
今年の6月頃に乗った試乗記です。
D5はF10の5シリーズをベースにアルピナチューンを加え、3.0L直6ディーゼルを積んだ、現在アルピナで最も注目を集めているモデルです。
最大馬力は280ps、最大トルクは61.2kgmで、1500回転で発揮します。
ミッションはBMW8速ATをベースにしたスイッチトロニック。
0-100km/h加速は5.9秒、燃費はJC08モードで18.8km/L。
本国ではツインターボ(ビターボ)ですが、日本ではヨーロッパよりも厳しい排出ガス規制をしているので、シングルターボとなっています。
そのお蔭でアルピナの5シリーズとしては破格の995万円。
右ハンドルのセダンのみの設定で、300台限定です。
最初はあまりカッコ良いと思わなかったF10 5シリーズですが、M5やアルピナのようにエアロを纏うとかなり攻撃的でスポーティーに見えます。
イジル素材としては良いのでしょう。
マフラー4本出しがとても素敵です。
近頃、BMW自体の内装の質感がとても上がっていますが、アルピナの内装はBMWの内装とは一線を画す素晴らしいものでした。
1つ1つのパーツの組み立て精度がとても高い。
特に試乗車は12万円のオプションであるピアノブラックウッドパネルであったため、より一層引き締まって見えました。
残念ながらダッシュボードは革ではありませんでしたが。
試乗コースは第三京浜の世田谷から入り、川崎・横浜をグルっと回って来るとても長い周回路を取ってくれました。
とても座り心地の良いシートがドライバーを出迎えてくれます。
エンジンをかけても全くディーゼルらしい音がしません。
遮音性がとても高いのもありますが、今まで乗ったどのディーゼル車よりも静かで振動が少なく、とても上品です。
走り出しも溢れるトルクを上品に抑えている感じで、無茶な加速はしません。
こういうチューンがM系やAMGとは違うアルピナらしさなのです。
しかし、一旦走り出してしまえば、トルクフルな加速を見せ、特に30km/hから60km/h位までの加速力は目覚ましいものがあります。
踏み代と加速の一体感が素晴らしい。
静かに上品に加速して行く様はとてもディーゼルとは思えず、大排気量のNAのガソリンエンジン車のようです。
しかし、何よりもD5が素晴らしい点は、その足回りにあります。
高速の繋ぎ目を殆ど振動を感じさせずに乗り越えて行く一方、コーナーに入ればロールを見せず、地面に吸い付いて行きます。
スポーツモードにすれば固くなるのですが、決して不快なものでは無く、ロードインフォメーションがより一層伝わって来るように感じました。
これ程にしなやかな足回りの車はあまり記憶にありません。
ジャガーのXJが近いですが、D5と比べると少し大人し過ぎるかも知れません。
大袈裟ですが、この足回りだけで1000万円の価値があるとも思えました。
ハンドリングも素晴らしく、かなりの速度で合流コーナーに進入したのですが、全く微調整が要らずピタッと決まります。
車幅は1860mmもあるビッグセダンですが、大きさを感じさせない見切りの良さは、さすが世界的ベストセラーの5シリーズです。
押しやすいスイッチトロニックによる変速マナーも素晴らしい。
ディーゼルですので燃費も良く、一度満タンにしてしまえば、高速道路主体なら1000kmも走れるとのことでした。
無給油で富山往復出来ます。
同乗者が落ち着いて乗っていられるのに、ドライバーは全く飽きずに、それほどの疲労を感じずに運転をし続けられます。
運転者までラリホーにかかってしまうレクサスとは方向性の違う上品さです。
欠点を挙げて行きますと、なにぶんにも上品過ぎるので、刺激を求めるドライバーには物足りなく感じるかも知れません。
殆どエンジン音が入って来ないのですから。
また、マフラーの形状などが違うとは言え、多くの人にとっては普通の5シリーズとの違いが分からず、見栄を張りにくい車でもあります。
分かる人には当然分かる車ですが。
車両本体価格は1000万円を切っていますが、ポルシェなどの他の高級車メーカーと同じくオプション金額が高いので、油断すると直ぐに1200万円程度になってしまいます。
何せアルピナブルーのボディカラーにするだけで60万円も掛かるのです。
平均的な乗り出し価格は1150万円とのことでした。
更に5シリーズのフェイスリフトの関係で、現在は7ヶ月の納車待ち(試乗当時)とのことです。
出たばかりのポルシェ・カレラ並の待たされようですね。
細かい不満点もありますが、D5はとても素晴らしい車だと思います。
将来的にも最も価値の下落が少ないモデルではないかと営業の人が言っていました。
現在の日本のディーゼル人気と300台限定と言うことを踏まえれば、おそらく5年後に3万キロで下取りに出しても、車両本体価格の40%前後になるのではないかと思います。