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屋根野郎のブログ一覧

2020年07月12日 イイね!

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 梅雨の日編

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 梅雨の日編皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)

今回はプロローグ編の続きの短編となるお話です。

前回は、提督と艦娘達の関わり方が変わっていく、ある1日を描いたお話です。

みんカラ内限定でブログ小説として書き残してますので、興味がある方は下記のURLよりアクセスしてみてください(_ _)

↓↓↓↓↓

プロローグ ♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/


毎度ながらの長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

バトル・流血・略奪等の暗い話は描かず、ゆるーく心の移り変わりを、描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

キャラクターの人物像も公式を参考にして、著者が独自解釈したものです。

これらを踏まえた上で、お読みになってくださいませ…。

……………
…………
………
……


艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 
♯梅雨の日編

………
……


…梅雨に入ったとある日の昼下がり。

分厚い雲に覆われた九州 佐伯泊地の周辺は、しとしとと降り続き、雨で九州最東端に位置する鶴御崎燈台は霞み、辺りの視界は10km先が見えるか見えない程で、波は穏やか…。

…ただただ、静かに小さな雨粒が視界上をくまなく覆っていた。

…こんな日の彼女らの任務は非常に穏やかだ。

海上での偶発的な接触、こちらから差し向けた敵地侵攻時を除けば、深海棲艦も何故か動きを止める。

…とは言っても提督の仕事は、天気の良い悪いは関係なくやってくる…のだが…


提督「…ふぅ…こうも雨続きだと、仕事量も少なくて良いが…彩雲の索敵もお役御免…航空母艦勢はみんな鬱屈してるんじゃないか?」

???「…ふふ、たまには良いじゃありませんか。普段はよく働いているのですから、こんな時があっても」

提督「んー…まぁこの天候だと、深海棲艦側も大人しいし航空機飛ばしてこないからな…探知には海自で専用に改修されたP-3CやP-1で事足りるしな…」


この泊地の少し離れた場所の鹿児島県にある、海上自衛隊 鹿屋航空基地に配備された深海棲艦用に改修を受けた対潜哨戒機は、晴天時は危険が多い為出撃しないが、雨の日は忙しなく複数機が日本近海を飛び回っている。

昨今の海中は、深海棲艦の出現で海外から侵入してくる潜水艦が全くいない。

…居たら居たで潜水艦型の深海棲艦に片っ端から沈められるからだ。

そして、あちらの攻撃はこちらに通るが、通常兵器であるこちらの攻撃は当たらない上に、仮に当たったとしても、殆どダメージを受け付けない。

何せ人サイズの的が変則的に高速移動するのだ。

まっすぐ飛んで来て予測できる代物ではない。

そんな経緯からか、お役御免かと思われていた対潜哨戒機だったが、雨となれば話は別。

水を得た魚の如く、哨戒や海上護衛に当たる艦娘達との連携して、警戒を続けている。


提督「…赤城は全天候型の艦載機とかって、あったら良いと思うかい?」


提督は、秘書艦席に座って業務をする、今週の秘書艦に向って質問をぶつけた。

腰まで伸びた真っ直ぐな黒髪。

白の上着と赤い袴風のスカート、青基調の加賀と色違いの弓道着に身を包んだ艦娘。

この泊地の最古参の航空母艦。

赤城型 航空母艦 1番艦 赤城は、提督の質問に対して、少し考え込んだ。


赤城「んん…どうでしょうね…雨の中でも索敵や攻撃が出来ると言うのは、魅力的ですがそうなると深海棲艦側もこちらと同じ条件が発生するので、こちらからの一方的な展開にはならない…結局堂々巡りになってしまうので、良し悪しですね…」


…そうなのだ。

不思議なことにこちらができるようになった事は、向こう側も出来るようになってしまうのだ。

それは航空機も例外ではなかった。


提督「…ん、やっぱりそうだよなぁ…」

赤城「…それにですよ?」

提督「…それに?」

赤城「…それに伴って私達が働き続ければ、提督も執務に追われて手空きになる事も無くなるので、こうして提督の手料理も頂くことができません。…なので私の結論は、出来ればそんな無粋な航空機は要らないかなぁ…て♪」

提督「はは…ブレないなぁ…赤城は…」

赤城「当たり前ですよ!こうして人の身体を与えられて、日常で何が一番楽しみかと聞かれたら、味覚のある日々…そう、美味しい食事が頂けることが、何よりも尊いと思うんです♪」

提督「…ふふ…そっか…」


提督はそんな楽しそうに話す赤城を、懐かしむような、愛おしむような、穏やかな表情で見つめていた。

…そんな提督の表情のことは知ってか知らずか、にこやかに今日のお昼御飯のレビューを始めた。


赤城「丹念に、そして絶妙な火加減と煮時間で煮上げられた煮豚を使い、余分な水分を飛ばして煮豚から出た旨味を凝縮したタレに、冷ました煮豚をそのタレに漬けてしっかり味を染み込ませ、それを刻んだ物を投入し、しっとりとしながらパラッと炒められた焼き飯。…そして焼き飯のお供と言えば中華そば!…お店で食べるコッテリ系も魅力ですが、魚介ダシの効いたシンプルな醤油味が堪りません…その中華そばに先程の煮豚をスライスして並べれば…もう、2杯は軽くイケます!…そして付け合せの焼き餃子…もうこれだけでも白いご飯が進むのなんの…これが冷凍されていつでも焼くか茹でるだけで食べられるなんて、提督は神です〜♪」


