クライブ・カッスラー 『大追跡』 (2007)
原題『THE CHASE』
海洋冒険スリラーを得意とし、多くのシリーズを持つベテランが放つ一味違った新シリーズ。
……って書いてあったw
恥ずかしながらワタクシは本書が初めて。
舞台はフロンティア時代の雰囲気を色濃く残す二十世紀初頭のアメリカ西部。
連続銀行強盗殺人犯と、それを追う探偵の “追跡” 劇。
当時の交通網の主役だった鉄道と、黎明期の自動車やバイクが “最新メカ” として登場。
それらを駆使した強盗犯の逃走方法はどれも華麗で正に知能犯。
主人公の探偵と、宿敵となる “強盗処刑人” の両方が金持ち設定というのがなんだかなぁと思いつつも、そうでもしなきゃこの時代に大陸の西半分を飛び回る物語なんてできんわな。( ̄▽ ̄;)
文章力は当然として、当時の文化風俗風景や、実在の人物を登場させたり、実際にあった大地震を絡めたり、さすがベテランの構成力。
タイトルにもなっている “追跡劇” は作中に2回ありますが、メインとなる2回目のそれは蒸気機関車同士のBAXOW劇(笑)、手に汗握るスピード感で大興奮。
非常に上質の冒険小説。
カミラ・グレーベ&ポール・レアンダ・エングストレーム 『サンクトペテルブルクから来た指揮者』 (2013)
現代ロシア(2003年)を舞台にした金融サスペンス。
だけど著者はスウェーデン人。主人公もスウェーデン人。
一部の富裕層が好景気を謳歌し、金融業界が華々しく賑わう一方、民族紛争や犯罪組織の暗躍、監視活動や情報戦など内外共に政治のパワーゲームが一般市民の生活にも影を落とす。
政治と経済の駆け引きが熾烈だった時勢。
作中では実名は出さず単に 「大統領」 としか呼ばれていないが、当時プーチンが実際に行っていた新興財閥潰しをモチーフに、どこまで本当なんだかどこまでフィクションなんだかな、ロシア経済の暗部を抉る作品。
「え?そいつまで退場しちゃうの?」って思うくらい、人死にすぎ(爆)。
そして、タイトルに入ってる「指揮者」、ほぼ意味無し(爆)。
人死にすぎなせいで選択肢が減って、伏線があまり隠れてない感はあり。ミステリとしてはもう一息。
資本主義化した自由市場に、その実は政治的な介入があり、時にそれは非常に強硬な手段に訴える。
元共産圏の国ならどこでも同じようなことは今もやってるだろうし、日本も形は違えど無縁ではないよなぁ。
スティーヴン・キング 『ミスト』 (1985)
数々の映像化作品を誇る「ホラーの帝王」と呼ばれる著者の短編集。
と言いつつ、タイトル作『霧』は200頁を超える中編であり、ほぼその作品だけの為の一冊。
家族の日常が天災によって掻き乱されるところから始まり、避難したスーパーマーケット内での人々の不和と不安、やがて迫り来る奇怪な霧、そのなかに潜む異様な何か…
様々な人間の感情が渾然となったカオスや、襲い来るモンスターによるパニックなど、何種類もの “恐怖” を描く。
しかし個人的には何だかそこまでなぁ…という感じ。(´・ω・`)
モンスターみたいに “単純にビジュアルで来るホラー” が出てくると白けるワタクシ。なんか安直じゃん…
姿を見せない恐怖の方が好き。
極限状態の中でのドロドロした人間模様は面白く読めるけど、そんな特筆するほどノメリ込むかぁ?という感じ…( ̄▽ ̄;)
結末をボヤかして読者の判断に委ねるやり方や、伏線(謎)を放置したまま終わらせるのは、短編中編ならばまぁ許されるかなとは思うけど、
結末を描かない=伝えたいメッセージが特に無いと感じる。
となると、単にパニックホラーの過程を楽しむだけの作品か?と。確かに映画的。
著者=表現者のポリシー・主張・哲学がちゃんと見えるモノの方が好きだなぁ。
Posted at 2018/07/30 11:11:15 | |
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