18日(土曜日)奈良市へ出かけたおりに日本酒「風の森」を買った。
「風の森」はJR和歌山線「御所駅」の近くにある「油長酒造」という造り酒屋が製造している日本酒である。油長は「ゆうちょう」と読む。もともとが油製造問屋を営んでいたが、亨保4年(1719年)に酒造りを始めたというから300年ほどの歴史をもっている。
奈良県は室町時代から酒造りが始まったと言われ酒造りの歴史は古い。
その中でもこの油長のある地域は地名を「風の森」といい金剛葛城山系の地下水が豊富に湧きだしている。
「風の森」は奈良県でもとくに味のよい米が採れる場所として有名である。そこで主にこの地で育てた米と地下水を使って酒づくりをしているのが油長酒造である。
とくに酒米は厳選した酒造好適米の山田錦、雄町を使うほか「風の森」で育成したアキツホ、キヌヒカリなど地元米を酒米として使っている。
最大の特徴はすべての酒にアルコールや水を加えない火入れをしないことである。
つまりすべて純米酒、すべて無濾過、すべて無加水、すべて生酒である。
ここで簡単に「無濾過」と書いたが酒造りで「無濾過」の酒を出せる酒蔵はそうそう多くはない。
日本酒は米と米麹と水を混ぜてつくるのだができあがった醪(もろみ)を布で濾して酒と酒かすに分ける。この濾す前の酒を「どぶろく」という。濾された酒はまだ白濁しているがしばらくすると沈殿して濁りのない上澄みができる。この上澄みを取るのだがこの状態での上澄みは黄金色をしている。そこで活性炭の粉末を入れると余分な雑味や色が炭素に吸着されて無色透明なおいしい日本酒ができあがる。
このような上澄み原酒に残っている雑味や色を除去する過程を「炭素濾過」という。
「風の森」の「無濾過」とは布で濾す前の「どぶろく」のことではなく炭素濾過を行っていない酒ということだ。
日本酒の風味を損なう原因は雑味や異臭、色などでありこれらは炭素濾過を行うことで除去できる。言葉を変えれば「誤魔化せる」ことになる。だが炭素粉末を入れすぎると一見きれいな酒ができるようだが酒本来の旨味までなくなってしまう。良心的な酒蔵はなるべく炭素濾過を抑えめにしているはずだ。
だがこの「風の森」のように「炭素濾過」を抑えるのではなくまったく炭素粉末を入れない「無濾過」で酒を出すというのは濾過の必要がないほど雑味がなく完璧な味の旨味やバランスのとれた酒の醸成技術があるという証左である。「無濾過」はよほど酒づくりに自信がなければできる技ではない。
「無加水」というのはふつうは醪をしぼった酒は度数が高いので水を加えてアルコール濃度を調節するのだがそれをしない酒という意味である。この加水しない酒のことを「原酒」という。
「風の森」は無加水なのですべて「原酒」ということになる。
またふつうの日本酒はできあがって貯蔵する前と商品として瓶詰めし出荷する前と二度火入れと言って加熱殺菌をする。「生詰め」というのは酒ができあがって貯蔵する前に一回だけ火入した酒のことで出荷の前には火入しない酒のこと。「生貯蔵酒」というのは貯蔵前には火入れせず瓶詰めする前に一回だけ火入した酒のことである。
「生酒」とは一度も火入れをしない酒のことである。
「風の森」はすべてが生酒である。
冷温で管理された無濾過の生酒であり加水されていない原酒である。
「唐津焼き風の湯のみ」(朝鮮人陶工の作品)
生原酒で出荷される日本酒には醗酵中の炭酸ガスがそのまま封じ込められている。
したがって開栓するとき注意しないと瓶内部に閉じ込められている炭酸ガスの圧力で栓が飛び出すことがある。常温で放おっておいたり揺さぶったりしてから開栓するとかなり危険である。
「風の森」は2001年から製品化において純米酒・純米吟醸・純米大吟醸の純米系のみの仕込みになっている。
そこで特筆したいのは価格が決して高くないことだ。
むしろこれだけの品質の酒にしては相当に安いと思う。
これほどの生原酒が普通の酒の値段で買えるとは驚きである。
「風の森」を扱っていたのはJR奈良駅二階の酒屋さんであった。
「もも太朗」という店で隣には奈良名物の「大佛プリン」を売る店があった。
この店は「風の森」が一押し銘柄らしくほとんどの種類が揃っていた。
品種が多くて迷ったが「風の森 キヌヒカリ 純米大吟醸しぼり華」720mlを買った。
これは酒米ではなく地元産の食用米「キヌヒカリ」を使った酒である。
値段は消費税込みで1566円であった。
この酒の製品情報は次の通り。
原材料:米・米麹
使用米:奈良県産キヌヒカリ100%
精米歩合:45%
日本酒度:-3.0
酸度:1.7
もろみ日数:36日
酵母:K-7系
仕込み水:金剛葛城山系地下100m湧き水
内容量:720ml
保存方法:要冷蔵(クール便推奨)
慎重に開栓しガラスコップに注ぐと透明ではなく微かに白濁しており微炭酸がしゅわっと沸いている動きがわかる。
口に含むと炭酸の刺激と生酒の香りとふくらみがひろがりまさに生の酒という味がした。洗練された野性味が躍動している。醗酵している酒樽から直接汲み出して飲んだような味わいは極上というほかはない。
これだ、これ。これこそ日本酒の醍醐味というものだ。
しばらくして二度目に開栓するとポンと炭酸ガスの弾ける音がした。
最初の開栓でこれまで冷温の中でじっと眠っていた生きている酵母たちがいっせいに目覚めたのである。
一杯、また一杯と酒がすすみ半分ほど開けてしまった。
日本酒はふつうは火入れをした形で売られている。だが生きたままの酵母があり醗酵して微炭酸が弾ける生原酒の味わいはまた格別のものだ。酒蔵で飲む出来立ての日本酒の味わいである。
冷蔵庫に入れ翌日また飲んだ。
今度は最初のキレの良い刺激的なダイナミックさは影を潜めフルーティーな甘みのある上品な酒に変身していた。
一瓶で二度違う味を楽しめる酒であった。
奈良県の酒として全国の日本酒ファンにお勧めしたい酒である。
「砥部焼」(愛媛県)の酒器。この肉厚のどっしり感と砥部らしい呉須色の青模様がいい。華麗繊細な有田焼と対照的で朴訥な日常雑器が砥部焼の持ち味だ。また白磁だが微妙に灰色っぽい。これは砥部の土によるものだ。もともと砥部は硯の産地であり白磁に適した土はなかったのである。そのため磁器ではあっても砥部硯だった時代をいまだに砥部の土が記憶しているのかもしれない。
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