…と、赤城は両手を頬に当てて、目をキラキラさせながら、今日の昼食の回想を頭の中で再生している。


提督「…焼き飯や餃子はまあ…アレンジは色々してきたけど、中華そばの麺は冷凍だし、ダシだって濃縮つゆをベースにしてるだけだから、簡単だよ?」

赤城「だからこそです!中華そばはシンプルな物ほど、五臓六腑に染み渡るというものなんですよ!」

提督「うーん…自分の好みがここまで赤城とドンピシャとは…まあ、そう言ってくれると嬉しいけどなぁ」

赤城「…ふふ…提督?」

提督「ん?なんだろ?」

赤城「…今さっき私がお昼の回想に耽っている時、凄く優しい顔をしてましたね」

提督「…そうかな?」


ボンヤリ赤城を見つめていたのが、キッチリ見られていたとは迂闊だった。


赤城「…指図め、着任したての頃の私の事を考えてましたか?」

提督「…さぁ?どうだろうな…」

赤城「ふふふ…♪そういう事にしておきますね♪」

………
……


前述の通り、赤城はこの泊地における最古参の正規空母だ。

その頃の彼女は、外見上は当時の加賀と比べてに穏やかそうに見えて、全く休もうとしない。

いわゆる旧海軍時代の " 月月火水木金金 " を体現した様な艦娘だった。

先の大戦、ミッドウェーでの敗退、この事が彼女をこうさせている事は、遥か後の世代の提督でも安易に予想できた。

…が、問題はどう赤城に " 今 " を見せるか。

着任してあまり時間が経っていなかった提督は、手をこまねいていた。

…ある時、提督は気が付いた。

食事中の赤城がどんな時でも、幸せそうに食事している場面に出くわしたのだ。

両頬をもごもごと動かして咀嚼して、いつも美味しそうに出された料理を食べている。

幸いにして、提督は料理の心得は多少あったので、右も左もわからない状態だったが、やれるだけの事をやってみることにした。

赤城が秘書艦の時、昼食に誘ってみた。

彼女は最初は間宮で一緒するのかと思っていた様だが、提督が作ると聞いてとても驚かれた。

…そして出したのが、今日と同じ献立。

焼き飯・中華そば・餃子の3点セット。

他の物作れない訳ではなかったが、1番場数を踏んで安心して相手に出せる料理だった。

赤城は提督から出された料理を見るや否や、キッチリいただきますをしてから、無心で料理に飛びついた。

言葉少なに食べ進めて、料理はみるみる赤城の胃袋に納まり、モノの数分で平らげてしまった。

すると空になった皿を見て、とても物悲しそうな表情をする赤城を見た提督は、話しかけてみた。

「「…おかわりいるかな?」」

…と。

「「えっ?!…い、いいんですか?提督」」

赤城は " 信じられない " と希望の眼差しが同居した表情で提督に確認する。

「「いいよ、あんまり美味しそうに食べるもんだから、見てるこっちが気持ち良かったよ…10分待ってくれるかな?何なら少しアレンジしようか?」」

「「いえっ!同じ物がまた食べたいですっ!」」

2セット目は少しじっくり味わって食べてくれたが、それでも平らげるのには、それほど時間が掛からなかった。

…食後、いろんな話をしてみた。

赤城が休まない事の話。

今の泊地の現状の話。

提督が料理するに至った話。

戦いが落ち着いたら半舷上陸を使って、泊地外の場所で土地ならではの、郷土グルメを食べて回りたいと言った話。

…話が終わる頃、赤城は自分に取り憑いていた内面の焦燥感は、 不思議と和らいでいることに気が付いた。

そして、赤城は提督に言った。

「「あ、あのぅ…また次の機会があれば…同じ物を作っていただけますか…?」」

…自分が大喰らいなのは自覚していたが、仮にも目の前にいるのは、男性。

はしたないのでは無いかと思う内面が、少し働いて遠慮気味に提督にお願いした。

「「…ん、時間があればもちろん」」

提督の返事はこれだけだったが、それ以上に表情が柔らかく温かみを持った表情で、快諾してくれた。

…それからずっと赤城は、定期的に雨の日には提督の料理を食べて、コミュニケーションを取ってきて、今日に至る。

………
……


赤城「…ふふ…今きっと、私と同じ場面を思い浮かべてるんだと思います…今の提督の顔があの時と同じで優しいです」

提督「…あの当時の事を思い出して、この場でいろんな話をしてきたなって」

赤城「私、あの事があったから今こうして、穏やかな気持ちでここに居られているんです。…こう見えても提督にはとっても感謝してるんですよ?」

提督「…ん、それは何より…よし、今日の仕事はお終い…書類のチェックを頼めるかい?」


話しながらではあるが、書類作業を続けていた提督は、今日の最後の書類を赤城の座る秘書艦席の机に手を伸ばして書類箱に入れた。


赤城「はい♪了解です。現在時刻は…」

古時計「1443時」カコン…カコン…

赤城「まあ、いい時間ですね…提督、この書類のチェックが終わったら、お茶にしませんか?私が淹れますので」

提督「お、いいね…お中元の頂き物で、何がお茶菓子があったハズ…ちょっと取ってくるよ」


提督はそういうと席から立ち上がり、多方面から贈られてきたお中元を置いてある、執務室の一角に向って歩き出した。

コンコン

提督がお茶菓子を探し始めた頃、ドアをノックする音が鳴り響く。


???「加賀です、入室宜しいですか?」

提督「ん、加賀か…どうぞー」


ガチャ…

ドアが開くと加賀ともう2人別の艦娘が執務室に入ってきた。

加賀「提督、赤城さん、小休止しませんか?二航戦の2人にも来てもらいました」

???「提督、赤城さん、お邪魔しまーす」

???「…あれ?提督が席に居ない…ってそこで何してるの?」

提督「ん?おお、飛龍と蒼龍か。いらっしゃい。今こっちも仕事が片付いたんで、書類のチェックが終わり次第、赤城にお茶を入れてもらって、俺は今お茶菓子を見繕っているところだ。気遣いありがとう加賀」

加賀「左様でしたか…では、私は赤城さんとお茶の準備をします」

提督「ん、よろしくお願いするよ…二航戦の2人はどんなお茶菓子がいい?」


提督は橙色と緑色の着物の艦娘を自分のもとに呼び寄せて、どれが食べたいか選んでもらうことにした。

すると呼ばれた2人は、提督の元に行き、机の上に出されたお茶菓子の中で、どんな物があるかを品定めし始めた。


???「どれどれ…あ!ぷりんどらの2種がある! ( ここ ) 泊地が九州だから、さり気なく地元のお菓子が混ざってますね〜♪…賞味期限も短いから先にこれ行っちゃいます♪」


