midnightbluelynxのブログ一覧

　渋谷駅コンコースに展示されている岡本太郎制作の巨大壁画「明日の神話」に、落書きがされたという、産経新聞の記事に注目。


　記事を読み進めてみると、壁画そのものに手を加え毀損したわけではなく、右隅部にベニヤ板をベースにして「追筆」したらしい。
　PC画面でみる遠景画像では、何ら違和感なく画が連続しているように見え、落書きと切り捨てるには惜しいクオリティである。作品本体保護のための板を固定する金具部分は欠き取りがしてあって、工作の面でもなかなか芸が細かい。事前に採寸するなど、周到に準備したに違いない。

　ネット上では、｢主犯｣と思しき芸術集団が動画をアップしているので、やはり確信犯ということなのだろう。


　「明日の神話」は、ビキニ環礁の水爆実験で被爆した第五福竜丸事件をモチーフに、水爆が炸裂する瞬間を描いたものとされる。「追筆」された画は、福島第一原子力発電所らしき建屋から、どす黒いきのこ雲が立ち上る構成。当然タッチは岡本太郎風。　


　記事でインタビューに答える岡本太郎記念館々長は怒るでもなく、「ほめるつもりはないが理解しやすい」と話す。



　一連の原子力災害で生じた放射線の影響を心配する声に対し、かつて大気圏内核実験が行われていた頃は、もっと放射線量も放射性物質の降下量も多かったとコメントしていた科学者がいた。
　実際問題、その時代に生きていた世代から生まれた私たちが、ごく普通に生活できているので疫学的には「問題ない」ということなのだろうが、ではビキニ実験を含め核爆発し放題の状態がまともなはずもなく、基準をそこに置くのは市民感覚としておかしい。

　ただ、遠くは広島･長崎、近くは米ソ冷戦の頃に終わった出来事だと思われていた(私に言わせると勘違いしていた)、｢核の恐怖｣が再びゾンビの如く蘇ったことは間違いない。


　｢明日の神話｣は、未来のことでも、ましてや遠い過去のことでもなく、「現在進行中の神話」なのだ。


　今なお耀きを失わぬ岡本太郎の芸術性を讃えつつ、「追筆」されたテーマが早く色褪せ滅び去るよう、願って止まない。