を見つけるにつけ、過去を振り返り「あの頃の方がコンパクトで、しかも安かったなぁ」と懐かしむ。

　一般消費者の場合は、単なる旧式へのノスタルジーで済ませられても、インフラ整備・維持管理の現場では、目の前で日々老朽化するマシンと、そのマシンを使わねばこなせない受注案件との鬩ぎ合いで、日々苦闘しているのである。


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