提督の右手に付いた艦娘は、橙色の着物と緑の袴風スカートで、少し癖っ毛がある少し茶色掛かった黒髪のショートヘアの艦娘は、飛龍型 航空母艦 1番艦 飛龍。


???「悩むなぁ〜…あ、とらやの羊羹セット!色んな羊羹を楽しめるんで、好きなんですよね〜♪飛龍が洋風なんで、私は和でいきます!」


その反対側に付いた艦娘は、緑色の着物と暗緑色の袴風スカートで、少し青味掛かった黒髪の肩ぐらいの長さのツインテールの艦娘は、蒼龍型 航空母艦 1番艦 蒼龍だ。

2人は梱包された箱のままそれを持って、執務室のソファーに向かって、提督は今回の選定に選ばれなかったお茶菓子を保管していた各場所に戻した。

飛龍「赤城さん、加賀さん、これなんてどうです?」

蒼龍「皆で食べましょう〜♪」

赤城「まぁ♪良いですねぇ〜♪」

加賀「ふふ…赤城さんがお中元が届くの時期に秘書艦とは、選り取り見取りで運がいいわね」

赤城「ええ♪そうですねぇ…ん、よし!提督、書類のチェックが完了しました。」

提督「ん、ありがとう赤城。それじゃ一服入れよう」


加賀の座るソファーの隣に着座した赤城を確認したところで、お茶菓子を囲んだちょっとしたお茶会が始まった。


飛龍「そう言えば提督、お中元で贈られてくるのってお菓子ばかりなの?結構な量があったように見えたけど…」

提督「ん?あぁ…ハムだの素麺だのも沢山あったけど、間宮さんに普段の食事に出してくれって、全部渡してあるからな」

蒼龍「…あ、昨日の晩ごはんに分厚いハム使ったハムカツ出てたのがあれか…酒類は無かったの?」

提督「ビール類の大半は鳳翔さんに預けた。強い酒は、バーに寄贈したよ」

飛龍「あ、そっか…そう言えば、バーの一角にやたらめったら酒瓶が入った箱が、積んであったのがそれかぁ」

提督「そうそうあの山だ、好きに飲んでもらって良いようにな…(…まぁ個人的に飲む分は、親戚筋からの頂き物と厳選した酒はキープしたし…)」


…ちなみにバーと言っても作る人間が居る訳ではない。

家具職人の妖精に頼んで、泊地内の別棟の空き部屋を改築して、酒飲みの艦娘達の為に用意した部屋だ。

そこに夜な夜な、翌日が非番の艦娘や晩酌をする艦娘達が集まって、そこで飲んでもらっている訳だ。

…え?荒れ放題にならないかって?

責任と規律が保てない娘には、ここで飲む権利はありません(笑)

ちなみに飲み散らかし・暴れる・酷い絡み酒等を犯した者は、1週間バーを清掃する刑+酒の場で禁酒という、酒飲みには地獄のような刑に処される。

…その憂き目に遭ったのは、今の所2名だけなのだが…。


加賀「ずず…ふぅ…バーが出来た頃、一時はどうなるかと思ったけれど、提督が決め事をしてくれたお陰で、"今は"問題は起きていないわ」

提督「何かで気持ちを抜く場所は必要はだとは常々思っていたしなぁ…まあ、ひっでぇ絡み酒するとか泥酔して迷惑掛ける類いの事をしなければ、特に咎める気はないけど…隼鷹とポーラが酷すぎたんで、ちょっと看過できなくてなぁ…」


…ちなみにポーラという艦娘は、イタリアから来た重巡洋艦で、隼鷹に負けず劣らずの筋金入りの飲兵衛だ。

おまけに泥酔すると服を脱ぎ捨てるという、酒癖の悪い厄介極まりない娘だ。

…素面の時は、ぽややんと緩くて可愛らしいのだが…。


赤城「むぐむぐ…ごっくん…そんな事がありましたねぇ…連日連夜で何処までの範囲を提督が我慢してくれるか試したって件ですね」

提督「んん…俺単体に仕掛けてくるのはいいけど、最終的に周りを巻き込んで俺を試したってのが無性に気に入らなくてな…」

飛龍「あれ、絡み方がひっっどかったからね…酒が入っての悪ノリだったから尚の事…」

蒼龍「ずず…提督、飛龍に聞いた話だけど、その日あまりにも酷かったし、別の娘が提督に陳情したら、次の瞬間 鬼の形相の提督がバーに突撃して、有無も言わさず2人の首根っこ掴んで廊下まで引きずり出したって…ホント?」


蒼龍が恐る恐る提督に質問をぶつける。

…とらやの栗羊羹を食べながら…。

…提督が艦娘たちの前で片手で数えられる回数だけ、激怒した事があった。

その数回のうちの1つが起こったのは、先日の さん付けを無くして欲しいという嫁艦達の要望のあった一件より2ヶ月程前に遡る。

その時の目撃者の数名の中に、その時の秘書艦の加賀と、お酒を飲みにバーに居た飛龍が居た。


提督「…やった後からだけど、申し訳ないことしたと思ってる…」

加賀「…あの怒鳴り声は、その場に駆けつけていただけに、今でも忘れられないわ…他の娘の話を聞いていると、寮棟まで提督の声が聞こえたそうよ」

提督「…加賀、言わないで…思い出しただけでもめっちゃ恥ずかしい…」

飛龍「んで、あまりにも怒ってるもんだから怯えて嫌がる2人を引きずっていこうとした提督を、飛鷹とザラだけじゃなくて、バーに居た戦艦勢や重巡勢が止めてたのがすごく印象に残ったなぁ…提督、もしあのまま誰も止めてくれなかったら、あの2人どうしたの?」

提督「…執務室でねちっこい説教と姉妹艦への謝罪と感謝と反省の誓約書を書かせるつもりだった。…まぁ、あの時はその場で誓約書を書かせたけど…」

蒼龍「…そっか…はぁぁ…それが聞けて安心したよ〜…」


ここまでの話の流れと結論を見届けることができた蒼龍は、前のめりの姿勢から一転、ホッとしたのかソファーの背もたれにもたれた。


提督「ん?どゆこと?」

蒼龍「だって提督って、普段あまり怒らないからこっちも " こういう人なんだ " って固定観念が定着してるじゃない?…で、そんな人が形相を変えて怒ったら、こっちも萎縮してすごく怖かったんだ…一部の娘から今でも怖がってる娘が居てねぇ…」

