※.1 登場人物の設定は著者の都合のいい解釈 ( 妄想というw ) で設定していますので、キャラクターのイメージとは異なる場合があるかもしれないということをご了承の上でお読みください。
( 書いてみたいから書いた、そういうお話です )
※.2 実在地域名等も出ますが、架空の設定で鎮守府を設定しております。
実在組織等とは一切関係ございません。
※.3 このお話はあくまで " 艦娘これくしょん " の二次創作のお話です。
※.4 超長文です。ご注意ください。
※.5 誤字脱字はご愛嬌と言う事でご了承ください(笑)
…見つけたら直しますけどw
この注意点を踏まえて、お読みください。
……………
…………
………
……
…
プロローグ 〜とある泊地に佇む男と戦船達〜
〜20XX年〜
…世界各国が謎多き深海棲艦により制海権・制空権を失い、混迷の渦の只中にあるこの時代。
…そんな最中、突如現れた古の大戦で生み出された軍艦の魂が宿った女性、艦娘の活躍により各地で起こった戦火は、予断を許さない状態ではありつつも、落ち着きを取り戻しつつあった…。

…そんな深海棲艦と対峙すべく日本各地の海岸に配備された鎮守府や警備隊・泊地の中の内の一つが、ここ、大分県佐伯湾の近くに存在していた。
先の大戦時に旧海軍の望楼があった、鶴御崎燈台の程近く。
すべての船乗りに等しく道標を灯す瀬戸内海への玄関口の側に門番のように佇んでいた。
これはその泊地で綴られる日々の話である。
………
……
…
AM 0400時
夜が明ける少し前の時間。
この泊地での1日が始まる。
???「んぁぁぁ〜…今日も1日気張りますかぁ〜」
泊地の司令部本棟の廊下を1人、背伸びをしながら歩いている男がいる。
年齢は20代後半程の成人男性。
この泊地の長を務める者。
艦娘の皆より " 提督 " と呼ばれている男だ。
※艦娘によっては呼び方が異なるが…。
この職に就いて月日が経っていることもあって手早く身支度はしたが、前日から蓄積され続けている疲労は抜けきっておらず、少し気怠そうな面持ちで、司令部本棟の執務室に通じる長い廊下を彼の革靴が甲高い足音を立てて響く。
…やがてその甲高い足音は執務室の前で止まった。
…その執務室の扉の端々から光が少し漏れている。
提督「…ふぅ…まだゆっくりしててくれてもいいのになぁ…」
提督は短い溜め息を吐いて呟き、やれやれという面持ちで、執務室の両開きのドアの右側を開けた。
すると執務室の中には既に人の姿が。
長い黒髪に金色のカチューシャの様な艤装、巫女服を模した紅白の衣装を纏った女性が、執務席の隣に設けられた秘書艦用の机の前で書類の確認をしていた。
その女性は、提督が開けたドアの音にすぐさま反応して、振り返って屈託の無い表情で出迎えた。
???「…あっ、提督!おはようございます!」
提督「やあ、おはよう、榛名」
この泊地では、週ごとに秘書艦が交代となる。
週始めの今日から1週間は、ここにいる " 金剛型戦艦 3番艦 榛名 " が務める。
…ちなみに秘書艦を毎日代われと言う話が他の艦娘からあったが、執務の引き継ぎだのなんだのが毎日となると、提督と艦娘 ( 主に艦娘 ) の負担が尋常ではないので、提督が真っ当な理由をつけてバッサリ却下したと言う話は、完全な余談である。
榛名「今日から1週間、よろしくお願いします!」
提督「うん、こちらこそよろしくお願いするよ」
お互い、姿勢正しく頭を下げて仕事始めの儀式の様なものを済ませると提督は、ひとまず軍帽を壁の帽子掛けに掛けてから、彼の定位置である執務席に腰掛けた後、榛名に言葉を投げ掛けた。
提督「ふぅ…しかし榛名、毎回言ってるとは思うけど、秘書艦として執務室に入るのは総員起こしが終わってからでもいいんだぞ?」
榛名「それはそうなのですが、先週の土曜に瑞鳳ちゃんからの引き継ぎで、執務の内容が気になってしまって…」
…ちなみに先週は 祥鳳型 軽空母 2番艦 瑞鳳が秘書艦を務めていた。
提督「…ん?何か問題があったか?…確かに瑞鳳が秘書艦勤務を始めたのは先週が初めてだが…」
榛名「いえ!資料もきっちり纏めてあって、先週の引き継ぎの時も不備はなかったんですが…」
提督「…ですが?」
榛名「引き継ぎの際に初めての1週間の秘書艦任務で上手くできたか、実感があまり湧かなかったと言っていたので、少しでも早くその不安を解消できるように、助言出来る事が無いかと思って早く来てしまいました…」
あはは…と言って少し困った顔をしながらも、秘書艦経験の乏しい瑞鳳を元気付けようとする榛名。
…その様子を見て提督は少し考えてみた。
提督「うーん…それは俺の瑞鳳とのコミュニケーション不足が原因か…まだまだ精進が足らないな…」
…ここは軍隊組織とは言えど何分女性過多の職場だ。
(…というか、俺以外全員女性)
そういう一人一人のきめ細やかな配慮にも、神経を使わないといけない。
他の秘書艦を務めてもらっている娘達は、気心が知れている者も多いので、ついつい瑞鳳の秘書艦終わりの際の感想が曖昧だったのかもしれない。
榛名「あ、いえ!提督は終業時にちゃんと褒めてくれたと言ってましたし、瑞鳳ちゃんは、他の方の視点でどうだったかが気になってたみたいです!」
提督「ふむ…そうか…それならいいんだが、もうちょっとしっかり話してみるよ。榛名からも秘書艦の先輩としてのフォローを頼めないかな?」
榛名「はい!もちろんです!…あ、提督、目覚めの一杯を淹れてきますね!」
提督「ああ、ありがとう…1番秘書艦歴の長い榛名には、何かと苦労をかけるな…」
榛名「い、いえ…好きでやっていることなので…///」
榛名「(…少しでも長く提督と一緒に居たいですし…)///」
………
……
…
…うん、みんないい娘ばかりでよかったよ…。
こうして今日の1日は、榛名が淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、出撃・演習・遠征・開発・入渠の予定の確認をしながらの二人だけのひと時が過ぎてゆき…。
0500時
今日も始まる。
世間的には非日常な日常が。
………
……
…
…0500の経過から程なくした頃…。
次々と遠征に出ていた部隊が帰ってくる。
