• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+
イイね!
2022年04月15日

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 今日の佐伯泊地 提督の誕生日編 皆さん、おはこんばんちは!
Σ∠(`・ω・´)

そして、同業の皆様、本日もお疲れ様です!

さてさて、今回のお話は冬の提督と艦娘のある1日を描きたいと思います。

尚、過去作は下記のURLで開いていただければ、このみんカラ内のブログとして掲載されている物が閲覧できますので、もし宜しければどうぞ〜(_ _)


プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯梅雨の日編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44223073/

♯夏の黄昏編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44271814/

♯夏休暇 初夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44785551/

♯夏休暇 1日目♯1
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44889139/

♯夏休暇 1日目♯2
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45141124/

♯夏休暇 2日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45185889/

♯夏休暇 3日目
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45796679/

♯冬編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/45826901/


毎度ながらの超長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

流血・略奪等の暗い話は描かず…でもたまには真剣な表情を描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。


〜今回のメイン登場人物一覧〜

☆提督 
人間 男 20代後半 海上自衛隊出身
任官直前の適性テストの末 艦娘を指揮する提督に着任。(妖精判断なので、基準は不明)

機械弄りと工作が密かな趣味。
多少の事なら自分で治してしまう。

隠れオタク。たまにその片鱗の顔を覗かせる。

多趣味。
守備範囲の広さに驚かれる事もしばしばだが、本人曰く
「何事も興味からの実行の結果。本物から見ればただの器用貧乏」
と苦笑する。

ごく偶にキレると制止してくる艦娘すら引き摺る火事場の馬鹿力持ち。

初の嫁艦は榛名。


☆加賀型航空母艦 1番艦 加賀(改二)
艦娘 嫁艦(練度145) 今週の秘書艦

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

佐伯泊地の青鬼と赤鬼と揶揄されるが、本人は不満ありあり。

今週の秘書艦を水面下で提督の誕生日作戦遂行に必要な航空母艦の索敵能力と通信能力を生かすために、この日に合わせて秘書艦となった。
※尚、本来の秘書艦に代わるよう頼み込んだ上で、最後は間宮券で説き伏せた(笑)

提督が異性として好き。

だが普段の仏頂面が災いして、嫁艦嘆願以前程ではないものの、今だにお堅い印象があることが本人の悩み。

赤城同様、食べるのは大好き。
お酒は好きだが量は飲めない。
呑んだ時位しか提督に甘えられない。


☆第2艦隊 哨戒隊
龍鳳型 航空母艦 1番艦 龍鳳(改二)(練度96)
長良型 軽巡洋艦 5番艦 鬼怒(改二)(練度95)
陽炎型 駆逐艦 11番艦 浦風(丁改)(練度97)
陽炎型 駆逐艦 12番艦 磯風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 13番艦 浜風(乙改)(練度94)
陽炎型 駆逐艦 14番艦 谷風(丁改)(練度97)

哨戒から帰ってきた艦隊。

因みに全員未婚艦。

…が、皆練度では泊地内上位に位置する艦ばかり。
提督への好感度は第一次のカンスト間近。

軽空母の龍鳳(改二)は、改二改装を経ると一気に練度が上がり、速力が低速から高速になったことで、作戦によく組み込まれるようになり、洋上ではとても逞しくなった。

潜水母艦の時に生活を共にした潜水艦達とは今も交友がある。


軽巡の鬼怒は、普段は明るく振る舞う無邪気なお姉さんだが、ここぞという時にはやってくれるムードメーカー。

提督の前ではあっけらかんとしているが、それは好意の裏返し。


駆逐艦4人は同じ第十七駆逐隊所属で、よく編成にヨンコイチで組み込まれる、仲のいい4人組。
特に対空対潜能力のバランスがよく、各作戦・遠征・哨戒には提督も重宝している。


☆佐伯泊地広報担当
青葉型 重巡洋艦 1番艦 青葉
艦娘 未婚艦(練度92) 

障子に穴あり目あり耳あり。
泊地のミスパパラッチとは青葉の為にある異名(笑)

泊地では古参重巡の1人で、練度以上に物事に達観した一面を持つ。

一度狙った写真は外しません、プロですから。
※乱写はレリーズの無駄な消耗と嫌う。

提督の事は好きだが、茶化して誤魔化す。


青葉型 重巡洋艦 2番艦 衣笠
艦娘 未婚艦(練度92)

暴走気味の姉に対して冷静な妹衣笠は、まさに反面教師。

今回も青葉の監視役として、セットで呼ばれる苦労人。

ウインクの申し子、チャーミングなお姉さん。

泊地への着任も早い段階での加入もあって、よく新着任の娘の面倒も見る、面倒見の良い一面がある。

提督の事は好き。
※好意は割と素直にぶつける娘。


☆出迎え組
阿賀野型 軽巡洋艦 3番艦 矢矧(改二乙)
艦娘 嫁艦(練度125)

能代同様改二に改装後、覚醒した重巡級スペック軽巡洋艦。
※色んな意味で。

…実はさり気なく提督の好みにぶっ刺さってた娘。

普段は礼儀正しくも強者感漂う風格を滲ませるが、いざ戦闘から離れると、意外とおっちょこちょいな1面を見せる。

今現在、提督が釣り好きなのを知っている泊地内唯一の艦娘である。

提督の事は憎からず想っているが、周りの嫁艦勢に少々気圧され気味。


長門型 戦艦 1番艦 長門(改二)
艦娘 嫁艦(練度133)

提督と艦娘との距離感の是正を嘆願した嫁艦の1人。

繊細さと豪快さが同居した可愛い麗人。

泊地内でもトップクラスの練度と実力で艦娘達を引っ張る。

その反面、甘い物に目がない。
※辛口・アルコールはNG。
特にアルコールが入ると、抱き付き魔・泣き上戸・キュルルンボイスと普段の威厳からは想像出来ない1面が出る。
※尚、その反動で暫く立ち直れない。

提督の事は異性として想っているが、過去に突き飛ばした経緯もあってか、それが負い目で間合いが詰められないでいる。


古鷹型 重巡洋艦 1番艦 古鷹(改二)
艦娘 未婚艦(練度97)
提督の良き理解者の1人で泊地における最古参重巡。

慈愛に満ちたオーラで何でも包み込んでしまう大天使。

…故に天然なところもあるが、最早それがいい(笑)

提督の事は異性として好きで、練度以上に提督のことを考えて行動しているが、自制心が強い為、恋愛沙汰には少々ためらい気味。


白露型 駆逐艦 2番艦 時雨(改二)
艦娘 嫁艦(練度115) 
泊地における筆頭ボクっ娘。

作戦中は冷静さと心の熱さを併せ持つ。

…が、それ以外での提督の前での態度は、まさに子犬、めちゃくちゃ構って欲しい娘。

感情の表情の抑揚が小さいので、割と感情はよく見ていないと見落としがち。

他の白露型の娘達(主に前後の娘)は割とグイグイ行くのを傍観して、加わるのはためらう。
…提督との一対一でも遠慮が多い。

提督の事は異性としてみているが、上記の事から一歩が踏み出せないでいる。


☆金剛型 戦艦 3番艦 榛名(改二)
艦娘 嫁艦(練度150) 第一嫁艦

出会って0.1秒で提督の好みにぶっ刺さった健気な強者。
※ちなみに練度も泊地最強。

普段は遠慮しまくりだが、実はそれが姉妹であっても、目の前で提督と仲良くされるのは面白くない、独占欲は強めな娘。
※だが反応が可愛いのがわかっているので、周りも程々で止めてくれる。

コソコソと料理の特訓を積んでいる(鳳翔談)

