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　休暇で席を空けている後輩のデスクで、突然電話が鳴った。
　出てみると、受付窓口からの内線電話。約束はしていなかったのだが、依頼されていた見積り書を持参したというメーカーさんの営業担当者だった。

　タイミング悪く依頼主が休んでいるとは言え、折角お見えいただいたのに無下に追い返すわけにもいかない。
　しかもそのメーカーさんは、私が前々任者としてお世話になっていた企業だった。
　電話を受けたのも何かの縁。名刺を持って受付へ急いだ。



　そのメーカーさんは、不況の嵐と建設業界の冷え込みで傷めつけられ、保有していた優良資産を処分して運転資金に回すなど奮闘を続けたものの、数年前に敢え無く倒産の憂き目に。
　私が担当していたのはちょうど倒産の直前で、事務所にお邪魔しても経費節減の徹底で室内は薄暗く、相手をしていただいた営業担当者にも覇気が感じられなかった。

　来訪された営業担当者は、とても明るくハキハキと喋る方で、真面目な仕事の話で あっても楽しそうな表情を作られる。もう担当から離れて暫く経つし、正直言ってあまり現在携わっている業務とは関係のない内容なのだが、そんな話題を聴いている私にも、仕事の喜び・楽しさが伝わってくる。

　「大変失礼なことを申し上げるようで恐縮ですが」と前置きした上で、倒産前に訪問したこと・その時感じた印象を率直にお伝えしたところ、「立ち直って、ここまで元気になりました！」と笑っていた。
　併せて役員も社員も倒産前の陣容で営業を継続している、と付け加えた。


　私自身、指折り数えて何社かの倒産を目の当たりにしてきた。
　ほぼ全てが再生されることなく清算され、お世話になった方々の音信はそれっきり途絶えたままだ。

　しかし、何か一つでも誇れるものを持つ企業は、どんな困難に見舞われても必ず再生する。
　自ら会社を見切って出ていった人が皆無ではないだろうが、それでも整理解雇をせず、再生後を見越し雇用を維持し続けた企業が復活しないわけがない。


　エレベーターホールでお見送りを申し上げた私の胸中で、読後感の良い企業小説、または納得のハッピーエンドを迎えた大作映画を愉しんだ直後のような満足感が、静かに熱を帯びていた。