2020年07月23日
朝4時半だった。
夫が私を起こしに来た。
「ムギが死んだ・・」
半信半疑の私は急いで下の部屋へ降りていくと、
ムギは段ボールに横たわって固くなっていた。
ついさっきの明け方に亡くなったのではと夫は言った。
段ボールに入れる時にまだ体が温かかったと言った。
急に息苦しくなり
呼吸がしづらくなって、「苦しい」と言って
窓を開けた。
今起きている目の前の現実から逃げたかった。
ムギは猫のオス3歳。
多頭飼していた老夫婦が、面倒を見れず
受け入れ先を求め猫カフェへ依頼し、
旦那がムギに一目惚れして引き取った。
受け入れてまだ1週間だった。
受け入れる前に病院の検査を受けていたが
どこも異常はなかった。
来たときは寂しいのかずっと鳴いていた。
最初そばにいても逃げてしまいそっとしておくも、
発情期に鳴くような低い声で昼夜問わず鳴いていた。
やがておとなしくなったが、
今度は吐くようになり、次第にごはんを食べなくなってしまった。
最初はストレスかと思い様子を見ようとしたが
すっかり元気がなくなってしまったので
明日は朝一に病院へ連れていくつもりでいたそんな矢先、
ムギは静かに息を引き取ってしまった。
自分達の無力さに、まるで自分達がムギを追い詰めたような
そんな負い目を感じた。
何もしてやれず、なぜそんなに死に急いでしまったのムギちゃん・・
悲しすぎて悔しすぎてみんなで泣いた。
悲しみは深く深くどこまでも沈んだ。
上の子には一番懐いて面倒も一番見ていた。
そんな子供を思い、最初夫は子供らが死を受け入れられないかもと
隠そうとしたがちゃんと死んでしまったことを伝えるべきだと、
朝少ししてから子供らを起こして、ムギの死を伝えた。
夫はひどく落ち込んでずっと泣いていた。
私を起こす前に、亡骸を段ボールにそっと抱きかかえて
タオルにくるんで・・・それを夫はどんな思いでしたのか。
私が見に来た時はすでにきれいに段ボールに横たわっていただけに、
夫に申し訳なかった。
とりあえず今日が日曜日でよかったと思った。
平日だったら仕事に行けなかったと思う。
以前、実家の犬が死んだときに火葬してもらった、
近くのペット葬儀場へ連絡し
朝であれば比較的空いているとのことで、
そこへ持ち込むことにした。
段取りができたところで、
庭で咲いていたバラをほとんど摘み取った。
梅雨にも負けず、バラはきれいに咲いていた。
束ねるとかなりの数になった。
新聞紙にそっとくるんで、濡れないようにムギの上にそっとのせた。
旦那が「助けてやれずごめんな」とブラッシングして
毛がとてもきれいになった。
ずっと梅雨空だったにも関わらず、
家を出て火葬場へ向かうまでに天気が晴れた。
なぜこんなにも晴れるのだろう。
涙が止まらなかった。
火葬前の最後のお別れになり、
上の子がエーンエーンとずっと泣いた。
「ムギ、本当にごめんね・・・ゆっくり休んでね」
落ち込む私達家族の気持ちとは裏腹に段々とお日様が高く上り
やがて暑くなった。
帰宅後、ムギの部屋を無言で片づけた。
匂いの染みたカーテン、絨毯、すべて処分した。
まるでそこにいなかったかのような、とにかく必死に片づけて
除菌したりスプレーしてきれいにした。
すっきりと何もなくなった空間が余計に胸を苦しめた。
カーテンが風に静かに揺れてその隙間から日差しが入り込んだ。
陽だまりが私の心を締め付け、その部屋にいることができず、離れた。
思えばまともにまだムギの写真も撮っていなかった。
カリカリよりチュールの方が食べやすいのかなと
前日に沢山買ってきたが無駄になってしまった。
先住猫の方が体調を崩すのではと心配していたが
あっという間にムギは去ってしまった。
夜間救急でもどこでもすぐに診療してもらっていたら
助かっていたのか・・・悔やんでも悔やんでも悔やみきれなかった。
もし、最後まで老夫婦の元で暮らしていたら
ムギはまだ生き続けていたと思うと、
なぜ猫をそこまでして不幸にさせてしまったのか、思い悩む。
飼いきれないから猫カフェに依頼すればいいとか
野良にすればいいとか
1匹も2匹も変わらないからと多頭飼いをして崩壊するとか
なぜ1つの猫だからではなく1つの生きる命を重く考えないのだろう。
どんなに良い治療を受けても、
どんなに美味しいごはんを食べても
どんなに愛しても
やがて誰にでも死はやってくる。
突然の死は人を悲しみの海に溺れさせ、大きな壁を建て、
なかなか立ち上がれないようにしてしまう。
どう向き合っていいのか・・・
猫カフェに
ムギが死んでしまったことを申し訳ないと報告すると、
「それでも、普通のおうちに迎えられて、最後に看取ってもらえて
幸せだったと思いますよ。」と言われた。
ごくたまに、そういうこともあるので気にしないでくださいと言われた。
目頭が熱くなった。
私たちは踏まれても踏まれても立ち上がる麦の穂のように
強くなってほしいと「ムギ」と名前を付けた。
でもダメだった。
悲しみを乗り越えて
いつかまた、どこかで会えるまで。
Posted at 2020/07/23 01:22:00 | ペット