提督に対しては感情をさらけ出したら、誰にも手が付けられない程の溺愛ぶり。


大まかな登場人物は以上となります。


それでは始まります。


艦隊これくしょん -艦これ- 
〜佐伯泊地の日々〜
「提督の誕生日編」

……………
…………
………
……


0900時 執務室

提督「…よし、この編成で変更で出撃の指示を出してくれ」

加賀「わかりました…第4艦隊に通達しておきます…では提督、次はこちらの書類の処理を宜しくお願いします」

提督「わかった…どれどれ…」


新年が明けてから数週間後の今日。

朝の泊地はいつも通り慌ただしい。

…天気は…曇天。

九州に位置するここ佐伯泊地では、珍しく午後には雪が降り出し積雪の予報が出ている。

底冷えのする朝となっていた。


提督「…お、0915…もうすぐ第2艦隊が哨戒から帰ってくるな…」


その作業の最中、提督は部屋の古時計を見て、帰ってくる哨戒艦隊の帰還予定時刻が頭を過ぎった。


提督「…よし、手元の書類はある程度は片付いた…出迎えに行ってくる…すぐ戻るよ」

加賀「わかりました…それと…これね?私が入れ替えますので」


そう言うと加賀は、部屋の片隅に置かれた灯油のアラジンヒーターの上に置かれた、お湯の張った鍋に入ったヤカンを引き上げ、魔法瓶のポットにヤカンの内容物を移し替えた。

濛々と立ち上がる湯気。

その内容物の正体は熱い焙じ茶だ。


加賀「…ふぅ…良い香り…少し加熱し過ぎているので、外で少し冷ましますね」


そう言って、提督が部屋を出る準備をし終えた加賀は、ストーブを切った。


加賀「…火元の鎮火ヨシ…提督、お供します」

提督「…いいのかい?」

加賀「ええ…凍えた娘達に温かいものを届けたいのは、私も同じですから」

提督「…ありがとう加賀」


外套を着込んだ2人は、執務室の火元と電気を落とし戸締りをしてから、執務室を一時退出した。

廊下は閑散として冷え冷えとしており、誰一人歩いていないので、2人の足音がやたらと反響して誰もいない世界に取り残されたかのような雰囲気を醸し出す。

その廊下を抜けて2人は、司令部棟正面口のドアを開けた。

…すると冷えた風が、一気に廊下内に押し寄せた。


提督「ふぉぉっ…落差で余計さっっっむっ!」

加賀「…冷えますね」


空は濃い灰色に一面覆われており、これから雪が降るんだという予感を容易にさせた。


提督「…こりゃ雪が降るの早まりそうだな…哨戒隊、降られてなきゃいいけど…」

加賀「…その可能性は高いわね…呉では既に雪が積もり始めているそうよ」

提督「そうかぁ…第2艦隊の娘達の顔見てから、報告書は風呂で温まってからにしてもらおうかな…」

加賀「…それだともし何かを急な事例を持ち帰っていたら…」

提督「だから”顔見てから”って言ったんだよ」

加賀「…あまり無理はしないで…貴方の気持ちは皆知っているのだから」

提督「…わかってもらっているからこそ、甘えたくないんだよ」

加賀「…意地っ張り…」

提督「…一応、男なんでね」


提督はそう言うとニカッと笑ってみせて、寒さに慣れてきた体を奮い立たせて、哨戒隊の帰ってくるスロープへと歩き出す。

…少し歩くペースが上がった提督の2歩後ろを歩く加賀は、その距離を保ちながら提督の背中を見ていた。


加賀「(…貴方はいつもそう…あれから随分打ち解けてはくれたけど、“自分から“甘えに来てくれる事はほぼないのよね…)」

加賀「(…提督…覚えていますか?今日は貴方の誕生日なのよ…?)」


…そう。

…今日は提督の誕生日。

…だがその当人はあまり関心がないのか、ここ数日の彼の言動や行動を見ていても、いつもと変わらない。


加賀「(…正直なところ…甘えてほしいのだけれど…)」


…前にそれとなく本人に誕生日について聞いたことがあった。

…すると提督は。


提督『この歳になって祝うでもないだろう…男一匹が1つ年を食うだけなんだから』


…と、言われた。


加賀「(…そのくせ、私達の進水日は外さずに何か贈るのよね…わざわざ艦歴を調べて…)」


…何でだろう?

加賀は自分が無性に腹が立ってきたことに気が付いた。


加賀「(…せめて今日の晩くらいは楽しんで欲しい…この泊地の艦娘全員でしてあげたいわね…)」


そう決意しつつ提督の背中を追う加賀なのであった。

………
……


0925時 佐伯泊地 2番スロープ


提督「…艦影見ゆ…軽空母1、軽巡1、駆逐4」


提督は岸壁に立って、双眼鏡を覗きながら水平線に姿を確認した。


提督「…龍鳳もだいぶ旗艦に慣れてきたな…改二になってから練度が上がるに連れて益々磨きがかかってきてる」

加賀「ええ…これならスロープまで4分30秒後に着岸ね」

提督「だね…加賀、お茶の準備しようか」

加賀「了解」

………
……


龍鳳「第2艦隊、及び空母龍鳳、欠員なく帰還いたしました!」

提督「ご苦労様。0930時きっかりに帰還だ。緊急の案件は発生してないかい?」

龍鳳「はい!緊急の案件はありません!瀬戸内海に水上の敵艦影は皆無で、敵潜の隻数も撃破数も報告通りです!」

提督「ん、お疲れ様…お?」

龍鳳「…?如何なさいましたか?」

提督「…雪に降られたのかい?」

龍鳳「…え?…は、はい…少しだけ…」

提督「…少し?…みんな、じっとして…加賀、俺の後で温かいお茶を渡して貰っていいかな」

加賀「承知しました」

第2艦隊の面々「???」


そう言うと提督はタオルを人数分片手に哨戒隊に歩み寄った。

まずは旗艦の龍鳳から。


龍鳳「て…提督?…わぷっ!///」

提督「どこか少しだよ。頭にこんなに雪に乗っけておいて…ったく…」


提督はそう言うとタオルを龍鳳の頭に被せて、ワシワシと拭き始めた。


提督「詳細報告は風呂で温まってからでいいから…お疲れ様」

龍鳳「わぷぷっ!///り、了解しましたぁ〜///」

加賀「龍鳳、お疲れ様…熱いお茶よ」

龍鳳「あ、加賀さん、お心遣いありがとうございます!」

加賀「いえ、これは提督の主示しよ。私はそれに付き合っているだけだから、気にしなくていいわ」

龍鳳「…提督って…今日…誕生日…ですよね?」

加賀「…ええ、当人は殆ど意識してないようだけれど…」

龍鳳「…やっぱりそうですか…」


そう加賀に言われた龍鳳は、少ししょんぼりとした。

哨戒隊の1人1人に手早くタオルを引っ被せては、労いの言葉をかけながら髪の毛をワシワシと拭いている提督を、加賀と一緒に見つめながら…。


龍鳳「…いつもしてもらってばかりですごく申し訳なくって…嫁艦の皆さんは何が考えてるんですか?」

加賀「ええ、抜かりはないわ…せめて一晩は提督に何も考えずに楽しんで貰う予定よ…もちろん…泊地のみんなにも協力はしてもらうのだけれど…」

龍鳳「も、もちろんです!」

鬼怒「…か、加賀さぁ〜ん…お茶いただけないっすか〜?」


龍鳳と話しているうちに提督は、最後の駆逐艦の娘にタオルを被せて、髪の毛をワシワシしている最中で、龍鳳の補佐を務めた鬼怒がお預けを食らった子供のような表情で、加賀に熱いお茶を渡すように催促した。


加賀「…ごめんなさい…お疲れ様、鬼怒。熱いお茶を飲んで」

鬼怒「はぁ〜有り難や有り難やぁ…ずずっ…んぁ〜っ沁みるぅ…パナイ〜…///」

加賀「…十七駆の皆も、飲んで頂戴」

浦風「ありがとー加賀さん…はぁ〜…ばり温まるわぁ…///」

磯風「あぁ…流石に手足が悴む寒さだったからな…この熱さは堪えられない…///」

浜風「ありがとうございます…ずずっ…ほぁ…美味しい…この後のお風呂も…楽しみね…///」

谷風「くぁ〜っ!こいつぁ〜ありがてぇ…五臓六腑に染み渡るねぇぃ…///」


青い髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、左右にお団子結で頭の上には白の帽子を被り、その喋り口はほんわりとした広島弁。
陽炎型駆逐艦 11番艦 浦風。

黒々とした長髪を腰下まで伸ばし、顔の左右の髪の先端を縛り、口調は何処が無骨さを滲ませる艦娘。
陽炎型駆逐艦 12番艦 磯風

ショートヘアの銀髪で、前髪で右目は隠れているが、左目側の前髪は金色のヘアピンで留められ、礼儀正しくハキハキと喋る艦娘。
陽炎型駆逐艦 13番艦 浜風

黒髪におかっぱ頭で、その頭には白のカチューシャを付けて、江戸っ子のような気風のいい口調で話す艦娘。
陽炎型駆逐艦 14番艦 谷風

その十七駆逐隊の面々も両手でコップを持って、手を温めながらちびりちびりとお茶を飲んでいる。

彼女らの暖かさに対する感極まった溜息と一緒に、口から濛々と白い息が寒い外気へ放出される。


提督「…よし、皆にもお茶まで行き届いたな。改めて皆も寒い中お疲れ様。この後は皆はゆっくり風呂に浸かって体を休めてくれ」

第2艦隊の面々
「「「「「「了解っ!」」」」」」

………
……


鬼怒「…今日、提督の誕生日だよねぇ…」


風呂に向かう第2艦隊の道中、鬼怒が提督が近くに居ないことを確認の上で、みんなに話しかけてきた。

浦風「…そうじゃなぁ…提督さんは何して欲しいんじゃろうか?」

磯風「むぅ…なまじ料理が出来る故、ちょっとやそっとの事では、司令は喜ばないんじゃないだろうか…?」

浜風「…磯風、貴方は料理だけはやめておきなさいね。司令が体調を崩されてはいけないので…」

磯風「ぐっ…み、身の程はわかっているっ!」

谷風「…浜風ぇ…あんた露骨に言うようになったねぇぃ…そうだねぇ…提督ってあんまし私情の自己主張しないからねぇ…」

龍鳳「(あ、やっぱりみんな考えてることは同じなんだ…)」

浦風「鬼怒さん、他の人から何かきぃーとるん?」

鬼怒「由良姉の話だと今夜食堂で宴会をするみたい…もちろん未婚艦も参加自由!」

磯風「…?その割には普段と変わらない様に感じるが…?」

鬼怒「サプライズしたいんだろうね…だからあたし達には、出来るだけ普段通りに過すように言われてる」

浜風「…嫁艦の皆さんが何が動いていると?」

鬼怒「そーそー、加賀さんが秘書艦なのは、提督の行動を逐一他の嫁艦に知らせる為でもあるみたいだね…」

谷風「う”ぉっ…思った以上にガチなやつじゃねぇか…嫁艦増えたもんねぇ…提督一人を落とすのに皆本気過ぎやしねぇかい?」

浦風「そりゃ当然じゃ、ウチかて未婚やけんど、提督さんに何かしてあげたいもん」

谷風「…まぁ、その点は否定はできないねぇぃ…」

磯風「…私には…司令に何かをする事すら許されないのか…」

浜風「っ!ほ、他の事を考えましょう!まだ夜まで時間がありますから!一緒に考えましょう!ね!ね?!」

鬼怒「…まぁ、一昨年みたいなことにはならないと思うから、みんな安心していいと思うよ…うん…」

十七駆「「「「う”っ…」」」」

龍鳳「…あぁ…悪夢でしたね…アレ…」

鬼怒「…あ、龍鳳は知ってるんだ…」

龍鳳「はい…泊地の運用が軌道に乗りだして、皆さんの心のゆとりができ始めた頃の話ですから、人である提督に対してどこまでしていいか加減がわかってなかったので、暴走しましたからね…その時は私は外野でしたけどよく覚えてます…」