提督「…はぁ…やっぱり短期は損気だなぁ…効果が大きすぎて、トラウマになってるのか…はぁ…」


規律を保つためとは言え、過ぎた制裁だった事が後々になって認識したため、少し後ろめたさがあった提督は、腕を組んで執務室の天井を見上げて、溜息をついた。


赤城「ずず…ふぅ…提督が怒ったその一件のお陰で、泊地内の風紀は大きく乱れずに保たれているのは事実ですし、基地としての規律を守るには、必要な事ではあったと思いますが…」

加賀「そうね、後の配慮が少しばかり足らなかったとはいえ、提督の激怒というものは言われた側にとっては、想定以上に堪えた様ですからね…ここの所、隼鷹とポーラさんの酒癖の悪い評判もすっかり聞かなくなったわ…この泊地の長としての多少の畏怖も必要…」

蒼龍「あの一件からあの2人、飲む量がだいぶ減ってますよ…まあ、酒臭いのを日中にバラ撒かれるよりは、ずっと良いですけど…」

飛龍「…まあ、提督の事を信じてはいたし、状況が状況ってのもあったからねぇ…それで今、提督の口からそこまで聞けたんだから、もう心配してませんよ〜」

提督「…と言ってもなぁ…あんまり賢いやり方ではないし、もっといい方法を考えないとなぁ…予想外の他の娘達に反感とか失望されてなきゃいいけど…」

飛龍「(…むしろその直後は姉妹艦達は怖がった反面、その後日談で枕を高くして寝られるようになったって安堵してたような…?)」

赤城「…?私の知る限りそれはないと思いますよ?」

加賀「ええ…甘やかすだけが愛情ではありません…そんな時に本気で怒ってくれる人である事ぐらいは、十二分に理解しているつもりです」


…ここに居る艦娘達の提督に対する対応は概ね、良好…なのだがそれでも他の反応が気になる提督…。


提督「…ちなみに蒼龍、あの一件以降 未だに俺が怖いって言ってるのは、誰なんだ?そう言うのは口外禁止?」

蒼龍「あ、いえいえ、秘密だなんてそんな事はないですよ。私が、聞いた限りでは姉妹艦が飲兵衛の羽黒ちゃん、イ13 ( ヒトミ ) ちゃんで…噂だけ聞いて怖がってるのは、名取ちゃん、潮ちゃん、高波ちゃん、浜波ちゃん…くらいだね」

提督「…OH…揃いも揃って普段が気弱組とは…(…あ、この前の見回りで宿直室での名取の反応がそれか…)」


今、名前の挙がった艦娘達は、皆基本的に口篭ってしまうタイプの娘達なので、少し手強そうだと提督は思った。


赤城「もぐもぐ…ごっくん…まあ、間接的に関わりが出来そうな羽黒さんとヒトミちゃんは、要ケア人物ですけど、噂だけで怖がってる子達は、その内落ち着くでしょう…噂も75日ですよ♪提督」

提督「…ん、噂組は今後の誠意の姿勢で示すしかないな…留意しておく…ありがとう蒼龍」

蒼龍「いえいえ〜、提督なら大丈夫だよ♪」

提督「…だといいけどなぁ…って…ぷりんどらと羊羹達が無い…」

一ニ航戦ズ「「「「…あ」」」」


話しているうちに机に並べていたお茶菓子が、ほぼ平らげられて、提督は完全に食いっぱぐれを食ってしまった。


提督「…もうお茶だけでいいや…」

一ニ航戦ズ「「「「…ごめんなさい!」」」」


戦艦達とお茶するとそうでも無いのに、航空母艦達とお茶すると大概こうなってしまうのだが、まあそのいい食べっぷりに免じて、お茶だけでいいや…と心の中でもそう思う提督なのであった。

………
……


1600時

その後、お茶会は解散となったものの、書類仕事が片付いてしまったので、提督は秘書艦の赤城と一緒に泊地内を見回ることにした。

…外は相変わらず雨が降り続いていた。

…所変わって、2人が立ち寄ったのは、甘味処 間宮。

普段は食堂として機能しているが、1400時から1700時までの間だけ、甘味処としての機能が動く。

少し到着した時間が遅かったが、ここ数日の雨によって外に出ることが基本的に出来ずに、この場でお茶と甘味を楽しみながらお喋りに興じている者も少なくはなかった。


???「…ん?あ、提督と赤城さん…見回りかい?」

???「…ぽい?提督さんと赤城さんだーっ!こんにちはっ!」

???「おおーっと、出遅れたっ!提督、赤城さん、お疲れ様です!」

???「んぐっ!ゲホゲホ……タイミング悪くて困るんですけどぉ…も〜う…」


中に入ると、すぐに艦娘達に見つかった。


提督「おう、楽しそうにやってるな。時雨、夕立、白露、村雨」


間宮に入ってきた提督と赤城に、最初に気が付いたのは、白露型駆逐艦姉妹達だった。

妹達に先を越されて、慌てて振り返って挨拶してきた娘は、赤毛で背中の中ほどまで伸びた癖っ毛があるロングヘアーの艦娘は1番艦の白露。

真っ先に提督と赤城に気が付いて、声を掛けてきた娘は、黒髪を後ろで三編みにしておさげを左肩に下ろしている艦娘は、2番艦の時雨。

先程から咳き込んでツイてないと嘆いている娘は、フワッフワの芦黄色で腰まで伸びたロングヘアーの艦娘は、3番艦の村雨。

語尾に " ぽい " と個性的な喋り方をする娘は、亜麻色のサラサラしたストレートの腰まで伸びたロングヘアー、無邪気に提督と赤城に声を掛けてきた艦娘は、4番艦の夕立だ。

