凄腕

　全国紙・産経新聞が運営する関西版ニュースサイト「産経WEST」の配信記事から『【衝撃事件の核心】「目がイッた」ナイフ凶暴男を食い止めた銃弾〝凄腕ガンマン〟巡査部長、両足に４発すべて命中　ネットで称賛の声』に注目。

　弊ブログでは以前、凶暴な犬を制圧するに際し警官が3人がかりで13発も撃ち込んで、漸く射殺した事件を論じた。

　殺意を剥き出しにして刃物を振り回し、確実に制圧しなければ自らに危険が及ぶ一方、射殺してしまえば人権問題に発展しかねない人間相手。千葉県警の警察官が対峙した犬とは比べ物にならないほどプレッシャーが掛かる中、警告射撃を除き全て命中させたスキルそのものは、確かに驚嘆に値する。　

　では射撃技術に秀でた京都府警の警察官が、手放しで称賛に値するかと問われれば、個人的には首肯し兼ねる。


　装填されている5発の弾丸を撃ち尽くしてなお、薬物の効果で痛覚が麻痺するなどして敵の襲撃が止まなかったり、無傷の敵が突如出現した場合に、果たしてどう対処していたのか。

　居合わせた別の警察官の援護を期待するとしても、その持てるスキルが「犬1匹に13発」のレヴェルだったら大怪我を負い、あわや殉職していた可能性もある。

　高度な射撃の腕前を支える「冷静さ」とは別に、最後の1乃至2発は万已むを得ぬ場合、躊躇なく相手の急所へ撃ち込むべく残す「冷徹さ」も、犯罪の凶悪化が著しい昨今、必須であるように思う。

　弾丸を全て命中させることが、拳銃使用の目的ではない。狼藉を完全に制圧し、市民と自身の安全を護ることが最優先される。



　とは言え、日本の警察官が装備する拳銃の弾丸は5発。2発を残すとしたら、実質的に3発で犯罪者をノックアウトしなければならない。余計なプレッシャーが射撃スキルを鈍らせてしまうリスクもある。

　このまま治安の悪化に歯止めが掛からなければ、いよいよ日本の警察官も、装填数が多く弾倉の交換が容易なオートマチックや、サブマシンガンを装備しなければならなくなるのか。
　銃火器に頼る犯罪検挙とは別に、社会を根底から立て直す方策も進めていかなければ、日本の取柄だった「安全」はすっかり過去のものへ追いやられてしまうだろう。