鬼怒「ま、去年は流行病の件もあったし、有耶無耶にされちゃった感があったしねぇ…とにかくお風呂で温まりながら考えようよ…お風呂なら提督に聞かれることもないし」


鬼怒の提案で哨戒隊は話しながらダラダラ歩いていたのが、目的が決まると足早に入渠・風呂場スペースに向かっていくのであった。

………
……


1100時 執務室

提督「はい、こちら佐伯泊地…教官!いえ、〇〇中将!ご無沙汰しております!…いえ、こちらは変わりなく…はい…」

加賀「…」

提督「…テレビ局の取材?…はい…うちの泊地で…ですか?」


…取材?

珍しいこともあるものだ。

提督の受け答えを聞いている限り、相手は階級の上の上官のようだ。

規模や名前だけで言うなら横須賀や舞鶴、呉、佐世保が妥当なのにこんな辺境の泊地に?

取材という名のスパイや偏向報道の類いではないかと、加賀は内心で警戒のレベルを上げた。


提督「…よく検討の上で返答させていただきます…はい…それでは、失礼致します」


…カチャ…

提督は静かに受話器を元の場所に戻した。


提督「…はぁ〜…なんでまたうちが取材なんだか…」

加賀「…電話主は上官ですか?」

提督「うん…俺が任官時に艦娘の指揮者研修の時にお世話になった上官だ…今は佐世保で実働部隊の指揮を執っておられる」

加賀「…そう…テレビの取材と聞こえたけれど?」

提督「そうだね、内地では相変わらず、深海棲艦と和解せよとか戦争反対とか喚いている人間が少なからず居るからな…」

加賀「…ふむ…」

提督「おまけにそういう連中が、何も知らない人間を焚き付けて”女を戦争に行かせるのか”とか”人権がー”とかそういうのを今だに吹聴してまわっているしなぁ」

加賀「…嘆かわしいわね」

提督「ぶっちゃけ、俺ら男が出て戦果上げられるんだったら、とっくに出とるわって話なんだがね…通常兵器は当たらん効かんでは…で、政府は大本営に打診して、艦娘は怖くない、皆を護る為に頑張ってるっていう事を伝える番組を企画したいと言う話だ」

加賀「…で、取材の内容はどういうものなの?」

提督「泊地に3日密着して、艦娘達の日常を撮るのと、数人艦種別でインタビューを撮りたいって話だったよ」

加賀「…そう…提督はどうするつもり?」

提督「正直迷ってる…一般人の方に理解を深めるって点ならやるべきだね。…でもなんかこういうことってどこまでの範囲を見せれば良いのか分からなくて、踏み出す足が上がらないって感じかな…機密事項も多いし…」

加賀「…そう」

提督「…加賀は意見あるかな?」

加賀「…私?…そうね…受けるべきじゃないかしら」

提督「…ふむ」

加賀「第一にそれで提督の仕事がやりやすくなるのなら、私達は喜んで貴方に協力するわ」

加賀「それと、私達も一般の人々がどんな反応を示すか観てみたい…いい結果も悪い結果も…もし何もしなかったら誤認識だけが先行して、あらぬ誤解も生みかねないから…」

提督「…踏み出すべき…と」

加賀「とは言っても、あまり俗世のことはよく知らないから…怖くもあるわ」

提督「そうか…まだ返答には時間があるから、皆にも話してみるか…」

加賀「そうね…視点の違う意見は大事よ…それに…」

提督「…?」

加賀「私達にとって…ここが…還る家だから…大切にしたいし、大切な場所が誤解されるのはもっと嫌…」

提督「…そっか…」

加賀「…なんですか?」

提督「いや、”私達の還る家”って聞いてすごく嬉しかったから…」

加賀「…そ、そう…」

提督「…それじゃあ大淀にも相談して、近日中にそういう話す場を作ろう」

加賀「それがいいわ。もちろん、私も同席させていただきます」

提督「ん、ありがとう、加賀」

加賀「秘書艦として…嫁艦としてあなたを支えられることは本望よ…他人行儀は辞めて頂戴」

提督「…そだね…気を付けます」

加賀「…」ポチポチ…

提督「…?加賀?」

加賀「嫁艦全員のコミュニティに書き込みをしておいたわ。1200時に昼食を摂りながら先程の話を詰めましょう」

提督「お、おう…」

加賀「…では私はお弁当と会議室の手配をしてまいりますので、提督は大淀に声を掛けてくれませんか?」

提督「わかった」

加賀「…では…後程…」


ぎぃぃ…バタン…

ひとしきり喋ると加賀は執務室を退出していった。

………
……


提督「…てか、嫁艦コミュニティってなにソレっ?!」


提督は得体のしれないコミュニティに、恐怖を覚えたのであった。

………
……


1230時 司令部棟 A会議室

………
……


榛名「私は、取材については反対しません」

陸奥「いきなりぶっつけ本番って訳ではなくて、ある程度事前に撮るものを決めてあるのなら、良いんじゃない?」

赤城「むぐむぐ…そこはやるとなった時点で綿密にテレビ局の人と要相談ですね」

提督「…」


非番の嫁艦が全員集合して、会議室に入り、難航するとの提督の想定とは裏腹に、話はサクサクと進んでいった。


提督「…それじゃあみんなの意見としては、取材を受けることは肯定するってことでいいかな?」

嫁艦複数「「「「「異議なし!」」」」」

提督「…わかった…それじゃあ今日中にも先方に要件まとめて受けることを連絡するよ…で、丁度嫁艦の皆がいるから、ここで聞いておこうと思う」

嫁艦's「「「「「???」」」」」

提督「取材を受けるとして、その当日から3日間、指輪は手から外した方がいいと思うんだが…」

金剛「…え”っ?!」

飛龍「な…なんでですかっ?!」

鈴谷「そこまで徹底するの?」

提督「まあまあ…話は今からちゃんとする」

提督「我々としては当たり前の事でも、一般人にとってはそれは普通じゃないことが多い。我々はこの指輪の効能を知っているから何とも思わないけど、指輪を付けている娘が複数居たら、余計な誤解を招きかねない」

長門「…何も知らない者からすれば、ただの悪趣味か重婚…不貞の行為に見えるということか」

提督「そう、そういう曲解をする人もいるだろうしな…もちろん、外すと言っても手から外して、ネックレスチェーンでぶら下げて服の中で肌見放さずというのは大丈夫だ」

陸奥「まあ、取材を受けるなら余計な揉め事の種になりそうなものは、排除すべきだからその判断は妥当ね…」

提督「あと、制服の状態で肌の露出度が多い娘には、出るのを控えてもらうか着替えてもらおう…線引はそうだなぁ…」

摩耶「…島風とか完全アウトじゃね?」

提督「もう100%アウト。その3日間だけ陽炎型か夕雲型の制服で過ごしてもらう方向で行こう…そしてそういう摩耶の服装も結構アウト寄りだと思う…あ、鳥海も同じだな」

摩耶「あー…やっぱそっかぁ…アタシらはどうしたら…」

提督「高雄か愛宕の予備の制服を借りてその場を凌ぐって方向でどうだ?」

摩耶「ん、それが妥当だな」

能代「…提督!質問よろしいですか!」

提督「ん、どうぞ」

能代「私と矢矧は、改二の制服で問題ないと思いますが、改二制服がない阿賀野姉と酒匂はどうすればよろしいでしょうか?」

提督「あぁ…阿賀野型も改まで結構露出多いもんな…それなら2人の改二の制服を貸したらどうだ?」

矢矧「…ちょっと待って提督…阿賀野姉はそれで大丈夫だけど、酒匂はその…」

提督「…この時期出撃の時にコート着てるだろ?グレーのアレ。あれ着せれば問題なさそう」


…言わんとすることはわかる故に黙っておこう。

…酒匂だけ、体の一部のサイズが…ねえ?

