
我らがゲレンデバーゲンの初代モデル「W460」がジュネーブショウでデビューしたのが1979年3月のこと。
その半年後、同じ年の9月に発売された1枚のアルバムが空前の「テクノブーム」を巻き起こす。
「YMO」こと「イエローマジックオーケストラ」がリリースしたアルバム「ソリッド・ステイト・サバイバー」。
特に、その中に収録された「雷電/ライディーン」は、イエローマジックオーケストラの代表曲となっただけでなく、私を含めて当時子ども~若者だった人の記憶に深く刻み込まれた「名曲」となった。
天才にして東京芸術大学マスター出身の「教授」:坂本龍一
マシンと聴きまごうほど精緻にして美しいリズムを刻むドラマー:高橋幸宏
フォーク・ロック・エスニックからゲーム音楽まで多々名曲を生み出す巨匠:細野晴臣
「YMO」結成前から、そして「YMO散開」(解散ではない)の後も、それぞれが独創的・天才的・感動的・・・・・と様々形容していい名曲を生み出しているアーティスト。それが3人まとまって活動していたわけだから、名曲が生まれないはずがない。
しかし、私を含め「YMO」ファンが抱く期待が余りに過大で、それが3人の重荷になってしまった結果「YMO」は散開(重ねて、「解散」ではない)、石の下で深く永い眠りに就いた。
その後、×YMO=ノットワイエムオー、HUS=ヒューマン・オーディオ・スポンジ、HUSYMO=ハシモ等の名義で一時的に活動再開し、ファンを喜ばせているのは周知の通り。
「YMO」の各アルバムは、活動当時はアナログ版で発売されていたが、散開後爆発的に普及したコンパクトディスク=CDにもコンバートされ、順次CDアルバムとして発売された。
私が中高生の頃は、当然CDプレーヤーはあったが、コンパクトカセット(いわゆるカセットテープ)もまだまだ現役。せっせとレンタルショップで「YMO」のCDを借りて、カセットテープにダビングしコレクションしたものだ。
今ならデジタルデータで保存するか、ダビングするにしてもCD-Rにコピーするだろうが、当時はまだCD-Rが実用化されておらず、ダビングといえばカセットテープだった。
「YMO」散開後も、メンバーそれぞれがリリースするソロ作品が私たちを楽しませる一方で、「YMO」の人気は衰えることなく光輝いていた。
アナログレコードのCD化は程なくして完了。しかし「YMO」としての活動をしていない以上新曲は出てこないわけで、需要は旺盛なのに供給ができないという、埋め難いギャップが生じてしまった。
そこでレコード会社が思いついたのが、「未発表音源付きベスト盤」発売だった。
ベスト盤としてはメンバーが直接的に深く関わり、YMOを「封印しましたよ」という意思をタイトルで示したアルバム「シールド」があり、収録曲・構成・ジャケットデザインおよび内容のどれをとっても最高のベスト盤だ(と私は思う)が、その後も定期的にベスト盤が発表され続けた。
当然収録曲は概ねダブっており、単なる「再プレス」では幾らファンといえども誰も買わない。そこで1~数曲の「未発表音源」「別テイク」「リミックスバージョン」を収録してリリースしたのだ。
熱心なファンとしては、当然聴きたいしコレクションもしたい。そんなファン心理に付け込むレコード会社(音楽出版社)に対して、「マルチ紛い商法」「原野商法」等々と同じ文脈で「YMO商法」ではないかという批判が挙がった。
坂本・高橋・細野のメンバー3人も、既に「YMO」から離れていたとは言え、この状況に心を痛めていたようだ。3人の連名で特別にサイトを開設して、「過去の音源が再発されることで新たにぼくたちの音楽に出会う方がいれば大変嬉しい」としながらも、
「ごめんなさい」
「ぼくたちの意図しない商品が世に出ている」
「契約上どうにもならないが、ファンの皆さんは商品を見極める目を持って」
とコメント。レコード会社・出版社の姿勢を痛烈に批判するとともに、本人達の与り知らぬ問題ながら、ファンを慮って謝罪までしている(参考URL)。
ファンから批判され、アーティスト自身も困惑し謝罪にまで追い込まれる、という状況は、どう贔屓目に見てもまともな状態ではない。
先ごろ、我らが「ゲレンデバーゲン」の2013年バージョンの外観写真が発表された。
ただしGクラスに関するダイムラーの公式発表ではない。