彼女たちも例外なく、甘味片手に姉妹仲良くお喋りに興じていたところだ。


夕立「提督さん!私と時雨、午前の哨戒頑張ったぽい!褒めて褒めて〜♪」

提督「ん、そうかそうか…視界があまり良くない状態な上にこの雨だ、ご苦労様」


なでなで…

遊んで欲しいとせがむ子犬のように提督に戯れ付く夕立に対して、提督は労いの声をかけてから頭を撫でてあげた。

哨戒が終わった後にお風呂に入ったのであろう。

サラサラの髪の毛からは、シャンプーの香りが漂った。


夕立「ムフ〜♪これこれ、これっぽい〜♪」


所望通りに構ってもらえて、ご機嫌に目を細める夕立。


白露「あぁっ!夕立ったら!あたしのセリフ取っちゃ駄目だっての!提督!あたしもあたしも〜」

提督「おっとっと…白露こっちおいで、いつも個性の強い妹達を纏めてくれて助かってるよ」


なでなで


白露「にっしっしっ♪そりゃもっちろん、あたしが1番艦なんだからっ♪」


そう言ってニカッと笑って撫でられる白露。


村雨「あ〜っ、も〜提督提督!2人ばかり撫でてないで私も構ってよ〜」


白露と夕立が提督に構って貰われているのが羨ましかったのか、村雨も提督に撫でることをせがみ始めた。


提督「おいおい…俺の手は2つしかないんだって…夕立もういいか?」

夕立「ん〜…うん!提督さんとの触れ合いは、ちゃんと姉妹にお裾分けっぽい!褒めてくれてありがとうっぽい!」


一瞬名残惜しそうな表情を浮かべたが、直ぐに表情が切り替わり、他の白露型姉妹に提督のなでなでを譲った。


村雨「夕立ありがと♪…んふふ♪いい感じ、いい感じ♪提督、今度の出撃も期待しててよね♪」


ふわふわの髪を撫で梳かれて、村雨の表情も先程のむくれ顔もすっかり上機嫌で、目を細めてくすぐったそうにしている。

…おや?

もう1人はどうしたんだ?

提督はくっ付いてくる3人の後方で、撫でられることを躊躇している時雨が居るのが見えた。


提督「(…来ないの?)」

時雨「(い、いや…僕は…その…)」


提督と時雨の無言の意思疎通をしていると提督の向かっている視線の先に気が付いた白露が、時雨の元に駆け寄る。


白露「ほーらっ、時雨も遠慮したらだめだってば!提督に撫でられたいんでしょ?」


そう言うと、白露は時雨を半ば強引に背中を押して提督に向かわせようする。

時雨も " 迷惑だからやめた方が… " と嫌がっている訳ではないが、白露の行動にかなり戸惑っていた。

…これは助け舟を出してやるか…。

提督は時雨に今度は直接声を掛けてみた。


提督「…時雨もおいで?」

時雨「う…うん…ありがとう…///」


提督にそう言うと素直に撫でられる時雨は、俯きながらもとても嬉しそうにしていた。


提督「明日もよろしく頼むな…今日はゆっくりしなよ?」

時雨「うん…ありがとう提督…///」

提督「ん…みんなも明日の出撃に備えて、今日はゆっくりするんだぞ?」

他の白露型3人「はーい♪」


こうして甘味処間宮の入口に入って、早々に捕まっていたが、次の娘たちの様子を見に行く為に提督は白露姉妹の元を離れた。


提督「(ん〜…他にはっ…と…ん?あれは…)」


提督が店内を見回していたら気になる姉妹達が目に付いた。

…妙高型4姉妹が揃っている。

ここで提督はある事を思い出した。


那智「「…提督、呑みの件は楽しみにしてるぞ」」


数日前の見回り組が詰めている宿直室室にお邪魔して、妙高と那智が摩耶と鳥海との交代で入れ替わる際の去り際のセリフが頭に浮かんだのともう一つ…


蒼龍「「一部の娘から今でも怖がってる娘が居てねぇ…」」


先程の小休止での会話内での蒼龍のフレーズが、提督の脳裏に浮かび上がった。

…そしてそこには姉妹の会話を横で聞き手になっている、妙高型4番艦の末っ子、羽黒も居た。


提督「(…ふむ…この際にこの2つの事案に取り組もうかな…)」

赤城「もきゅもきゅ…ごっくん…提督、羽黒さんの件を解決されてはどうですか?」

提督「…今それを考えてたところ…って…赤城…また食べてるのか…」

赤城「み…みたらし団子さんが私を呼んでいたんですぅ〜」


提督に指摘するまでは良かったが、赤城の左手にはいつの間にやら、皿に盛られたみたらし団子の山があった。

…全くもって食べ物の事になると、いつもの冷静さが彼方まで吹っ飛んでタガが外れてしまう人である。


提督「…赤城…座ってゆっくりよく噛んでその団子を食べてきなさい…羽黒のところには俺だけで行くから…」

赤城「了解です〜♪あむっ♪もちゅもちゅ…」


そうして、赤城が甘味に舌鼓を打っている間に、提督は妙高4姉妹がいる場所まで向った。


???「やっぱりここはこの方が私は良いと思うのよねぇ…ん?あら、提督じゃない?」

妙高「あら、提督。お疲れ様です」

那智「む、提督、貴様か…どうかしたか?」

???「あ…こ、こんにちは…司令官さん…」

提督「皆お疲れ様、あそこで団子を頬張ってる秘書艦様と、ちょっと気分転換がてら見回りをしててね…おお、関心関心…足柄、教鞭の方針の話かな?」


提督がまず先に話しかけた艦娘は、背中まで伸びた黒髪のロングヘアーで少しウェーブの掛かり、頭部に白いカチューシャを付けた艦娘。
妙高型 重巡洋艦 3番艦 足柄だ。

…因みに提督の言った教鞭の方針と言うのは、この泊地に着任したて、または教育過程の駆逐艦や海防艦に航法と射撃の基礎座学と実地を教える役割を妙高型が担ってくれている為、その方向性について議論している真っ只中に提督がやって来たのだ。


足柄「ええ、そうなの!私としてはもっとここを変えたほうが、良いと思うんだけれど…提督の意見も聞かせてくれないかしら?」

提督「んー…どれ……内容的には悪い点は無さそうだなぁ…あ、ここを少し難易度を下げてみて、取っ掛かりを作ると良いんじゃないかなぁ…うん、まずは論ずるより実践ってことで、1度組み込んでみて受講者の反応を見てみるのも、一考なんじゃないかな?」

