皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)
今回はプロローグ編の続きの短編となるお話です。
前回は、提督と艦娘達の関わり方が変わっていく、ある1日を描いたお話です。
みんカラ内限定でブログ小説として書き残してますので、興味がある方は下記のURLよりアクセスしてみてください(_ _)
↓↓↓↓↓
プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/
毎度ながらの長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。
バトル・流血・略奪等の暗い話は描かず、ゆるーく心の移り変わりを、描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)
基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)
尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。
キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。
これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。
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艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜
♯梅雨の日編
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…梅雨に入ったとある日の昼下がり。
分厚い雲に覆われた九州 佐伯泊地の周辺は、しとしとと降り続き、雨で九州最東端に位置する鶴御崎燈台は霞み、辺りの視界は10km先が見えるか見えない程で、波は穏やか…。
…ただただ、静かに小さな雨粒が視界上をくまなく覆っていた。
…こんな日の彼女らの任務は非常に穏やかだ。
海上での偶発的な接触、こちらから差し向けた敵地侵攻時を除けば、深海棲艦も何故か動きを止める。
…とは言っても提督の仕事は、天気の良い悪いは関係なくやってくる…のだが…
提督「…ふぅ…こうも雨続きだと、仕事量も少なくて良いが…彩雲の索敵もお役御免…航空母艦勢はみんな鬱屈してるんじゃないか?」
???「…ふふ、たまには良いじゃありませんか。普段はよく働いているのですから、こんな時があっても」
提督「んー…まぁこの天候だと、深海棲艦側も大人しいし航空機飛ばしてこないからな…探知には海自で専用に改修されたP-3CやP-1で事足りるしな…」
この泊地の少し離れた場所の鹿児島県にある、海上自衛隊 鹿屋航空基地に配備された深海棲艦用に改修を受けた対潜哨戒機は、晴天時は危険が多い為出撃しないが、雨の日は忙しなく複数機が日本近海を飛び回っている。
昨今の海中は、深海棲艦の出現で海外から侵入してくる潜水艦が全くいない。
…居たら居たで潜水艦型の深海棲艦に片っ端から沈められるからだ。
そして、あちらの攻撃はこちらに通るが、通常兵器であるこちらの攻撃は当たらない上に、仮に当たったとしても、殆どダメージを受け付けない。
何せ人サイズの的が変則的に高速移動するのだ。
まっすぐ飛んで来て予測できる代物ではない。
そんな経緯からか、お役御免かと思われていた対潜哨戒機だったが、雨となれば話は別。
水を得た魚の如く、哨戒や海上護衛に当たる艦娘達との連携して、警戒を続けている。
提督「…赤城は全天候型の艦載機とかって、あったら良いと思うかい?」
提督は、秘書艦席に座って業務をする、今週の秘書艦に向って質問をぶつけた。
腰まで伸びた真っ直ぐな黒髪。
白の上着と赤い袴風のスカート、青基調の加賀と色違いの弓道着に身を包んだ艦娘。
この泊地の最古参の航空母艦。
赤城型 航空母艦 1番艦 赤城は、提督の質問に対して、少し考え込んだ。
赤城「んん…どうでしょうね…雨の中でも索敵や攻撃が出来ると言うのは、魅力的ですがそうなると深海棲艦側もこちらと同じ条件が発生するので、こちらからの一方的な展開にはならない…結局堂々巡りになってしまうので、良し悪しですね…」
…そうなのだ。
不思議なことにこちらができるようになった事は、向こう側も出来るようになってしまうのだ。
それは航空機も例外ではなかった。
提督「…ん、やっぱりそうだよなぁ…」
赤城「…それにですよ?」
提督「…それに?」
赤城「…それに伴って私達が働き続ければ、提督も執務に追われて手空きになる事も無くなるので、こうして提督の手料理も頂くことができません。…なので私の結論は、出来ればそんな無粋な航空機は要らないかなぁ…て♪」
提督「はは…ブレないなぁ…赤城は…」
赤城「当たり前ですよ!こうして人の身体を与えられて、日常で何が一番楽しみかと聞かれたら、味覚のある日々…そう、美味しい食事が頂けることが、何よりも尊いと思うんです♪」
提督「…ふふ…そっか…」
提督はそんな楽しそうに話す赤城を、懐かしむような、愛おしむような、穏やかな表情で見つめていた。
…そんな提督の表情のことは知ってか知らずか、にこやかに今日のお昼御飯のレビューを始めた。
赤城「丹念に、そして絶妙な火加減と煮時間で煮上げられた煮豚を使い、余分な水分を飛ばして煮豚から出た旨味を凝縮したタレに、冷ました煮豚をそのタレに漬けてしっかり味を染み込ませ、それを刻んだ物を投入し、しっとりとしながらパラッと炒められた焼き飯。…そして焼き飯のお供と言えば中華そば!…お店で食べるコッテリ系も魅力ですが、魚介ダシの効いたシンプルな醤油味が堪りません…その中華そばに先程の煮豚をスライスして並べれば…もう、2杯は軽くイケます!…そして付け合せの焼き餃子…もうこれだけでも白いご飯が進むのなんの…これが冷凍されていつでも焼くか茹でるだけで食べられるなんて、提督は神です〜♪」
…と、赤城は両手を頬に当てて、目をキラキラさせながら、今日の昼食の回想を頭の中で再生している。
提督「…焼き飯や餃子はまあ…アレンジは色々してきたけど、中華そばの麺は冷凍だし、ダシだって濃縮つゆをベースにしてるだけだから、簡単だよ?」
赤城「だからこそです!中華そばはシンプルな物ほど、五臓六腑に染み渡るというものなんですよ!」
提督「うーん…自分の好みがここまで赤城とドンピシャとは…まあ、そう言ってくれると嬉しいけどなぁ」
赤城「…ふふ…提督?」
提督「ん?なんだろ?」
赤城「…今さっき私がお昼の回想に耽っている時、凄く優しい顔をしてましたね」
提督「…そうかな?」
ボンヤリ赤城を見つめていたのが、キッチリ見られていたとは迂闊だった。
赤城「…指図め、着任したての頃の私の事を考えてましたか?」
提督「…さぁ?どうだろうな…」
赤城「ふふふ…♪そういう事にしておきますね♪」
………
……
…
前述の通り、赤城はこの泊地における最古参の正規空母だ。
その頃の彼女は、外見上は当時の加賀と比べてに穏やかそうに見えて、全く休もうとしない。
いわゆる旧海軍時代の " 月月火水木金金 " を体現した様な艦娘だった。
先の大戦、ミッドウェーでの敗退、この事が彼女をこうさせている事は、遥か後の世代の提督でも安易に予想できた。
…が、問題はどう赤城に " 今 " を見せるか。
着任してあまり時間が経っていなかった提督は、手をこまねいていた。
…ある時、提督は気が付いた。
食事中の赤城がどんな時でも、幸せそうに食事している場面に出くわしたのだ。
両頬をもごもごと動かして咀嚼して、いつも美味しそうに出された料理を食べている。
幸いにして、提督は料理の心得は多少あったので、右も左もわからない状態だったが、やれるだけの事をやってみることにした。
赤城が秘書艦の時、昼食に誘ってみた。
彼女は最初は間宮で一緒するのかと思っていた様だが、提督が作ると聞いてとても驚かれた。
…そして出したのが、今日と同じ献立。
焼き飯・中華そば・餃子の3点セット。
他の物作れない訳ではなかったが、1番場数を踏んで安心して相手に出せる料理だった。
赤城は提督から出された料理を見るや否や、キッチリいただきますをしてから、無心で料理に飛びついた。
言葉少なに食べ進めて、料理はみるみる赤城の胃袋に納まり、モノの数分で平らげてしまった。
すると空になった皿を見て、とても物悲しそうな表情をする赤城を見た提督は、話しかけてみた。
「「…おかわりいるかな?」」
…と。
「「えっ?!…い、いいんですか?提督」」
赤城は " 信じられない " と希望の眼差しが同居した表情で提督に確認する。
「「いいよ、あんまり美味しそうに食べるもんだから、見てるこっちが気持ち良かったよ…10分待ってくれるかな?何なら少しアレンジしようか?」」
「「いえっ!同じ物がまた食べたいですっ!」」
2セット目は少しじっくり味わって食べてくれたが、それでも平らげるのには、それほど時間が掛からなかった。
…食後、いろんな話をしてみた。
赤城が休まない事の話。
今の泊地の現状の話。
提督が料理するに至った話。
戦いが落ち着いたら半舷上陸を使って、泊地外の場所で土地ならではの、郷土グルメを食べて回りたいと言った話。
…話が終わる頃、赤城は自分に取り憑いていた内面の焦燥感は、 不思議と和らいでいることに気が付いた。
そして、赤城は提督に言った。
「「あ、あのぅ…また次の機会があれば…同じ物を作っていただけますか…?」」
…自分が大喰らいなのは自覚していたが、仮にも目の前にいるのは、男性。
はしたないのでは無いかと思う内面が、少し働いて遠慮気味に提督にお願いした。
「「…ん、時間があればもちろん」」
提督の返事はこれだけだったが、それ以上に表情が柔らかく温かみを持った表情で、快諾してくれた。
…それからずっと赤城は、定期的に雨の日には提督の料理を食べて、コミュニケーションを取ってきて、今日に至る。
