
業界紙「建設通信新聞」の本日付一面記事から
『新労務単価 平均3.4%上昇/国交省 4年連続で前倒し改定』に注目。
国土交通省から先週金曜日にリリースされた「平成29年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(参考情報URL参照)を受けての記事。
業界人にとっては死活問題とも言える話題なのだが、建設業界とは無関係の方にとっては「なんじゃそら?」と思われるかもしれない。
簡単に解説すると、建設作業に従事する51の職種について、毎年10月もしくは9月の給与および過去1年間の賞与の支給実態調査を実施し、2017(平成29)年度の工事発注予定価格における労務費の日額(8時間当たり)を設定する。
歩掛(ぶがかり=単位作業当りに必要とされる標準的な機械や作業員の数)が変わらないとすれば、労務単価の上昇で即ち予定価格も上がり、工事を受注する側としては利益を出し易くなる。
昨年までの4年間は、ほぼ一本調子に上昇を続けており、建設労働者の不足を裏付ける一方で、東北・九州で相次いだ震災始めとする復興事業・東京オリンピック関連の施設整備・アベノミクスを推進する公共投資の順調な消化を支えるべく、政策的に労務費を上積みして建設労働従事者の確保を期してきた。
来年度に向けても、全体では5年連続で3.4%上昇しており、政策の方向性に変更は無いようにも見えるが、一部の職種の取り扱いについて、業界内部で少々厳しい反応が表立っている。
関東圏(茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨・長野)および近畿圏(福井・滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)の「特殊作業員」「普通作業員」「軽作業員」および「特殊運転手」「一般運転手」については、昨年より100円下げて決定されたからだ(ただし近畿圏の軽作業員はおよび和歌山の特殊・一般運転手は据置き)。
労務単価を決定・公表および積算に使用している発注官庁には、相当数の照会(或いは抗議?苦情?)が来ているらしい。
業界インサイダーである私の周辺でも、この問題でディスカッションを設けた。
分析①「実は人手不足は幻想?」
建設業界は受注が好調の余り、人手不足に追い込まれるほど活況を呈している……ばかりでもない。
建築分野では、相続税の課税強化に伴い個人所有の賃貸向け集合住宅などの受注が増えている一方、景気が足踏みしている影響からか、住居向けではない建築(店舗・倉庫・工場等)の着工は大幅に落ち込んでいる。
土木分野の中心をなす公共事業は、年度末を前に息切れ状態となっており、特に近畿を始めとする都市圏での落ち込みが著しい。
調査を実施した秋口に、瞬間風速的に人余りが生じて、賃金を下押ししたのではないか。
分析②「公共事業への新規参入組が低賃金だった?」
公共工事設計労務単価は、10月または9月時点で公共工事の現場に入っている作業員が調査対象となる。公共工事を受注する限りは、調査への協力を義務付けられており、元請のみならず一次下請~二次~三次~N次まで、全ての企業および個人事業主(いわゆる「一人親方」を含む)が賃金データの提示を求められる。
人手不足が深刻化する余り、背に腹は代えられず、これまで公共工事には参入できていなかった零細な業者がサンプルとして上がってきたため、給与水準が押し下げられたのではないか。
分析③「雇用のミスマッチ?」
作業員職種は特段何の資格も求められず、また運転手も免許を保持していれば、運輸業界など他業種から移りやすく、建設業界の中では比較的女性を見掛けることの多い職種でもある。
不足しているのは腕に覚えのある「職人」・有能な「技能労働者」であって、比較的簡易かつ単純な工程に従事する「作業員」ではない。
参入障壁の低い職種であるが故に、局所的な人余りが生じているのではないか。
分析④「国土交通省と財務省との妥協の産物?」
公共工事設計労務単価の決定に際しては、予算の出所である財務省との協議を経ると聞く。
国土交通省としては、公共事業の投資効果を高めるためにも、また建設業界をリードするためにも、総花的に労務単価を上げたかったものと推察する。事実、過去4年間はそうだった。
しかし財政健全化のため、可能な限り支出を抑制したい財務省の立場としては、公共事業費の膨張をもたらす労務費の上積みを黙って見過ごすわけにはいかない。
そこで作業員および運転手職種の賃金を、雇用人数の多い大都市に限定して下げることで、財務省は公共事業費の増大に歯止めを掛ける一方で、国土交通省は全職種の単純平均では今年も増加していますよ…とリリースすることができる。
財務省は「実」を取り、国土交通省は「名」を取った「妥協の産物」なのではないか。
私の個人的な見解としては、分析③および④の要因が複合的して、今回の結果に至ったものと考えている。
分析④については周辺情報から組み上げた想像であり、もしかしたら誤っているかもしれないが、③については実感がある。
このところの多忙で、まだ暗いうちから電車に乗って出勤しているが、その車内が明らかに汗臭い。
見回すと「あぁ作業員さんですね」という筋の人が数多く同乗し、そのうちの何人かが
異臭を発している。
職業差別の誹りを招きかねないのでフォローすると、サラリーマンでも学生でも、臭いヤツはいる。
ただ、そういった自己管理ができない手合いは、朝早く起きて出掛けることは稀で、遅刻ギリギリで焦るもっと後の時間帯で「異臭発生源」となっていることが多い。
きちんと毎日入浴していれば、衣服の洗濯がなされていれば、より防臭性の高いアイテムを購入できていれば、私を含め他の一般乗客が、異臭に顔を顰めたり、気分を害することは無くなるだろう。
結局のところ、底辺の作業員は不安定な雇用と低賃金に喘ぎ、今なお精神的な余裕を取り戻せぬまま最低限の生活に甘んじているように見える。
そして本来は作業員に支払われるべく上積みされた労務費の多くが、ゼネコンの利益に化けている……のだとしたら、公共事業が発揮すべき経済への波及効果を減殺するだけでなく、公金の無駄遣いとも見做されかねない。
分析④で指摘したように、財務省が切り込んでくるのも当然である。
作業員および運転手職種の賃金が伸び悩んでいる現状を、全て個人の責に帰するつもりはないが、工事を受注するゼネコンの段階までは流れてきている賃金の原資を、作業員・運転手諸氏がみすみす受け取り損ねていることもまた、認めなければならない。
努力を怠らず資格や技能を獲得していけば、作業員職種からスタートした人も、技能職種(「鉄筋工」「型枠工」「電工」等々)へ移行する。当然に賃金水準はアップする。
建設業従事者の実質賃金が拡大すれば、景気へ良い循環を起こし、公共事業の投資効果が高く保たれる。
作業員・運転手諸氏自らが、上昇傾向が続いてきた公共工事設計労務単価の恩恵を実感するためには、経歴や年齢を問わず不断にスキルアップを図ること、そして自らが公共の場で異臭の発生源となっていないか、早急に気付いて生活を改善することに尽きる。
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Posted at
2017/02/18 00:39:47