資源や資材を集めて、継戦能力の維持と搭載兵器の開発・改修・建造をする為に、この泊地だけでなくどの鎮守府や泊地、警備隊でも大事な生命線だ。
大きな作戦がない日常である普段は、これを念入りに行う。
???「作戦完了で艦隊帰投したぜー」
???「作戦終了、報告見るクマ〜」
???「作戦終了で艦隊が帰ってきたよー!」
次々と執務室へ艦娘達がなだれ込んでくる。
1人は獣の耳の様な艤装がフヨフヨと浮かんでいる黒ぐろとしたショートヘア、そして左眼に眼帯をした艦娘。
2人目は、栗毛で毛量が多く、脳天の髪の毛が面白い格好で跳ねて、そして特徴的な語尾のある艦娘。
3人目は、ハツラツとした黒髪ショートヘアで日焼けして少し色黒で、いかにも体育会系っぽい艦娘。
この3名が遠征結果を報告に来た。
提督「ああ、みんなおかえり!首尾はどうだい?」
???「へへっ♪誰に向かって言ってんだよ〜」
???「ふっふっふ〜…良い感じだクマー!」
???「もっちろん!バッチリ資源確保してきたよー!」
まずは男勝りな口調の艦娘は、
天龍型 軽巡洋艦 1番艦 天龍。
語尾が「クマー」な艦娘は、
球磨型 軽巡洋艦 1番艦 球磨。
そして元気一杯に受け答えしてくた艦娘は、
長良型 軽巡洋艦 1番艦 長良。
6席編成の内、旗艦先導に軽巡洋艦を付けて、随伴艦は駆逐艦5隻で構成された3部隊が、無事資源を調達して帰ってきた。
提督「お疲れ様!いつものことだが、全員艤装の燃料弾薬の補給と、点検が終れば朝食を摂ってくれ。
ここから各隊に別命を割り振る。
第2の天龍と第4の長良は午前は休んでいてくれ。午後から別の遠征に出てもらう。
第3の球磨は連勤だから現艦隊員全員ゆっくりすると良い。…ああ、それと皆、報告書の提出も忘れないように」
天龍「また遠征かよー、たまには出撃させてくれよなぁ…」
提督「今はだめ。天龍が旗艦で駆逐艦達を引っ張ってくれると、何かと総合的に良いオマケがついてくる。…頼りにしてるんだから頼むよ」
天龍「へーへー、そうかいそうかい。…まぁそう言われて悪い気はしねぇーけどさ、たまには暴れさせろよなー。あ、榛名さん、報告書はこれでいいか?」
球磨「あ"あ"ぁ…やっと終わったクマぁ〜。提督ぅ〜腹ペコで死にそーだクマぁ〜」
提督「お疲れ様、球磨。暫しの休息を取ってくれ。朝食の鮭の塩焼きをたら腹食べるといい」
球磨「やめろクマぁー!それを先に言われたら艤装の手入れをほっぽり出して朝食に行っちゃいそうだクマー!…ぜぇぜぇ…全部終わらせるまでの我慢クマぁ…秘書艦さん、報告書の受け取って欲しいクマぁ…」
長良「司令官、補給、ありがとうございます!また出れるように皆に伝えておきますね!」
提督「あぁ、第4の伝達の方も頼むよ。出撃までは少しの間だがゆっくりしてくれ」
長良「はぁーい♪それでは後程!榛名さん、報告書の受理、よろしくお願いします!」
榛名「…ふむ…ふむ…はい!皆さんの報告書、確かに受理しました!お疲れ様でした!」
天龍・球磨・長良
「それでは失礼(するぜ)(するクマー)(します!)」
遠征部隊の旗艦近く部屋を後にしたのを見送れば、提督と榛名は報告書の詳細のチェックに入った。
提督「…榛名どう?やっぱり成果出てるかな?」
榛名「ええ、ようやく数が揃って一艦隊につき大発動挺4隻配備と、戦意高揚状態での遠征では、普通の状態に比べて格段に資源と資材の集まり具合が違いますね…」
提督「…まぁお陰で遠征に出すまでに、下拵えの仕事が多くて敵わんなぁ…」
榛名「それは言わない約束ですよぉ…」
最近、近海の哨戒任務を回してもらうようにしてから、皆程よい緊張感を持って職務に就けている事がいい刺激になっているようだ。
…近海での深海棲艦の活動が落ち着いてきているとは言っても、一寸先は闇。
貨物船やタンカー、客船と言った非武装船がちょっと外洋を航行しようものなら、それに深海棲艦が群がってくる。
立地的な都合上、偶発遭遇による救援要請もこの鎮守府では珍しくない。
身近の海を守り、艦娘達のモチベーションを維持し続けるのも、この泊地の役割なのである。
0600時
泊地にいる艦娘達を起こすためにかける号令「総員起こし」を掛けて、この泊地での1日が始まった。
遠征組の帰投・出撃編成の伝達・再出撃の伝達を済まして少し一息ついた頃、1人の艦娘が訪れてきた。
コンコンコン
提督「…ん?来たか…どうぞー」
提督は習慣であるかのように時計を確認してその人物を迎えた。
???「提督、おはようございます」
提督「やぁ、大淀、おはよう」
榛名「おはようございます、大淀さん」
彼女は、大淀型 軽巡洋艦 1番艦 大淀。
彼女の仕事は大本営と通信、任務に関する受付
、この泊地の資源の帳面といった様々な雑務を引き受けてくれている艦娘だ。
大淀「本日、大本営より届いた " 案件 " はこちらとなります」
…ちなみに " 案件 " というのは、大本営より発令されるノルマみたいなもので、項目によって様々な案件があるが、その案件の与えられた条件を満たすと、報酬として資源・資材・貴重な装備等が提供されるので、遠征と合わせてこの泊地の日常として消化されている。
提督「了解、いつも通りのヤツと週間・単独の任務の追加だね。とりあえず普段からやってるのと週間の案件を片っ端から受けると伝えてくれないかい?」
大淀「了解しました。よろしくお願いします!」
提督「…話は変わるけど、航空母艦を投入できる海域では装甲空母が心強いし、もう1隻あればもうちょい攻略が楽になるのになぁ…」
大淀「私達の泊地には翔鶴さんしか装甲空母が居ませんからね…」
榛名「瑞鶴さんは改二への改装練度は足りてますが、サラトガさんは少し足りてませんね…それにどちらも装甲空母化しようとすると、試製カタパルトと設計図が足りませんし…」
提督「ウギギギ…」
足りないのはわかってはいるが、痛い所を突かれてぐうの音も出ない提督。
そこにすかさず大淀がフォローを入れる。
大淀「提督、それならこちらの単独の案件を達成すれば、大本営から提供されますよ?」
提督「あぁ…あの任務なぁ…一部の娘の練度は大丈夫だが、他の指定の娘達の練度が少し低いなぁ」
榛名「…それにその中でも2次改装への練度は足りていますが、設計図がないので改装待ちの娘が増える一方ですね…」