………
……
…
赤城「…ふふ…今きっと、私と同じ場面を思い浮かべてるんだと思います…今の提督の顔があの時と同じで優しいです」
提督「…あの当時の事を思い出して、この場でいろんな話をしてきたなって」
赤城「私、あの事があったから今こうして、穏やかな気持ちでここに居られているんです。…こう見えても提督にはとっても感謝してるんですよ?」
提督「…ん、それは何より…よし、今日の仕事はお終い…書類のチェックを頼めるかい?」
話しながらではあるが、書類作業を続けていた提督は、今日の最後の書類を赤城の座る秘書艦席の机に手を伸ばして書類箱に入れた。
赤城「はい♪了解です。現在時刻は…」
古時計「1443時」カコン…カコン…
赤城「まあ、いい時間ですね…提督、この書類のチェックが終わったら、お茶にしませんか?私が淹れますので」
提督「お、いいね…お中元の頂き物で、何がお茶菓子があったハズ…ちょっと取ってくるよ」
提督はそういうと席から立ち上がり、多方面から贈られてきたお中元を置いてある、執務室の一角に向って歩き出した。
コンコン
提督がお茶菓子を探し始めた頃、ドアをノックする音が鳴り響く。
???「加賀です、入室宜しいですか?」
提督「ん、加賀か…どうぞー」
ガチャ…
ドアが開くと加賀ともう2人別の艦娘が執務室に入ってきた。
加賀「提督、赤城さん、小休止しませんか?二航戦の2人にも来てもらいました」
???「提督、赤城さん、お邪魔しまーす」
???「…あれ?提督が席に居ない…ってそこで何してるの?」
提督「ん?おお、飛龍と蒼龍か。いらっしゃい。今こっちも仕事が片付いたんで、書類のチェックが終わり次第、赤城にお茶を入れてもらって、俺は今お茶菓子を見繕っているところだ。気遣いありがとう加賀」
加賀「左様でしたか…では、私は赤城さんとお茶の準備をします」
提督「ん、よろしくお願いするよ…二航戦の2人はどんなお茶菓子がいい?」
提督は橙色と緑色の着物の艦娘を自分のもとに呼び寄せて、どれが食べたいか選んでもらうことにした。
すると呼ばれた2人は、提督の元に行き、机の上に出されたお茶菓子の中で、どんな物があるかを品定めし始めた。
???「どれどれ…あ!ぷりんどらの2種がある! ( ここ ) 泊地が九州だから、さり気なく地元のお菓子が混ざってますね〜♪…賞味期限も短いから先にこれ行っちゃいます♪」
提督の右手に付いた艦娘は、橙色の着物と緑の袴風スカートで、少し癖っ毛がある少し茶色掛かった黒髪のショートヘアの艦娘は、飛龍型 航空母艦 1番艦 飛龍。
???「悩むなぁ〜…あ、とらやの羊羹セット!色んな羊羹を楽しめるんで、好きなんですよね〜♪飛龍が洋風なんで、私は和でいきます!」
その反対側に付いた艦娘は、緑色の着物と暗緑色の袴風スカートで、少し青味掛かった黒髪の肩ぐらいの長さのツインテールの艦娘は、蒼龍型 航空母艦 1番艦 蒼龍だ。
2人は梱包された箱のままそれを持って、執務室のソファーに向かって、提督は今回の選定に選ばれなかったお茶菓子を保管していた各場所に戻した。
飛龍「赤城さん、加賀さん、これなんてどうです?」
蒼龍「皆で食べましょう〜♪」
赤城「まぁ♪良いですねぇ〜♪」
加賀「ふふ…赤城さんがお中元が届くの時期に秘書艦とは、選り取り見取りで運がいいわね」
赤城「ええ♪そうですねぇ…ん、よし!提督、書類のチェックが完了しました。」
提督「ん、ありがとう赤城。それじゃ一服入れよう」
加賀の座るソファーの隣に着座した赤城を確認したところで、お茶菓子を囲んだちょっとしたお茶会が始まった。
飛龍「そう言えば提督、お中元で贈られてくるのってお菓子ばかりなの?結構な量があったように見えたけど…」
提督「ん?あぁ…ハムだの素麺だのも沢山あったけど、間宮さんに普段の食事に出してくれって、全部渡してあるからな」
蒼龍「…あ、昨日の晩ごはんに分厚いハム使ったハムカツ出てたのがあれか…酒類は無かったの?」
提督「ビール類の大半は鳳翔さんに預けた。強い酒は、バーに寄贈したよ」
飛龍「あ、そっか…そう言えば、バーの一角にやたらめったら酒瓶が入った箱が、積んであったのがそれかぁ」
提督「そうそうあの山だ、好きに飲んでもらって良いようにな…(…まぁ個人的に飲む分は、親戚筋からの頂き物と厳選した酒はキープしたし…)」
…ちなみにバーと言っても作る人間が居る訳ではない。
家具職人の妖精に頼んで、泊地内の別棟の空き部屋を改築して、酒飲みの艦娘達の為に用意した部屋だ。
そこに夜な夜な、翌日が非番の艦娘や晩酌をする艦娘達が集まって、そこで飲んでもらっている訳だ。
…え?荒れ放題にならないかって?
責任と規律が保てない娘には、ここで飲む権利はありません(笑)
ちなみに飲み散らかし・暴れる・酷い絡み酒等を犯した者は、1週間バーを清掃する刑+酒の場で禁酒という、酒飲みには地獄のような刑に処される。
…その憂き目に遭ったのは、今の所2名だけなのだが…。
加賀「ずず…ふぅ…バーが出来た頃、一時はどうなるかと思ったけれど、提督が決め事をしてくれたお陰で、"今は"問題は起きていないわ」
提督「何かで気持ちを抜く場所は必要はだとは常々思っていたしなぁ…まあ、ひっでぇ絡み酒するとか泥酔して迷惑掛ける類いの事をしなければ、特に咎める気はないけど…隼鷹とポーラが酷すぎたんで、ちょっと看過できなくてなぁ…」
…ちなみにポーラという艦娘は、イタリアから来た重巡洋艦で、隼鷹に負けず劣らずの筋金入りの飲兵衛だ。
おまけに泥酔すると服を脱ぎ捨てるという、酒癖の悪い厄介極まりない娘だ。
…素面の時は、ぽややんと緩くて可愛らしいのだが…。
赤城「むぐむぐ…ごっくん…そんな事がありましたねぇ…連日連夜で何処までの範囲を提督が我慢してくれるか試したって件ですね」
提督「んん…俺単体に仕掛けてくるのはいいけど、最終的に周りを巻き込んで俺を試したってのが無性に気に入らなくてな…」
飛龍「あれ、絡み方がひっっどかったからね…酒が入っての悪ノリだったから尚の事…」
蒼龍「ずず…提督、飛龍に聞いた話だけど、その日あまりにも酷かったし、別の娘が提督に陳情したら、次の瞬間 鬼の形相の提督がバーに突撃して、有無も言わさず2人の首根っこ掴んで廊下まで引きずり出したって…ホント?」
蒼龍が恐る恐る提督に質問をぶつける。
…とらやの栗羊羹を食べながら…。
…提督が艦娘たちの前で片手で数えられる回数だけ、激怒した事があった。
その数回のうちの1つが起こったのは、先日の さん付けを無くして欲しいという嫁艦達の要望のあった一件より2ヶ月程前に遡る。
その時の目撃者の数名の中に、その時の秘書艦の加賀と、お酒を飲みにバーに居た飛龍が居た。
提督「…やった後からだけど、申し訳ないことしたと思ってる…」
加賀「…あの怒鳴り声は、その場に駆けつけていただけに、今でも忘れられないわ…他の娘の話を聞いていると、寮棟まで提督の声が聞こえたそうよ」
提督「…加賀、言わないで…思い出しただけでもめっちゃ恥ずかしい…」
飛龍「んで、あまりにも怒ってるもんだから怯えて嫌がる2人を引きずっていこうとした提督を、飛鷹とザラだけじゃなくて、バーに居た戦艦勢や重巡勢が止めてたのがすごく印象に残ったなぁ…提督、もしあのまま誰も止めてくれなかったら、あの2人どうしたの?」
提督「…執務室でねちっこい説教と姉妹艦への謝罪と感謝と反省の誓約書を書かせるつもりだった。…まぁ、あの時はその場で誓約書を書かせたけど…」
蒼龍「…そっか…はぁぁ…それが聞けて安心したよ〜…」
ここまでの話の流れと結論を見届けることができた蒼龍は、前のめりの姿勢から一転、ホッとしたのかソファーの背もたれにもたれた。
提督「ん?どゆこと?」
蒼龍「だって提督って、普段あまり怒らないからこっちも " こういう人なんだ " って固定観念が定着してるじゃない?…で、そんな人が形相を変えて怒ったら、こっちも萎縮してすごく怖かったんだ…一部の娘から今でも怖がってる娘が居てねぇ…」
提督「…はぁ…やっぱり短期は損気だなぁ…効果が大きすぎて、トラウマになってるのか…はぁ…」
規律を保つためとは言え、過ぎた制裁だった事が後々になって認識したため、少し後ろめたさがあった提督は、腕を組んで執務室の天井を見上げて、溜息をついた。
赤城「ずず…ふぅ…提督が怒ったその一件のお陰で、泊地内の風紀は大きく乱れずに保たれているのは事実ですし、基地としての規律を守るには、必要な事ではあったと思いますが…」
加賀「そうね、後の配慮が少しばかり足らなかったとはいえ、提督の激怒というものは言われた側にとっては、想定以上に堪えた様ですからね…ここの所、隼鷹とポーラさんの酒癖の悪い評判もすっかり聞かなくなったわ…この泊地の長としての多少の畏怖も必要…」
蒼龍「あの一件からあの2人、飲む量がだいぶ減ってますよ…まあ、酒臭いのを日中にバラ撒かれるよりは、ずっと良いですけど…」
飛龍「…まあ、提督の事を信じてはいたし、状況が状況ってのもあったからねぇ…それで今、提督の口からそこまで聞けたんだから、もう心配してませんよ〜」
提督「…と言ってもなぁ…あんまり賢いやり方ではないし、もっといい方法を考えないとなぁ…予想外の他の娘達に反感とか失望されてなきゃいいけど…」
飛龍「(…むしろその直後は姉妹艦達は怖がった反面、その後日談で枕を高くして寝られるようになったって安堵してたような…?)」
赤城「…?私の知る限りそれはないと思いますよ?」
加賀「ええ…甘やかすだけが愛情ではありません…そんな時に本気で怒ってくれる人である事ぐらいは、十二分に理解しているつもりです」
…ここに居る艦娘達の提督に対する対応は概ね、良好…なのだがそれでも他の反応が気になる提督…。
提督「…ちなみに蒼龍、あの一件以降 未だに俺が怖いって言ってるのは、誰なんだ?そう言うのは口外禁止?」
蒼龍「あ、いえいえ、秘密だなんてそんな事はないですよ。私が、聞いた限りでは姉妹艦が飲兵衛の羽黒ちゃん、イ13 ( ヒトミ ) ちゃんで…噂だけ聞いて怖がってるのは、名取ちゃん、潮ちゃん、高波ちゃん、浜波ちゃん…くらいだね」
