2012年12月03日
笹子トンネル崩落事故が残した問題
※事故の瞬間-対応
山梨県の中央自動車道上り線の笹子トンネルで2日、起きた天井崩落事故。通行中の少なくとも3台の車が巻き込まれた。
焦げる臭いと立ちこめる白煙。声をかけ合いながら逃げる人々。
「避難してください」のスピーカーの声が追いかける。けがをした女性が「友達と彼氏が」「助けてあげて」。煙と二次崩落の危険が救助を阻む。降りしきる雪が現場付近を覆う。「一刻も早く」と関係者は焦りを募らせた。
ズドーンという大音響がトンネル内に響いた。炎と煙が充満するトンネル内は地獄絵図だった。車を降りた人々は暗闇のトンネル内を歩いて逃げる。
「天井の部分が崩れている様子が見えた。アクセルを踏んで逃げだそうとしたが、間に合わず破片が車の上に落ちてきたようでした」「一瞬何も見えなくなり、頭を打ち付けた感じもありました」
妻と乗用車で走行中に事故に遭ったNHK甲府放送局記者の後藤喜男さん(39)は、NHKのニュースで、発生時の様子をこうリポートした。
車には崩落したコンクリート片が当たったとみられるが、後藤さんはそのまま車を走らせ、トンネル外に逃れた。車体が破損し、窓ガラスも割れていた。同乗の妻もけがをした。しかし、後藤さんは現場で取材とリポートを続けた。
多くの車が逃げ遅れたトンネル内は、混乱を極める。中央で割れてVの字に折れ曲がった天井板は、何台かの車を押しつぶしていた。変形する車体。横倒しになったトラックのコンテナもあった。
下敷きになった車から炎が上がった。煙が猛烈な勢いで発生し、トンネル内に充満。事故現場は約4・7キロのトンネル内の中央付近だったが、煙はトンネルの入り口から激しく吹き出した。周囲には焼け焦げたような臭いが漂った。
「トンネル内で火災が発生しています」
暗闇に放送が響きわたる。スプリンクラーが作動すると、炎の勢いは収まったが、煙の量は増す。コンクリートのがれきから出たとみられる砂ぼこりも舞う。車から人々が次々に降りて、トンネルの出口へ歩いて避難する。
「何が起きたかわからず1分ほど車の中で呆然としていた。後ろの人たちがどんどん車を降りて逃げ始め、妻と一緒に外に出た」。甲府市の会社員の男性(37)は話す。
「車の中に鍵を置いて避難してください」。この放送で、鍵を持って出たことに気づいた男性らは夫婦で車に戻った。
「助けて」と声が聞こえた。前はよく見えなかったが、「大丈夫ですか」と声をかけたら、20代ぐらいの女性が1人で歩いてきた。はだしで、口の辺りから出血、手足もやけどや切り傷もある。その女性を連れて逃げる途中、避難する別の車が自分たちを乗せてくれた。
トンネルを出ると、女性は救急車に運ばれていった。「友達と彼氏が…」「お願い。助けてあげて」。救急車に乗り込む前に、女性が震えながら、救急隊員に話すのがわずかに聞こえた。
トンネル内に取り残された食品卸会社のトラック運転手(50)から、会社の同僚に、「閉じ込められた。助けてほしい」と電話がかかってきた。同僚から午後0時20分、消防に119番が入る。
食品卸会社では同僚らが詰め、無事を祈りながら情報収集に当たった。男性社員は報道陣に、「一分一秒(でも早く助かってほしい)という気持ちで待っている」。別の男性社員も「何にも連絡がないから、どうしようもない」と話し、姿を消した。
長野県塩尻市の会社員、鈴木智博さん(37)は、子供2人と妻と4人で事故に遭った。「妻と子供には先に逃げるように言い、私は残って、周りの人たちと一緒に声をかけてみんなで逃げた」と話す。1時間ほどかけ、ようやくトンネルの出口を出たら、周りにも同じように逃げてきた人たちの緊張した表情が見えた。
※発生原因は「老朽化」
中日本高速道路(NEXCO中日本)は3日、名古屋市中区の本社で会見し、山梨県大月市と甲州市にまたがる中央自動車道上り線の笹子トンネルの事故現場で、崩落した天井板を支えていた「つり金具」が、トンネル最上部のコンクリートから脱落している場所が見つかった、と発表した。
つり金具は5.3メートルの長さがあり、5本で左右計10枚の天井板(1枚あたり約1.2~1.4トン、コンクリート製)と、隔壁5枚(1枚約1.4トン、同)を支える。金具5本が1枚の鋼材(長さ6メートル、幅40センチ)に取り付けられ、鋼材はボルト(直径16ミリ、長さ230ミリ)16本でトンネル上部のコンクリートに接着剤で固定されていて、このボルトが抜けた部分があったという。
吉川良一・代表取締役専務執行役員はボルト脱落の原因について、「36年目に起きたことから考えて、老朽化であったと思う」とした。
また、ボルトが抜けた最上部への点検が目視にとどまり、他の場所で行っている、金づちでたたいた音から異常を調べる「打音点検」をすべきだったとし、点検の不備を認めた。
※ドキュメント
8・00ごろ 事故発生
8・07ごろ 消防に通報
8・39 自力で逃げた女性を消防が救助。「ワゴン車に6人で乗っていて残りの5人は分からない」
9・18ごろ トンネル西側から入った消防が現場の100メートル手前まで近づくが、爆発音が聞こえ、煙で前が見えず引き返す
9・20ごろ 東側から入った消防が緊急避難口を使い救出活動を開始
10・45 総務省消防庁が災害対策室を設置
11・00ごろ 燃えていた軽乗用車の火災を鎮圧
12・20ごろ 「トラックの運転手から『苦しい。助けてくれ』と電話があった」と卸売業者が119番通報
12・48 2次崩落の恐れがあるとして、救出活動を中断
15・00ごろ 中日本高速道路が記者会見し謝罪
15・30 総務省消防庁に「焼けたワゴン車内に5人を確認」と地元消防から連絡
17・15 消防が救助活動を再開
17・35 がれきに押しつぶされたトラックの中に人を発見。呼び掛けに応じず
22・07 トラックの天井をこじ開け男性を救出するが、心肺停止状態
22・20 トラックの男性の死亡を確認
23・40ごろ 山梨県警が、山梨ナンバーの乗用車内に人数不明の焼死体らしきものがあると発表
・・・平成に入ってからの高速道路上での事故としてはもっとも悲惨なものとなってしまいましたね。。
NEXCO中日本も「9月の点検(年1回だが今年は5年に1回のペースで行われる詳細なものだったそう)では問題が無かった」とする一方で「35年経過しているので完璧とは言えないが、問題ない」という、まるで「何かあっても、それは経年変化なんでしょうがないっすよ」とやや責任逃れともいえるような発言をしたことに憤りを感じたのは事実です。
9人ですよ!?