提督「とりあえず当分は装甲空母はお預けだなぁ…大規模作戦も来月には発動と聞くし、資源の備蓄に専念したい…今回の設計図は駆逐艦に回すかぁ…」
大型艦の艦娘の改修にもそれなりに資源と特殊な物を使う艦も少なく無い。
その点駆逐艦は、2次改装であっても要求される資源・資材は比較的軽く、海域によっては駆逐艦を多用する軽い編成で挑まなければならない事も珍しくない為、数が多いがきっちり練度を積み重ねて層を厚くすることは艦隊を勝利に導くためには、必須とも言えるのだ。
大淀「そのほうが賢明ですね…しかし、そこまでおっしゃるなら大型建造を数回挑戦されては? 今の資源の備蓄量なら数回挑戦出来ますよ?」
提督「大鳳かぁ…欲しいかと言われれば欲しいが…まぁボーキと相談だなぁ…。今は踏ん切りがつかんからやめとく…やっぱり既存空母から装甲空母化出来る娘達を改装した方が、一時の消費コストが安いし…」
大型建造は資源にとっても、とてもハイリスクな事で、資材を投入したからと言って必ずしも成功することが無い、言わば博打の様な物なのである。
その点、既存の艦を改装した場合の資源コストの差は、大型建造で何度も失敗していることを考えたら、計り知れない程に安上がりに済むのだ。
大淀「了解しました。いずれにせよその際に資源でのお話があればご相談ください。それでは私は大本営に受ける案件について報告して参ります」
提督「ん、よろしくお願いするよ」
大淀はそう言うと執務室から退出していった。
………
……
…
提督「…しかし不思議なもんだなぁ…」
大淀が退出してから少し間を開けて、提督は呟いた。
榛名「えっ?提督どうしました?」
提督「目標を立ててその量を確保しても、まだ貯めとかないと…という気持ちになってしまうねぇ…今ここにいる娘達にはあまり資源を気にせず動いてもらいたいし…」
榛名「ふふふ…提督はお優しいのですね…お気遣いに感謝いたします♪」
提督「ん〜…優しい…かぁ…どうだかなぁ…単なるケチなだけなような気もするよ…」
榛名「(…ほんとにケチなら、すぐ入渠させてくれたり、修復材を惜しげもなく使ってくれないし、色々気遣いしてもくれないと思いますが…)」
提督「…あぁそうそう、今日の南西海域への派遣の編成なんだが…」
そんな榛名の内なる感想の事など露知らず、次の決め事に着手する提督なのであった。
0800時
そんな会話の少し後大方の日程を決めた後に、2人で間宮の食堂へ朝食を食べに行き、執務室に戻ると大淀より、演習相手の編成表がFAXで送られてきていた。
この泊地の立地上、演習の中継地となることが多い為、演習を受ける側になりやすいので、相手から事前に編成表が送られてくる。
提督「…戦艦4に防空巡洋艦2…しかも超高練度…どんだけゴリゴリ編成なんだよ…単純なド突き合いが所望ならこちらもそれなりの編成で行かないとなぁ…」
榛名「如何なさいますか?」
提督「旗艦は榛名で、随伴で長門と陸奥とビスマルクの戦艦4で重巡枠に鈴谷、軽巡枠に阿武隈を充てるか…相手方がこちらへの到着時刻予定時刻は0930だから、それまでに打ち合わせをしたいな」
榛名「承知しました!それでは準備に取り掛かります!」
提督「それじゃ執務室に演習に参加する娘達をを集めよう」
提督はそう言うと、館内マイクのスイッチを押して伝令を出した。
提督「演習連絡、長門・陸奥・ビスマルク・鈴谷・阿武隈は、至急、執務室に来られたし」
…数分後、執務室のドアの前に呼ばれた艦娘達が集まって、ドアを叩いた。
コンコンコン
………
……
…
???「提督、演習編成隊5名、参りました」
ノックの後にとても凛々しい声が、執務室に飛び込んできた。
提督「おぉ、来たか、どうぞー」
ガチャ…
提督の声を聞くとドアが開き、艦娘達がゾロゾロと入ってくる。
入ってくるとすぐに提督の座る執務席の少し間を開けた前に横一列並んで、先程ドアのノック時に声を掛けてきた艦娘が、他の艦娘が並んだのを確認してから、口を開いた。
長門「戦艦長門、以下4名、只今参りました」
長門の一言の直後、全員提督に向かって敬礼をする。
これに対して、提督と榛名も席を立ち、敬礼で返礼する。
提督「号令からあまり間を置かず、集まってくれたことを感謝する。さ、まずは席にかけて欲しい」
提督がそう言うと、皆、執務室の傍らにある応接席のソファーに移動して腰掛け、提督は応接席上座に座り、その傍らに榛名が立ち控えた。
提督「さて、早速だが今回の相手についての詳細を伝える…榛名、よろしく頼むよ」
榛名「はい!今回の相手方の編成は、戦艦4、防空巡洋艦2の6隻編成です。そして平均の練度は110を超えているかなりの高練度艦隊です」
長門「…ほぅ…」
陸奥「…ふぅん…」
ビスマルク「…っ!」
鈴谷「わぁ〜お…」
阿武隈「あ、相手さんゴリゴリですねぇ…」
相手の詳細を聞いて各艦娘の反応は様々で、
腰よりも先に伸びた黒髪とスラリと伸びた肢体、マントの様なコートを羽織った艦娘、
長門型 戦艦 1番艦 長門は、腕を組みながらやってくる強敵との対戦に対して望むところ、と言うような不敵な笑みを浮かべ。
こちらは栗毛のショートヘアで、長門同様のスタイルで、長門とお揃いで細部の違う服装を纏った艦娘、
長門型 戦艦 2番艦 陸奥は、相手に対してこちらの顔ぶれは、まず妥当と判断したのか、落ち着いた様子。
その一方で、ブロンドで腰辺りまで伸びたロングヘアーで、こちらもモデルのような体型をした艦娘、
ビスマルク型 戦艦 1番艦 ビスマルクは、先の長門型の2人の反応とは対象的に、何やらソワソワ落ち着かない様子。
こちらは女子高生の様な茶系のブレザー服姿で、先の戦艦勢に比べて、背はそれほど高くないがスタイルも良く、腰より少し上辺りまで伸びた緑色の髪の毛の艦娘、
最上型 航空巡洋艦 3番艦 鈴谷は、相手の編成内容を聞くと、最初は「うへー、キツそー…」と顔に書いてあるような表情を浮かべつつも、その直後に苦笑いをしながらも、「やるっきゃないねぇ」と気合が入っている様子。
そして、こちらも鈴谷同様、高校生のような外見で、黒基調のセーラ服を纏い、背中と腰の間程に伸びた金髪で、如何にもセットに時間がかかっていそうなツインテールの艦娘、