提督「…OH…揃いも揃って普段が気弱組とは…(…あ、この前の見回りで宿直室での名取の反応がそれか…)」
今、名前の挙がった艦娘達は、皆基本的に口篭ってしまうタイプの娘達なので、少し手強そうだと提督は思った。
赤城「もぐもぐ…ごっくん…まあ、間接的に関わりが出来そうな羽黒さんとヒトミちゃんは、要ケア人物ですけど、噂だけで怖がってる子達は、その内落ち着くでしょう…噂も75日ですよ♪提督」
提督「…ん、噂組は今後の誠意の姿勢で示すしかないな…留意しておく…ありがとう蒼龍」
蒼龍「いえいえ〜、提督なら大丈夫だよ♪」
提督「…だといいけどなぁ…って…ぷりんどらと羊羹達が無い…」
一ニ航戦ズ「「「「…あ」」」」
話しているうちに机に並べていたお茶菓子が、ほぼ平らげられて、提督は完全に食いっぱぐれを食ってしまった。
提督「…もうお茶だけでいいや…」
一ニ航戦ズ「「「「…ごめんなさい!」」」」
戦艦達とお茶するとそうでも無いのに、航空母艦達とお茶すると大概こうなってしまうのだが、まあそのいい食べっぷりに免じて、お茶だけでいいや…と心の中でもそう思う提督なのであった。
………
……
…
1600時
その後、お茶会は解散となったものの、書類仕事が片付いてしまったので、提督は秘書艦の赤城と一緒に泊地内を見回ることにした。
…外は相変わらず雨が降り続いていた。
…所変わって、2人が立ち寄ったのは、甘味処 間宮。
普段は食堂として機能しているが、1400時から1700時までの間だけ、甘味処としての機能が動く。
少し到着した時間が遅かったが、ここ数日の雨によって外に出ることが基本的に出来ずに、この場でお茶と甘味を楽しみながらお喋りに興じている者も少なくはなかった。
???「…ん?あ、提督と赤城さん…見回りかい?」
???「…ぽい?提督さんと赤城さんだーっ!こんにちはっ!」
???「おおーっと、出遅れたっ!提督、赤城さん、お疲れ様です!」
???「んぐっ!ゲホゲホ……タイミング悪くて困るんですけどぉ…も〜う…」
中に入ると、すぐに艦娘達に見つかった。
提督「おう、楽しそうにやってるな。時雨、夕立、白露、村雨」
間宮に入ってきた提督と赤城に、最初に気が付いたのは、白露型駆逐艦姉妹達だった。
妹達に先を越されて、慌てて振り返って挨拶してきた娘は、赤毛で背中の中ほどまで伸びた癖っ毛があるロングヘアーの艦娘は1番艦の白露。
真っ先に提督と赤城に気が付いて、声を掛けてきた娘は、黒髪を後ろで三編みにしておさげを左肩に下ろしている艦娘は、2番艦の時雨。
先程から咳き込んでツイてないと嘆いている娘は、フワッフワの芦黄色で腰まで伸びたロングヘアーの艦娘は、3番艦の村雨。
語尾に " ぽい " と個性的な喋り方をする娘は、亜麻色のサラサラしたストレートの腰まで伸びたロングヘアー、無邪気に提督と赤城に声を掛けてきた艦娘は、4番艦の夕立だ。
彼女たちも例外なく、甘味片手に姉妹仲良くお喋りに興じていたところだ。
夕立「提督さん!私と時雨、午前の哨戒頑張ったぽい!褒めて褒めて〜♪」
提督「ん、そうかそうか…視界があまり良くない状態な上にこの雨だ、ご苦労様」
なでなで…
遊んで欲しいとせがむ子犬のように提督に戯れ付く夕立に対して、提督は労いの声をかけてから頭を撫でてあげた。
哨戒が終わった後にお風呂に入ったのであろう。
サラサラの髪の毛からは、シャンプーの香りが漂った。
夕立「ムフ〜♪これこれ、これっぽい〜♪」
所望通りに構ってもらえて、ご機嫌に目を細める夕立。
白露「あぁっ!夕立ったら!あたしのセリフ取っちゃ駄目だっての!提督!あたしもあたしも〜」
提督「おっとっと…白露こっちおいで、いつも個性の強い妹達を纏めてくれて助かってるよ」
なでなで
白露「にっしっしっ♪そりゃもっちろん、あたしが1番艦なんだからっ♪」
そう言ってニカッと笑って撫でられる白露。
村雨「あ〜っ、も〜提督提督!2人ばかり撫でてないで私も構ってよ〜」
白露と夕立が提督に構って貰われているのが羨ましかったのか、村雨も提督に撫でることをせがみ始めた。
提督「おいおい…俺の手は2つしかないんだって…夕立もういいか?」
夕立「ん〜…うん!提督さんとの触れ合いは、ちゃんと姉妹にお裾分けっぽい!褒めてくれてありがとうっぽい!」
一瞬名残惜しそうな表情を浮かべたが、直ぐに表情が切り替わり、他の白露型姉妹に提督のなでなでを譲った。
村雨「夕立ありがと♪…んふふ♪いい感じ、いい感じ♪提督、今度の出撃も期待しててよね♪」
ふわふわの髪を撫で梳かれて、村雨の表情も先程のむくれ顔もすっかり上機嫌で、目を細めてくすぐったそうにしている。
…おや?
もう1人はどうしたんだ?
提督はくっ付いてくる3人の後方で、撫でられることを躊躇している時雨が居るのが見えた。
提督「(…来ないの?)」
時雨「(い、いや…僕は…その…)」
提督と時雨の無言の意思疎通をしていると提督の向かっている視線の先に気が付いた白露が、時雨の元に駆け寄る。
白露「ほーらっ、時雨も遠慮したらだめだってば!提督に撫でられたいんでしょ?」
そう言うと、白露は時雨を半ば強引に背中を押して提督に向かわせようする。
時雨も " 迷惑だからやめた方が… " と嫌がっている訳ではないが、白露の行動にかなり戸惑っていた。
…これは助け舟を出してやるか…。
提督は時雨に今度は直接声を掛けてみた。
提督「…時雨もおいで?」
時雨「う…うん…ありがとう…///」
提督にそう言うと素直に撫でられる時雨は、俯きながらもとても嬉しそうにしていた。
提督「明日もよろしく頼むな…今日はゆっくりしなよ?」
時雨「うん…ありがとう提督…///」
提督「ん…みんなも明日の出撃に備えて、今日はゆっくりするんだぞ?」
他の白露型3人「はーい♪」
こうして甘味処間宮の入口に入って、早々に捕まっていたが、次の娘たちの様子を見に行く為に提督は白露姉妹の元を離れた。
提督「(ん〜…他にはっ…と…ん?あれは…)」
提督が店内を見回していたら気になる姉妹達が目に付いた。
…妙高型4姉妹が揃っている。
ここで提督はある事を思い出した。
那智「「…提督、呑みの件は楽しみにしてるぞ」」
数日前の見回り組が詰めている宿直室室にお邪魔して、妙高と那智が摩耶と鳥海との交代で入れ替わる際の去り際のセリフが頭に浮かんだのともう一つ…
蒼龍「「一部の娘から今でも怖がってる娘が居てねぇ…」」
先程の小休止での会話内での蒼龍のフレーズが、提督の脳裏に浮かび上がった。
…そしてそこには姉妹の会話を横で聞き手になっている、妙高型4番艦の末っ子、羽黒も居た。
提督「(…ふむ…この際にこの2つの事案に取り組もうかな…)」
赤城「もきゅもきゅ…ごっくん…提督、羽黒さんの件を解決されてはどうですか?」
提督「…今それを考えてたところ…って…赤城…また食べてるのか…」
赤城「み…みたらし団子さんが私を呼んでいたんですぅ〜」
提督に指摘するまでは良かったが、赤城の左手にはいつの間にやら、皿に盛られたみたらし団子の山があった。
…全くもって食べ物の事になると、いつもの冷静さが彼方まで吹っ飛んでタガが外れてしまう人である。
提督「…赤城…座ってゆっくりよく噛んでその団子を食べてきなさい…羽黒のところには俺だけで行くから…」
赤城「了解です〜♪あむっ♪もちゅもちゅ…」
そうして、赤城が甘味に舌鼓を打っている間に、提督は妙高4姉妹がいる場所まで向った。
???「やっぱりここはこの方が私は良いと思うのよねぇ…ん?あら、提督じゃない?」
妙高「あら、提督。お疲れ様です」
那智「む、提督、貴様か…どうかしたか?」
???「あ…こ、こんにちは…司令官さん…」
提督「皆お疲れ様、あそこで団子を頬張ってる秘書艦様と、ちょっと気分転換がてら見回りをしててね…おお、関心関心…足柄、教鞭の方針の話かな?」
提督がまず先に話しかけた艦娘は、背中まで伸びた黒髪のロングヘアーで少しウェーブの掛かり、頭部に白いカチューシャを付けた艦娘。
妙高型 重巡洋艦 3番艦 足柄だ。
…因みに提督の言った教鞭の方針と言うのは、この泊地に着任したて、または教育過程の駆逐艦や海防艦に航法と射撃の基礎座学と実地を教える役割を妙高型が担ってくれている為、その方向性について議論している真っ只中に提督がやって来たのだ。
足柄「ええ、そうなの!私としてはもっとここを変えたほうが、良いと思うんだけれど…提督の意見も聞かせてくれないかしら?」
提督「んー…どれ……内容的には悪い点は無さそうだなぁ…あ、ここを少し難易度を下げてみて、取っ掛かりを作ると良いんじゃないかなぁ…うん、まずは論ずるより実践ってことで、1度組み込んでみて受講者の反応を見てみるのも、一考なんじゃないかな?」
足柄「むむ…そう言う考えも有りか…それじゃあちょっと修整したら、早速明日から組込んでみるわ!提督ありがとう!」
提督「いやいや…俺は自分の考えを言っただけだから何もしてないって、こちらこそ忙しい中、指導方針でも熱心に取り組んでくれてありがとう」
妙高「…ありがとうございます提督。他の方の知見も伺うことができて良かったです」
提督「いえいえ、むしろ姉妹でゆっくりしているところを邪魔したね…あ、那智、今日の夕食後は空いてるかい?」
那智「ん?あぁ、用事が済めば空いているが、それがどうかしたのか?」
提督「ん、前に言ってた皆で飲もうかって話、今夜どうかと思ったんだけど…都合は付きそうかな?」
提督のその言葉を聞いた那智は、心躍らせるような表情を浮かべた。
那智「!いつもの酒飲み連中はランダムで勝手に集まるからいいとして、みんなはどうだ?」
妙高「ふふ、私は大丈夫ですよ」
足柄「私も明日の教育方針が固まった今、夕食後は空いてるからもちろん行くわ!羽黒も来なさいな!」
羽黒「…ええっ?!わ、私も?!」
足柄に急に話を振られて、激しく動揺している艦娘は、セミロングボブの黒髪で、左の前髪に髪飾りを付けた艦娘、妙高型 重巡洋艦 4番艦 羽黒。
そして動揺したのも束の間、羽黒は提督をチラチラと見ながら、少しばかり悩んでいる模様…。
…思いの他、重症なのかも…?
