
私にとってアイルトン・セナはヒーローでした。
今でこそF1でフェラーリを応援していますが、セナがF1で活躍していた頃は、当然のようにマクラーレン・ホンダファンでした。
近頃あまり調子の良くないマクラーレンですが、来年はホンダエンジンを搭載し、しかもドライバーはアロンソとバトン!
これは応援しないわけにはいきません。
興奮して来たので、マクラーレン東京にお願いして650Sを試乗させていただくことにしました。
すると、私の熱意を感じ取って下さったのか、MP4-12Cと乗り比べをさせていただけるとのこと。
MP4-12Cは2012年の12月に試乗したことがあります。
その時の試乗メモを紹介します。
MP4-12CはF1で培った技術の粋を結集して開発された車で、バトンとハミルトンがかなり関わったことでも有名です。
実際、ステアリングの径の大きさや太さは、全てハミルトンの意見で決められたそう。
全長4507mm×全幅1909mm×全高1199mmで、車重は1336kg。
低い全高と軽い車重がポイントです。
エンジンはV8 3.8Lターボでミッドシップ。
3.8Lとこの手の車にしては小排気量ですが、出力は600ps/61.2kgmとモンスター級。
1L当たり157psと、いくらターボとは言え、凄まじい高出力です。
小排気量のお蔭か、高速道路などでは燃費が10km/Lを超えることも珍しくないそうです。
ミッションは7速DCTで、0-100km加速は3.1秒!!
ブガッティ・ヴェイロンなどの異次元の車を除き、市販車最速の1台です。
さすが英国車だけあって、試乗車は右ハンドルが用意されています。
MP4-12Cはガルウイングドアなのですが、側面の出っ張りを撫でで上に上げるとドアが開くという、知らなければドアを開けることさえ覚束ない車です。
ドアはとても軽く、メルセデスSLSとは違い、完全に座ってしまってもドアに手が届くようになっています。
スパイダーではなくクーペですと、シートの後ろに多少の手荷物を置くスペースがあります。
また、ミッドシップですので、フロント部分にトランクスペースがあります。
機内持ち込み可のスーツケースがスッポリ入る程度の大きさはありました。
多少の色気も求めるフェラーリとは違い、徹底的に機能を追求しているため、軽量化の工夫がアチコチに見られます。
縦長のナビがあるセンターパネルの裏側は空洞で、ドリンクを置くスペースになっていました。
結果、エアコンの調節パネルを設置するスペースがないため、左右のドアの側面にスイッチが取り付けてあります。
あまり見たことがないような機能的な内装は、同時にマクラーレンの哲学とも結びついており、中々興味深く思えます。
最初は担当の方がハンドルを握ります。
エンジンを掛けると、フェラーリのV8よりも野太い乾いたレーシーな音が轟きました。
スポーツマフラーをオプションで付けていた上、地下駐車場で反響しやすいこともあるのでしょうが、魂が吹っ飛ぶかのような爆音です。
ご近所さんからの苦情が来ることは間違いないでしょう。
アイポイントがとても低い車なのですが、乗り心地は悪くなく、ロータスの親玉のように考えていた私の先入観を覆してくれました。
加速感は半端なく、ブレーキの効きも良いため、まるでジェットコースターに乗っているかのようなスリルを味わうことが出来ました。
いよいよ私がハンドルを握る番です。
ポルシェなどとは違い、全く右ハンドルのネガはありません。
英国車ですから当たり前とも言えますが。
ステアリングホイールに余分なボタンは付いておらず、ドライビングに集中させようとする意図を感じます。
シフトレバーも無く、近頃のスーパースポーツモデルはボタンで操作するのですね。
パーキングブレーキもアクセルペダルに足を掛けると自然に解除されるようになっています。
車両感覚は掴みやすく、メルセデスSLSなどよりは遥かに乗りやすい。
ステアリングも決して重過ぎることはなく、女性でも扱いやすいのではないかと思います。
パドルの位置も適切で操作しやすい。
一番違和感を感じたのがブレーキペダルです。
160万円もするオプションのセラミックブレーキだったのもあるのでしょうが、かなり重い。
しかもアクセルペダルと同じ高さにあるので、慣れないと踏み間違えをしそうです。
基本的に左足ブレーキで運転する車なのでしょう。
それ以外は驚くほど運転しやすい。
足回りとハンドリングをそれぞれ3段階に調節できるのですが、どちらもノーマルにすると、まるでBMW3シリーズのような上品な足回りです。
さすがに一番ハードなトラックモードにすると、ステアリングは明らかに重くなり、足もかなり固くなるのですが、かと言って不自然な固さではありません。
ロードインフォメーションを直接伝えて来る質の高い固さです。
私にはハンドリングも足回りも中間のスポーツモードにするのが一番合っていました。
親切にもかなり長い時間試乗させてもらえました。
慣れて来て、この車のギアの特性もかなり分かり、パドルを使ってのギアチェンジも存分に堪能することが出来ました。
全くシフトショックを感じさせない素晴らしいミッションです。
途中、道が空いた時があり、担当の方が「ギアを変えずに加速してみて下さい」と言うので、3速ホールドのままアクセルを踏み込みます。
6000回転を超えたところで完全に音が変わり、レーシングマシンの本性が現れます。
一瞬で背中に汗をかいてしまいました。
こんなにスリリングで楽しい試乗は初めてかもしれません。
クーペの車両本体価格は2790万円、スパイダーは3000万円です。
フェラーリなどと違ってオプションの金額は高くなく、外装の特別色を選んでも60万円程度との説明を受けました。
確かにフェラーリの外装色には300万円を超えるものもありますので、60万円は比べれば安いかも知れませんが、何か感覚がマヒして来ます。
大体税金などの諸経費で150万円~160万円掛かり、クーペで3000万円、スパイダーで3400万円位の乗り出し価格の人が多いそうです。
クーペとスパイダーで車両本体価格が210万円しか違わないのに、乗り出し価格で400万円程違って来るのは、スパイダーは見られることを前提に、内装にお金を掛ける人が多いからだそうです。
元々スパイダーモデルを出すことを前提に車両の開発をしたため、クーペもスパイダーも動力性能は全く変わりません。
フェラーリでさえスパイダーモデルは車重が増し、0-100km加速で0.1~0.2秒程度遅くなることが多いと言うのに。
3分割されるハードトップはわずか15秒で仕舞われます。
トップを開けた時の雰囲気は正にF1マシンです。
スパイダーモデルでも外からエンジンを眺めることが出来る珍しいものなので、この車両価格における210万円の差額なら、スパイダーの方が幸せになれそう。
あの美しいエキゾーストをオープンで聴きたいものです。
しかし、スパイダーの方が後方視界は格段に悪くなることが、運転席に座って分かりました。
カタログも頂けたのですが、何と全て英語で書いてあります。
日本語のものは無いとのことでした。
様々な面で今までの私の価値観を壊す1台でした。
あまりに素晴らしい出来なので、来年のF1でマクラーレンを応援してしまいそうです。
と、このような試乗メモを書いていました。
今回の試乗車は左ハンドルです。
2年前よりも25psアップし、625psになっています。
改めて乗ってみると、ブレーキ位置などは左ハンドルの方が自然です。
かなり程度の良い個体で、エンジンの吹け上がりも最高です。
以前と同じようにとても印象が良い。
中々値崩れしない理由がよく分かります。
ではいよいよ650Sに乗り、どのように進化したのか感じたいと思います!
つづく