長良型 軽巡洋艦 6番艦 阿武隈は、相手の艦隊に対して自分は誰とマッチアップするかを想定して、自分に出来そうな事を頭上内で想像している様子。
この各々の反応を見てから、提督は口火を切る。
提督「みんな、何か思うことはあるかい?」
すると、すかさず長門が、軽く挙手をして提督に問いかける。
長門「提督、相手は防空巡洋艦を繰り出してきている様だが、艦種はなんなんだ?」
提督「摩耶とアトランタと聞いている」
長門「…なるほど…それではこちらは空母を投入しにくいな…」
提督「そうだねぇ…みすみす艦載機を灰にするのはゴメンだからなぁ…完全に力対力のド突き合いになるから、戦艦勢の奮闘に期待しているんだ」
長門「ふふ…望むところだ…頼ってもらえる事は何よりだ」
…むしろ複数の高練度の戦艦の艦娘とド突き合える機会は滅多にないので、内心戦艦としての血が騒ぐのだろう。
提督には長門が静かにしていながら、ワクワクしているよう見えていた。
…うむ…実に頼もしい人だと思う。
提督「頼んだよ、長門さん」
長門「ん…あ、あぁ…私からは以上だ」
提督「それじゃあ、他に質問はあるかい?」
鈴谷「はいはーい、提督しつもーん」
長門からの質問を終えると、間髪入れずに鈴谷が挙手した。
提督「ん?鈴谷なんだい?」
鈴谷「えっと、確認なんだけど相手に航空戦力は居ないの?」
提督「ん?あぁ、相手にイタリア戦艦や武蔵改二、航戦 ( 航空戦艦 ) の扶桑型も伊勢型も居ない。完全に戦艦同士の殴り合い専門みたいな編成だな」
…ちなみに提督が挙げた艦は戦艦でありながら、水戦 ( 水上戦闘機 ) 等の下駄履きと言われる水上運用が可能な航空機が運用できる艦で、油断して航空編成をしていないと、相手にあっさり制空権を取られかねないので、戦艦の艦種をきっちり把握しておくことが鍵となるのだ。
鈴谷「それじゃあ、アタシが水戦乗っけて制空権取っちゃえばいいってこと?」
提督「ん、察しがいいな、流石はウチの航巡トップの練度の持ち主、話が早くて助かるよ」
鈴谷「にっしっし〜♪」
ここに居る鈴谷は航空巡洋艦である為、普通の重巡洋艦に比べて下駄履きの積載数と種類が多く、同時に直接攻撃の為の主砲も備えているので、こう言った場面では非常に重宝する艦娘なのだ。
そんな鈴谷は、自分の思っていた事を提督も考えてくれていた事が、素直に嬉しくてご満悦の模様。
提督に向けてピースサインをしながら満面の笑みを送っている。
提督「…ただし気を付けてな…制空取ったら取ったで、精度は低いとはいえ集中砲火を浴びるかもしれんしな…油断と無理だけはしないように」
鈴谷「はーい、みんなの足を引張んないように目一杯がんばるよ〜っ!アタシからは以上でーす」
提督「ん、頼んだよ。…他には質問あるかな?」
阿武隈「あ、はい!提督、質問があります!」
今度は阿武隈が手をピンと伸ばして、すかさず挙手した。
提督「阿武隈、なんだろうか?」
阿武隈「皆さんは高火力艦だったり、水戦が積める航巡だったりと特殊だと思うんけど、私の役回りってなんになるんですか?」
そう言うと天井に視点を移して少し困り顔で、考える素振りを見せる阿武隈。
阿武隈が問いかけに対し提督が間を置かず、説明に入った。
提督「阿武隈には甲標的で先制雷撃をしてもらって、相手を撹乱してこちらの戦艦の射線を悟らせないように相手の注意を引き付けてほしいんだ」
阿武隈「…えぇっと…つまり…囮…みたいな感じですか?」
少し訝しげな表情で提督を見つめる阿武隈。
提督「まぁ、悪い言い方をするとそうなるなぁ…」
提督はそんな疑問の眼を向ける阿武隈に対して、話を続ける。
提督「相手の編成にある程度は合わせないといけないって点で雷巡 ( 重雷装巡洋艦 ) ではなくて、軽巡で先制雷撃ができる阿武隈を選んだと言う点…それに何より…」
阿武隈「…何より?」
提督「…当たれば相手方に被害が出せる雷撃火力とウチの軽巡勢で最高練度の信頼の置ける阿武隈に任せたい…この点が選んだ理由ではだめかな?」
…そう言うと提督は、阿武隈を真剣な眼差しで見つめた。
阿武隈「わ…わかりました…///提督にそこまで言われちゃうと、私、頑張っちゃいます!///」
提督の視線に耐えかねて顔を赤くして、今回の自分の選定に対する疑問がなくなったようで、提督の考えを了承した阿武隈。
提督「頼んだよ阿武隈、思う存分相手を引っ掻き回してくれ。
…皆もそうだが弾薬については遠慮はいらない。我が泊地の団結と力量を見せてほしい」
一同「…了解っ!」
提督「他には質問は…ないね。相手の詳細と我が艦隊の編成の経緯は以上だ。執務室を退出後、出撃準備と各艦との打ち合わせを頼む、榛名も行ってくれ」
榛名「了解です!…それでは皆さん、参りましょう!」
一同「応っ!」
提督「…それでは健闘を祈る、解散!」
各々が席を立ち執務室から出ていく。
…その中、提督はその中の1人の艦娘を呼び止めた。
提督「…あぁ、陸奥さん。ちょっといいかな?」
先程の会話で一言も発していない、陸奥だ。
陸奥「ん?なぁに?提督?」
出撃の為にガヤガヤと執務室を退出していく艦娘達の中で、提督の呼びかけに対して即座に反応した陸奥。
この時、提督に声を掛けられるのを見越してか、退席時に1番最後に席を外していたのだ。
提督「悪い、ビスマルクのことなんだけど…」
そう、陸奥同様に終始無言だったビスマルクについての話だった。
ビスマルクはこの艦隊では、建造されてからそこそこの練度にまで成長はしているが、あまり月日が経っていない。
先程までここに集まっていた艦娘達は皆、2次改装を済ませてからそれなりに時間が経っているのに対して、ビスマルクはまだ1次改装が終わって少し月日が経った程度。
彼女自身、初めての鎮守府を代表してぶつかり合う主力戦艦戦となって、緊張して終始無言だったと提督は見ていた。
陸奥「…えぇ、可愛そうなくらい緊張してたわね」
提督「俺にもそう見えたんだ…陸奥さん…ビスマルクのフォローを頼めないかな?彼女にとってキツイかもしれんが、今回のド突き合いはいい経験になると思うんだ」
陸奥「ふふふ…もちろんよ♪お姉さんに任せておいて♪」
そう言うと陸奥は提督に対してウインクをして、提督の頼みを快く受け入れた。
陸奥「それじゃあ、皆に遅れちゃまずいし、私は行くわね。」