提督は少し早まったかと、思ってしまったが…。
羽黒「…はいっ…ご一緒します!」
…何やら決心をして足柄の問に答えていた。
…怖いもの見たさみたいなものなんだろうか?
それとも提督の真意を見極める為なのだろうか?
提督にはそう見えたと同時に、成長したなぁ…と少し感慨深さのようなものを感じた。
…着任当初の羽黒は任務中以外では超臆病、いつもビクビクしている小動物、と言った表現を具現化した娘だった。
しかし、この泊地のへの羽黒の着任は初期に近い時点であり、提督との付き合いは長い。
…実はこの泊地において、妙高型で1番着任が遅かったのは妙高だったりする。
そして長い月日を経て、練度を上げて2次改装を果たしてから、当初とは比べられない程、前向きな女性へと成長した。
…相変わらず泊地内では、提督が絡むとまだちょっと小動物っぽいが…。
…で、今現在に至るわけだが、そんなちょっとした思い出が頭を駆け巡った提督だが、その事は内心に置いておいて、飲み会への参加を承諾してくれた妙高型姉妹達に謝意を示した。
提督「ん、ありがとう。まあ俺は添え物みたいなものだし、みんなが楽しんでるところを邪魔する形にはなるけど、よろしく頼むよ…それじゃあ見回りに戻るけど、今晩楽しみにしてるよ」
那智「あぁ!もちろんだ!」
妙高「ふふふ…それでは後ほど…」
足柄「よーし!漲ってきたわ〜っ!」
羽黒「そ、それでは後ほど…司令官さん…」
今晩の飲み会の予定が決まって提督が妙高達の元を離れ、先程までみたらし団子を食べていた赤城の前に今盛られている団子が、みたらしから3色に化けているのを見て、呆れと " 仕方がないなぁ… " とどこか優しげな発言している提督の背中を見ながら、羽黒は妙高に対して呟いた。
羽黒「…ねぇ、妙高姉さん。司令官さんってお酒飲む人だったの?」
妙高「うん?ええ、嗜む程度は飲まれていると仰ってましたよ」
羽黒「そ、そうだったんだ…てっきりお酒がダメな人かと思ってました…」
那智「まぁ、つい最近まで口外してなかったしな…本人は1人で私室で静かに飲むことが多いらしいし…これも嫁艦達の直談判に感謝せんとな」
羽黒「嫁艦?…あぁ…前に言ってたお話ですか?」
那智「うむ、その一件から提督は我々艦娘達との交友を増やしてきているからな…これから徐々に顔を出してくる事が増えるだろう…酒の席が良い時間と思ってもらえるようにしないとな…」
那智はそう言うと、今回の提督からの申し出を心底楽しみにしているようだ。
足柄「…ねぇ羽黒?まだ気にしてるの?怒った提督が隼鷹とポーラを首根っこ掴んで引きずって退室させたって話」
羽黒「えっ…う、ううん…ただ…どれが本当の司令官さんなのかなって…」
足柄「…あら?それもひっくるめて提督なんじゃないかしら?」
羽黒「…え?」
妙高「そうですね…逆に私は先の一件の提督の激昂の話を聞いて、安心しました。時には厳しく叱ってくれる方なんだなと思いましたから…」
那智「うむ、そういう二面性もあっていいじゃないか。少なくとも他人に迷惑を掛ける類のものではないしな」
足柄「ギャップ萌えってやつね!やっぱりたまには強い所を見せてくれなきゃ、今後がかえって心配だしね!」
羽黒「…そ、そういうものなのかなぁ…(…やっぱり…人を好きになるって…まだよく分からないや…)」
………
……
…
1630時
赤城「…もう!ひどいですよ提督〜、私の3色団子さんをギンパイ ( つまみ食い ) するなんて!」
提督「…ほう、1500時の小休止で君らがカッさらえていった、ぷりんどら と とらやの羊羹達の恨みを俺は忘てれないぞ…」
赤城「どきっ…」
提督「…まあそれは大袈裟として、その位大目に見なさいな…」
赤城「むぅ…はぁ〜い…」
食堂を離れた提督と赤城は廊下で話しながら、次の場所へ移動中。
…その道中の提督と赤城の前方、洗濯物を抱えて部屋から出てくる人と鉢合わせになった。
???「よいしょっ…あら?提督と赤城さん、見回りですか?」
提督「はい、お疲れ様です、鳳翔さん」
赤城「お疲れ様です鳳翔さん…やっぱりすごい洗濯物の量ですね…お手伝いしましょうか?」
2人の前に現れたのは、背中の中程にまで伸びた黒髪をポニーテールで纏め、薄紅色の和服の袖をタスキで縛り、紺色の袴を履いた艦娘。
鳳翔型 航空母艦 1番艦 鳳翔である。
鳳翔は目線程の高さまで積んだ乾いた洗濯物を抱え込みながら答えた。
鳳翔「あら?赤城さんいいんですか?まだ執務があるのでは…」
提督「…もう書類仕事は緊急が発生しない限り、終わりましたから…赤城、鳳翔さんを手伝ってもらえないかな?」
赤城「はい、承りました。鳳翔さんまだ部屋内に乾いた洗濯物はありますか?」
鳳翔「それは助かります♪それでは提督、赤城さんをお借りしますね。赤城さん、部屋には少し残ってますが、部屋の中の2人に割り振った洗濯物が沢山あるので、その上積みしている分を任せていよろしいですか?」
鳳翔がそう言うと、鳳翔が出てきた部屋から2人の艦娘が、うず高く洗濯物を積んだものを抱えて出てきた。
???「うんしょっと…この洗濯物の量を見てると、ウチの泊地も随分多所帯になったって実感できるよねぇ…ん?赤城さんに…提督?お疲れ様です」
???「んん…前が見えない…だからってみんなして汚しすぎぃ…洗う側の身にもなってよぉ〜…あ、提督に赤城さん!お疲れ様です!」
提督「ん、祥鳳、瑞鳳、お疲れ様。洗濯物を運ぶのを赤城が手伝って貰うから、まあ文句は言いなさんな…赤城、悪いが頼むよ」
赤城「了解です!ほい、ほいっと…」
すると赤城はうず高く積まれた2人が抱えている洗濯物を器用に掬い上げて積み重ね、自分も含めて皆同じぐらいの目線の高さに洗濯物を分配した。
そのお陰で目線の上を越えて積まれていた洗濯物が目線よりちょっと下まで下がったので、顔が確認できた。
部屋から出てきた1人目は、スラッとした背格好に背丈程の長さまで伸びた黒髪ストレート。
白の着物に黒の袴風スカートを纏った、祥鳳型 航空母艦 1番艦 祥鳳。
祥鳳の次に部屋から出てきた、背格好が高くなく、茶髪で肩より少し下に長いポニーテール。
白の弓道着に赤のもんぺを纏った、祥鳳型 航空母艦 2番艦 瑞鳳。
この2人は、手が空いていればよく鳳翔の手伝いをしているが、傍から見ていたらこの光景は中々微笑ましい。
※提督談
提督「ん、それじゃあ皆、洗濯物の片付け、よろしく頼むよ…自分も手伝えれば良いんだけど…」
瑞鳳「っ!そ、それはダメですぅ!」
提督も手伝いを申し出たが、瑞鳳が真っ先に拒絶してきた。
…まあそりゃそうか。
だって全部女性用の衣類だし…。
提督「ん、デスヨネー…なんかサボってるみたいで悪い…」
祥鳳「それ以外の事で提督は頑張っておられるので、気にしないでください♪」
提督「ん…足止めちゃって悪い…それじゃあ、俺は1人で見回りしてくるから、そっちはそっちで行ってらっしゃい」
洗濯物輸送船団「「「「いってきまーす」」」」
洗濯物輸送船団は、そう言うと提督から遠ざかって目的地に向った…が、瑞鳳だけ何か言う為に提督の元に戻ってきた。
瑞鳳「あの…提督、悪く思わないでね?…気持ちは嬉しいんだけど…」
提督「ん、何もしてないのが何となく座りが悪かったから申し出たけど、考えたらまぁそうだわなって…それより瑞鳳、置いていかれるぞ?焦らず行ってきな」
瑞鳳「はい♪それでは失礼します♪」
そう言うと瑞鳳は、先へゆく鳳翔達に追いつくべく、パタパタと洗濯物を抱えて軽快な足取りで後を追っていった。
提督「(…ん、やっぱり瑞鳳はかわゆい…)」
…一応彼女の名誉のために言っておくが、背格好は下手したら駆逐艦並だが、ああ見えて合法的にお酒も飲める立派な大人だぞ。
………
……
…
〜泊地の空母寮の談話室〜
???「…ふえ…っくしゅん!!」
翔鶴「…あら?龍驤さん、如何されましたか?」
???「…グス…何や悪寒が…ウチのこと悪ぅ言ってる輩でも居るんちゃうかぁ…」
………
……
…
1700時
…さて、提督は回り回って戦艦寮にやってきた。
…といっても、寮に繋がる屋外の屋根付きの渡り廊下で素通りするだけだが…。
???「〜っ!〜〜っ!」
???「ーっ!ーーっ!」
提督「…ん?」
何やら雨音に混ざって大声の残滓が所々拾って聞こえてくる。
…どうやら屋根のない広場から聞こえている様だが…。
提督は気になったので、少し覗いてみることにした。
………
……
…
提督「…なんじゃこりゃ…」
提督の目の前では、ドッヂボールの様な事をしている2名を発見した。
