愚悪

　スキャンダル報道で世間を騒がせる「週刊文春」および保守系月刊誌「文藝春秋」の版元が運営する情報サイト「文春オンライン」の配信記事から『「コロナはエボラとエイズを混ぜた人工ウイルス」タマホーム社長の社内向け動画』を叱る。

　
　私が取得している「技術士」には、「建設部門」が設定されているが、「建築部門」もしくは「建設部門」内に建築関連の専門分野は設定されていない。
　建築については「建築士」が、科学技術の発展に責任を負う「技術士」に相当するプロフェッショナルエンジニアであり、相応の社会的責任と倫理感を以て職務に当たっている。
　
　「建築」もまた、構造力学・材料工学・都市工学・環境工学・人間工学・衛生工学・気象学その他諸々の科学の集合体であり、怪しげな風説や非科学的な迷信が入り込む余地のない、極めて高度に知的かつ文明的な活動の一つである。


　冒頭記事において、恥ずかしげもなく愚悪な珍説を並べ立てる社長が率いる某社にも、同社の本業である「建築」を支えるべく、1級・2級合わせて500名を超える建築士が所属している。

　「ワクチンを接種した者は処分」「エボラ＋エイズ＝新型コロナ」などという荒唐無稽かつ非科学的・反社会的とも云える社長の主張は、「建築」の本質および「建築士」に課された技術者倫理、そしてなにより株式上場まで果たしている企業の社会的責任に照らして、明らかに相容れない。


　企業活動と技術者倫理が相克する場合、技術者は公共の福祉に資する選択をしなければならない。
　同社から、責任あるエンジニアの退職・他社移籍が続出しても当然の事態である。

　社会の安定・継続性に配慮した経済活動をサポートするべき金融機関の自主的判断として、同社への融資が引き揚げられても致し方あるまい。
　同様の理由で、マスコミから企業広告の出稿を差し止められることも想定される。

　そして最も強烈な制裁は、良識ある施主が同社への依頼を一切選択しないことに尽きる。


　この先、もし同社が破綻したとしても、「コロナ関連倒産」と扱うべきではない。
　あくまで、愚悪にして独善的な経営者の判断ミスに因る倒産、に他ならない。