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　全国紙・毎日新聞が運営するニュースサイト「mainichi.jp」の配信記事から『ノーベル賞　大隅良典氏に医学生理学賞　基礎研究、空洞化とめる　妻と笑顔の会見』に感銘す。
　

　大隅先生は、即座に産業のイノヴェーションや新薬開発につながる応用研究・実用化研究に偏重する現状をして、「役に立つという言葉は魔物」と仰った。



　いつ何の役に立つのかは判り兼ねる基礎研究が、科学界に肥沃な土壌を形成してこそ、ノーベル賞を始めとする穣かな収獲がある。
　皆が「役に立つ」ことばかりを追い求めていては、文明化以前の人類に不安定な生活を強いた焼畑農業、或いは狩猟採取の原始的な生活と、レヴェルにおいて大差がない。

　まさに人類を絶望の袋小路に追い込み、進歩の邪魔をする「魔物」である。


　科学の分野だけではない。凡そ全ての人間活動に、大隅先生の警鐘は活かされるべきだ。

　有力選手を掻き集めることが、即ち戦力強化ではない。
　株主利益を追い求めることが、即ち企業価値ではない。
　親日国を選別し交流を深めるのが、即ち外交ではない。

　
　我々は日常的かつ無意識に、「有力選手」「株主利益」「親日的」に代表される「役に立つもの」を追い求め、引き換えに物事の本質を見失っていないだろうか。
　子孫たちも同様の恩恵を得られるよう、社会・経済・政治・文化・環境・芸術・そして科学の持続可能性に、慎重かつ十分な配慮していると胸を張れるだろうか。


　ノーベル賞の栄誉は、もちろん大きな成果に対する称賛であり、一つの「ゴール」だと言える。
　一方で大隅先生にとっても、受賞を喜ぶ我々にとっても、直面する課題、または人類の進歩を阻害する「魔物」に対峙し、新たな切り口で闘いを挑むことを求められる「スタート」の号砲なのだと、理解する必要があるように思う。