片方は、戦艦長門。
…そしてもう一方はというと…。
???「ふははっ!改二でもその程度か!長門よっ!」
長門「はっ!その割には足が随分よろけているんじゃないか?!武蔵よ!」
長門を相手取っているのは、映えある日本帝国海軍切っての超弩級戦艦。
高身長に超ワガママボディに褐色肌に大胆なサラシススタイル、銀に近い金髪にヘアバンドにツインテールで銀フレームの下縁眼鏡。
一つの個体にありったけの属性をぶっ込めるだけぶっ込んだ、大和型 戦艦 2番艦 武蔵 がそこに居た。
提督「…えぇー…ちょっ…えぇ…なんなのこれ?」
陸奥「あ!提督!あの二人を止めて!」
???「提督!申し訳ありません!武蔵ったらみんなの静止を聞かずに長門さんにっ!」
戦艦寮の屋内廊下からこの光景を見ていた提督を発見した陸奥ともう1人の艦娘が、慌てて駆け寄ってきた。
提督「陸奥、大和、これはなんぞ?」
???「ええっと…その、武蔵が最近の悪天候で出られない事に鬱憤を募らせていて、その捌け口に野外でドッヂ勝負を長門さんに一方的に申し込みまして…」
あせあせと提督に説明を始めた女性は、武蔵同様に日本の象徴とされる超弩級戦艦。
こちらも当然の如くの高身長で、膝ほどまで伸びた少し茶掛かった黒髪をポニーテールで纏め、紅白のセーラー服に、左二の腕付近にZ旗腕章。
史上最強の戦艦と謳われた大和型 戦艦 1番艦 大和 である。
大和「てて、提督!本当に申し訳ありません!武蔵を止められず、何も出来なくて…!」
提督「…どうどう…大和、最近着任したばかりなんだから仕方がないって…まあまず落ち着いて…」
…彼女の事は少し前の大規模作戦にて、解析・着任を果たしたばかりで、先に着任した武蔵と比べて練度が高くない上に、人の体を得て間もない為、こう言った人っぽいいざこざに慣れていないので、提督も咎める気にならなかった。
提督「…で陸奥、長門はなんでまたあそこに居るのかな?」
陸奥「長門ったら最初は断っていたみたいなんだけど、武蔵に挑発されて黙ってられなくなったの…わ、私も止めたのよ?!」
提督「いや、うん、そこは疑ってないから大丈夫として…」
提督はドッヂボールを渾身の力を載せて投擲し合う2人を見た。
長門「これはどうだぁっ!…っむぅぅぅんっ!!」
武蔵「くぅっ…なんのこれしきっ!はぁぁぁあっ!!」
…うん、止めるの…
☆絶対ムリ☆
提督「…アレに割って入ったら、間違いなく俺の頭がドッヂボールのボールに入れ替わっちまう…」
…そう、某幼児向けアニメのパンの頭のように…。
大和「…あわわわ…」
陸奥「…その冗談は全然笑えないわよ、提督…」
提督「…なので 、最終手段を使ってみる…」
大和・陸奥「…え?」
ピッピッピッ…スーッ、スーッ、ピッ…
提督は普段から持ち歩いている泊地内専用の内線端末を手に、ある人に電話をかけ始めた。
Trrrrrr…Trrrrrr…Trrr…
???「…はい、提督、どうなされましたか?」
提督「あ、鳳翔さん、忙しいところすみません。今電話大丈夫ですか?」
相手は鳳翔だった。
鳳翔「ええ、大丈夫ですよ…あら、後ろから随分野太い声が聞こえますね?」
提督「…実は長門と武蔵が " 野外 " でドッヂボール対決をしてまして…」
鳳翔「…あら…まぁ〜…ふふふ♪仕方がない子達ですねぇ〜♪」
…ゾワワッ
提督はこの状況にも関わらず、呑気な鳳翔の声色に背筋がゾッとした。
そして、提督の後ろで聞き耳を立てていた陸奥と大和も、そのスピーカーから漏れ出た鳳翔の声だけで震え上がった。
提督「…鳳翔さん、自分が、入って止めようかとも思ったのですが、間違いなく無事で済まない公算が高く、姉妹たちも開始直前まで止めに入ったのですが、本人達の意思も固く、どうすることも出来ず申し訳ないのですが…!」
鳳翔「ええ♪提督もお気になさらないで下さい♪陸奥さんや大和さんにもよろしくお伝えください♪では、早急にそちらに向かいますので、少々お待ちくださいね〜♪準備してきますので〜♪…」
…プツッ…ツー、ツー、ツー…
………
……
…
提督「…鳳翔さんがすぐ来てくれるそうだ…陸奥と大和によろしくってさ…」
陸奥「…提督…それはそれでワイルドカード過ぎて笑えないわ…」
大和「…ある意味、最強の切り札です…」
鳳翔「…ふぅ…お待たせしました♪」
3人「「「ヒェッ?!」」」
こうして艤装一式を装備した鳳翔が音もなく到着した事によって、またたく間に2人の危険極まりないデスマッチは制圧され、慌てふためいていた3人を背に立つ鳳翔の前で正座させられた長門と武蔵。
鳳翔「うふふふっ♪2人共、何か申し開きはありますかぁ〜?」
長門・武蔵「「…ありません…」」
…この後、2人は鳳翔にめちゃくちゃ説教された。
そして裁量が下され、両名とも今晩はその泥だらけの格好で過ごす…これはつまり、不衛生な状態では食堂に入る事が出来ないという意味で、明日の朝まで食事が摂れないと言う事に他ならなず、その上で1週間の洗濯物作業の奉仕が課せられたのであった…。
………
……
…
…2時間後…
日が少し傾き、鳳翔の説教が終わってその背中を見送った提督は、長時間の慣れない正座で悶絶して動けなくなって、泥まみれのままの長門と武蔵に近寄った。
提督「…2人共、俺だけで止めれる力があれば良かったんだけど…申し訳ない…」
長門「…くぅ…い、いや…提督はそれでいい…武蔵の挑発に乗ってしまった私にも責はある…」
武蔵「…あ、あぁ…むしろ提督があの場に入らなくて良かったよ…私もどうかしていたようだ…提督に長門よ…すまない…」
提督「…今度はもっといい方法を考えるよ…鳳翔さん呼んどいてこんなこと言う立場じゃないんだけど…」
長門・武蔵「…っ!だから提督の対応は問題ないとっ…!」
グルルルルルルル…
提督「………」
…腹の虫…いや、腹の獣が唸っているが、この音は提督ではない。
…そして長門と武蔵は赤面で提督と目を合わせてくれずに固まっている。
長門「…な、何の音だろうなぁ…提督…///」
武蔵「…この近くにデカいカエルでも居るんじゃないか?…な、なぁ…相棒よ…///」
提督「…ン、ンー、ソダネー…」
かなりの武闘派の2人だが、お互い高練度の艦ということもあるのか、提督への信望も厚い為、自分たちから発せられた生理現象の音が恥ずかしくなって誤魔化して、それを汲んだ提督。
とにかく2人を無駄に動かすと更に空腹を呼び起こすので、2人の元を離れて、ひとまず執務室へ戻る事にした提督なのであった…。
…そして手早く夕食後を済ました提督は、こっそり内緒で2人に、熱々のタオルと乾いたタオル、除菌ウエットティッシュとおにぎり沢庵セットを差入れしたのは、完全な余談である…。
2000時
急な大本営からの命令や書類も届かなかった事を確認して、本日の秘書艦の赤城に自由にしてもらう為、仕事を切り上げてから不測のミッション(長門と武蔵への食料鼠輸送)を達成した提督は、早歩きでバーに向かっていた。
…特に時間を約束した訳ではないが、早く着くのに越したことは無いと、早歩きでバーを目指した。
…提督は別棟の一室の前に到着した。
…ここに来るのは3ヶ月弱振り。
…もっとも、その時は飲む為にここに来たわけではないのだが…。
…ギィ…カランカラン…
開けたドアに取り付けられた呼び鈴が鳴り、提督は室内に入ると、入り口に流し目を送くる人がいた。
提督「お邪魔するよ〜」
那智「む、よく来たな提督!さ、こっちだ!」
既に中にいた那智の手招きで提督は妙高姉妹が集まっているカウンター席に着いた。
…因みに提督が着座したカウンター席は、妙高と那智の間で那智の右横に足柄、妙高の左横に羽黒といった配置だ。
そして、今のところバー内にいるのは妙高型姉妹のみだ。
提督「いやぁ…ちょっと遅くなって悪いね…土産の酒を見繕っていたら遅くなっちゃって…」
那智「おぉ…気遣いに感謝する…何を持ってきたんだ?」
提督「んと…ウィスキーと日本酒…日本酒は冷やしてきてあるけど、一旦冷蔵庫に入れとくよ」
那智「そいつは楽しみだな…さあ、提督、まずは提督の持ってきたコイツで乾杯と行こうじゃないか」
那智の右手には、提督の持ってきたウィスキーが掲げられた。
那智「ほぅ…提督はニッカ派か?なかなか良い趣味だな…」
提督「あぁ…個人の頂きものでな…普段はニッカのお手頃なやつばかり飲んでるもんだからって、とびきり上等なのを送ってくれたんだよ」
那智「ふふ、THE NIKKA か…!…上等な酒で楽しみだが…すまない…私はいつものダルマなんだが…」
