
エコカーカップというレースがあります。
富士スピードウェイで開催されている、エコカーを主体としたレースイベントです。
エコカーというだけあって、速さだけで勝てるレースではありません。既定の距離(周回数)を既定の速度(最低周回タイムを下回ると減点)で走り、どれだけ燃費良く走行できたかというレースなのですが、車の能力だけでなくドライバーの能力も大いに試される奥の深いレースです。
そこに、去年の夏に引き続き今年も Genki Racing Project の一員として(決してエコカーとは言えないクルマをひっさげて)参加することになったのですが、僕のレースはさらに20日ほど前から始まっていました。
というのも、ドライバーとしても運転はするのですが、僕の役割はそれよりもこれなのです。
GRP Live Telemetry System ver 3.0
前述のとおり、エコカーカップは「決められた周回タイムより
遅く」周回しなくてはいけません。
既定の周回時間より早く周回してしまうと、決して軽くないペナルティをいただきます。
前回の ver. 2.0 では初参戦で右も左もわからなかったため、アイドラーズ選手権に出たときの Ver. 1.0 の延長で「自車がどこにいるのか」「今どんな速度で走っているのか」に加えて規定タイムとの差分などを出すという機能までに留まっていました。
今回はそれに加え、総勢31名のチームメンバー全員が見ても支障がないように、表示機能のライトウェイト版を用意しました。(前回システムはレース全体で数メガのログデータになるので、途中からスマホで画面を見ると固まったりしていました)
また「理想タイムで計測ラインをカットするためには時速何キロ出せばいいかを教えてくれる」びっくりドッキリ秘密機能を付け加えました。
さらにイレギュラーとなる初周ラップタイム(初周だけ制限の足かせが結構短い)への対応と、これは前からですがグリッドスタートへの対応とピットインの判定もしているため、どこに出しても「そんな特殊な仕様でほかに使えるわけねーだろ!」と言われること間違いないガチガチのエコカーカップ特別仕様のレース支援システムができあがりました。
別にGRPのチーム監督やGenkiさんからこうしてくれと何か要望を言われたわけではないんですが、前回の経験を踏まえて拡張していったらいつのまにかこういうことになっていたという感じです。
しかし、この「初周ラップタイムへの対応」を前日に盛り込むことを(勝手に自分で)決めたため、僕は地獄を見ることになります。
20日前、1/21に僕は総監督のふぐさんとキャロルに出向き、車の走行情報を取得するOBD-II ドングルのテストをしました。その後基本的な機能拡張は週末や夜中気が向いた時間を利用して着々と進み、レース前日の金曜日の時点では最後の軽いデバッグとチームメンバー向けのマニュアルを書けば済むという状態にまで仕上がっていたのです。
ここでやめておけばよかった!
後悔先に立たずとはこのことですが、前日余裕ができた僕は前々から検討しつつ今バージョンへの採用を断念していた「初周ラップへの対応」を軽い気持ちで進めてしまいました。
対応自体は大して難しくもない拡張だったのですが、マニュアルも書き上げ鼻歌気分で最後のチェックのための走行に行くか~と出てみたら、、
出るわ出るわ、バグの嵐
すっかり青ざめて戻り、さてどうしたものかとしばし考え込みました。
そのときの時計は深夜0時をまわったあたり
出発は午前4時
この拡張をする前にバージョンを切り戻してマニュアルを修正する、が一つの案
もう一つはバグを取りきるという茨の道
1時間もかからないだろうと思ったのですが、結果
なんとか使える状態に持っていくまで、3時50分までかかりました。
下着すら替えることもできず、当然風呂も入れず、小汚いまま集合場所へ向かうことに。
それでも取り切れていないバグ(動作はするのですが、想定していない動きをする部分)があることはわかっていたので、乗合いの車中で脳内デバッグをし、着いてからもブリーフィングそっちのけでコードをにらめっこ。やばそうなところは潰しましたが、FSWでの実地テストなんかできはしないので、実際どうなのかは走らせてみないとわからないというこの恐怖。
毎回この怖さはあるのですが、今回はいつにも増して冷や汗ものでした。
なんとかかんとか行けるんじゃないかというところまで調整して、次は車両への組み込みです。
このシステムは車両のOBD2データをスマホからインターネットサーバーへ送信、それを処理してナビをやる人やチームリーダーのスマホで状況を確認するという仕組みになっています。なので車両へはデータ送信用のスマホを一台ずつ搭載します。僕の手持ちが二台だったので、もう一台はuchi_shirousoさんのスマホをお借りします。uchiさんいつもありがとうございます。この装着もタイトなスケジュールの中行うのでなかなか大変なのですが、なんとかなりました。
GRPのブリーフィングが終わり、イベントブリーフィングが終わり、いよいよ予選の開始です。とりあえずデータが来ているようでほっと一息、、となるかと思ったのですが、全くそんなことはありませんでした。
まず、予選兼テスト走行に出たメガーヌのデータがおかしい!という無線連絡が入ります。
見てみると確かにおかしい。ピットインしてきた端末を確認するとフリーズしています。この端末は前回も使った僕のお古のZenFone2なんですが、とりあえず再起動するか、と再起動したら、そのまま電源が入らない。そして文鎮化(つまり、お亡くなりに)。
