物語

　アメリカで創刊された男性向けファッション・ライフスタイル雑誌｢GQ｣の日本語版サイト配信記事から『購買意欲をかき立てるのは「データ」ではなく「ストーリー」』に注目。

　記事後半で、女性を口説くのに応用してみては……との提案がなされているが、適用範囲は恋愛だけに留まらない。




　NHKのディレクターとして活躍した後、在米国日本大使館政務班職員／上智大学教授／東京純心女子大学学長等を歴任した松尾弌之(まつおかずゆき)氏は、著作や出演番組でアメリカ大統領選における｢ストーリー｣の重要性を指摘している。

　今でもアメリカ人にとって｢佳き時代｣のイメージで語られるケネディ政権に関する｢若さ｣｢史上最年少｣「華麗なる一家」｢美しい妻｣「愛らしい子どもたち」等々のエピソードが典型だが、現職のオバマ大統領も｢奴隷としてアメリカに上陸し、搾取と差別に耐えた黒人の末裔が、初めてアメリカ大統領に就く｣というストーリーが組み上げられ、選挙キャンペーンを通じて有権者に受け容れられた時点で当選が確定していたと言っても過言ではない。
　逆に民主党・オバマと大統領の椅子を争った共和党のマケイン候補(1期目)およびロムニー候補(2期目)は、｢歴戦の勇者｣｢ビジネス界での成功者｣といった人物像を猛アピールしたものの、オバマを上回るストーリーを提供できなかったが故に落選した……ということになる。


　私の個人的予測でしかないが、次回(2016年)大統領選で語られるストーリーは、前々回の民主党候補指名レースに敗れオバマ政権1期目で国務長官を務めたヒラリー・クリントンと、共和党マケイン候補から初の女性副大統領候補に指名された前アラスカ州知事サラ・ペイリンがそれぞれ立候補し、｢私こそが初の女性大統領に就く｣になるのでは、と踏んでいる。


　我が国の選挙でも｢弔い合戦｣などという大時代なスローガンを掲げ、急死した前職の子弟や配偶者を当選させんとキャンペーンを張り議席が世襲されてしまう……なんて例が、アメリカから比べると遥かに情緒的・土着的かつスケールが小さいものの似たような選挙戦略として挙げられようか。



　マーケティングの分野では、やはり自動車業界、特に輸入車の広告が典型だろう。
　スペックの数字だけを比較したら、国産モデルの方が遥かに優秀。便利で使い勝手の良い装備だって充実している。

　それでもなお輸入車が売れるのは、各ブランドが提供する｢ストーリー｣を消費者が受け容れ、その｢ストーリー｣に対し価値を見出してお金を払っているからに他ならない。

　かく云う私も映画「ジュラシックパーク」で太古の世界を走り回るML(初代W163)に憧れて、初めて買った愛車からメルセデスにエントリーし、｢比類なき走破性｣｢各国の軍隊で採用される高い耐久性｣｢どこでも調達可能な平面ガラスしか用いない冗長性｣といったストーリーに中てられ、古いゲレンデに高い維持費を払って所有しているオーナーの一人である。