襟締

　信用情報提供大手・東京商工リサーチのサイトから、本日付のTSR速報（大型倒産情報・注目企業動向）『（株）＆・ＢＬＵＥ』に注目。


　概ね5月1日ないしはゴールデンウィーク明け(同7日)から、今年のクールビスおよび制服の夏服着用を始める企業・学校が多いことだろう。
　気の早いところは今週から移行期間を設定したようで、東京都心の大動脈・JR山手線の電車内では同じ学校の生徒乍ら、重厚な濃色の冬服と、軽快な淡色の夏服が混じって通学する光景が見られた。

　そんな頃を狙ってか狙わずしてか、ネクタイ販売をコアコンピタンスとしてきた企業の倒産が伝えられた。
　ネクタイ需要期が終わり、次の冬までの資金繰りに目処がつかず、当に力尽きた断末魔の叫び、或いは程なくネクタイを着用しなくなる世間に対し、企業経営者が呟く怨嗟の声が聞こえてきそうだ。


　学校・企業を問わず制服であれば、夏服も冬服も揃えねばならないのでクールビズの影響は限定的であろうし、暑さ対策・省エネが目的と言っても裸になるわけではないので、シャツやパンツはそれなりに売れる。
　しかし、かつてはサラリーマン諸氏がほぼ例外なく着用してきたネクタイだけは、夏季向けの商品展開や、代替の販路開拓に至らず、単に市場の大幅縮小という結果になってしまった。



　アパレルとはあまり関係の無い業界(＝建設関連)で禄を食む私であるが、教訓を汲み取れぬでもない。

　昨今よく使われる横文字「コアコンピタンス」と聴けば、何やら強大な競争力を保持していそうに感じるが、一つ間違えれば硬直した「モノカルチャー経済」に陥るリスクを負う。

　建設関連の契約は長期に亘るものが多く、日銭は期待できない。長い夏を凍えながら(！)過ごすネクタイ業界のように、竣工するまでは売り上げの全額を手にすることはできず、資金繰りに窮する場合も少なくない。

　そして何より、官主導で推し進められる「クールビズ」でネクタイ業界が困窮したように、いつなんどき公共投資が締め上げられて、建設業界が苦境に陥らないとも限らない。


　さりとて企業が複数の「コアコンピタンス」を手にする＝事業多角化は、既に多くの企業が手掛け、うち殆どが撤退・精算・売却、はたまた本業を巻き込んでの倒産など辛酸を嘗めてきた。
　これから更に少子・高齢化の進行、人口減少に因る社会・経済の縮小など、事業環境は日増しに厳しさを増す中、多角化を成功させるどころか、本業を維持していくことすら危うい。
　

　恒久的な生活の維持を期すなら、社会・経済情勢を右顧左眄し、政治・行政の動向に惑わされぬよう、個人レヴェルで不断のスキルアップ(泥を啜ってでもお金を稼ぐテクニック)と貯蓄(金銭や財産に限らず、智慧や健康、人間関係など換金不能な富を含む)に励む他、効果的な策は無いようである。


　来週からの平日は、ネクタイと上着を省略して身軽になった分、未来の私自身と家族を助けるかもしれない、知識と教養を溜め込めるよう精進したいと考えている。