高層

　まだ明けぬうちにコインパーキングのゲートをくぐり、0501 時の打刻が読める駐車券を握りしめ始発電車に乗る。
　都県境のメトロ乗換駅まで来てもなお、辺りは暗い。

　再び地下の闇に突入して30分余り、東京都心の地上区間に至り漸く明るくなってきた。


　しかし職場がある銀座の街には、まだ朝陽が届かない。
　並び立つビルの根元、シャッターで閉ざされた地下街入口、昨夜の盛大な宴が排出した多量のゴミに、闇夜の気配がしぶとく居残り、朝の到来を圧し戻そうとしているかのよう。

　明らかな寝不足と、癒しがたい蓄積疲労を抱えた肉体は、街の下層に澱む暗黒に足をとられ、歩みが遅くなる。次第に精神も蝕まれ始める。「もう嫌だ」「休ませて」





　三原橋交差点の赤信号で立ち止まる。
　汐留の方面に目をやると、高層ビルの上部にだけ朝陽が照っているのが見えた。
　あそこから望む朝の景色は、きっと最高だろう。

　誰よりも早く朝陽を浴びたいなら、ひたすら東の方向を目指すか、より高い場所へ行くしかない。

　私はカラスや野良猫のように、闇夜の残滓を喰らい、暗黒と戯れて生きているのではない。
　さぁ早くこここから抜け出して、高い所から朝陽を愉しめる暮らしに変えねば。


　青信号とともに再び歩みを進め、寒く暗い無人の職場に踏み込んだ。