背丈も姉3人よりちょっと低いし、コート案が妥当だろう。


矢矧「そういえばそうね…そうするように言っておくわ」

提督「あとビジュアル的にヤバそうなヤツ…武蔵とか島風並みにヤバいんじゃないかな…」

大和「…言われると思ってました…」

提督「それは俺から謝らせてくれ…改二の制服のあのコート姿は堪らんかっこいいが改装設計図3枚は辛い…力及ばずで申し訳ない…」

大和「い、いえいえ!私の制服を着れるかちょっと試してみます!」

提督「頼むよ…それで長門と陸奥なんだけど…長門はセーフだと思うが陸奥は…うーん…」

陸奥「…え?私?」

提督「…ま、肩周りが丸見えな娘も居るわけだし、セーフだセーフ」

陸奥「…なんか釈然としないわねぇ…」

提督「…長門型はクリア…金剛型も大丈夫…」

長門「大体の可否の境界線が見えてきたな」

提督「あと、この場にはいないが、天城と葛城も相当ヤバい服だな…もう馴れたけどあれも危険な香りがする…」

蒼龍「あー…あれは確かに慣れてるから何とも思わないだけで、傍から見るからに相当ヤバい…普段の迷彩着物で過ごしてもらうとか?」

提督「それだな、3日間の辛抱だから」

蒼龍「わかった、取材が決まったら伝えおくね」

提督「頼むよ…あと引っ掛かりそうな服装の娘は…」

榛名「…コロラドさんとか腋と背中丸見えですよね…」

提督「…あぁ…まだ居た…いや…マント羽織ってるから…いや、気休め程度だしアウト候補か…コロラドは同型艦いないし、同郷で体格の合う娘…てかアメリカ艦の一部は着崩してるだけの娘が結構いるから、その時だけでいいから服装を正すように言っておいてくれないか?サラトガ、フレッチャー」

フレッチャー「承知いたしました。ジョンストンにも伝えておきますね」

サラトガ「マイティーとダコタにも伝えておきますね…提督…コロラドさんは如何なさいますか?」

提督「…うー…背格好的にカブールと似通ってるんだけど、アメリカとイタリアだしなぁ…デザインの方向性が壊滅的に合ってない…」

サラトガ「…ヒキコモリ確定でしょうか…?」

提督「…ちょっと待ってどこで覚えたの、そんな言葉…」

サラトガ「…え?…えーっと…ハツユキちゃん…」

提督「…ウチの古参グーダラ娘が厄介になっております…」

鈴谷「…あ、この前コロラドさんダサT着て彷徨いてるの見たよ〜」

提督「…因みにお題は?」

鈴谷「I♡コロラド〜」

提督「…もうそれでいこう…いや待て待て待て…」

サラトガ「(もうヤケッパチですね提督…)」

提督「体作りは基本皆ジャージだからそれは良いとして、最悪それ以外は自室待機にしてもらおう…あの娘の事だ、不満をタラタラ言われそうだが致し方ない、甘んじて俺がその矛先として受けるとする」

長門「(あぁ…不憫だな…コロラドよ…)」

提督「ふう…こんなもんか…取り敢えず取材を受ける方向で連絡入れてくるよ。…これにて解散!」

加賀「ええ、お疲れ様です。お供いたします」


ギィ…バタン…

………
……


…提督と加賀が執務室へ向けて会議室を出たを見計らって、嫁艦たちだけの別の話の会議が始まった。


榛名「…皆さん、本日の提督の誕生日の準備は如何でしょうか?」

吹雪「はいっ!皆で夜な夜な作った飾り付けも所定位置まで運んで、あとは間宮さんの食堂が1700時に閉まるのを見計らって一気に皆で飾り付けちゃいます!」

綾波「やりますよ〜♪」

時雨「…絶対成功させよう…!」

白露「にっししっ♪提督の人生でいっちばんの誕生日会にしようねっ!」

大和「私と比叡さんはこの後、間宮さんの食堂に急行して厨房に詰めます」

比叡「食材の方もバッチリだよ〜っ!」

榛名「後は提督があまり出歩かないように、足止めするのには…」

………
……


榛名『加賀さん…聞こえますか?』

加賀『!…聞こえているわ…』


提督について行った加賀の頭の中に榛名の声が入ってくる。

直進波形の無線交信だ。


榛名『1800時まで出来るだけ提督が執務室から出ないように、手筈通りよろしくお願いします!』

加賀『任せておいて頂戴』

提督「…?加賀?どうかしたかい?」

加賀「いえ、何でもないわ」

提督「…?そう?」

加賀「それより提督、先に目を通しておいていただきたい案件があります」

提督「うぉ…なんだい?」


提督と加賀は再び事務作業に戻り、他の嫁艦達は来る時間まで各々の持ち場に付くのであった。

………
……


1500時 工廠

………
……


工廠任務で提督と加賀は工廠に出向いてきていた。

3人で工場に置いてある安っぽいキャスターと背もたれの付いた椅子に座って、机を挟んで向かい合って、工廠作業の内容を確認しつつ雑談も兼ねて話していた。


明石「熟練零戦21型改修MAX機の機種変更ですね…在庫の52型を2機廃棄しますがよろしいですか?」

提督「よろしく頼むよ」

明石「…しかし、今月で一気に任務消化が進んで、航空戦力が一気に底上げされましたよねぇ」

提督「そうだねぇ…だいぶ資源を擦り減らしちまったけどなぁ」

明石「そうは言っても全体平均で4万程ですよね?もっと派手に溶けると思ってましたよ」

加賀「流星改(一航戦熟練)はとても良い仕事をしてくれます…お陰で助かってます」

提督「一航戦の流星改を赤城にも持たせられるようになったし、いい傾向だね…噴進機も無事受領できたし、翔鶴に持たせることもできたから、悔い無しって感じだね…コツコツ単発任務もこなさないと駄目だなぁ…」


加賀「ここに来てやっと全海域の開放出来ましたからね…放ったらかし過ぎです、提督」

提督「…面目ない」

加賀「す、すぐに謝らないで頂戴…」

提督「でも、昨年末まであえて手を付けてなかったのは事実だし…」

明石「えっと…中央海域の関係する任務で、八幡丸ちゃんを迎えるのに…でしたね」

提督「そうだね、上層部に見事に焚き付けられた形だったねぇ…それもそうだけど良い装備が受領出来るのなら、それに越したことがないしなぁ」

加賀「…まぁ、これだけ私達全体を鍛え上げられていたら、道中撤退も少なくて済みましたし、綿密に作戦と編成と装備の組み合わせの賜物ね」

提督「…初動が遅いのが俺の永遠の課題だ」

明石「まあ、そのお陰で私達は伸び伸びやれている面もありますから…あ、案件の達成を証明する書類が届きました。こちらにサインをお願いします」

提督「よし来い」

明石「…確かに確認しました!控えの2枚の内の1枚はこちらで保管して、残りは大淀に宜しくお願いしますね!」

提督「了解、ありがとう…それじゃあ執務室に戻ろうか…あぁ、そうそう明石、渡しそびれてた」

明石「…?」


提督が制服の外套のポケットをまさぐりだした。

加賀と明石の視線は自然とそちらに向けられる。


提督「…ほい、ちょい冷めたけど、ブラックの缶コーヒーとお菓子。休憩前に来ちゃったから、手の空いたときに飲んでね」

明石「あぁ〜助かります〜。私も気が回らなくて申し訳ありません…」

提督「作業中に別件を割り込ませたのはウチ等だから、気にしないでいいよ」


そう言うと、提督は左のポケットから缶コーヒーを、右のポケットからはウエハースにチョコレートを纏わせた個包装の菓子を出して明石に手渡した。


加賀「…(いつの間に…ドラ○もんのポケットなのかしら…)」

明石「わぁ♪新作の味ですね!」

提督「おう、結構イケると思うし、試してみて」

明石「はぁ〜い♪」

提督「…こうでもしないと明石は仕事ばっかりしてるからな」

明石「あはっ♪その言葉、そっくりそのまま提督に返しますねっ!」

提督「おいおい…まあ、ちげぇーねぇーな」

加賀「…(…いいわね…明石は…)」


なんの屈託もなくケタケタと笑いながら提督と話をしている明石が羨ましいと感じる加賀。

…もちろんそれは内心で、仏頂面でそれを見ていた。


加賀「…提督、早くこの書類をまとめて私達も休憩にしましょう…それでは明石…失礼するわね」

明石「はーい、装備の事も何かあれば遠慮なく聞いてくださいね〜」


工廠での任務を一通りと追加分を終わらせた、提督と加賀は席を外して書類を抱えて執務室に戻りだした。

………
……


加賀『…明石…聞こえてる?』

明石『…モッチロン、聞こえてますよ〜』


工廠から離れる最中。

工廠にいる明石と廊下を歩く加賀の間で、直進波形での無線交信が行われていた。


加賀『今日1800時、貴方も参加出来るように仕事量を調節しておいて』

明石『心得てますよ〜、今日は提督の誕生日ですもんねぇ』

加賀『…その当人があまり関心が無いのだけれど…』

明石『あちゃ〜…相変わらずですねぇ…』

加賀『…なので正直攻めあぐねています』

明石『おぉう…相変わらずガード硬いですなぁ…』

加賀『…でもせめて誕生日会くらいはやらないと…彼には私達の感謝が伝わらない…から…』

明石『わっかりました!』


…加賀は顔を合わせた艦娘に片っ端から直進波形での交信で、今日の提督の包囲網を狭めていった。

………
……


1600時 執務室


青葉「…青葉にその取材に関しての助言をして…」

衣笠「私がそのダブルチェック要員兼青葉の補佐をするのね」


重巡青葉と横一列で提督の机の前に立つ彼女は、薄紫の髪を肩甲骨の下程まで伸ばし、左側に小さくその髪をサイドテールを結い、服装は青葉共通の襟と袖の青いセーラー服を着用しているが、青いスカートを履いている艦娘は、