提督「良いって良いって、俺はダルマも好きさ。…まあ今回は飲み会参加の記念日ってことで皆で飲もうさ」
…提督が来る前にすでに飲み始めていたんだろう。
那智も足柄も妙高も、ほんのり肌が赤みがかっていた。
…羽黒はウーロン茶をちびちび飲んでいるようだが…。
提督はふと思った。
ここに着任して早3年以上の月日が過ぎたが、何だかんだ言って艦娘達と肩を並べて酒を飲むのは初めてかも…いや、初めてだなと少し感慨深さのようなものを感じた。
いつも素面の時は厳しい表情を浮かべている那智も、何だかとても上機嫌だ。
那智「ふふ…すまないが提督の取っておきを勝手に開けさせてもらったぞ。まずは私の酌を受けてくれないか?」
提督「おお、いつもの如く仕事が早いね…それじゃあお願いします…」
提督の持つロックアイスの入ったグラスに、瓶から琥珀色の液体が流れ出て、それと同時に瓶から小気味の良い " トクトクトク… " とグラスに注がれる音が流れる。
その光景は、バーカウンターの間接照明に照らされて、その流れ入る琥珀色の液体がとても艷やかに映し出される。
提督「…雰囲気って大事だな…いつもの部屋の照明ではこの情景は拝めないよ…」
那智「ふふ…そうだろう?まぁこれも提督の計らいのお陰だがな。ここに来て飲む酒は格別なんだ」
提督「…そっかぁ…喜んでもらえているのなら嬉しいよ…那智もどう?グラスは…」
那智「むっ…いかんな…ちょっと待っててくれ…」
そう言うと那智は先にグラスに入っていたウィスキーをグイッと一気に飲み干した。
提督「おぉう…無理しなくてもいいのに…」
那智「ぷはぁ…なぁに…折角提督の取っておきを注いでもらうんだ。混じり気があっては提督と酒の両者に失礼というものだ」
提督「…ん、ありがとう…それじゃあ注ぐよ…」
那智「おとと…ふふふ…こうして貴様と酒を酌み交わすときが来るとはな…」
提督「…そだなぁ…俺も今さっき思ってて感慨深さがあったよ…」
足柄「んぐ…ぷはぁっ!…提督ぅ〜私にも注いでもらえないかしら?」
提督と那智がお互いの思いに耽っていると、足柄がグラスを空にして割り込んできた。
提督「おおっと、もちろん…ほら…ちゃんと受けてくれよ…」
足柄「…うふふ♪提督、ありがと♪」
提督「まだ乾杯はしてないからちょっと待っててくれよ?」
足柄「もっちろんよ♪」
いつも隙がない足柄だが、酒の席では少しフワフワしてるんだな…あくまで主観だが。
提督「…妙高は…日本酒?」
妙高「す、すみません提督…ウィスキーは少し…」
足柄「妙高姉さんはウィスキーが苦手なの」
提督「…なんと…」
妙高「も、申し訳ありません…」
…確かに妙高の手元にある酒は、冷ややかなガラス細工で彩られた徳利とお猪口が置かれていた冷酒であった。
提督「…ん、ちょっと待ってて…」
それを見た提督は席から立ち、カウンター内に入った。
妙高「て…提督?」
提督「んーっと…職人さんに言ってたから一式…あるいは代替品があるはず…」
提督はそう言うと、カウンター内の棚を探し始めた。
…すると程なく…。
提督「…お?…おお、これこれ…冷たい酒用の冷すピッチャー発見♪」
出てきたのは、容器ごと入れて、その周囲に氷を入れて冷すのに使うステンレス製の少し小さめのピッチャーだった。
そこに提督は冷蔵庫に入れた日本酒の一升瓶を出してきて、それをガラスの2合徳利に移し替えてピッチャーに投入。
そこへ氷を大量に敷き詰めて、暫く冷たくて美味しい冷酒が飲めるよう用意した。
妙高「まぁ…♪お心遣い痛み入ります提督♪」
提督「やっぱり好きな酒は一番いい状態で飲んで欲しいからね…これは親戚筋から送られてくる地酒の" 萩乃露 " と言ってね…なんだかこれが一番しっくり来たのを覚えてくれてて、この時期は冷酒用のこれを送ってくれるんだよ…さ、どうだろうか?酌を受けてくれるかい?」
妙高「…もう…その言い方はズルいですよ提督…」
妙高はそう言うと、手元にあったお猪口に入っていた冷酒を、クイッとひと飲みして、空にしたお猪口を提督に差し出した。
提督「ふふ…みんな強いなぁ…」
妙高「それは提督と姉妹で飲める初めての楽しいお酒ですもの…受けないとバチが当たってしまいますよ♪」
まるで涼やかな水が流れて落ちるようにダウンライトに照らされた冷酒が、妙高が差し出したお猪口に注がれる。
…うむ、やはりこれはこれで趣があって実に日本らしい。
提督「…よし…それじゃあ…羽黒はどうする?そのままでいいかい?」
そして妙高型最後の1人となった羽黒に声をかけた提督。
流石に自分以外の姉妹が全員提督の酌を受けているのを目の当たりにしていたのもあってか…。
羽黒「…あ、はい!…ええっと…お猪口をいただけますか?1杯くらいなら大丈夫ですので…」
提督「ん、そうか…お猪口はっと…これだな。さぁ、手に取って手に取って。注がせてもらうよ」
羽黒「はい…司令官さん…ありがとうございます…///」
おずおずと両手でお猪口を差し出したが、なんだか嬉しそうに提督の酌を受けた羽黒。
提督「それじゃあ全員行き渡ったところで…皆ありがとう…こんな席を設けてくれて…こうやってみんなと飲める日が来るとは思っても見なかったから、とても嬉しく思うよ…今日という良き日の記念に乾杯!」
妙高型一同「「「「乾杯っ!」」」」
カシャシャン♪
互いの盃を触れ合わせ、何とも言えない上品な音色が響き渡った。
提督「ん…あぁ…やっぱりコイツぁ美味いな…グイグイ行くのは勿体ない…」
那智「ん…ほぅ…この芳醇な樽とピートの香りが鼻腔を通る度に感じる何とも言えない幸福感…そして仄かな甘み…素晴らしいなコレは…たまにはニッカも悪くないかもしれんな…っ!」
足柄「…っ!…やだ…美味し…っ!これホントいいお酒ね♪」
妙高「…まぁ…あっさりしているのに果物のように甘い…どんどん飲んでしまいますね〜♪」
羽黒「…わわ…///お酒なのにお酒じゃないみたい…美味しいです…」
提督「ふふ…皆の口に合って良かったよ…ホントは1人でノンビリ飲む気だったんだけど、持ってきてほんとに良かった…羽黒?気に入ったのなら1本つけようか?」
羽黒が持っているお猪口には、注いだ日本酒は飲ま干されていた。
羽黒本人はどうしようか迷っていると…。
妙高「…提督、それはいけません…羽黒は飲むペースを配分できないので…私につけていただけませんか?一緒に分け合って飲みますので」
提督「ん、そっか…羽黒はそれでいいかな?」
羽黒「は、はい…お気遣いありがとうございます…///」
提督「…だったら折角用意してくれた席だが、のんびり座っては飲んでいられないな…どれ…よっこいせっと…」
提督はカウンター内にあった座面が小さくて、背の高い椅子を姉妹の座る対面に置いて、そこに座った。
那智「はは…貴様がそこにいると、まるでバーの店主のようだな」
提督「…それっぽくカクテルでも覚えようかな」
足柄「あっはっは♪そんな事やってたら提督の仕事はいつするのよ〜」
提督「…それもそっか…でも任務や上司部下の関係以外で、そういう交わり方も良いかなって思っちゃたりしてるんだよなぁ…」
足柄「くぅ〜…嬉しい事言ってくれるわよね…でもね…そんなことしたら提督ぶっ倒れちゃうかもしれないって…ホントに無理はしないでよ?」
陽気な声色が一転、少し足柄のトーンが少し下がった。
提督「あぁそりゃもちろんさ…でもまあ今は…こうしてこっちに座ってみんなの顔を見て飲んでいる方が性に合うかな…何だか安心するんだ」
那智「くくく…本当に店主のようだな」
足柄「にゃははっ♪それじゃあ私達が提督の初めてのお客ね♪」
一瞬トーンが下がった足柄だったが、直ぐに切り替わった。
…酒が回ってるからなのだろう。
感情の抑揚の差が普段に比べたら顕著だった。
提督「はっはっはっ!そいつぁいいなぁ」
こうしてカウンター越しでの酒を酌み交わしながらの対話が始まった頃…。
…ギィ…カランカラン…。
バーの入り口が不意に開いた。
提督の目線はまっ先にそちらに向かった。
???「なんか楽しそうだねぇ〜♪あたしも混ぜてくれよ〜♪…て…てててっ!提督じゃんっ?!」
???「…?何慌てふためいてるのよアンタは…あら
…提督じゃない。カウンター内に入っちゃって何してるの?」
2人の艦娘がバーに入ってきた。
提督「あぁ、隼鷹に飛鷹…お邪魔してるよ」
先頭に入ってきて早々に提督の存在に気が付いて、慌てているこの艦娘が、提督に引きずられてバーから強制退場させられた2人の片方。
