2014年12月28日
二階の古本屋。
もちいど商店街の中程に、二階へ上がる狭い階段がある。
その階段の前、横、そして、二階へ上がる階段の片側には、本が山積みになっている。ここが、田原坂の古 本屋なのである。今回だけは、あの古本屋には、寄らないで帰ろうと、深く決意する。奈良へ行くのは、近鉄線を利用する。日帰りの奈良行きなので、荷物を持つ分量は限られている。せいぜい、リュックいっぱいである。そのなかに、古本屋で本を買えば、かさばるので重いし、帰りの近鉄線が混み合えば、置く場所にも困る。
だが、足が、もちいど商店街に近づくに連れて、だんだん遅くなり、あの二階へ上がる階段を見ると、見ないふりをして通りすぎてしまおうと、心でいくら思っても、足がなぜか、重くなり、階段の真ん前で、止まってしまうのである。
そこから、ここは、歌の文句じゃないけれど、越すに越されぬ田原坂、と自分の脳内で名付けている関所のような古本屋なのだ。なんか、馴染みの居酒屋についつい、寄って一杯飲みたくなる飲兵衛さんみたいな、話だが、なぜか、この古本屋には、そうした魔力がとぐろを巻いているのかもしれない。
神田の古書街にも、もちろん、よく通った。せかっく来たのだから、と、神田の古書店を何軒もはしごをする。挙句、買った本を持ちきれず、ダンボール箱に詰めて、近くのコンビニから宅配便で家まで送ることが、多かった。
本はかさばる上に、重い。本の重さの大部分は、湿気の水分だというが、ほんとだろうか?最近の工業生産の紙がとくに、重い。江戸時代に作られた、和紙の本は、手に取っても非常に軽い。いまも、小唄の本や、絵草紙などを持っているが、ところどころ、虫食いのある江戸本をめくりめくり、挿絵の版画を眺めたりして、けっこう楽しめる。
さて、この日も、マトンカレーを食べて、見過ごすつもりで、この、もちいどの田原坂へ差し掛かったのであるが、あえなく、撃沈し、足は、勝手に勝手知ったる二階へと、上がっていくのであった。
年末らしく、階段の上りのとっかかりに、来年の日めくりカレンダーが、飾ってあった。未年の絵が描かれていた。来年は、羊年なのだ。
ちょっと、見るだけよ、買うのは、ダメダメヨ・・・・・のつもりだったのだが、やっぱり、少しだけ、買ってしまった。
買ったのは、文庫本中心で、多くはない。多い時は、この店で一五冊から二〇冊くらい買うのだが、それに比べたら、買わないに等しい。
今回、買った本は、次のようなものだ。
●「吉野葛・蘆刈」谷崎潤一郎 岩波文庫
こないだから、探していたのだが、出てこないので、また買ってしまった。件の、吉野千本桜という浄瑠璃芝居で、「いがみの権太」の出てくる寿司屋の段、釣瓶寿司屋の話が、谷崎潤一郎の、この小説に出てくるのだ。確実に家のどこかにあるという本を買うのも、癪だが、見つからない本は、ないのと一緒なので、この際、已むをえない。
せめて、この文庫は、紛失しないように、いつでも分かる場所に置いておきたい。それにしても、こんな、狭い書斎の中で、どこに、隠れているのか。考えるだけで、ほんと、ダメだなあと、気分が滅入る。記憶力の衰えを感じる。
●「色街をゆく」 橋下五泉 彩図社
全国各地に残る遊郭、歓楽旅館の探訪ガイドブックのような紀行文。あまり、詳しくはないが、簡単な探訪の手引本として、軽く読める。
ちなみに、この本には、奈良編には、木辻と生駒が紹介されている。たった、二箇所だけ、というのが、残念なところである。ほかに、奈良には遊郭の跡が残っている場所として、欠かせないのが、大和郡山だ。ここには、有名な「洞泉寺町」と「東岡町」がある。戦後も、赤線として、営業を続けており、いまも、その家屋が当時の風情を残している。この大和郡山くらいは、紹介してほしかったなと、思う。
ほかには、「猿沢の池」の側にある勝南院町、元林院町の町筋は、古くから色街として栄えた場所だ。ここは、明治に入ると遊郭の設置が許可される。それ以後、この地は、娼妓も抱える歓楽街となり、大正・昭和初期にかけては置屋16軒・芸奴200人ほどが居た遊興の地であった
ただ、いま住んでいる人は、昔は、この地が色街だたっというようなことは、あまり好まれない。当然だろうけど。でも、そうだった、ということくらいは、どこかに、残しておきたいというのも、人情である。東京の浅草の川向うに、かつては、永井荷風の小説にも出てくる赤線「玉ノ井」があった。いわゆる私娼窟である。しかし、地元の人は、そういう雰囲気を嫌い、地名も「東向島」と変えてしまった。
なにもかも、均質化してしまう時代の中で、しだいに消え行く土地土地の風情や風景の記憶。その、一端なりとも、眺めてみたいと、思うのである。よく、昔のものを、保存しようとか、市民運動が起きて、取り壊し反対、などと、デモや抗議集会などを、しているニュースがあるが、なぜか、こういう風俗?に関しては、保存を訴える市民の声が、あがることはない。むしろ、早く消えてしまいやがれ、と、憎まれている日陰の存在なのだろうか?光が差せば日向の裏には、日陰もできる。白い紙にも裏表。陽のあたる表側だけをありがたがり、裏は知らぬというのでは、あまりに、情無しではあるまいか。