提督「あぁ、陸奥さんも気を付けてな」
陸奥「ふふふ…♪ありがと♪それじゃあね」
陸奥はそう言うと駆け足で先に退出した艦娘達を追いかけて執務室を出ていった。
…と思ったら、閉じかけたドアが顔が出る分だけの隙間を開けて止まり、その隙間から執務室を出ていった陸奥が顔を覗かせた。
陸奥「…提督」
提督「…ん?何か言い忘れかい?」
陸奥「長門にもそうだけれど、いい加減 " さん " 付けはやめない?なんだか距離を置かれているみたいだから、お姉さん、少し悲しいわ…」
提督「…むぅ…」
陸奥「…ま、あなたの事だから何か思うところがあるんだろうけどね…また時間ができたらその理由を聞いてあげるから、覚悟しておいてね。それじゃあまたね♪」
陸奥はそう言い残すとドアを閉めて、駆け足の足音が執務室の前から遠のいていった。
提督「…他意はないんだけどなぁ…どうも慣れないなぁ…」
陸奥に言われた事は、わかっているけど中々直せない提督は、自嘲の感情も含めて執務室の天井を見上げた。
提督「…ふぅ…演習開始まではこっちはこっちで書類との格闘だな…どれどれぇ…」
演習の都合上、艦隊第1艦隊旗艦である榛名も退出して、ポツリ1人執務室に取り残され、オマケに陸奥にいきなりの宿題を投げつけられた提督。
演習相手の到着時刻までコツコツと書類の処理に取り掛かるのであった。
………
……
…
榛名たちが退室してから、事務処理作業を継続して執務室に引きこもっている提督の元に、艦娘が訪れて来た。
コンコンコン
???「司令官、居られますか?」
提督「…あぁ、居るよ吹雪」
声の主を誰か断言した提督。
するとおもむろに執務室のドアが開いた。
吹雪「失礼します!司令官!」
彼女は特Ⅰ型駆逐艦、またの名を吹雪型駆逐艦 1番艦 吹雪である。
この泊地の発足時に提督の元に初めて配属された艦娘で、最古参の艦娘だ。
吹雪「司令官、榛名さんからの伝達で、司令官の秘書艦代理を演習完了まで、この吹雪が務めさせていただきます!」
提督「…ん、ありがとう吹雪。とても助かるよ」
先程まで机にかじりついていた目線を上げて、手伝いに来てくれた吹雪に面と向かって感謝の意を伝える提督。
わかっていても、やっぱり相手の目を見てお礼を言わなければ…と言うのがこの提督の揺るがないスタンスなのだろう。
吹雪「い、いえいえ!///いつもこういった事をやっていただいて居るからこその私達なので、手が空いているのであれば、お手伝いします!」
提督「あぁ、…早速なんだか吹雪、これのチェックを頼めるかい?」
提督は、確認と記入等が済んで執務席の机の片隅に積まれた書類を、先程まで榛名が座っていた秘書艦席の机に移した。
吹雪「はい!お任せください!」
吹雪はその書類を受け取り、確認作業に入った。
………
……
…
カコン…カコン…
ペラペラ…カリカリカリ…ペラ…
カコン…カコン…
ペラ…カリカリ…カリカリカリ…ペタン
執務室に響くのは、部屋の隅に置かれた振り子の付いた大きな時計の秒針。
そして書類の捲る音と書き込みの音とハンコの音。
時々どちらかが声にならないような唸り声を上げたり、指摘点を言ったりと、何の色気もない時間が過ぎていく…が、この部屋にいる2人は、これらのものが何1つ不快ではなかった。
むしろ不思議な一体感のある空間となっていた…。
…そんな時、何気無く提督は顔を上げて、先程から一定の時を刻み続けている古時計を見上げた。
古時計「0915」
…相手方演習隊がこちらに到着時刻する時刻に迫っていた。
提督「…吹雪、一旦作業中断。ウチの艦隊と演習相手の出迎えと見送りに行くぞ〜」
吹雪「…はっ!!すす、すみません!つい夢中で作業してたら時間の確認を怠ってしまいました…」
提督「んにゃ、いいよ。それだけ集中できている事はいい事、一先ず事務仕事はここでキリを付けて第3スロープに行こう」
吹雪「はい!司令官!」
提督はそう言って机の上をある程度片付けて席を立ち、壁に掛けていた軍帽を被り、吹雪と一緒に執務室を出た。
ちなみにこの泊地には4つスロープがあり、第1と第2は、出撃や遠征の実働部隊が陸地より上り下りの際に使う。
1番稼働率が高く、工廠 ( こうしょう ) や入渠 ( にゅうきょ ) 槽に1番近いスロープ。
先程提督が言っていた第3スロープは、来賓やこういった演習相手を受け入れたりするのに使用する。
最後の第4スロープは、敵襲や緊急時にのみの使用前提の言わば " 隠されたスロープ " がある。
…余談だか、第4スロープが使われたのは、本土襲撃があった約2年前の非常事態時の1度きりだったが、もしもの時のためにいつでも使えるように整備され、またこの泊地に所属する艦娘達には周知するように教え込まれていた。
………
……
…
「09時20分」
…第3スロープに到着した提督と吹雪。
そこには既に榛名を旗艦とする第1艦隊は、既に準備を整え終えて集結していた。
提督「榛名、首尾はどうかな?」
榛名「あ、提督!こちらの準備は万全です!相手方ももう間もなく到着との一報が届きました!」
提督「了解だ」
皆、先程執務室に集まっていた面々だが、武装を身につけ、何よりも執務室で集まっていた時の雰囲気とはまるで違う。
…目付きとかもそうだが、何よりも際立ったのが殺気にも似た空気だ。
…演習は生死を賭け無いとはいえ、今回は主力対主力。
艦隊同士の意地と誇りのぶつかり合いである。
気合が入らない筈もなかった。
そんな声をかけるのも躊躇われるような雰囲気を醸し出す彼女らの中の1人に提督は声を掛けた。
提督「…ビスマルク、大丈夫かい?」
ビスマルク「ええ、もちろん!」
先程の執務室への招集で接見した時は固まっていたビスマルクだが、陸奥が上手くフォローしてくれたようだ。
提督「…ん、だいぶ良くなったみたいだな。先程執務室で会った時より良い顔してるよ」
ビスマルク「い、いきなりだったんだから仕方ないじゃない!」
提督「それは悪いとは思っているが、実戦だったらそんなの待っちゃくれないからな…ここにいる娘達は皆そうして今のように強くなったんだ。…だからビスマルクにもできるさ」
ビスマルク「…アトミラール ( 提督 ) 」
提督「頼り合うために仲間がいるんだ。どうしようもなく困った時はその事を忘れないで思い出して欲しい」