紫色の髪は腰より長く、その上は四方八方へくせっ毛でピョコピョコ跳ね、赤のブラウスの上に白と緑のベスト、その上から狩衣風の白い上着を羽織り、赤のズボン袴。
彼女が飛鷹型 航空母艦 2番艦 隼鷹。
その次に入ってきた艦娘は、隼鷹の髪とは対象的に艶のあるストレートの黒く長い髪を背中まで伸ばし、赤のブラウスの上から白い狩衣風の上着を着て、ズボン袴の隼鷹とは違い赤の袴を穿いている艦娘は、隼鷹の姉に当たる、飛鷹型 航空母艦 1番艦 飛鷹だ。
提督「隼鷹に付添で飛鷹が来るとは珍しいな…」
飛鷹「最近、お酒の量を控えてくれてるし、たまには付き合ってあげようかなって思ってね…まさか提督がここに居るなんてラッキーだわ♪」
提督「よかったらカウンター席に2人で座る?俺はここに座ってるし、まだ席に空きはあるよ」
飛鷹「あら♪それじゃあ遠慮なく座るわね、羽黒、隣お邪魔するわね」
羽黒「あ、はい、どうぞ飛鷹さん」
飛鷹はそう言うとスッと流れるような動作で羽黒の横のカウンター席に座った。
…服装的には結構嵩張る服装なのに、器用なものだ…その辺りはやはり元客船出身だけあって、動作に気品を感じる。
…この席に座ってて良かったな…こういった艦娘達の細やかな仕草も見ることができるのだから、成り行きでカウンター内に座った事が提督としては結果的に良い作用に働いたようだ。
…が、そうでない者も…。
提督「…ん?隼鷹、どうした?突っ立って無いで座ったらどうだ?」
…そう、こっ酷くしかられた事がある隼鷹だ。
隼鷹「うぇぇっ?!…いや〜あたしは他所に座るよ…め、迷惑かけたら悪いしさっ」
…隼鷹は何やら白々しい態度。
あの一件から任務の命令等では特に問題は無かったが、普段の生活での絡みが随分減ったのは、提督も肌で感じていた。
…余程怒鳴られたのが堪えて引きずっているのだろう。
隼鷹には出来れば同じカウンター席に座ってほしいのだが、どうすれば座るかと提督は思案を始めた。
飛鷹「ちょっと隼鷹、私が付き合ってあげてるのにそういう事するわけ?」
隼鷹「い、いやだってさぁ…」
提督「…冷で中々イケる日本酒を用意したんだがナァー… (棒) 」
隼鷹「!!」
妙高「ふふふ♪美味しいですよ?隼鷹さん」
妙高も提督の内心を汲み取ってか、援護射撃を始めた。
隼鷹「うぎぎぎ…」
…提督の前で醜態を晒すのが嫌なのか、飲みだしたら調子づいてしまいそうな自分を戒めようと揺らいでいるのか…恐らく色んなの内心が働いて隼鷹は、躊躇っていた。
…提督は思い切ってみた。
提督「…ええい、焦れったい。那智、足柄、軽空母 隼鷹を拿捕し、カウンター席まで曳行せよ」
那智・足柄「!…了解っ!」
隼鷹「えぇぇっ?!ちょっ…まっ…」
提督から隼鷹をカウンター席に着かせるように命を受けた那智と足柄は、素早く立ち上がって、そのまま狼狽えてる隼鷹を2人掛かりで両腕を抱えて、有無も言わさずカウンター席に曳行した。
那智「大人しく連れて行かれる方が良いぞ…悪く思うな…何せ提督は直々の命令だからな…」
足柄「前の事で怖いのは分かるけど、せ〜っかく提督が心を開いてお酒の席に来てくれてるのよ〜?…さぁ…大人しく観念しなさいなっ…」
隼鷹「ちょ…2人共…顔がおっかねぇってぇ…わかったから乱暴しないでおくれよ…」
流石に重巡2隻相手では分が悪いと悟った隼鷹は、那智と足柄にされるがまま、そのままの配置でカウンター席に着座した。
提督「2人共ありがとう、悪いな隼鷹…手荒な真似をした…詫びといっちゃなんだが、酌を受けてくれるかい?」
隼鷹「い、いや…いいって…でも、いいんかい?」
提督「ん?いいって何が?」
隼鷹「…前に迷惑かけたこと…怒ってない?」
提督「…俺も冷静じゃなかったしな…それに隼鷹も相応の罰を受けたんだからおあいこさ…まぁ今後は気を付けて飲んでくれればそれでいいし…」
隼鷹「う…うん…わかった…それじゃあ…提督のお気に入りの日本酒…貰おうかな…///」
提督「あいよ、冷一丁〜」
飛鷹「ぷふっ…提督それ居酒屋じゃない?」
提督「…おおっと、しまった (棒) 」
提督はうっかりを表現するために、手の平で軽く自分の額を叩いた。
あっはっはっはっはっ!
こうして飛鷹型の2人を織り交ぜての飲み会も、酒が進むにつれて隼鷹の中にあった、わだかまりも少なくなったのか、いつもの調子が戻ってきた。
提督「…ありゃ…予想はしてたけど、萩乃露なくなっちゃった…」
隼鷹「えぇ〜提督ぅ〜なくなっちゃったの?」
やはり筋金入りの酒豪艦。
人数が多いとはいえ、一升瓶の半分近くを軽々と飲み干した。
隼鷹「なくなったなら仕方ないさ〜♪あたしはあそこに積んである酒のどれかを飲むよ〜。提督♪ごっそさん♪」
…まあ、一升瓶半分の量で元気になってくれたのなら安いものだ。
提督「どういたしまして、あんまり飲みすぎるなよ?」
隼鷹「はぁーい♪」
そう言うと、隼鷹は席を立ってお中元で贈られてきた酒が積まれたテーブルまでヒラヒラと歩いて、テーブルに着いたらそれらを入念に吟味していた。
飛鷹「…提督、ありがとうね…隼鷹あの一件以来、監視の面では楽だったんだけど、ちょっと元気が無かったのよね…」
提督「ん、でもちょっと隼鷹のやつ飲み方変わったな…前は片っ端から飲んでた節が見受けられたけど、今は量も減って、種類も選んで飲んでる感じがするよ…でも実際どう?見境なく飲んでた時と、今とどっちが良い?」
飛鷹「う〜ん…ちょっと難しいわね…ひょっとしたら私ってば苦労性なのかもね…注意とか介抱がなくなったらなくなったで寂しかったりもするわ…」
提督「…うん、そんな気はしてた…でも今の隼鷹の加減だと飛鷹も良い顔してると思うよ。肩の力が抜けててる気がする…」
左手で頬杖をしながら提督は、次に飲みたい酒を選んでいる隼鷹の背中を見てから、飛鷹に視点を移してジッと飛鷹の目を見た。
飛鷹「ちょっ…///何言ってんの…ばか…///」
隼鷹に日本酒をほとんど持っていかれたので、飛鷹は今、提督が持ってきたウィスキーを飲んでいて、提督にそう言われると、ロックアイスの入ったグラスを両手で持って口元を隠すようにちびりちびりと飲んでいた。
提督「ん?見たまんまを言ってるつもりだけど?」
飛鷹「く、口説いたって何も出ないんだからっ…///」
提督「そんなつもりはないんだけどなぁ…まあ俺としては皆の仕草が見ながら話してゆっくり酒が飲めるこの席が、性に合うというか…こういうのも良いなって…」
飛鷹「ふふ…でも貴方らしいわ…見てて分かるもの…今の提督、凄く柔らかい表情してるわ」
提督「…そっか…いい酒が飲めているならそれでいいや…」
飛鷹「…もう一杯…ニッカをいただけないかしら?」
提督「ん、グラス替えようか?」
飛鷹「ううん、そのまま氷を足してくれたら良いわ」
提督「あいよ」
飛鷹から受け取ったグラスに手早くロックアイスを足してから飛鷹にグラス返すと、提督はそのグラスにウィスキーを注いだ。
飛鷹「…ふふふ♪ホントに砕けたバーの店主みたい」
提督「…それ今日散々言われたわ…きっと俺はそういう属性持ちなんだろうなァ…」
飛鷹「なぁにそれ?うふふふ…」
足柄「提督〜?ニッカまだあるぅ?隼鷹が持ってきたのと飲み比べしたいのぉ〜」
提督「もうちょいあるぞ…氷はどうする?」
足柄「テイスティングに氷は不要よ〜。」
提督「…テイスティングて、もうベロベロじゃんか…」
足柄「にゃははぁ〜♪楽しいからいっぱい飲んじゃったぁ〜♪」
提督「…程々にな」
隼鷹「ひゃっは〜♪提督持ってきたウィスキーも美味いなぁ〜♪ガバガバいくのが勿体ないよ〜」
提督「…とか言ってガバガバいってるし…」
飛鷹「…すっかり元に戻ったかも…」
提督「それはそれで良いんだって…可愛いもんだ」
飛鷹「ふふ…提督、何だか店主である前に父親みたいよ」
提督「…まあ何かその表現は強ち違いないのかもしれない…」
妙高「羽黒…羽黒っ!」
羽黒「…うにゃぁ…もう飲めまないれすぅ…///」
提督「…こっちはこっちで潰れちゃったかー」
いつの間にやら、羽黒はカウンターに突っ伏して寝かかっていた。
提督「…妙高、とりあえずソファが空いてるから、そこに羽黒を寝かせてきたらどう?タオルケットを持ってくるよ」
妙高「す、すみません…よろしくお願いします」
飛鷹「(…うん、優しいお父さんっぽいわ…)」
その光景を見ながら飛鷹は内心こう思っていたのだった…。
提督が初めての参加した飲み会は、こうして夜が更けてゆき…。
2300時
提督「…妙高、羽黒は大丈夫?」
妙高「ご心配なく…羽黒は部屋にしっかり連れ帰りますので、提督はそのまま私室へお帰りください」