足柄「むむ…そう言う考えも有りか…それじゃあちょっと修整したら、早速明日から組込んでみるわ!提督ありがとう!」

提督「いやいや…俺は自分の考えを言っただけだから何もしてないって、こちらこそ忙しい中、指導方針でも熱心に取り組んでくれてありがとう」

妙高「…ありがとうございます提督。他の方の知見も伺うことができて良かったです」

提督「いえいえ、むしろ姉妹でゆっくりしているところを邪魔したね…あ、那智、今日の夕食後は空いてるかい?」

那智「ん?あぁ、用事が済めば空いているが、それがどうかしたのか?」

提督「ん、前に言ってた皆で飲もうかって話、今夜どうかと思ったんだけど…都合は付きそうかな?」


提督のその言葉を聞いた那智は、心躍らせるような表情を浮かべた。


那智「!いつもの酒飲み連中はランダムで勝手に集まるからいいとして、みんなはどうだ?」

妙高「ふふ、私は大丈夫ですよ」

足柄「私も明日の教育方針が固まった今、夕食後は空いてるからもちろん行くわ!羽黒も来なさいな!」

羽黒「…ええっ?!わ、私も?!」


足柄に急に話を振られて、激しく動揺している艦娘は、セミロングボブの黒髪で、左の前髪に髪飾りを付けた艦娘、妙高型 重巡洋艦 4番艦 羽黒。

そして動揺したのも束の間、羽黒は提督をチラチラと見ながら、少しばかり悩んでいる模様…。

…思いの他、重症なのかも…?

提督は少し早まったかと、思ってしまったが…。


羽黒「…はいっ…ご一緒します!」


…何やら決心をして足柄の問に答えていた。

…怖いもの見たさみたいなものなんだろうか?

それとも提督の真意を見極める為なのだろうか?

提督にはそう見えたと同時に、成長したなぁ…と少し感慨深さのようなものを感じた。

…着任当初の羽黒は任務中以外では超臆病、いつもビクビクしている小動物、と言った表現を具現化した娘だった。

しかし、この泊地のへの羽黒の着任は初期に近い時点であり、提督との付き合いは長い。

…実はこの泊地において、妙高型で1番着任が遅かったのは妙高だったりする。

そして長い月日を経て、練度を上げて2次改装を果たしてから、当初とは比べられない程、前向きな女性へと成長した。

…相変わらず泊地内では、提督が絡むとまだちょっと小動物っぽいが…。

…で、今現在に至るわけだが、そんなちょっとした思い出が頭を駆け巡った提督だが、その事は内心に置いておいて、飲み会への参加を承諾してくれた妙高型姉妹達に謝意を示した。


提督「ん、ありがとう。まあ俺は添え物みたいなものだし、みんなが楽しんでるところを邪魔する形にはなるけど、よろしく頼むよ…それじゃあ見回りに戻るけど、今晩楽しみにしてるよ」

那智「あぁ!もちろんだ!」

妙高「ふふふ…それでは後ほど…」

足柄「よーし!漲ってきたわ〜っ!」

羽黒「そ、それでは後ほど…司令官さん…」


今晩の飲み会の予定が決まって提督が妙高達の元を離れ、先程までみたらし団子を食べていた赤城の前に今盛られている団子が、みたらしから3色に化けているのを見て、呆れと " 仕方がないなぁ… " とどこか優しげな発言している提督の背中を見ながら、羽黒は妙高に対して呟いた。


羽黒「…ねぇ、妙高姉さん。司令官さんってお酒飲む人だったの?」

妙高「うん?ええ、嗜む程度は飲まれていると仰ってましたよ」

羽黒「そ、そうだったんだ…てっきりお酒がダメな人かと思ってました…」

那智「まぁ、つい最近まで口外してなかったしな…本人は1人で私室で静かに飲むことが多いらしいし…これも嫁艦達の直談判に感謝せんとな」

羽黒「嫁艦?…あぁ…前に言ってたお話ですか?」

那智「うむ、その一件から提督は我々艦娘達との交友を増やしてきているからな…これから徐々に顔を出してくる事が増えるだろう…酒の席が良い時間と思ってもらえるようにしないとな…」


那智はそう言うと、今回の提督からの申し出を心底楽しみにしているようだ。


足柄「…ねぇ羽黒?まだ気にしてるの?怒った提督が隼鷹とポーラを首根っこ掴んで引きずって退室させたって話」

羽黒「えっ…う、ううん…ただ…どれが本当の司令官さんなのかなって…」

足柄「…あら?それもひっくるめて提督なんじゃないかしら?」

羽黒「…え?」

妙高「そうですね…逆に私は先の一件の提督の激昂の話を聞いて、安心しました。時には厳しく叱ってくれる方なんだなと思いましたから…」

那智「うむ、そういう二面性もあっていいじゃないか。少なくとも他人に迷惑を掛ける類のものではないしな」

足柄「ギャップ萌えってやつね!やっぱりたまには強い所を見せてくれなきゃ、今後がかえって心配だしね!」

羽黒「…そ、そういうものなのかなぁ…(…やっぱり…人を好きになるって…まだよく分からないや…)」

………
……


1630時

赤城「…もう!ひどいですよ提督〜、私の3色団子さんをギンパイ ( つまみ食い ) するなんて!」

提督「…ほう、1500時の小休止で君らがカッさらえていった、ぷりんどら と とらやの羊羹達の恨みを俺は忘てれないぞ…」

赤城「どきっ…」

提督「…まあそれは大袈裟として、その位大目に見なさいな…」

赤城「むぅ…はぁ〜い…」


食堂を離れた提督と赤城は廊下で話しながら、次の場所へ移動中。

…その道中の提督と赤城の前方、洗濯物を抱えて部屋から出てくる人と鉢合わせになった。


???「よいしょっ…あら?提督と赤城さん、見回りですか?」

提督「はい、お疲れ様です、鳳翔さん」

赤城「お疲れ様です鳳翔さん…やっぱりすごい洗濯物の量ですね…お手伝いしましょうか?」


2人の前に現れたのは、背中の中程にまで伸びた黒髪をポニーテールで纏め、薄紅色の和服の袖をタスキで縛り、紺色の袴を履いた艦娘。

鳳翔型 航空母艦 1番艦 鳳翔である。

鳳翔は目線程の高さまで積んだ乾いた洗濯物を抱え込みながら答えた。


鳳翔「あら?赤城さんいいんですか?まだ執務があるのでは…」

提督「…もう書類仕事は緊急が発生しない限り、終わりましたから…赤城、鳳翔さんを手伝ってもらえないかな?」

赤城「はい、承りました。鳳翔さんまだ部屋内に乾いた洗濯物はありますか?」

鳳翔「それは助かります♪それでは提督、赤城さんをお借りしますね。赤城さん、部屋には少し残ってますが、部屋の中の2人に割り振った洗濯物が沢山あるので、その上積みしている分を任せていよろしいですか?」


