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2021年06月26日

上町

上町  在京キー局・テレビ朝日のニュース動画サイト「テレ朝news」の配信動画から『大阪 住宅2棟が崖下崩壊 さらなる倒壊の危険も…』に注目。

 極めてショッキングな映像に、各位驚かれたことだろう。
 私自身もその一人であるが、建設エンジニアの立場で冷静に現場を眺めてみると、事故に至る”必然”が明白に見えてくる。


 現場は、西成区と阿倍野区の境界にあたり、崖上から東(山側)が阿倍野区、崖を含む西(海側)が西成区となっている。
 この崖は、北端は大阪城・南端は住吉大社へ至るまで続く細長い「上町台地」の縁で、縄文時代のに大きく海進した際は大阪湾および河内湾(後に湖沼化し、古墳時代前後に干拓され消滅)に挟まれた半島となっており、まさに海岸線として波に洗われていたところである。
 実際に事故が起きた現場は、冒頭画像の「聖天山(公園)」のやや北側にあたる。

 この辺りの上町台地は潤沢な地下水を湛えていて、現場となった崖からは恒常的に大量の湧水があり、崖下の空き地には湿地に生える葦やガマが群生していたと伝わる。
 その状況をレポートした「大阪高低差学会」のコンテンツには、今回の崩落現場を5年前に訪れた際の画像が掲示されている(参考情報URL参照)。


 崖下では老人福祉施設の新築工事が進められていて、基礎構築のための掘削工事の最中であったようだ。
 崩落した住宅を支えていた擁壁は、強度計算がされていない古い石積で、材質はかなり風化が進んだ花崗岩質か、屑石など雑多な素材をコンクリートで固めて製造された強度不明の「ガンタ」のように見える。
 また高さも目測でしかないが、現在法的に認められている5mを超えていて、かつ近接して同じ構造の擁壁が2段重なっている。

 崖下の掘削工事は、崩れた住宅から2段下の敷地で行われていたが、これも目測で1.5~2m程度掘り下げている。


 事故直前における住民の「水が出ている」という通報からして、地下水の影響が最も有力な要因として挙げられる。梅雨時で降水量が多いと、地表近くの地下水量は増加する。
 また、老人福祉施設の新築工事を手掛ける建設業者は、擁壁の緩みを認識しており、本工事を中断して擁壁の補強工事を施工した上で再開したとされる。
 ここからは予測でしかないが、単純に崖下の掘削箇所山側が梅雨で増加した地下水の影響で崩落し、連鎖して上段の擁壁が滑るように崩れたか、薬液やモルタル注入などで擁壁を補強した結果、地下水の通り道が塞がれて擁壁の裏側で滞留し水圧が上昇して崩れたものと考える。

 

 結果的に現場作業員・周辺住民に死傷者が出なかったが、通報が遅れれば重大な労働災害・第三者災害に直結していた。
 湧水の多いエリアで掘削工事を行う場合は、地下水の動向に細心の注意を払い、その処理を万全にしなければならない。
 地下水は、ただ抜けばいいというものではなく、むやみに汲み出してしまうと崖上側で地盤沈下が発生する危険がある。

 掘削箇所や背面地山の崩落を防ぐべく、鋼矢板を打ち込んで山留する・頭部に受圧板を装着したロックボルト(鉄筋の一種)で擁壁そのものを補強する(但し、崖上側の道路部分までは打ち込めないので、摩擦を発生させる挿入長さを稼げず効果は限定的か)といった対策が検討されるべきだった。
 ただ、現地は住宅が密集するエリアで、大型重機の搬入が極めて困難であり、対策工事に際しては能力の高い小型機械(当然コストも高い)を用いるメソッドの採用が必須だろう。
 加えて現場で湧出した地下水の処理に際しては、施工業者が下水道料金を負担しなければならず、湧水量が多い現場で工期が伸びれば請求額も莫大になる。


 直接的な原因解析と併せて、よもや老人福祉施設新築工事の安全対策に不備がなかったか、過度なコスト削減圧力に晒されていなかったか、検証を進めてもらいたい。



※数年後の技術士2次試験で、本事故の状況に近似のシチュエーションを設定した設問が出題されるかもしれない。
 受験を志す方は真摯に教訓を汲み取りつつ、事故発生の要因及び対策工事についてまとめておくと、きっと良い結果が得られる……と期待したい。





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