青葉型重巡洋艦 2番艦の衣笠。

執務室に青葉とその妹の衣笠が呼ばれていた。

そこで2人に佐世保の中将に打診された取材について受ける話をした。


提督「そうそう、そういういろはをよくわかってる青葉に色々聞いて、衣笠にその補佐をしてもらいたいんだ」

青葉「わかりました!では、報道なんかでする引っ掛けとかいけずな質問を数日で考えますので、一緒に想定問答をしましょうか。もちろん加賀さんもご一緒してもらって、きっちり記録に残して取材時の秘書艦に引き継げるようにしましょう」

加賀「わかったわ」

衣笠「…しかし取材かぁ…佐世保の中将さんは何でウチみたいな辺境の基地にそんな事をさせるんだろ?」

提督「本営は戦力と規模を秘匿しておきたいってことなのかも…もちろんウチも全部見せる訳ではないしな。それに艦娘の日々の生活を主に撮るのが目的だから、本営が出張らなくても伝わるだろって判断したようだ…中将殿もうちの内情は把握されている上での打診だし、答えたいんだ」

衣笠「提督がそこまで言うなら反対はしないわ」

提督「よろしく頼むよ」

青葉「お安い御用です!では!」

衣笠「お邪魔しました〜!」

キィ…バタンッ


提督「…ふぅ…」

加賀「…まさか青葉を呼ぶとは思ってなかったわ…」

提督「中将殿の助言でな、”知り合いに報道関係者が居ないなら、青葉に聞いてみるといい”という助言を貰ったんだ…実際、佐世保の広報部はあちらの青葉がほぼ取り仕切っているらしい…もちろん妹の衣笠の監視付きだが」

加賀「なるほど…で、ウチの青葉も漏れなくその適性があったので頼んだ…と」

提督「そう、ま、中将のやり方の丸パクリだけどな」

加賀「良い人選よ…自身を卑下する必要はないわ」

提督「ん、ありがとう…さて、次の書類は…」

加賀「っ!…これね」

提督「どれどれ…あれ?随分、提出期限が先の案件だねコレ…」

加賀「…目だけは通しておいて…忙しい時は確認が疎かになりがちな貴方の性格を把握の上よ」

提督「…善処します…さて、どれどれ…」

加賀「…(まずいわ…提督の執務室の滞在を引っ張る仕事が尽きそうだわ…)」

………
……


同時刻 司令部棟 2F-1F中央階段

衣笠「取材かぁ…艦娘にも数名インタビューするって言ってたけど、誰が受けるんだろ?」

青葉「その辺はこちらで艦種別で予め個性の違う人達を人選しておいて、個性の多様性を受け入れる寛容さを出しながら、艦娘として芯のブレない国防の姿勢を打ち出せれば、変に突っ込まれることはないと思う。それと身近さも出せればいいなぁ…」

衣笠「…身近さ?」

青葉「そうそう!私達の泊地で言ったら、佐伯市の漁協とか船会社とか海に関わる人達と洋上で、無線交信とか護衛とか救助とかしてるじゃない?青葉も何度もそういう場面のやり取りをしてきたから、そういう人々との繋がりや交友も取材の本編に挟めたらいいなぁ…って思ってる」

衣笠「そうよね…艦娘全体のイメージアップが目的なら、それは組込んでおきたいよね…それじゃあ佐伯市役所と漁協と民間船舶会社に問い合わせなきゃね」

青葉「…一番いいのは基地祭みたいな事が出来たらいいのになぁ…スケジュール組んで展示航海をしたりとか、出店とか」

衣笠「あぁ…良いかもね。もっと身近に感じてもらいやすい、いい機会よね…ま、今は…無理だろうけどね…」

青葉「早く無くなんないかなぁ…流行病…」

衣笠「ま、その時までしっかりこの案を温めておこうよ!」

青葉「…そうだよね!よ〜しっ!近日中に想定問答作って提督と秘書艦をいじめちゃうぞっ!」

衣笠「いやいや、提督いじめてどうすんのよ…」


いづれ訪れるであろう基地祭開催への想像を膨らませながら、2人は提督に出す想定問答の制作に入った。

………
……


〜ところ戻って、少し時間が経って執務室〜


提督「…んん、これやれそうだな…加賀、資料棚4-5の編成データを集計したファイルを取ってもらえないかな」

加賀「ええ…承知しました」

提督「えっと…用紙…用紙はっと…」


秘書艦席を立った加賀は、執務室の1面半分強を埋めている本棚の4段目の1番右の欄のから資料を取り出す。

その最中、加賀は内心冷や汗をかいていた。


加賀「…(この書類で今日の仕事が尽きてしまった…本当にどうしよう…)」


他の嫁艦の前で任せておけと言ったのに、提督の誕生日会まで、あと1時間と少々…。

…どう引っ張る?

手隙になったら提督は絶対に泊地内を彷徨き出す。

…もちろん、泊地のために動き回るのだから、悪い事をしてる訳ではないんだが、今日に限ってはそれはさせたくない。


提督「…おお、あったあった…?加賀、手が止まってるけど資料が見当たらない?」

加賀「あ…いえ…資料はここに…」


自分の手が止まっている事に提督に言われて気がついた加賀。

提督の指定した資料に手をかけて、取り出して提督の元に戻った。


加賀「…お待たせしました」

提督「ん、ありがと…ええっと…」

加賀「…(この書類が終わったら…)」

提督「…よし、ここだここだ…」

加賀「……(どうやって提督を引き留めよう…)」

提督「……」

加賀「………(と、とにかく食堂には近付かないようにしないと…)」

提督「…ん?…んん〜?」

加賀「…………(…しかし、その手立てが…)」

提督「…あ、そっか…こうだな…よし…」

加賀「……………(…後1時間…)」

提督「…できたっ!チェック頼めるかな、加賀…って、うぉっ!…突っ立ってどうしたの?」

加賀「あ、す、すみません…書類が出来たんですね。確認させていただきます」

提督「うん…よろしく…」

加賀「…」

提督「……」


…ものすんごく見られてる…。

提督が私の顔色を凝視してる。

…まさに提督の今を音で表すなら「じ〜〜〜っ」という効果音がぴったりである。

………
……


加賀「…提督、チェック完了しました。捺印を宜しくお願いします」

提督「ん、了解」

……


提督「…よし、これでこの書類は完了…次の書類はある?」

加賀「い、いえ…綺麗スッキリ片付きました」

提督「そっかぁ〜…いやぁ〜終わった」


席の上で背伸びした提督が立ち上がり、3人掛けの応接用のソファーに歩いて向かい、ドカッと腰掛けた。

すると提督はその席から加賀を手招きする。


加賀「…何でしょうか?」

提督「こっちおいで」

加賀「…え?」

提督「なんかさっきからボーッとしてるし疲れてるのかなって」

加賀「だ、大丈夫です…」

提督「寒いから、ちこぅ寄らんかー」

加賀「…」


…ずるい…。

この人は私がしてあげたいことを平気にしてくる。

私とは対の、異性である貴方が。


提督「…?おいで〜」


…もはや私には拒否権はないようだ。

優しい表情で側に来るように催促してくる。


加賀「…失礼します」


私は言われるまま、提督の側に肩を寄せ合うように座った。

安心するけど緊張もする。

この距離感も久し振りのような気がする。

…他の嫁艦と徒党を組むか、酒を飲まないと提督にこのくらいの事も出来ないのかと思うと、内心自分が情けなくなる。


加賀「…ふぅ…」

提督「…大丈夫?」

加賀「…大丈夫じゃないわ…」

提督「…そっか…少しのんびりする?」

加賀「…」


加賀はチラッと古時計に視線を送った。


古時計「1654時」

加賀「…(覚なる上は…)」


ギュッ…

加賀は意を決して、提督の左腕に抱きついた。


提督「…加賀?」

加賀「きょ、今日は寒いので…っ!///」


バクンッバクンッバクンッバクンッ

加賀の心臓は弾けそうなくらい弾んでいる。

顔も真っ赤。

加賀は自分の頭の中にまで、自分の心臓の音が鳴り響いている。


加賀「…///(…だ、だめ…クラクラしてきた…)」

提督「…本当に大丈夫?加賀?」

加賀「な…なにっ…?///」

提督「加賀の心臓の音…とんでもないことになってるから…」

加賀「…っ!だっ…誰の所為でこうなっていると思ってるんですか…っ!///」


加賀は思わず八つ当たりに近いような態度を取った。


提督「おおぅ…じゃあ今、加賀はどうしたいの?」


………
……


…えっ?

…どうしたいですって?

