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2019年07月21日

路下

路下  陸・海・空の乗りものに加えて、軍事ネタも豊富なニュース・コラムサイト「乗りものニュース」の配信記事から『壮大だった「広島の地下鉄」計画、なぜ頓挫したのか 「路面電車王国」の過去』に注目。

 私が社会人生活のキックオフを迎えた街・広島の路面電車に関する話題は、弊ブログでも度々扱っている。
 現在も密な路線網を維持する路面電車の側からではなく、路面電車の代替として計画された地下鉄建設の側から広島の公共交通に触れるコンテンツは、学生時代に交通経済学の論文執筆のため多数の文献に当たった者としても、珍しいと感じる。


 多くの地方都市と同様、広島に於いてもJR(旧国鉄)の駅は市街地中心部ではなく、やや離れた山沿いの場所にある。
 広島の地下鉄計画は、記事にある通り国鉄線との直通が計画されていたのだとすれば、郊外から広島駅・横川駅・西広島駅での路面電車乗換えを省略し、河口の中州に開けた中心地・紙屋町界隈へダイレクトにアクセスすることを主眼に据えたものと言える。
 しかし、記事で指摘する芸備線の電化や、横川駅北側から発着する可部線との接続問題以外にも、当時の可部線は自前の変電設備がない(山陽本線からの電力分配で、末端区間では電圧が著しく低下)・広電宮島線の軌間(現状の標準軌=1435mmでは、狭軌=1067mmのJR線は直通できない)および宮島口まで並走する山陽本線との競合の問題を解決しなければならない。

 ただ既存インフラとの接続は、運行しながら建設工事を進める際の安全性確保・建設費用の捻出・各機関の負担割合の問題で、技術的な困難は少ない。
 やはり最大の難関は、極めて軟弱な地盤である三角州地帯に地下鉄を建設する工事そのものであったろう。


 既に地下鉄建設が放棄されて以降の工事であるが、記事でも紹介されている紙屋町地下街「シャレオ」の建設工事において、現場の地下水位は地表から僅かに1.5m、また地下30m付近には被圧地下水が流れている。
 湧水で掘削そのものが困難なだけでなく、湧水を抑えて掘削を進められたとしても、次に被圧された地下水により掘削底面が膨れ上がり(=盤ぶくれ)、対策が遅れれば地下水突出による水没・土留めの崩壊が起こる。

 「シャレオ」の工事では、そのような最悪の事態に至らぬまま竣工を見ているが、周辺街路では地下水の流出(掘削現場では地下水が湧き出るボイリングまたはヒービングが起きていたか?)が原因と思われる、酷い道路面の沈下が見られた

 紙屋町交差点から、更に海寄りに位置する地下工事現場でも、困難に見舞われた。
 広島駅南口から南西方向に伸びる「駅前通り」が、市街地を東西に貫く「平和大通り」と交差するポイントに穿たれた「田中町トンネル」の現場では、着工後に地番沈下→周辺建築物への変状発生の懸念が生じことから入念な止水・地盤改良工事が追加された。
 工期が大幅延長されて開通が遅れたのみならず、当初69億円と見込まれた工費は最終的に141億円と、2倍以上に膨れ上がった。

 因みに「シャレオ」の工事も追加費用が発生し、当初想定の1.2倍となっている。なんだ2割増し程度で済んだのか……と思う勿れ。当初390億円は最終的に480億円となり、増加額としては田中町トンネルよりも大きい。


 技術的には、日本のゼネコンはもっと過酷な軟弱地盤である、シンガポール湾岸部で地下鉄工事を受注・竣工させており、不可能ではない。
 しかし、膨大なコストとの見合いで、路面電車を廃止してまで投資するべきインフラであったと言い切れるか。
 イニシャルコストだけではない。竣工直後から始まる、塩分混じりの地下水で加速度的に進むトンネルの劣化を喰い止める維持費と、地上作業で低廉に済む路面電車の維持費との比較も、検討しなければならない。
   
 やはり広島にとって路面電車網の存続が、最善の選択であったことに疑いの余地はない。



 とは言え、路面電車では速達性の面で地下鉄に劣る。
 広島の路面電車は30mもの長編成の車輌を採用しており、稀に交差点通過のタイミングを誤り、交通を塞いでしまうこともある。
 
 道路からダイレクトに乗車できる利便性を維持しつつ、速達性や道路交通の円滑を向上させるのは、現状のままでは難しい。
 
 個人的には、米・ボストンやオーストリア・ウィーンの路面電車に見られるように、開削工法で施工した浅い地下空間を築造し、そこへ路面電車を通す「路下電車」が良いのでは、と考える。
 つまり広島で言えば、紙屋町交差点の地上に路面電車と安全地帯を残すのではなく、軌道の方を現在の「シャレオ」の空間に通すのである。
 地上の歩道から乗車口へ、エスカレーター1本で降りられるのであれば、横断歩道を渡って安全地帯へアクセスするのと比べ、利便性の面で然程の差は無い。

 広島市街地を貫く河川を潜り、地下深い場所を通す本格的な地下鉄建設よりも、総工費を削減できるだけでなく、土木技術の進歩に伴い地下水位が高く軟弱な地盤に、安全かつ低コストで地下空間を築造することも可能になっている。

 これから紙屋町交差点および「シャレオ」の構造を変えるのは無理だろうが、どこかの街で「路下電車」を実現して欲しいものである。



ブログ一覧 | 鉄道 | 日記
Posted at 2019/07/28 14:41:44

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