羽黒「司令官さん、妙高姉さん…ご迷惑をかけてすみません…」
時刻もいい時間になって飲み会はお開きとなり、バーの片付けを済ましてから全員で退室して、鍵を閉めた。
羽黒はお開きになる直前までソファで寝ていたので、少し酔いが覚めて自力で立つ事ができていた。
妙高「いいのよ…楽しかったんでしょ?」
羽黒「…う、うん…///」
羽黒のその言葉を聞いた提督は、今回の飲み会に参加して良かったと心から思えた。
提督「それなら良かった…それだけが聞けたら十分さ。…たまの事なんだから甘えなって」
妙高「…ただ、足柄は大丈夫が怪しいものですが…」
妙高はそう言うと、じとーっとした目で目を流す先には、グデングデンになって那智に肩を借りている足柄の姿…。
足柄「うぉーっ♪もう一軒いっとこーっ♪」
那智「馬鹿者…明日お前は朝から教鞭に務めるんだろうが…帰るぞ…提督、我々はこれで失礼する…またこういう機会が持てるといいな」
提督「おう、道中気を付けてな。今度は普段飲みの酒を持ってくるし、また参加するよ」
那智「ふふ…楽しみにしているぞ…それではまた明日」
提督「ん、おやすみ…足柄もちゃんと寝るんだぞ」
足柄「はぁ〜い♪」
結構な量を飲んでいた筈の那智だが、ブレることなく足柄に肩を貸したまま曳航していった。
飛鷹「…それじゃあ提督、私達もお暇させてもらわね…また明日」
隼鷹「提督っ♪今日はあんがとねっ。また参加してくれよな〜?」
那智と足柄を見送って次に飛鷹と隼鷹も提督に声を掛けた。
提督「おう、今日はお疲れ様…隼鷹が酔ってるのにシャンと立ってるのって新鮮に見えるな…」
隼鷹「さ、流石にもう提督の前でお痛はしないってぇ〜…」
飛鷹「うふふ…やっと加減ってモノがわかったから私も助かるわ」
提督「ははは…また飲み会には参加するよ…じゃあおやすみ飛鷹、隼鷹。明日もよろしく頼むよ」
飛鷹「おやすみなさい」
隼鷹「おやすみぃ〜♪」
空母寮に向かって歩き始めた2人を見送って、提督は、鍵を返納するべく執務室に向かって、歩こうと動いた。
妙高「提督、お供します」
提督「…ん?妙高に羽黒…まだ居たのかい?」
提督は後ろから声を掛けられたので、歩くのをやめて声のした方向に振り向いた
…そういえば見送ってなかったなと思っていた、妙高と羽黒が提督の後ろに控えていた。
妙高「ええ、提督を私室まで護送します」
提督「…構わないけど、結構遠周りじゃないかい…?それに羽黒もいるし…」
羽黒「あ、あの…私も残るって妙高姉さんにお願いして…」
提督「…そうだったのか…それじゃあお付き合いお願いするよ」
妙高・羽黒「「了解です」」
提督は両サイドに妙高と羽黒を引き連れて、まずは執務室へ向かった。
…羽黒の足取りが少し危なっかしかったので、少しゆっくりと歩きながら。
妙高「提督…今宵の飲み会の申し出、有難うございました。私達姉妹、提督ととても楽しい時間が共有できました」
提督「ん…それなら良かった…俺もとても充実した気分で歩いてるところだよ…ところで羽黒?」
羽黒「は、はい、何でしょうか?司令官さん…」
提督「…隼鷹達の叱責騒ぎでなんか怖がらせたみたいで、悪かったなぁ…」
羽黒「えっ?!い、いえいえいえ!あれは私が勝手にっ…」
妙高「羽黒…声が大きいですよ…」
羽黒「あうっ…すみません…」
提督「…でも勇気を出してバーに来てくれただろう?あの時凄く羽黒は成長したなって強く思ったんだ」
羽黒「そ…そうでしょうか?」
提督「もちろんさ、だからさ、無理にとは言わないけど、また皆の都合が合ったら羽黒と皆と色んな話がしたいんだ…その時はまた来てほしいな…」
羽黒「…はいっ…また…ご一緒したいですっ…///」
妙高「(ふふふ…良かったわね、羽黒…)」
ゆっくり歩きながらささやき声で話しながら執務室、私室へと向かい…。
提督「…無事俺の部屋に到着…妙高・羽黒、付き合ってくれてありがとう」
妙高「いえ、私達がしたいだけなので、お気になさらないでください」
羽黒「(コクコク)」
提督「…お礼は頭撫でたらいい?」
妙高「…え?」
突然の提督の発言に先程まで朗らかな妙高の表情が固まった。
妙高「…提督…何を仰っているのか意味がわからないのですが…」
提督「…ごめん…この前、摩耶と鳥海に護送してもらった後の会話聞こえてた…」
妙高「っっっっ!!///」
羽黒「えっ?…えぇっ?」
妙高の顔は一気に真っ赤になった。
…そして何が起こったか理解できていない羽黒は、目線が提督と妙高の間で、右往左往していた。
…そう、先日の見回り組の宿直室に提督が久々に訪問して、深夜に帰って来た時の事だ。
その時に交わされていた妙高と摩耶と鳥海の会話がドア越しに提督に聞こえていたのだ。
妙高「えぇ…えっ?いや…その…///」
羽黒「(…わぁ…妙高姉さん顔が真っ赤で狼狽えてる…かわいい…)」
提督「…と、言う訳で自己解釈した結果、今後は見送りしてくれた娘にはナデナデを報酬するべしと判断したんで、大人しく撫でられてください(笑)」
妙高「は、はは…はいぃぃぃ…///」
羽黒「え、ええっと…私も…していただけるんですか?」
提督「もちろん漏れなく」
羽黒「…っ!…お、お願いしますっ」
提督「ほれほれ、2人共、ちこう寄らんか〜よ〜しよし〜」
なでなでなでなで
妙高「んっ…///」
羽黒「はわ〜…///」
妙高は恥じらいながらも嬉しそうに、羽黒は目を細めて気持ち良さそうに提督のなでなでを受けていた。
…やはり、撫でられた直後の2人は、体の周囲にキラキラと星が散りばめられているように見えたのであった…。
提督「…ん、改めて護送に感謝、帰りも気を付けてな…それじゃあおやすみ2人共。また明日…」
妙高「おぉ、お、おやすみなさいませ提督っ、では私はこれでっ…」
羽黒「あわわ…司令官さん、おやすみなさいっ…失礼しますっ…姉さ〜んっ、待ってくださ〜い…」
提督「ん、お疲れ様、また明日…おやすみ」
嬉しさと羞恥がごちゃまぜになったか、妙高は競歩のようなペースで自室に向かって歩き出し、出遅れた羽黒は酔いが覚めたようでしっかりした足取りで妙高を追いかけるのであった。
提督「…うん、手応えはあったな…」
妙高にしても羽黒にしても…。
今日も色々な艦娘と交友できたし、明日はどうなるかなぁ…。
提督は2人の姿が見えなくなった廊下を見ながら、そんな事を考えていたが、それもつかの間。
自室に入って明日に備えて寝ようとドアに手を掛けた。
かさっ…
…何やら物音がした。
提督の視線が音のした場所へ移ると、そこには丁寧に折られた手紙が置かれていた。
提督「(なんだろうか?)」
表側には " 提督へ " 記されており、折込まれた紙の後ろには、縦に " 大和 " と記されていた。
…夕方の騒ぎの話だろうか?
そう思いつつ、手紙を持って私室内に入り、適当に床に座って大和がしたためたであろう手紙を読んだ。
「「提督へ、握り飯と汚れた肌を拭うタオルの差し入れ、ありがとう。おかげで紐じい思いをせずに武蔵と夜を越せそうだ。以後はこのような事が無いよう努める所存だ。また明日も指揮をよろしく頼む。 長門 武蔵
-追伸-この手紙の文面は長門さんが書いて、最後の名前の書かれた行は、2人に書いてもらいました。私も武蔵をしっかり御せるよう、日々の鍛錬に精進いたしますので、何卒、ご指導、ご鞭撻の程をよろしくお願いいたします。 大和」
」
提督「…はは…ウチの娘達は皆達筆過ぎだっての…」
彼女等の字面だけで誰がどこを書いたか手に取るようにわかった提督は、思わず笑みがこぼれた。
明日はどんな1日になるだろうかと、思いを馳せながら提督は、受け取った手紙を書斎の引き出しにそっと仕舞った。
………
……
…
今年の梅雨は長い…。
…だがもうすぐ目の前。
梅雨明けはもうすぐ目の前まで来ていた。
……………
…………
………
……
…
最後までの黙読、お疲れ様でした!(_ _)
今回は長かった!めっちゃ長かった!
※分割しなかったからねw
前回のプロローグ編での1部のフラグ回収したいなぁと思っていたので、妙高姉妹連投です(笑)
…駆逐艦ももっと出さないと、と思ったんですが、出したいなぁと思っていた娘まで描きだしたら、外見や個性や提督の呼び方等を調べながら制作している内に、だいぶ時間がかかってしまいました…orz
※挫折w
色々とあり過ぎた長い今年の梅雨もあと少し…。
またこうして続編を皆さんに目を通していただけるように、日々を過ごしていきたいものです。
それではまた!