提督が私の顔を覗くようにして視線を合わせてくる。


加賀「…膝枕…」

提督「…ん?」

加賀「膝枕を提督にしてあげたいです…」

提督「…え?そっち?」

加賀「…なに?私がしてはいけないの?」


加賀はそう言うと、提督の座るソファーの端へと移動して、逆に提督を手招きをし始めた。

…平静を装っているが、相変わらず顔は赤いし、目尻は釣り上がってるし、脈拍が跳ね上がり、心臓の自己主張はかなり強い。


加賀「…さ、さぁ…どうぞ」

提督「…それじゃあお言葉に甘えて…」


…ポフッ…


隣に座る加賀の膝下に提督は、そっと頭を預けた。


加賀「…い、如何ですか?」

提督「…如何かって聞かれると…うん、安心するかな…」

加賀「…そ、そう…」


そう聞いて暫くすると少し落ち着いた加賀は、提督の髪の毛を触りだした。


加賀「…そろそろ切り時じゃないかしら?」

提督「ん?…あぁ…むさ苦しいかな?」

加賀「忙しさにかまけて、年末に切らなかったでしょう?」

提督「いつも鳳翔さんに切ってもらってるから、そうしようと思ったけど、忙しそうだったし、俺も何やかんや忙しかったから…」

加賀「…そう」

提督「…まだこの泊地が駆け出しの最初の頃にさ、鳳翔さんに俺の髪の毛が伸び放題だって指摘されたことがあったんだよ」

加賀「…えぇ」

提督「この泊地の長たるもの、身嗜みも大事です!…ってね。服はどうにかなってるけど、髪の毛はどうにもならなくて、ダメ元で頼んだら鳳翔さんが切ります!って」

加賀「ふむ」

提督「…そしたら失敗しちゃってさ…最初の頃は丸坊主になってたなァ」

加賀「…え?提督が丸坊主?」

提督「…あ、そうか…加賀がここに来た時には鳳翔さんの髪切り練度は最高練度の〈〈〈 だったからねぇ…駆逐艦の娘達の髪の面倒も見てもらってて覚えるのが早いのなんの…」

加賀「…」

提督「丸坊主になった時は他の娘の目線が、あー、鳳翔さん今回駄目だったかーって目で見られてたのが懐かしい……あれ?加賀?」


思い出を語る提督を他所に加賀は自分の思考の世界に入ってしまっていた。


加賀「…提督」

提督「ん?」

加賀「髪を整えて差し上げます」

提督「…え?」

加賀「自分でもやっていることなのでご安心ください」

提督「そ、そう?じゃあ…せっかくだから頼もうかな…」

提督「(…鳳翔さんに初めて切って貰った時と同じセリフ…)」


何がデジャブを感じながら提督は、加賀のしたいようにさせようと、加賀の太腿から頭を上げて、加賀と一緒に隣の仮眠室に移動した。

1人掛けの椅子とブルーシート、髪用のすきバサミとハサミとバリカンを用意して、1人掛けのを椅子に提督が腰掛けて、ゴミ袋を加工して即席で作った髪よけを被った。


加賀「…いつものように整えたらいいかしら?」

提督「そだね…横は刈り上げて、上は量と長さを鋤く感じでお願いします」

加賀「…では、参ります」


姿見の鏡を見ながら提督の髪の状態を見ながら、少しづつ整えていく加賀。


提督「(…おぉっ?お上手…)」


予想してなかった展開に少し驚く提督。

手際もいいので慣れているというのは、本当のようだと納得した。


提督「…意外だったなぁ…ここまで上手いとは…」

加賀「…そ、そうかしら?」

提督「これなら鳳翔さんが忙しかったらまた頼もうかな…」

加賀「…///」


…ショキン…パサッ…


提督・加賀「「…あ”」」

………
……


加賀「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもう提督の髪には触りません許して下さい…」ブツブツ…

提督「いや、久々にこれもいいもんだ。羊の毛刈りみたいでこっちも楽しかったから」


無情なハサミの切断音の5分後、提督の髪の毛は更に情け容赦のない電動バリカンによって綺麗サッパリ刈り取られていた。

五分刈りというやつだ。

…因みに加賀は拒んだので提督自らの手で。

加賀は部屋の隅っこでどんよりした雰囲気を纏って体育座りして、床にのの字を書いてひどく落ち込んでいた。


提督「ほれほれ、気にしないで。髪なんてじき伸びるんだから〜」

加賀「ううぅ…」


中々立ち直ってくれない加賀の頭を提督は気にしてないと言うように撫でる。


加賀「(…この人の優しさがズルい…)」


そうされると罪悪感が次第に薄れていく。

でも、そんな事で慰められてしまえる自分に、無性に腹も立ったが、顔には出ないようにした。

…それが今の加賀にとっての、提督にできる唯一の気遣いだった。

…コンコンコン

そんなやり取りをしていると、執務室のドアからノック音が部屋に響く。


矢矧「矢矧です!入ります!」

提督「どうぞ〜」


…ガチャ


矢矧「お邪魔するわね提督、この後の予定なん…だ…け…って!ええぇぇぇぇぇぇぇえっっ!!」


嫁艦達の計画の手筈通りに定刻に迎えに来た矢矧は驚愕していた。

数刻前まで黒々と茂っていた提督の髪が、綺麗サッパリ刈り取られていたのだから。

初めての提督の坊主頭姿の衝撃が強すぎて、ドアを閉めることを忘れた矢矧は、次の言葉が出ず立ち尽くす。


矢矧「なっ…あ…えっ?へっ?」

提督「どう?矢矧、帝国軍人っぽいだろ?めっちゃ頭軽くなった〜♪」

矢矧「な…なん…でっ?!」

長門「どうした矢矧っ!何事かっ?!」

時雨「ん?…あ…」

古鷹「…提督、その髪型は…」


ドアを開け放ったままだったので、ただでさえよく通る矢矧の声で、他の艦娘まで執務室に来てしまった。


長門「…ど、どうしたんだ提督…その…頭は…」

提督「…え?スカッと爽やかに苅ったった(笑)帝国軍人っぽくて良くない?」

長門「あ、あぁ…存外似合って…いやいやいや!ちょっと待てっ!」

時雨「…(久々に見たなぁ…)」

古鷹「あ、あははは…」


提督の丸坊主姿に困惑する矢矧と長門。

対象的に何かを察した時雨と古鷹。


提督「…で、みんなどうしたんだい?」

古鷹「提督、この後のご予定はどうなってますか?」

提督「ん?この後は夕食を作って食べて明日の予定の確認やらがあるな」

古鷹「…ではまだ作ってないですね…もしよかったら皆で食堂で夕食をご一緒しませんか?」

提督「んー…そうだなぁ…」

時雨「…ダメかな?」

提督「…ふむ…加賀、どう?」


先程落ち込んでいたところから、何とか持ち直した加賀に提督は話しかけた。


加賀「…一緒しましょう」

提督「…よし、それなら一緒させてもらうよ」

時雨「やった♪それじゃあ今から早速食堂に行こっか」

古鷹「…ふふっ♪」

矢矧・長門「「…」」

………
……


矢矧「…あの…古鷹さん」

古鷹「ん?どうした?矢矧ちゃん」

矢矧「えっと…なんで…提督の坊主頭に驚かないんですか?」


執務室に居た全員で食堂へ向かう廊下の道中。

前方では時雨に引っ張られる提督とそれに付いていく加賀の後ろを、長門、古鷹、矢矧が少しゆっくりのペースで歩いている時、矢矧が感じた古鷹と時雨の反応の違和感を尋ねた。


古鷹「あぁ、あれね、提督の散髪が失敗した時の状態なんだよ」

矢矧「…え?…散髪の失敗?」

古鷹「そう、矢矧ちゃんも長門さんも来る前の話だから知らなくて当然なんだけど、泊地の駆け出しの頃…いや、今でもそうなんだけど、提督の髪の毛を整えてたのって鳳翔さんなの」

矢矧「ええ…それは知ってますけれど…」

古鷹「最初の時に鳳翔さんが提督の伸びた髪に苦言を言ったら、切ってくれって言われて鳳翔さんが切ったら失敗しちゃって、帳消しにするのに提督が、自分で丸坊主にしちゃった事が何回かあったんだ」

長門「…それは初耳だな…しかし…」

古鷹「…多分ですけど、加賀さんが間をもたせるのに髪を切ることを進言したんだと思います。そうでないと、提督はまず自分で髪を切りませんし」

長門「…道理で2人共あまり驚かないのも合点がいく」

古鷹「ふふっ♪それにしてもさっきの提督のセリフって、初めて丸坊主になった時と同じセリフ♪懐かしいなぁ…」

矢矧「…”帝国軍人っぽいだろ?”ってセリフですか?」

古鷹「あはっ♪そうそう。ああやって加賀さんを庇って何も言わなかったのも、駆け出しの頃とちっとも変わってない。あぁ、やっぱりあの人はあの人のままで居てくれてるんだなぁって思って安心しちゃった」

矢矧「そ、そうですか…」

長門「…全くあの人は…」

矢矧「(私は着任が長門さんより少し後だったからなぁ…知らないのも無理もない…けど…何だか…悔しい…?寂しい…?…なんだろう…このモヤモヤする感じは…)」

長門「仕えた頃から髪型を変えない人だと思っていたが…着任が少し後の私と矢矧は知る由もないな…また提督の事が1つ知れて嬉しい。古鷹、ありがとう」

古鷹「いえいえ!…ふふ、ちょっとした思い出話みたいなものですから…提督って優しくてズルいですよね♪」

長門「ふっ、全くだ」

矢矧「(そう…あの人は…本当にズルい人…)」


時雨に手を引っ張られている提督を3人は眺めながら、食堂へと向かった。

………
……


時雨「さ、提督」

加賀「中にお入りください」


加賀と時雨が両開きの食堂のドアの左右に付いてドアノブに、手を掛けた。


提督「…あー…」

一同「「「「「?」」」」」

提督「いや、それじゃあ…」


ガチャ…

スパパパーンッ!!