鳳翔がそう言うと、鳳翔が出てきた部屋から2人の艦娘が、うず高く洗濯物を積んだものを抱えて出てきた。


???「うんしょっと…この洗濯物の量を見てると、ウチの泊地も随分多所帯になったって実感できるよねぇ…ん?赤城さんに…提督?お疲れ様です」

???「んん…前が見えない…だからってみんなして汚しすぎぃ…洗う側の身にもなってよぉ〜…あ、提督に赤城さん!お疲れ様です!」

提督「ん、祥鳳、瑞鳳、お疲れ様。洗濯物を運ぶのを赤城が手伝って貰うから、まあ文句は言いなさんな…赤城、悪いが頼むよ」

赤城「了解です!ほい、ほいっと…」


すると赤城はうず高く積まれた2人が抱えている洗濯物を器用に掬い上げて積み重ね、自分も含めて皆同じぐらいの目線の高さに洗濯物を分配した。

そのお陰で目線の上を越えて積まれていた洗濯物が目線よりちょっと下まで下がったので、顔が確認できた。


部屋から出てきた1人目は、スラッとした背格好に背丈程の長さまで伸びた黒髪ストレート。

白の着物に黒の袴風スカートを纏った、祥鳳型 航空母艦 1番艦 祥鳳。

祥鳳の次に部屋から出てきた、背格好が高くなく、茶髪で肩より少し下に長いポニーテール。

白の弓道着に赤のもんぺを纏った、祥鳳型 航空母艦 2番艦 瑞鳳。

この2人は、手が空いていればよく鳳翔の手伝いをしているが、傍から見ていたらこの光景は中々微笑ましい。
※提督談


提督「ん、それじゃあ皆、洗濯物の片付け、よろしく頼むよ…自分も手伝えれば良いんだけど…」

瑞鳳「っ!そ、それはダメですぅ!」


提督も手伝いを申し出たが、瑞鳳が真っ先に拒絶してきた。

…まあそりゃそうか。

だって全部女性用の衣類だし…。


提督「ん、デスヨネー…なんかサボってるみたいで悪い…」

祥鳳「それ以外の事で提督は頑張っておられるので、気にしないでください♪」

提督「ん…足止めちゃって悪い…それじゃあ、俺は1人で見回りしてくるから、そっちはそっちで行ってらっしゃい」

洗濯物輸送船団「「「「いってきまーす」」」」


洗濯物輸送船団は、そう言うと提督から遠ざかって目的地に向った…が、瑞鳳だけ何か言う為に提督の元に戻ってきた。


瑞鳳「あの…提督、悪く思わないでね?…気持ちは嬉しいんだけど…」

提督「ん、何もしてないのが何となく座りが悪かったから申し出たけど、考えたらまぁそうだわなって…それより瑞鳳、置いていかれるぞ?焦らず行ってきな」

瑞鳳「はい♪それでは失礼します♪」


そう言うと瑞鳳は、先へゆく鳳翔達に追いつくべく、パタパタと洗濯物を抱えて軽快な足取りで後を追っていった。


提督「(…ん、やっぱり瑞鳳はかわゆい…)」


…一応彼女の名誉のために言っておくが、背格好は下手したら駆逐艦並だが、ああ見えて合法的にお酒も飲める立派な大人だぞ。

………
……


〜泊地の空母寮の談話室〜

???「…ふえ…っくしゅん!!」

翔鶴「…あら?龍驤さん、如何されましたか?」

???「…グス…何や悪寒が…ウチのこと悪ぅ言ってる輩でも居るんちゃうかぁ…」

………
……


1700時

…さて、提督は回り回って戦艦寮にやってきた。

…といっても、寮に繋がる屋外の屋根付きの渡り廊下で素通りするだけだが…。

???「〜っ!〜〜っ!」

???「ーっ!ーーっ!」

提督「…ん?」


何やら雨音に混ざって大声の残滓が所々拾って聞こえてくる。

…どうやら屋根のない広場から聞こえている様だが…。

提督は気になったので、少し覗いてみることにした。

………
……


提督「…なんじゃこりゃ…」

提督の目の前では、ドッヂボールの様な事をしている2名を発見した。

片方は、戦艦長門。

…そしてもう一方はというと…。


???「ふははっ!改二でもその程度か!長門よっ!」

長門「はっ!その割には足が随分よろけているんじゃないか?!武蔵よ!」


長門を相手取っているのは、映えある日本帝国海軍切っての超弩級戦艦。

高身長に超ワガママボディに褐色肌に大胆なサラシススタイル、銀に近い金髪にヘアバンドにツインテールで銀フレームの下縁眼鏡。

一つの個体にありったけの属性をぶっ込めるだけぶっ込んだ、大和型 戦艦 2番艦 武蔵 がそこに居た。


提督「…えぇー…ちょっ…えぇ…なんなのこれ?」

陸奥「あ!提督!あの二人を止めて!」

???「提督!申し訳ありません!武蔵ったらみんなの静止を聞かずに長門さんにっ!」


戦艦寮の屋内廊下からこの光景を見ていた提督を発見した陸奥ともう1人の艦娘が、慌てて駆け寄ってきた。


提督「陸奥、大和、これはなんぞ?」

???「ええっと…その、武蔵が最近の悪天候で出られない事に鬱憤を募らせていて、その捌け口に野外でドッヂ勝負を長門さんに一方的に申し込みまして…」

あせあせと提督に説明を始めた女性は、武蔵同様に日本の象徴とされる超弩級戦艦。

こちらも当然の如くの高身長で、膝ほどまで伸びた少し茶掛かった黒髪をポニーテールで纏め、紅白のセーラー服に、左二の腕付近にZ旗腕章。

史上最強の戦艦と謳われた大和型 戦艦 1番艦 大和 である。


大和「てて、提督!本当に申し訳ありません!武蔵を止められず、何も出来なくて…!」

提督「…どうどう…大和、最近着任したばかりなんだから仕方がないって…まあまず落ち着いて…」


…彼女の事は少し前の大規模作戦にて、解析・着任を果たしたばかりで、先に着任した武蔵と比べて練度が高くない上に、人の体を得て間もない為、こう言った人っぽいいざこざに慣れていないので、提督も咎める気にならなかった。