●「自虐ドキュメント 往復書簡」 中村うさぎ マツコ・デラックス 双葉社
こんな本があることすら、知らなかった。いつの間にか、キワモノがブームらしい。対談集が、これで、二冊目だと帯に書いてあった。二人は、テレビ東京の「五時に夢中」のレギュラー出演者だった。関西では、放送しなかったのかもしれない。この番組は、けっこう、マイナーな面白さがあった。実は、ひそかに、中村うさぎの、愛読者である。これまで、読んだ中でおもしろかったのは、小説「愛と資本主義」。中村うさぎは、現代では珍しい無頼派だと、思う。作家も芸人も、みな、去勢されたようなおりこうさん、常識人間になってしまった中で、中村うさぎは、孤高の無頼漢、我が道を行く。けっこう、茨道なんだけど、そんな、作家はjほかにいない。世間に背を向けているって意味では、まあ、マツコ・デラックスと似たもの同士なんだろうけど、けっこう、マツコは、世間に媚びてるところが鼻につくけど、どうなんだろ。中村うさぎが、マツコの、どこが気に入って、どこが、気に入らないのか、その辺を、この、対談集で見てみたいような気もする。
●「風土」 和辻哲郎 岩波文庫
昔、読んだことがあるけど、手元にない。文庫本なので、簡単に読めそう。地理の教科書みたいだけど、風土から民族や人間を考察した哲学書っぽい一冊。というか、哲学書だと、されている。人間は、時間的存在でもあるが、同時に、空間的存在でもある、と考えて、その、空間を哲学する意味で、世界の地理を取り上げて、和辻は考察しているのだろう。視点が、独特だと思う。たしかに、乾燥した砂漠で生きている人間と、日本列島みたいな四季のある列島に暮らす人間とでは、宗教から日常感覚まで、違ってきて当然なんだろうし。哲学書は、何が書いてあるかを知るのもいいいんだけど、その書かれたこと、つまり哲学者の思索に触発されて、いかに自分で思索して、自らに問いながら、自問自答しつつ、自分の考えを深めていくことのほうが、大事なんだろうと、思う。
●「日本名僧列伝」 柏原祐泉 薗田香融 現代教養文庫
名僧が、それぞれ、なにを瞑想していたのか?そこまで、深く考察して書かれていれば、なお面白いのだけれど、とりあえず、買ってみた。奈良は、神社仏閣だらけなので、奈良の聖地探訪の折に参考になるのではなかろうかと・・・・。
●「鸚鵡籠中記」上巻 朝日重章 岩波文庫
これは、元禄時代に生きた武士の日常生活をこまごまと書いた日記。当時の武士の暮らしを知るためには欠かせない一級資料。文庫本には、上下二巻が揃いだが、上巻しかなかったので、値段も安かった。自分の仕事だけでなく、殺人、捕物、心中、など世間を騒がせた事件の記述も多く、元禄一五年十二月には、赤穂浪士の仇討ちの件も、書きとどめている。余談だが、こういう日記を読むと、江戸時代の情報の伝達速度は、いま思っているより、はるかに、速かったことがわかる。
●「同和と銀行」森功 講談社文庫
三菱UFJ銀行大阪淡路支店と同和のドン・小西邦彦の融資をめぐるメガバンクと同和との、大阪府、大阪市行政を巻き込んだ暗闘を抉るドキュメントだ。日本中が狂奔したバブル景気の中で、大阪で、いったい何が起きていたのか。いま、超不景気の中で、あの時代を振り返ってみると、すべては、夢のまた夢の跡、跳んではじけたシャボン玉、なのかもしれない。
ほかにも、買いたい本は、いくつもあったが、一応、眺めただけにした。
この店は、気さくなお姉さんと、若い男の店員が、二人交代で、店番をしている。今日は、お姉さんの店番だった。痩身で、健康そうな顔色。ざっくばらんな、接客で、一見、劇団の中堅役者のアルバイト、という風情もないではないが、古本業が本業なのだろう。
いまは、古本屋で、儲かるという時代ではないのに、それでも、頑張っているようだ。もちいど商店街には、ほかにも、二軒ほど、古本屋がある。古書店は、やってみたい商売ではあるが、採算の取れる自信がまったくない。才覚がないので、商売も、会社経営も、とても、無理だ。
重くなったリュックをかついで、そのまま、商店街を抜けて、奈良町へ入る。
奈良町の案内所がある。
そこを、ちょっと、冷やかして、次の見物へ移ることにしよう。
次の見物目標は、「元興寺」である。奈良町に古くからあるお寺なのだが、その見物前に、案内所へ立ち寄った。
ここで、若い女性の案内係に、つまらぬオヤジギャクを、言って、結果は、ひょえええ・・・・・・・まったく相手にされない!というみっともない失態を演じるのだが、それは、この次に。
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Posted at
2014/12/28 20:38:53
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