9人も犠牲者を出し、多数の負傷者と多数の被害車両、多数のパニックに陥った人たちが出た中で他意が無かったとはいえ、そんな発言が出ていいのでしょうか?
このような大規模な事故が起きた後に「点検時は問題なかった」と言われても「はいそうですか」と信用できる人、今何人いるでしょうか?殆どいないと思いますよ?
少なくともこういう場合は「点検方法、点検内容、点検結果」ともに問題はなかったとすべきだったのでは?
そうしなかった(できなかった)のは点検回数が年1回・・・と少なかったことにあるのでは?
今回、この事故を「天災」という方がおられるかもしれません。
でも、自分は「天災なんかじゃない、人災だ」と思うわけです。
(それは東電の原発事故にも言えること)
利便性を得るために便利なものを人は造った。
お金で便利さを買う人(=利用者)が増え、収益が増えたにも関わらず、日本道路公団(当時)は儲け一辺倒主義ゆえ、汚職や談合事件、天下りなどに代表される数々の問題を犯す一方で、そうしたものを利用者に還元するような意識があまり見られなかったことも事実。
そんな時代に建設されたトンネルですから、勘がいい人は「そんな奴等が建設に携わったトンネルなら30余年経てば・・・」と崩落した直後、深く頷いたと思うんです。
しかし、当の我々利用者はそんなことは言ってられず、時間有効活用のために利用せざるを得ないわけです。
知っての通り、東京-山梨間は最短で行こうとする場合、中央道か国道20号でしか方法がありません
(遠回りでも構わないのであれば、国道411号(奥多摩湖)経由という方法もあるが、時間がかかる)。
特に、中央道は甲信越方面へのアクセスが非常に良好なことから、ほぼ毎週渋滞が起きるほど利用者が多い路線です。
あまつさえ高速バスや観光目的の一般車両が多いのですが、今時期だと、年末商戦を控えた運送会社のトラックやスキー・スノボで移動する車両も増えてくるNEXCO側にとってまさに繁忙期。
それだけに、年末も押し迫るこの時期の事故は各業者にとっては「傷口に塩」「泣きっ面にハチ」ではないのでしょうか。
今回の件を受け、笹子トンネルは上りはもちろん、下りも全面通行止めとしたうえで緊急の安全点検を実施しているそうです。
点検には6~7日を要するとのことで、下り線は安全が確認されてから運行を再開、上りは復旧の見通し立たず・・・とのこと。
正直、「一刻も早い復旧を」と願う一方で「いつ崩落するやもしれないトンネルなんて怖くて利用したくない」という気持ちは正直あります。
そこは素人の我々は点検の強化で何とか対応してくれ・・・としか言えません。
でも、「ここを通らないと成立しない商談がある」「ここを通らないと時間に間に合わない積荷がある」
「ここを通らないと経営に悪影響が出る」という事業者、決して少なくないと思うのです。
そういう方々のためにも一時的に「対面通行」という方法があると思うのですが、何とかならないものでしょうか?
完全に片側通行止めにするよりも運営側にとっても利用側にとっても悪い話ではないと思うのですが・・・
あらためて・・・
今回の事故で犠牲になられた9人の方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の方々、そして被害に遭われた方々および巻き添えを被った方々の計り知れない心労をお察し申し上げたいと思います。
そして、NEXCO中日本にひとこと。
もう、このような悲惨な事故が起きぬよう安全管理を今以上に徹底させるのはもちろんのこと、今後の高速道路会社の指標となるような対策と原因追究、そしてあらゆる角度からの想定事項を追求していただきたい。
P.S.
しかし、世の中理不尽ですよね・・・
何倍もの被害を出し、しかも未だ自宅に帰れない人を多数出した東電は業務上過失致死罪に一切問わず、福島原発よりも被害の小さいNEXCO中日本(の事故)は業務上過失致死罪に問うなんて・・・
我々からしてみればどっちも「人が亡くなっている」という時点で同罪だと思うんですがね・・・
ブログ一覧 |
事件・事故・災害 | ニュース
Posted at
2012/12/03 13:00:37
タグ
今、あなたにおすすめ