
随分前の話ですが、7月上旬頃、M6グランクーペの試乗の話があり、試乗して来ました。
今まで現行のM5・M6クーペ・M6カブリオレと試乗しています。
M6グランクーペもエンジンやミッションが同じですので、どんな車か乗らなくても想像出来ますが、まあ折角の機会ですので。
エンジンは4.4L V8ターボで、560ps/69.3kgmを発揮します。
全長5015mm、全幅1900mmとビッグクーペです。
ドアが4枚になり全長が長くなった分だけ車重も増し、クーペよりも80kg重い1990㎏。
この重さになると80kg程度は誤差の範囲とも言えますが。
天井は低いですが足元が広いため、後部座席は割りとユッタリと座れます。
トランクスペースも天地は無いですが奥行きがあり、実用性は高そうです。
内装の質感は高く、特に径の小さいステアリングホイールが只者では無い感じを与えます。
試乗車は外装色がグレーの右ハンドルでしたが、展示車として青色のM6グランクーペが置いてありました。
これが「サンマリノブルー」と呼ばれるM専用色でとても綺麗。
青好きの私の心をガッチリと掴みました。
実際に乗った感想は、やはり事前の想像通りのものです。
エンジンをかければE63 M6よりも低いエキゾーストノートが響きます。
たとえMモードにしなくても、アクセルを踏みこめば爆音と共にとてつもなく加速を見せます。
ステアフィールは豊富だし、ブレーキの効きは良いし、7速M-DCTのミッションは段付き感も無く、とてもスムースで変速スピードも速い。
乗り心地はしなやかで、良すぎると感じる程です。
しかもアイドリングストップが備わり、燃費もはるかに向上しています。
誰が乗っても高価な車だと分かるでしょう。
しかし、それだけとも言えます。
BMWのM系はドライバーに一定以上の覚悟とスキルを要求する車でした。
踏めば誰でもそれなりの速さを味わえるAMGとは違い、変速1つ取ってもコツが必要なのがMだった筈です。
しかし、現行の4.4L V8ターボを積んだモデルからは、初心者が運転しても操るのにさほどの困難は無いと思われます。
それを車の進歩と呼ぶのでしょうが、E60系Mモデルの5.0L V10が5000回転以上で紡ぎ出すあの甘美な咆哮とは程遠いのもまた事実。
M系にはもう少しヒリヒリした感覚が宿っていて欲しいですね。
とまあこんな感想を抱くのも、私がすっかりハイスペックモデルに乗り慣れ、感覚が麻痺して来ているのも理由でしょう。
実際にこのMモデル試乗会では、初めてMモデルに試乗した人も多く、皆口々に「すげ~」と言い、中には緊張で手が震えている人もいたそうです。
私のように「今回のM6は退屈になったなあ」なんて感想を抱けるようになったことが、本当に幸せなのでしょうか。
初めてフェラーリを試乗した日、私は興奮のため、夜もろくに寝られませんでした。
ところが、先日FFを1泊2日で借りる機会に恵まれ、「V12フェラーリもこんなものか」などの不届きな感想を抱くまでになりました。
何かもっと純粋に車に感動できた頃の方が良かった気がしてなりません。
「経験値は必ずしも人を幸せにするばかりではない」などの哲学的な思考を、試乗を終えて家に帰りながら巡らせた次第です。
ところで、M5が1495万円、M6クーペが1695万円、M6カブリオレが1760万円で、M6グランクーペが1730万円です。
内装などが違うとは言え、同じ4ドアでエンジンもミッションも同じM5よりもM6グランクーペが200万円以上も高い理由はなんでしょう??
一般的に駆動系が一緒でも4ドアセダンよりも2ドアクーペの方が値段が高いです。
ところがクーペをベースにした4ドアクーペは、2ドアクーペよりも更に値段が高いことが多いのです。
メルセデスCLSが思わぬヒットに繋がり、各メーカーがこんなに美味しい車種は無いと気付き、こぞって4ドアクーペを参入させました。
アウディのA5スポーツバック・A7スポーツバック、ポルシェのパナメーラ、BMWのグランツーリスモなども広義の4ドアクーペでしょう。
先鞭を付けたメルセデスは、コンパクトの分野にも4ドアクーペを参入させ、CLAも発売になりました。
確かにスタイリッシュなデザインと実用性を兼ねた4ドアクーペは魅力的です。
しかし、近頃あまりにも価格を高く設定している気がします。
もし私が現行のV8のM系を買うとしたら、屋根が開くと言う付加価値のあるM6カブリオレか、最も価格が安いのに最も実用的なM5を選ぶことでしょう。
買うことはないと思いますが。
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試乗記 | クルマ
Posted at
2013/10/30 21:11:47