しばらく起動を試みたり、ファクトリーリカバリーを試みるも再起動を延々繰り返すだけで画面には何も映りません。もうこれはメンバーのスマホを接収するしかない!と思って供出を募ったのですが、実はこれ、機能要件からAndroidしか(送信側は)使えないのです。参加メンバーみんなiPhone…なんということだ…
先生がいたら先生のスマホが接収できたのに(先生もiPhoneでした、失礼!)…と嘆いていたら、ひょっこり遅刻してきたジムさんが「僕アンドロイドの使ってないスマホ車に置いてます」と。おお!渡りに船!と思ったら、auだったので僕が用意していたdocomo系のSIMが使えず撃沈。それでもジムさんはさらに「FSWの近所にガジェオタの友人がいるからシムフリースマホは常時いくつも持っているので借りてきます!」と飛び出て行ってしまいました。この体力というか対応力の厚さがさすがGRP/CRRチーム、行動力のある変な人が多いです。
メガーヌに関してはとりあえず待つしかないのでルーテシアRS(フェイズ2トロフィー)と、カングーを見てみると、ルーテシアのデータがおかしい。GPSデータがうまくとれていません。ルーテシアにはuchiさんのエクスペリアを端末として載せていましたが、GPSがおかしいということはスマホがおかしいということなので、スマホの再起動をお願いしました。こちらは無事復活。
そうこうしていたら、さらに遅刻してきたヤストキさんが「これ使います?」とメインスマホの供出を申し出てくれました。用意していたこちらのSIMが使えず困ったのですが、SIMも使っていいというのでお言葉に甘えることにしました。下準備も少しあるのでスマホの調整などしていたら、スタートグリッドに各車が並び始めます。実は予選は純粋なタイムアタックの結果順。メガーヌは、、2分7秒というおかしなタイムをたたき出して、ポールポジションでした。ルーテシアも二位。予選だけなら1-2フィニッシュです。
グリッドの先頭まで走り、ヤストキさんとともにメガーヌへの設置を済ませ、なんとかスタート!
去年もそうでしたが、なにかと車だけでなく人間も走らされるイベントです。
ヤストキさん一日中スマホ借りたりセッティング手伝ってもらったり、どうもありがとうございました。
出て行ってしまったジムさんが不憫ですが、、でもいつ二台めが死ぬとも限らないので、予備機として大変心強かったです。ジムさん(と、お名前は存じませんが小山町在住のガジェオタなお友達)どうもありがとうございました。
ようやくスタートした時にはすべての車のデータがうまく入ってきてほっと胸をなでおろしていたのですが、その後もつつがなく…とは全く行きませんでした。
さすがにスマホが死ぬなんてもうないだろうと思っていたら、途中でカングーのデータが取れてない!と無線報告。カングーには僕のメインスマホを載せていたので、結構青ざめました。ZenFoneはまだ廉価機でお古なのでいいですけど、カングーに乗せていたのはGalaxyの最新機種なので結構高価。メガーヌに載せてるヤストキさんのも、ルーテシアに乗せてるuchiさんのもXperiaでハイエンド機です。これらが壊れるのは避けたいところ。
幸い、Galaxyはなんともなかったので念のため再起動をかけ、OBDアダプタの抜き差しをしたら治りました。中華製のELM327ですが、やはり信頼性というところでは安いだけのことはあります。
トラブルはこれに終わりませんでした。信頼性は多少高いと思っていた OBD Link LX もルーテシアとの相性問題?でトラブルあり。
そして前半のカテゴリーである Challenge 180 の走行が終わったところで各車のスマホをチェックしてみると、メガーヌに搭載していたXperiaが全く充電されておらず、さらに発熱もあり節電モードに移行しようとしてバグっていました。どうやらUSB電源供給用のシガーソケットアダプターが壊れたようです。急きょこれはワタルさんからアダプターの供出を受け、交換。ワタルさんどうもありがとうございました。
その後のEnjoy60でも多少のトラブルはありましたが、その場で対応可能だったのでなんとかイベントを終えることができました。
去年の夏のレースでは多少のトラブルはあったもののここまでではなかったので、改めてレース本番では何が起こるかわからないということを思い知らされた今回の大会でした。
さて結果がどうだったかはGRP総合プロデューサーの
carolのよしともさんのブログを見ていただけばなんとなくわかるかと思いますが、入賞はしたもののクラス優勝は取れず。しかしこれもまたシステムの進化のための必要な犠牲です!次目指すのは、ドボン(=規定タイム以下で周回することをGRPではこう呼んでいます)ゼロ。都知事のゼロ公約はいろいろとダメそうなので、せめて我々だけでもドボンをゼロにしていきたい!
そして、勝つためにはドボンを回避しつつギリギリのタイムで測定ラインを通過する必要があります。またピットでのドライバー交代の速度をさらに上げる必要があります。やることはまだまだありますが、楽しみです。
そして今回もとても楽しかった!前日から一睡もできず風呂も入れないという過酷な耐久レースでしたが、システムがハードウエアトラブルは続出しつつもそこそこ動いてくれたことで報われた気がします。今回の設計/実装上の反省点もわんさか出たので次に生かしたいと思います。
GRPチームの皆さん、参加チームの皆さん、主催の富士スピードウェイさん、後援のトヨタ自動車さんほか協賛企業の皆さん、どうもありがとうございました。
(この記事の写真はGRPメンバーの撮影のものをお借りしました)