「carview」の記事に拠れば、2012年モデルのGLK公式写真の背景に写っているGクラスが、明らかに現行モデルと異なるため、これが2013年モデルではないかとしている。
別モデルとはいえ自社製品の背後に敢えて登場させているのだから、ここから大きく仕様変更することも考え難い。結局2013年モデルもフルチェンジは見送られ、「一部改良」でリリースされることになりそうだ。
外観写真しかないので搭載エンジン云々や、そこから導き出される動力性能のスペック、内装の変更点は不明だが、LEDと思しきデイライトがメイン前照灯下に装着され、ドアミラーの意匠が他モデルに合わせてアップデートされている。
基本的な形を変えずに33年間作り続けられているのはご存知の通り。34年間生産され続けた旧東ドイツ製乗用車「トラバント」と、もう間もなく肩を並べる。
歴代「メルセデス」はもちろん自動車業界全体を見回しても、これほど長期間生産されてきたモデルは希少だ
ただしデティールに拘って各年式を追ってみると、変更されている部分は決して少なくない。
ゲレンデバーゲンが受けてきた外観上の変更点を、フルタイム4WD化されたW463(1990~)に限定しても、
●スペアタイヤカバーの金属製ケース化(元はナイロンカバー)
●スペアタイヤカバーのデザイン変更(文字・マーク表記の改廃)
●バンパー同色化
●フロントターンシグナルのクリヤ化
●バンパーの意匠変更(オイルクーラー移設)
●ターンシグナル内蔵のドアミラー
●リヤ灯火の意匠変更
●フォグランプの意匠変更
●ヘッドライトのバイキセノン化
●フロントグリルの意匠変更(3本フィンスタイル)
●ホイールデザインの変更
●補助ミラー装着(日本仕様のみ)
等が挙げられる。更に2013年モデルで上記の変更が加えられるようだが、これらは総て、基本構造の変更を伴わない「マイナーチェンジ」。
開発費を投じてゼロベースから見直したわけではないので、極めて口の悪い言い方をすれば、前段「YMO商法」並に狡猾な商売と言えなくも無い。
ゲレンデバーゲンの場合は、さすがに高価だから毎年買い換える、またはコレクション用に買い増すようなオーナーは、アラブの大金持ちでもない限り稀少だろうが、新モデル発売に合わせて新仕様のアフターパーツが数多く発売されるので、現行オーナーも無関係・無関心ではいられない。
私は、現在保有しているカブリオの仕様に満足していて、かつ一番格好いいと思っているので心動かされない(単に金が無い、とは言わない<笑>)が、最新・最高の仕様を追い求めるリッチなオーナーは、最新仕様にアップデートしようとパーツを買い揃え取付け依頼するに違いない。結果、アフターパーツのマーケットではそれなりに大きな金が動くはずだ。
YMOのCDにしても、ゲレンデバーゲンの「マイナーチェンジ」にしても、オーナー・コレクターの欲求に応え、市場を活性化できるのなら結構なことだ。
一定の需要があるゲレンデのことだから、2013年モデルもそれなりのセールスを達成することだろう。一方で最新のゲレンデバーゲンが、総てのオーナーにとって必ずしも「格好いい」とは限らない。私の場合はLEDデイライトは余計だと思っているし、他のオーナーさんでも、例えば「新型が欲しいけど、補助ミラーは付けて欲しくない」とか、「ライトは明るいプロジェクタータイプが欲しいけど、リヤ灯火のデザインが嫌い」といった好みがあることと思う。
最新式~旧式まで、各年式の仕様に沿ったアフターパーツが豊富に出回っていれば、新型と旧型の「いいとこ取り」をして自分の好きなように仕様を変更でき、オーナーは支払った金額以上に満足な「ゲレンデ・ライフ」を愉しめる。
年式を問わずオーナーの満足度が高ければ、中古車市場が安定し新車販売にも好影響を与える。長期保有する過程で様々手を掛ける機会が増えれば、アフターパーツ供給元や取付作業をするショップにも恩恵が及び、新製品開発やサービスの向上が期待できる。良いこと尽くめだ。
しかしコレクターから不満が出たり、当事者が言い訳しなければならないような「CD発売」「マイナーチェンジ」なら、「本当のベスト版まで待とうか」または「どうせ来年には新型出るし」といった雰囲気が醸成され、市場は縮小スパイラルに堕ちていく。これでは、供給側も需要側も共に不幸だ。
新型ゲレンデの発売が、批判的な意味合いで「ゲレンデ商法」などと揶揄されぬよう、ダイムラーには心して商売して欲しい。