クラッカーの炸裂音が提督を出迎える。


艦娘達「「「提督、お誕生日おめでとうございま〜すっ!!」」」

提督「…あー…いやぁ…まいったなぁ」


何となく扉を潜ればそうなると思っていたのか、提督は頭に手を回して後頭部を掻いた。

…もちろんすべて刈り取られ、変わり果てた提督の毛髪を前に、艦娘達は全く異なった反応を見せた。

金剛「oh!テートクが久々にボーズ頭デースっ?!」

隼鷹「ぶっひゃっひゃっひゃっwww提督何その頭wwwひっさしぶりじゃーんっwww」

鳳翔「………///」
↑両手で顔隠し

サラトガ「what happened(何が起こったの)?!」

能代「えぇぇぇえええっ?!」

由良「…あぁー…(苦笑)」

阿武隈「ふぇぇっ?!何で提督が坊主頭にっ?!」

鬼怒「ンプププッ…www提督それなんかのバツゲーム〜www?」


…うん。

反応を見る限り、苦笑3割、驚愕7割ってとこか…おもしれーなコレ。


提督「頭はこんなんにしちゃったけど、何も問題無いからね〜。中身は俺のまんまだからそのつもりで〜」

長門「…提督、壇上に上がって挨拶を頼めないか?」

提督「ん?ああ、そうだな…」


提督は長門に頼まれて特設の壇上に上がる。


提督「…あー…皆、この度はこのような席を用意してくれて、ありがとう…お陰様でまた一つオッサンになりました(笑)」

艦娘達「「「ワハハハハッ!」」」

提督「こんな大勢に祝ってもらえるなんて事はあまり経験がないから、正直戸惑ってるけれど、それ以上にとても嬉しく思っている…みんな、本当にありがとう!」


パチパチパチパチ!


嫁艦だけでなく、任意とされていた未婚艦の娘達の全てが、この場に集まって来ていた。

提督には彼女らの顔ぶれを見渡して、内心安心していた。


提督「…それじゃあ、一部待ちきれなさそうなのがいるのでぇ〜…カンパーイっ!」

艦娘達「「「「「カンパーイっ♪」」」」」


提督が音頭と共に手元のグラスを突上げ、宴が始まった。

………
……


榛名「…ふふ、ひとまずは成功…でしょうか?」

金剛「そうですネー、2年前の時よりテートク良い顔してるネー♪」

比叡「…しかしこうやって改めて見渡すと、仲間が増えたねぇ…」

霧島「海防艦から駆逐艦・軽巡・重巡・空母・戦艦に特務艦…総勢300名以上ですからねぇ」


足早にお祝いの挨拶を済ませた金剛姉妹が、提督の席から少し離れたところで、あたりを見渡していた。

そして、今はアメリカ艦勢からのお祝いの挨拶を個々からの受け答えをしている提督に姉妹の視線が集まった。


榛名「…?」


…その中、榛名は別の方角から、何やら複雑な表情で提督を見ている艦娘がいることに気が付いた。

…矢矧だ。

…少し気になる。

榛名は他の姉妹に断りを入れてから矢矧の元に歩みを進めた。

………
……


矢矧「…」


…なんでだろう。

提督は挨拶をしてくる艦娘達に、にこやかに1人1人丁寧に言葉と表情で応対しているのを見ていても、とても良い関係を築けているのは、わかっているのに…。

…物足りない。

…もっとしてあげられる事があったんじゃないか?

…2年前の”あの騒動”は実際見ていたけれど、今こうして自分が嫁艦の立場でこの場に立ってみると、その当時からの嫁艦達の考えていることが、何となくそうなってしまった気持ちが、わかる気がする。

…でも彼は”それ”を望んでない。

…いつでも彼は私達に考える時間をくれる。

静かに…でもちゃんと見守っていてくれる。

…まるで…。


矢矧「…父親みたい…」

榛名「…矢矧?」

矢矧「…あ、榛名さん…どうしました?」

榛名「…隣…いいですか?」

矢矧「ええ、どうぞ」


榛名は矢矧に断りを入れてから隣の席に静かに腰を下ろした。


榛名「…どうしたの?提督のことを見てたみたいだけれど…」

矢矧「あぁ…いえ…何も…」

榛名「…”これで良かったのかなぁ” とか ”なんだか物足りないなぁ”…って思ってます?」

矢矧「…えっ…」


矢矧は榛名の指摘にドキリと胸が跳ね上がった。


榛名「…あ、気に触ったのならごめんなさい…でも…なんだか楽しくなさそうな顔で、提督のことを見ていたので…」

矢矧「…あはは…敵いませんね…榛名さんには…」

榛名「…訳を聞いてもいいですか?」


あの時の顔を見られていたのかと、矢矧は苦笑しながら、榛名に少しづつ内心を打ち明け始めた。


矢矧「…私は嫁艦になってあまり間もないですけど、提督の好きな事嫌いな事、年中私達と一緒にいてくれていて、全部分かっているつもりでした」

榛名「…はい…」

矢矧「…今日の丸坊主の事でもそうでした…私の着任の時期から考えても、どうしようもない事もわかってるのに、あの場にいた古鷹さんや時雨に対して嫉妬してしまいました」

榛名「…」

矢矧「…その時思ったんです…”あぁ、もっと提督のことを知りたいんだ”って」

榛名「…ええ…」

矢矧「…私達に沢山尽くしてくれる提督に何かしてあげられないのかなって…でも提督は望んでくれない…その立ち位置ってまるで…」

榛名「…父親と娘の関係みたい…?」

矢矧「…はい…」

榛名「…そうですね…私も同じ事を考えてますよ」

矢矧「…そう…なんですか?」

榛名「そうですよ…この泊地では誰よりも長く嫁艦をしていると…尚更…ね?」


榛名はそう言うと、少し寂しそうな顔をしながら提督のいる方向を眺めた。


矢矧「…すみません…出過ぎた発言でした…」

榛名「…あっ!矢矧がちゃんと思っていることを話してくれたから、別に変な意味じゃないんですよ?…ただ…その気持ちは凄くわかるなぁって…」

矢矧「…ありがとうございます…話を聞いて貰えただけで、何だか少し気持ちの整理が付きそうです」

榛名「いえいえ…でもね、これだけは覚えておいてね?」

矢矧「…?」

榛名「提督を幸せにしたいのなら、皆で共有して幸せにすること」

矢矧「…はい」

榛名「片時も離れずに提督を独り占めするのは、今はきっと出来ない。もしそうしたらきっとみんなの関係もギクシャクする。迂闊に事を起こせない提督の立場を、慮ってあげてほしいの…これが、私からの心からのお願いです…」

矢矧「…はいっ」


迷いが晴れたのか、矢矧の受け答えはいつものようなキレを取り戻していた。


榛名「…お祝いの席なのに、こんな話しちゃってごめんなさい」

矢矧「い、いえっ!気遣ってもらって、ありがとうございました!」

榛名「ふふふ…やっぱり貴方はそうでなくっちゃ♪」

矢矧「…えっ?」

榛名「自信に満ち満ちていて…私には無い魅力があって羨ましいって思っちゃう」

矢矧「や…やめてください…///」

榛名「ふふ、さ、矢矧、そんな事を考えていたくらいだから、まだ提督にお祝いの言葉を贈ってないでしょう?一緒にいきましょう」

矢矧「あ、ああっ!は、榛名さんっ!ひ、引っ張らないでくださいっ…」

榛名に手を引っ張られた矢矧は、慌てふためきながら榛名と一緒に提督のいる元に向かっていった。

………
……


提督「…楽しい時間はあっという間だよなぁ…」

加賀「…そうね…でも楽しんで貰えたのなら、皆も喜ぶわ」


時間もいい頃合いになり、ひとまず執務室に戻る事にした提督と加賀。

今は誕生日会の余韻に浸りながら、執務室へ向かう廊下だ。


加賀「…今日くらいはもっと甘えてくれても良いのだけれど…」

提督「いやぁ…あんなに祝って貰って片付けも皆任せをさせて貰ってるだけでも、俺にとっては甘えさせて貰ってるのと同義だからねぇ…」

加賀「……そう…」


…あれ?加賀がちょっと不機嫌…?