ビスマルク「…わかったわ…ありがとうアトミラール…今の自分に出来る精一杯をぶつけるわ!」
提督「その意気だ」
提督はそう言うとビスマルクの両肩を両手で軽く2回叩いて、激を送った。
ビスマルク「ふふ…コレ…案外良いものね…!」
提督「そう受け取ってくれると嬉しいよ」
提督「(なんか来たての頃は " 気安く触るな " みたいなこと言ってたもんな…随分変わったもんだ)」
うんうん…と腕を組み、そんな前にあった出来事を思い出してしみじみとしていると、提督の肩を叩く手が…。
提督「…ん?」
提督が肩を叩かれた手を追うと、そこには先程まで凄まじいオーラを放っていた長門がいた。
長門「…提督…その…私達にも…だな…」
何やらソワソワしてると思ったら、ビスマルクにやった事を自分達にもやって欲しいと言う、何とも可愛げのある要求をしてきた。
提督「ああ、もちろん!皆もこっちおいで」
そう言うと、他の演習に参加する艦娘達にもビスマルク同様の激を送った。
長門「やはりこれは…胸が熱いな…っ!」
陸奥「うふふっ♪貴方にそう言われたら、お姉さん、頑張っちゃおうかな♪」
鈴谷「にっしっし〜♪よ〜しっ!やっちゃうよっ!」
阿武隈「阿武隈、ご期待に応えます!」
…そして最後に激を飛ばす相手はもちろん…。
提督「…榛名」
榛名「…あ、は、はい!」
皆と同じように前から近付く提督だが、榛名には肩を叩かず、優しく両手を榛名の両肩に添えた。
提督「上手く皆をまとめて引っ張ってくれよ。頼りにしてるよ」
榛名「…っ!はいっ!」
榛名の顔は自信と信頼に満ちた顔へと変わっていく。
そして、今回の演習に参加する一同に向って振り返る。
榛名「皆さん、佐伯泊地の意地と誇りを胸に参りましょうっ!」
榛名「…勝利をっ!提督にっ!」
一同「応っっ!」
その掛け声が終わる頃、湾と外洋を隔てる岬の先から相手方の艦隊の艦影が見えた。
提督「…さあ、おいでなすったぞ…」
1000時
相手方の艦隊を出迎え、こちらの第1艦隊と一緒に演習海域へと向かっていくのを、岬の先の向こうへ見えなくなるまで見送った提督は、吹雪と一緒に執務室に戻った。
吹雪「皆さんすっごく気合入ってましたね〜」
提督「そうだなぁ…自分達がスロープに行った時点よりは、良い状態で送り出せたと思う」
吹雪「…なんだか…提督が声を掛けるまで、すっごくギラギラしてましたもんね…」
やはり吹雪もそれを感じていたらしい。
提督「まあ、肩を叩いて少し毒気っていうか気負いが抜けたのかもな…」
吹雪「…ところで司令官…」
提督「…ん?なんだい?」
すると吹雪は提督に先程の一部始終での事で質問をぶつけてきた。
吹雪「なんで、榛名さん以外は肩を叩いて、榛名さんには優しく手を添えたんですか?」
提督「ん?…んんー…何となく?その違いはそれをする娘の気性とかにもよるけど、榛名の場合は、掌を通してじんわりと伝わる方がしっくりくるから…かな?…すまん、自分で言っててよくわからん…」
吹雪「そうだったんですか?何となくで、人によって変えてたならちょっと意外です」
提督「…でもまあ、こういう事するのは、親しくなった娘以外はしないよ」
艦娘の気性は十人十色だが、練度が上がるにつれて信頼感と絆が深まる。
ここの提督の場合、その頃合いをきっちり見極めてからそういうボディタッチをしていた。
…一応言っておくが、もちろん疚しい気持ちはナシで。
吹雪「それなら…もし私にそういう事をするなら司令官はどちらです?叩くか添えるか」
提督「んん〜吹雪相手にするなら…手を添えるかな」
提督は一瞬考える素振りを見せたが、迷わずそう答えた。
吹雪「ふふふっ…やっぱり司令官は優しいですね…私はそんな場面で肩や背中を叩かれたら気合は入りますけど、私は両手を両肩に添えて貰ったほうが嬉しいです」
提督「おお、そうだったか…一応吹雪相手には合格だったわけだな」
吹雪「もちろんです、司令官♪…あ、1000時ですのでお茶を入れましょう!」
提督「む、もうそんな時間が…それじゃあ俺はお茶菓子でも出すかな…」
そう話して吹雪と2人で執務室へ戻ろうとした時、ふと提督の脳裏に先程のやり取りが過ぎった。
陸奥「「なんだか距離を置かれているみたいだから、お姉さん、少し悲しいわ」」
提督「(…皆もそう思っているのかな…?)」
吹雪「…?司令官?」
提督「あ、あぁ、悪い、行こうか」
…話も一段落した後、小休止するため、執務室に戻る2人なのであった。
1100時
吹雪との小休止の後、提督は内線である艦娘を呼び出した。
提督「工廠任務、航空母艦 加賀、手が空き次第、執務室に来られたし」
………
……
…
…コンコンコン
???「…航空母艦 加賀、只今参りました」
提督「ん、中へどうぞー」
…ガチャ
次に館内放送で執務室に呼び出されて来たのは、弓道着の上着に青いスカートを纏い、黒髪のサイドポニーテールの艦娘、航空母艦 加賀。
表情をあまり変えず執務室に入って来るや否や、提督の座る執務席の前に歩み寄った。
加賀「工廠任務と聞いたのだけれど…なにか相談?」
提督「うん、零戦21型の装備更新をしたいから改修に付き合って貰いたいのと、航空機の開発も一緒にやってもらいたくて…」
加賀「ええ、わかったわ。お供させていただきます…吹雪さんも同行よね?」
吹雪「ハイ!もちろんです!」
加賀「そう…よろしくお願いするわ」
提督「…よし、それじゃあ早速工廠に出向こうか」
吹雪・加賀「了解」
そう言うと3人は執務室を出て、兵器の開発製造・はたまた艦娘の建造と入渠を一手に担っている、工廠へと向かった。
…その道中。
加賀「…提督、歩きながらで良いから、話してもいいかしら?」
提督「ん?なんだい?」
加賀「…今回の演習、随分と思い切った人選をしたわね」
提督「ん?というと?」
加賀「ビスマルクさんよ…ここに来てあまり月日が立っていないのに、よくあの場に行かせる気になったわね」
今朝の演習の編成についての事だった。
