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2013年11月19日 イイね!

集電

集電 読売新聞のニュースサイト「YOMIURI ONLINE」の配信記事『架線に布団!パンタグラフ切り離しセーフ…JR』に注目。

 重い敷布団が髙く空中を飛んで電車線に引っ掛かるとも思えないので、軽い羽根布団かと推測されるが、それにしても迷惑な話である。



 記事を読まれた方は、運転士のファインプレーで被害を免れたかのように思われたかも知れないが、緊急事態に遭遇して乗務員(運転士・車掌)がパンタグラフを降下すること自体は、手順に定められた操作であり何ら珍しいことではない。運転台には一斉にパンタグラフを畳むスイッチ(「パンタ下(げ)」スイッチ)が設置されていて、操作はそれを押すだけ。

 今回のように飛来物を巻き込み架線および集電装置(=パンタグラフ)が損傷するのを防ぐ他、踏切事故などでも暴走や感電に因る二次災害を防ぐ目的で操作される。


 乗務員の生存空間を確保し衝撃を吸収する強化構造の運転台・クラッシャブルゾーンの採用、そして過積載ダンプの取締り強化のきっかけとなった同じくJR成田線・大菅踏切事故では、救出後に死亡した運転士が衝突を覚悟し、咄嗟にパンタグラフを下げる操作を実行したことが確認されている。

 強い責任感・使命感に基づき行動し職務に殉じたJR運転士を悼むと同時に、安易に過積載を引き受け重大事故を起こしたダンプ運転手および荷主(砕石場)に対し、腹の底から怒りを覚えたものだ。




 パンタグラフの操作で真にファインプレーと言えるのが、1953(昭和28)年6月28日に発生した、関門鉄道トンネル(当時は新幹線の「新関門トンネル」が穿たれる前なので、当然在来線トンネル)の水没事故に際し、トンネル内にとり残された山陽本線下り普通327列車の脱出劇である。

 6月25日から西日本一帯で降り続いた雨は28日になって更に強い土砂降りとなり、まず門司駅近くの山で土砂崩れが発生。せき止められた川の水が濁流となって関門鉄道トンネルの九州側坑口に押し寄せた。
 
 関門トンネルを九州方面に向かっていたEF10形電気機関車牽引の327レ(乗客およそ800名)は、トンネル坑口を塞ぐように流れ落ちる濁流のため一旦停止。トンネルの坑口上部から大量の水が流れ落ちる中、車輌のパンタグラフが通過すると架線とショートし立ち往生する可能性が高い。さりとてこのまま本坑の主要部が海面下にある海底トンネル内に列車が留まっていては、坑口からの浸水を喰いとめる作業に取り掛かれず、為す術もないまま800名の乗客と共に水没してしまう。



 そこで乗務員は一計を案じた。
 電気機関車(全長17.5m)の前後に2つ装備されているパンタグラフのうち、前方の一つを畳む。極低速で走行し、機関車の前部が多量の水が流れ落ちる坑口を抜けたら前部のパンタグラフを上げ、後部のパンタグラフを下げる。こうすればショートを防げるのではないか……と考えたのだ。

 しかし実際には、トンネル坑口部分は海面下から地上に向かって急な上り坂になっており、速度の維持が難しい。スピードを上げ過ぎると、前後のパンタグラフを上げ下げする時間的余裕が無くなる。逆に下がり過ぎて一旦止まってしまうと、大雨で濡れたレールは滑り易く、またパンタグラフ1台では大電流が流れ架線を焼き切るリスクが生じ(だから直流電気機関車はパンタグラフを2台上げる。交流電気機関車は高電圧低電流なのでパンタグラフ1台でも焼き切れることはない)、再起動はほぼ絶望的。

 こんなにも困難なプランだったが他に妙案はなく、乗務員は絶妙な連係で全ての手順をこなし、327レは無事門司駅へと滑り込んだ。


 水没した関門トンネルの復旧工事は、排水作業および設備の修理に翌7月中旬まで要し、その間本州-九州を結ぶ鉄道便が全面ストップするという大きな混乱をもたらしたが、327レ乗務員の機転に依り死者・負傷者はゼロ。よってこの顛末は「鉄道事故」としては記録されていない。


 私はこのエピソード、「失敗学」の分野で"最も成功した失敗"との呼び声高い「アポロ13号」の事故と同じか、それ以上の価値がある危機回避の事例だと思っているのだが、それは褒めすぎだろうか。









Posted at 2013/11/19 22:40:04 | コメント(1) | トラックバック(0) | 鉄道 | 日記

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