微妙に受け答えの間合いが空いたので、提督はその違和感に気が付いた。


提督「…どうしたの?」

加賀「…正直に言うわ…提督は私達に甘え足りないわ」

提督「…そう言われてもなぁ…」   


提督は、そう言うと頭をガシガシと手で掻く。


加賀「もっとこう…直接的な欲求はないのですか?」

提督「…直接的?」


その漠然とした加賀の問いかけに対して、提督は首を傾げた。


加賀「た…例えば…例えばですよ?何か欲しい…物欲とか、せ、性的な欲求とか…そういうものです」

提督「…うーん…」

加賀「…(…ストレート過ぎたわ…)」


だが後悔先立たず。

加賀は目線を頭の上に向けながら考える提督の答えを黙って待っていた。


提督「物欲は…みんなの新しくて強い装備が欲しいなぁ」

加賀「…それは貴方自身のものではないでしょう」

提督「…今の生活では事足りてるからなぁ…私物で欲しいって物が特にはないんだよねぇ…」

加賀「…じゃあ性欲は?」

提督「…性欲かぁ…」

加賀「…艦娘相手では…捗りませんか?」

提督「…やけにグイグイ来るね…可愛い娘が沢山いるから良いなって思う時は…男だからね」

加賀「…そう」

提督「…少なくとも今は、そういう対象にはしない…いや、したくないかな…」

加賀「…したくない理由を聞いても?」

提督「…俺自身が好きな子が多過ぎる事、そしてその娘達も憎からず想ってくれている事…」

加賀「…」

提督「仮にもし今のウチの状態で急に1人贔屓をしたらこの泊地の娘達の関係にヒビを入れる事になる…俺が皆の心に中途半端に深入りし過ぎてるから…」

加賀「…はい」

提督「ホントは最初から1人選んでたら、こうもならなかったんだと思う…でも皆の事を知れば知る程、贔屓に出来なくなってた…みんなを大事にしたいから…」

加賀「…」

提督「…ごめん…優柔不断で…」

加賀「…いえ、そこまで考えていたのならいいの…こちらこそごめんなさいね…」

提督「…うん…」

加賀「…」


…き…。

…気不味い…。

…わかっていたことだけれど…。

…でも伝えておかないと気が済まない事がある。


加賀「…ただ…これだけは覚えていて頂戴」

提督「…なんだろ?」

加賀「…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ」

提督「…うん」

加賀「…私から言うことはそれだけよ…」

提督「ありがと…ちゃんともっと考えるよ…」

加賀「…」


その話の後は、提督も加賀も特に喋ることもなく執務室に戻り、明日に備えてスケジュール確認をしてから執務室を後にした。

執務室前で加賀とは別れたので、何となくぼんやり廊下を歩きながら考えていた。

外は雪が深々と降っている。

この調子ならそれなりに積もるだろうが、実家にいた頃に比べたら、こんなの降っているうちに入らないレベルの積雪量だ。


提督「…」


ぼんやりと街灯に照らされた舞い落ちる雪を見ながら考えたが、結局結論の行き着く場所は同じだった。


提督「…俺の…覚悟で決まる…んだよな…?」

???「…提督?」


誰かが薄暗くなった廊下の見えるか見えないかの距離で、話しかけてきた。

提督は考え事に耽っていたこともあって、割と近くまで近付かれないと気付かなかった。

…誰だろうか?

艦娘の夜目の良さには遠く及ばないので、誰に話しかけられたか、わからない。


提督「…誰だい?」

榛名「あ…榛名です…」


歩み寄ってきたその黒いシルエットは、オレンジ色の街灯に照らし出されて、装束と輪郭が鮮明に映る。


提督「…榛名…どうしたの?」

榛名「榛名は執務室に少し顔を出そうかと思ったんですが、もう閉まっていたので、何となく歩いていたんです…提督はどうして外を眺めていたんですか?」

提督「ん?…あぁ…雪それなりに積もってきたなぁってさ」

榛名「あ、そうですね…提督のご実家は滋賀でしたよね…積雪はどうだったんですか?」

提督「ん〜…普段は積もってないけど降る時はしっかり降って積もってたかなぁ…滋賀でもちょい南の方だったし」

榛名「そうでしたか…」

提督「…榛名、今日はありがとう」

榛名「…え?」 

提督「あそこまで盛大に祝ってもらったのは、人生で初めてだから…ちょっと今でも夢見心地なんだよ」

榛名「い、いえ…私だけではありません…泊地の皆の想いです…」


…何でだろう?

何だか榛名に腹の底を探られているような気がした。

…ちょっと居心地悪いな。

やたら目をジッと見てくるし…。


提督「…隠し事はしてないよ?」

榛名「…ふぇっ?!」


…やっぱりか…。

…あんまり榛名は隠し事に向いてないなぁ…。

提督の指摘に驚いた榛名は半歩後退り、構えの姿勢になる。


提督「…何か言いたいことがあったら言ってね…何かを考えてるのが分かっても、何を考えてるかまではわからないから…」

榛名「…う…うぅ…」


榛名は提督に思考で先制される事を考えてなかったのか、たじろいでわなないている。


榛名「な…なんで…わかってしまうんですか?」

提督「…いや、長い付き合いだし…割と榛名はわかり易いし…」

榛名「そ、そんなぁ…む〜〜…」


わかり易いと言われたのが余程悔しかったのか、分が悪くなった榛名は姿勢を正してから、顔を提督から逸した。


榛名「…提督は…ズルいです」

提督「…そう言われても、みんなを観るのが俺の仕事であり、日常だからなぁ…」

榛名「…榛名を…」ポツリ

提督「…?」

榛名「…最初から榛名だけを見てくれていたら…こんなに苦しくないのに…」ボソッ

提督「…え?」

榛名「…あっ…!」


榛名は咄嗟に口を両手で塞ぐ仕草を見せるが、時既に遅し。

心から漏れ出て放たれた言葉は、提督に届いてしまった。


榛名「す、すす、すみません!今のは無しですぅ〜っ!!」


ぴゅ〜〜〜〜〜…


そんな効果音が聞こえそうな勢いで、榛名は一目散に逃げ帰っていった。


提督「…やっぱり、そうなんやな…」

………
……


加賀『…”娘”と”父親”の関係では…もう満足出来ていない艦娘は多い事よ』

………
……


…その上、榛名は初めて指輪を渡した相手だ。

一入の想いを持っていて当然だろう。

…そのままにしておいて、適当な理由つけて誤魔化して不誠実なのは…やっぱり俺なんだな…。


提督「…考えよう…考えてシンプルな結論を…俺と皆の最良を…」


そして先程、榛名が走り去った方角を向いて呟いた。


提督「…ちょっと待っててな?」


保留にしていた思いを胸に、提督は自室に向かって歩き出した。

……………
…………
………
……


皆様、お疲れ様でした!

構想を練っているうちに冬イベント終わっちゃって春になっちゃいました!(爆)w

なので、立て続けに続編のアップをします!(^^)
※…後出しジャンケン最高だぜwww

お暇な時にでも読んでいただけたら幸いです。

次回もお楽しみに!(_ _)
ブログ一覧
Posted at 2022/04/15 22:50:37

イイね!0件



今、あなたにおすすめ

ブログ人気記事

免許の書き換え&納車、初公道走行 ...
gen-1985さん

街の様子
Team XC40 絆さん

墜ちた日産!
バーバンさん

お客様が型取りにいらっしゃいました ...
FJ CRAFTさん

プチドライブ
R_35さん

皆様、おっ疲れsummer🌻☀️ ...
skyipuさん

この記事へのコメント

コメントはありません。

プロフィール

「~近況報告~
皆様大変ご無沙汰しております。

某ゲームにかこつけて(笑)すっかりX(旧Twitter)の民となってましたが、生存確認も兼ねて屋根家の車達に変化があったのでご報告です。

キャリ夫の乗り換え以外は据え置き運用です。」
何シテル?   04/13 11:16
皆様こんにちは、屋根野郎と申します。 ☆洗車、好きです♪(笑) ※軽トラでも洗っちゃうくらいw 汚して洗う…そしてまた汚して洗うが幸せのルーティーン…素晴ら...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/8 >>

     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      

リンク・クリップ

艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 提督の帰郷編♯1 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2022/06/10 11:54:17
艦隊これくしょん -艦これ- 〜佐伯泊地の日々〜 束の間の夏休み編 2日目 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2021/08/15 22:05:16
CUSCO リヤ スタビバー 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2021/07/10 07:36:10

愛車一覧

スズキ キャリイ キャリ夫 (スズキ キャリイ)
13年間乗った前キャリ夫は、融雪剤による劣化が著しかった点と車検のタイミングをずらしたか ...
スバル インプレッサ スポーツ 屋根野郎号 (スバル インプレッサ スポーツ)
以前はインプレッサのGH型のGH7 20Sに乗っていました。 そして今現在、スバル ...
スズキ キャリイ キャリ夫 (スズキ キャリイ)
みんカラをやっているうちに、ブログにちらほら出していたので…しゃらくせぇ!載せちゃいます ...
スズキ エブリイワゴン エブリん (スズキ エブリイワゴン)
先代のDA64型のバンからの乗り換えです。 家族の車な上に仕事兼用なので大々的な改造はし ...
ヘルプ利用規約サイトマップ

あなたの愛車、今いくら?

複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!

あなたの愛車、今いくら?
メーカー
モデル
年式
走行距離(km)
© LY Corporation