提督「…確かに他の娘に比べたら日が浅いかもしれないけど、ビスマルク自体の1次改修は済まててるし、練度自体は70超えてるしなぁ。オマケに他の娘達は練度の上限前か突破してる娘ばかりな上に、練度としては微妙にこちらが上回ってたからな…余裕では勝てないにしろ、ホントの勝負がしたいならギリギリで競り勝たなきゃ意味がないし…それにギリギリの戦いをビスマルクにも知っておいてもらっても損もないかと思ってなぁ…試せる場面は色々と試さないと」
加賀「…そう…あなたにそこまでの考えがあってそうしたなら、何も言うことはないわ…」
提督「…悪いね、演習に出せなくて」
加賀「今回は防空特化艦が2隻もいるのだもの…空母の投入はボーキサイトの無駄な消費につながるわ…致し方の無いことだから気にしないで」
提督「…また西方海域に赴いて貰うことにはなるから、その時は艦隊の先導をまた頼むよ」
加賀「ええ…任せておいて頂戴」
提督「…そういえば瑞鶴はどんな調子だい?翔鶴が改二になってから、ちょっと月日経ってるし、焦ってなきゃいいけど…」
提督の言っている " 瑞鶴 " という名の艦娘は、ここにいる加賀の後輩で、翔鶴型 航空母艦の2番艦、その姉は1番艦の翔鶴と言う訳だ。
加賀に比べて、翔鶴・瑞鶴は新鋭艦に当たる艦となり、性能的には上なのだが、着任当初は何かと詰めが甘い点が多かった為か、加賀によって当時は公私での場面で、厳しい指導で特に瑞鶴とは随分と対立していたが、瑞鶴の練度と素養がしっかり身についてからは、ここ最近はあまり大きな揉め事にはなってない。
…とは言っても、やはり以前の名残か寄ると触ると、小競り合いをしているが、それは最早腐れ縁と言ったところか…と言うのがこの2人に対する周りの評価であった。
加賀「その点は問題ないわ。相変わらず姉妹仲良くしてるわ…私との掛け合いは相変わらずだけれど…」
提督「…ん、あんまり虐めないでやっておくれよ」
提督にそう言われた加賀は少し憮然とした表情になった。
加賀「…人聞きが悪いわね…今のあの娘については認めている部分もあります。葛城の面倒も良く見てくれているようだし、いい先輩の顔をしてるわ。…後輩の存在がいい刺激になってるみたいね」
提督「…そっか…それなら良かった…いつも見守ってくれて、ありがとう加賀さん」
加賀「い、いえ…これも務めですから…」
今度は提督に感謝の意と真っ直ぐな目を向けられて、先程の憮然とした表情から一転、少し目を逸らして何やらソワソワしだした加賀。
…もちろんそんな加賀の心模様は、提督は全く気付いていない。
そんな2人のやり取りを傍で見ていた吹雪はと言うと…
吹雪「(…やっぱり司令官は特定の人に対しての対応が近いんだけど遠いんだなぁ…長門さんや陸奥さん、それに加賀さんは雰囲気的に変なこと言えないみたいな固定観念が司令官の中にあるのかも…)」
吹雪が今、内心で列挙した艦娘達はすべて大型艦、しかもこの泊地における主力の存在。
提督はこの3人に対して敬意と同時に、存在感に対する遠慮があるのではないかと、分析をしている吹雪なのであった。
………
……
…
加賀「(…また " さん " 付けか…やっぱり…少し寂しいわ。…着任したての時の私の態度が、ここに来てまだ響くなんて…。しかし今更性格を変えようが無いからどうすれば…どうすればもっと提督に近付けるのかしら…)」
工廠に向かう道すがら、半歩先を歩く提督の背中をぼんやり眺めながら、加賀は提督に対する接し方に悩んでいた。
…そんな三者三様の思いを他に、3人は工廠に到着した。
………
……
…
…ガチャ
提督は工廠の扉を開けて、扉の向こうに声を掛ける。
提督「明石〜居るかい?」
???「あ、いらっしゃいませ〜提督待ってましたよ〜」
声を返してきたのは、ピンクの腰より下へ伸びたロングヘアー。
油除けのエプロン姿で現れたのは、この泊地唯一…いや、各地の基地で唯一の艦種である、工作艦 明石だ。
提督「お疲れ様、装備の改修と艦載機の開発をお願いしたいんだけど…」
明石「改修は…加賀さんがご一緒ということは、零戦21型ですか?」
提督「そうそう、月間の案件に必要な機を1機仕上げておきたい」
明石「了解です〜!21型は在庫を結構ストックしてましたもんね」
提督「なんだかんだ言ってもまだまだ使い道があるからいい機体だよ、21型は。俺は好きだよ」
明石「相変わらず物好きですよね〜提督♪それじゃあサクッと改修しちゃいますね〜。どの位の改修段階にしときます?」
提督「☆8個までで」
明石「わっかりました〜♪」
この工廠での改修作業は、連れてきた秘書艦によって改修できる項目が変わる。
戦艦なら、大口径主砲・砲弾といった項目。
航空母艦なら、艦載機全般。
重巡なら、中口径主砲。
…等などと必要とする改修項目に合わせて、連れてくる艦を変える。
先程の会話の通り、今回は艦載機の改修なのだが、その艦載機の中でも連れてくる空母によって改修できる機体も変わる。
ここにいる加賀で改修できる機体の中にその零戦21型はあった。
………
……
…
明石「改修完了しました〜」
提督「あぁ、ありがとう明石。引き続き開発も付き合ってくれるかい?」
明石「勿論ですよ〜いつもの航空機開発のレシピで良いですよね?」
提督「あぁ、それでよろしく頼むよ」
明石「了解です!」
………
……
…
明石「…ペンギン、ペンギン、試製烈風、ペンギンかぁ…」
…ちなみにペンギンとは失敗時に出るヌイグルミのようなものである。
…妖精さんも中々お茶目なのだ。
ちなみに妖精さんとは、艦娘の装備や工廠に配置されている小人の様な存在で、艦隊運営において必要不可欠で、ついて離れない存在なのである。
提督「ん…まぁこんなものだろう、また気長にやればいいさ、今日はここまでとするよ。付き合ってくれてありがとう」
明石「次こそはいい機体当てたいですねぇ〜。またよろしくお願いします!」
提督「…ところで明石、ちゃんと休んでる?この後、酒保 ( 売店のようなもの ) に出るんだろう?工廠作業が楽しいのはわかるが無理してないかい?」
明石「え"っ…や、やだなぁ〜提督ぅ〜。そんな事してないですよ〜」
提督「(…図星か)」
明石は工廠での作業だけでなく、休憩時間に酒保でも売り子として、働いているので、この泊地の管理者としては、心配な提督なのであった。
提督「…まぁ無理のない範囲でな。充実しているのはいいが体調的にしんどかったらちゃんと言うんだぞ」
明石「提督…お気遣いありがとうございます!」
