戦没

　全国紙・毎日新聞のニュースサイト配信記事から『戦没者２３０万人:兵士を「駒」扱い　愚劣な軍事指導者たち 半藤一利さんインタビュー』に注目。

　記事中の数字および分析が正確ならば、戦没者230万名のうち、130万人以上が戦わずして餓死および病死した計算になる。この数字は、鳥取県および島根県の総人口合計よりも多い。
　兵士として外地に赴いたのは男性だけ、しかも生産年齢人口に相当する世代なので、実際には鳥取・島根両県に山口県、或いは広島県を足さないと｢130万人以上の青年・壮年男性｣を集められない。その彼らが、無為に異国の土となってしまったのだ。


　仮に兵士一人一人の命と引換えに、敵を同数以上倒していたなら(というか、それが普通の｢戦争｣だと思うのだが)、日本の戦後はもっと違ったものになっていたかも知れない。
　大金を注ぎ込んで兵装を整え輸送船団を仕立て、その一方で僅かな食料を与えただけで大挙ジャングルに送りこみ、敵と交戦せぬまま飢えと病で消耗していくなど、もはや軍隊の体を成しておらず、国家権力による集団自殺の強要としか評価できない。

　
　損耗は兵士だけに留まらない。山陰2県の総人口、或いは中国地方の男性生産年齢人口の半分が、数年間のうちに消滅してしまったのだ。

　130万人の男たちが一生懸命に働いたら、この国のGDPはどれだけアップしていただろうか。
　130万人の男たちが英気を養い酒を呑み、家庭を築いて子を生したらどれだけ国内消費が喚起されだろうか。
　130万人の中には、きっと革命的な発明のアイデアや、誰も耳にしたことがない美しい旋律、人々を勇気づける物語を脳裏に秘めた天才もいたことだろう。


　植民地経営の何たるかを理解せぬまま版図を広げ、国際世論に立ち向かう知略なきまま実力行使に奔り、補給も作戦命令も届かぬまま身の丈を超える無謀な戦争を続けた果てに、この国はそれらを全て手放してしまったのだ。
　この損失は、恐らく今後100年経っても贖えない。


　
　天皇・皇后両陛下も参列された戦没者追悼式における安倍首相の式辞では、近隣諸国への侵略または反省云々に触れなかったようだ。なれば尚更、先の大戦がもたらした国民の苦難・国内の人的物的損害・未来に活かすべき教訓について理解を深める今日の｢敗戦(終戦ではない)の日｣であって欲しい。