…ふむ…今のところ疲労とかは大丈夫そうだし、何よりも明石の明るい性格はちょっとした潤いだな…。
…と内心、安心と優しい気持ちが心を和ませた提督なのであった。
………
……
…
ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン
提督「む、電話か…ちょっと失礼…」
工廠から出て執務室に戻ろうとした時、提督の携帯に電話が入る。
ディスプレイを見ると " 大淀 " の文字が表示されていた。
ピッ
提督「もしもし、俺だ、どうかしたかい?」
大淀「提督、今、お電話はよろしいでしょうか?」
提督「ん、いいよ」
大淀「演習に出ていた第1艦隊からの打電です!相手艦隊に対し、辛くも勝利したとの一報です!」
提督「おぉ、そうか!実に良い知らせだよ!皆には帰りの道中にも気をつけて帰ってくるように伝えて欲しい。あ、いつもの事だが相手方の艦隊にもウチで小休止の後に母港に帰還するよう、伝えておいてくれないかい?」
大淀「承りました!それでは通信切りますので失礼します」
…ピッ
加賀「…演習の結果?その表情だと…良い知らせのようね」
提督「あぁ!競り勝ったそうだ!」
吹雪「おぉーっ!それは凄いですね!」
加賀「それは良かったわ…内心どうなるか想像できなかった点もあっただけに…正真正銘の殴り合いだったようね」
提督「…2人とも、1500(ヒトゴーマルマル)は空いているかな?」
加賀「その時間は…鍛錬の後なので空いているわ」
吹雪「私も、榛名さんが、帰ってくるまでは秘書艦代理なので、それ以降は空いてます!」
提督「金剛にもお願いして、お茶会を開こう。元々榛名が秘書艦の週は、毎日姉妹で1500に来てくれているから、人数が増える旨を伝えておいたら快諾してくれるだろう」
加賀「…私は工廠任務で、付き合っただけですが…よろしいのですか?」
加賀は「私もいいの?」と言うような表情を浮かべて、少し首を傾げて問いかけてきた。
提督「報告を受けたこの場にいて、仲間ハズレなんてできるわけ無いだろう?それに人が多いほうがいいんじゃないかな?」
加賀「…わかったわ…それではお言葉に甘えてご馳走になります」
吹雪「うーん、楽しみだなぁ〜」
提督の後押しで、お茶会に参加する気になったら加賀と、美味しい紅茶とお茶菓子を思い浮かべる吹雪。
…あとはお茶会の主に許可を得る任務を提督が無事成功で完遂するのみである。
提督「…さて、そうと決まれば善は急げ、金剛に連絡を…っと」
…ピッ
Trrrrrr…
Trrrrrr…
Trrr…
???「Hi!テイトクぅー!どうしましたカー?」
キーン…
いきなりの相手側の前のめりな電話の応答。
予測できていたとはいえ、かわすことができず、スピーカーの向こう側から元気一杯の声が返ってきた。
提督は一瞬スピーカーから耳を話すが、お願い事の電話なので、気にする事なく電話の主に問いかけた。
提督「あ、金剛かい?今電話大丈夫かな?」
金剛「No Problemデース!ワタシに何の御用デスカー?」
この元気一杯な声で、英語と日本語が混ざり、独特な語尾の電話の主は、金剛型 戦艦 1番艦 金剛 で、今週の秘書艦である榛名の姉に当たる艦娘だ。
提督は、先程の大淀の演習の簡潔な報告と、その後の考えていた事を伝えた。
提督「実は今日の演習で第1艦隊が競り勝ったんで、いつものお茶会に参加した艦隊のみんなを招きたいんだが…都合はどうかな?」
金剛「Wow!Congratulations!それは榛名と艦隊の皆も労ってあげないとネーっ!モッチロンOKデスヨーっ!」
…提督の思った通り、快諾の返事が即答できた。
提督「ありがとう!…それと、今、秘書艦代理を務めてくれている吹雪と、工廠任務に同席してくれている加賀の分も増えるのは大丈夫かな?」
金剛「フフーン♪2人ともドンと来いネーっ!それじゃあワタシはお昼食べたら早速準備に取り掛かるデースッ!」
そして、吹雪と加賀の参加の許可も取り付け、無事成功となった。
提督「重ね重ねありがとう!お茶会、楽しみにしてるよ」
金剛「まっかせてくださいネーッ!」
提督「それじゃあ、また後でな」
…ピッ
加賀「ふふ…ここからでも金剛さんの声が聞こえていたわ」
吹雪「お茶会の件が決まったとなったら、1500まで仕事をきっちり頑張らないと!」
2人ともを提督と金剛のやり取りを聞いていた…いや、聞く気がなくても耳に入ってくる会話が少し可笑しかったのか、微笑を浮かべていた。
提督「ん、そうだなぁ…俺もなにかお茶菓子を用意しておくかぁ…っとその前に昼食だな。執務室に戻って食堂に行ったらいい時間だ」
そう言うと提督は、2人に自身が身につけている腕時計を見せた。
腕時計「1143」
吹雪「わ、ホントだ!」
提督「あとの予定も決まったことだし、それぞれで昼食に行くとしよう」
加賀「では私は、昼食は赤城さんと約束をしているので、ひとまずここで失礼するわね」
提督「あぁ、加賀さん工廠任務ご苦労さま、また後で」
吹雪「また後程!加賀さん!」
加賀「ええ、吹雪さんも、後程会いましょう」
3人共、1500の約束を頭に入れて、それまではお互いの予定で別行動を取ることに。
加賀は相方の赤城と昼食を摂るべく、一足先に食堂へ向かった。
提督「…吹雪、昼食は一緒するか?」
吹雪「ハイっ!もちろんです!司令官!」
提督と吹雪はひとまず執務室に戻るべく、横並びで廊下を歩いていくのであった。
……………
…………
………
……
…
ども!屋根野郎です!Σ∠(`・ω・´)
…今回はひとまずここで切りますね〜(_ _)
こんな文章だけのお話を書こうと思ったのは、本ゲームをプレーしていて、その間のキャラクター達の生活や日常を書いてみたいという思い付きで唐突に書き始めました。
個人的にはハードな感じとか悲壮感とか流血話とかはナシの方向で、拙いながらも心移の描写を書いていこうと言うのが当面の目標です。
何分、夜ののんびりタイムに提督業をこなしながら(笑)ちょくちょく書いているので、時間がかかりますが、もしお暇がある方は気長にお付き合いの程をよろしくお願いします(_ _)
次回はこの日の午後編を書き溜めて放出しようと考えてます。
それではまた!Σ∠(`・ω・´)