提督「…で陸奥、長門はなんでまたあそこに居るのかな?」

陸奥「長門ったら最初は断っていたみたいなんだけど、武蔵に挑発されて黙ってられなくなったの…わ、私も止めたのよ?!」

提督「いや、うん、そこは疑ってないから大丈夫として…」


提督はドッヂボールを渾身の力を載せて投擲し合う2人を見た。


長門「これはどうだぁっ!…っむぅぅぅんっ!!」

武蔵「くぅっ…なんのこれしきっ!はぁぁぁあっ!!」


…うん、止めるの…

☆絶対ムリ☆


提督「…アレに割って入ったら、間違いなく俺の頭がドッヂボールのボールに入れ替わっちまう…」


…そう、某幼児向けアニメのパンの頭のように…。


大和「…あわわわ…」

陸奥「…その冗談は全然笑えないわよ、提督…」

提督「…なので 、最終手段を使ってみる…」

大和・陸奥「…え?」


ピッピッピッ…スーッ、スーッ、ピッ…

提督は普段から持ち歩いている泊地内専用の内線端末を手に、ある人に電話をかけ始めた。

Trrrrrr…Trrrrrr…Trrr…


???「…はい、提督、どうなされましたか?」

提督「あ、鳳翔さん、忙しいところすみません。今電話大丈夫ですか?」


相手は鳳翔だった。


鳳翔「ええ、大丈夫ですよ…あら、後ろから随分野太い声が聞こえますね?」

提督「…実は長門と武蔵が " 野外 " でドッヂボール対決をしてまして…」

鳳翔「…あら…まぁ〜…ふふふ♪仕方がない子達ですねぇ〜♪」


…ゾワワッ


提督はこの状況にも関わらず、呑気な鳳翔の声色に背筋がゾッとした。

そして、提督の後ろで聞き耳を立てていた陸奥と大和も、そのスピーカーから漏れ出た鳳翔の声だけで震え上がった。


提督「…鳳翔さん、自分が、入って止めようかとも思ったのですが、間違いなく無事で済まない公算が高く、姉妹たちも開始直前まで止めに入ったのですが、本人達の意思も固く、どうすることも出来ず申し訳ないのですが…!」

鳳翔「ええ♪提督もお気になさらないで下さい♪陸奥さんや大和さんにもよろしくお伝えください♪では、早急にそちらに向かいますので、少々お待ちくださいね〜♪準備してきますので〜♪…」


…プツッ…ツー、ツー、ツー…

………
……



提督「…鳳翔さんがすぐ来てくれるそうだ…陸奥と大和によろしくってさ…」

陸奥「…提督…それはそれでワイルドカード過ぎて笑えないわ…」

大和「…ある意味、最強の切り札です…」

鳳翔「…ふぅ…お待たせしました♪」

3人「「「ヒェッ?!」」」


こうして艤装一式を装備した鳳翔が音もなく到着した事によって、またたく間に2人の危険極まりないデスマッチは制圧され、慌てふためいていた3人を背に立つ鳳翔の前で正座させられた長門と武蔵。


鳳翔「うふふふっ♪2人共、何か申し開きはありますかぁ〜?」

長門・武蔵「「…ありません…」」


…この後、2人は鳳翔にめちゃくちゃ説教された。

そして裁量が下され、両名とも今晩はその泥だらけの格好で過ごす…これはつまり、不衛生な状態では食堂に入る事が出来ないという意味で、明日の朝まで食事が摂れないと言う事に他ならなず、その上で1週間の洗濯物作業の奉仕が課せられたのであった…。

………
……


…2時間後…

日が少し傾き、鳳翔の説教が終わってその背中を見送った提督は、長時間の慣れない正座で悶絶して動けなくなって、泥まみれのままの長門と武蔵に近寄った。


提督「…2人共、俺だけで止めれる力があれば良かったんだけど…申し訳ない…」

長門「…くぅ…い、いや…提督はそれでいい…武蔵の挑発に乗ってしまった私にも責はある…」

武蔵「…あ、あぁ…むしろ提督があの場に入らなくて良かったよ…私もどうかしていたようだ…提督に長門よ…すまない…」

提督「…今度はもっといい方法を考えるよ…鳳翔さん呼んどいてこんなこと言う立場じゃないんだけど…」

長門・武蔵「…っ!だから提督の対応は問題ないとっ…!」


グルルルルルルル…


提督「………」


…腹の虫…いや、腹の獣が唸っているが、この音は提督ではない。

…そして長門と武蔵は赤面で提督と目を合わせてくれずに固まっている。


長門「…な、何の音だろうなぁ…提督…///」

武蔵「…この近くにデカいカエルでも居るんじゃないか?…な、なぁ…相棒よ…///」

提督「…ン、ンー、ソダネー…」


かなりの武闘派の2人だが、お互い高練度の艦ということもあるのか、提督への信望も厚い為、自分たちから発せられた生理現象の音が恥ずかしくなって誤魔化して、それを汲んだ提督。

とにかく2人を無駄に動かすと更に空腹を呼び起こすので、2人の元を離れて、ひとまず執務室へ戻る事にした提督なのであった…。

…そして手早く夕食後を済ました提督は、こっそり内緒で2人に、熱々のタオルと乾いたタオル、除菌ウエットティッシュとおにぎり沢庵セットを差入れしたのは、完全な余談である…。


2000時

急な大本営からの命令や書類も届かなかった事を確認して、本日の秘書艦の赤城に自由にしてもらう為、仕事を切り上げてから不測のミッション(長門と武蔵への食料鼠輸送)を達成した提督は、早歩きでバーに向かっていた。

…特に時間を約束した訳ではないが、早く着くのに越したことは無いと、早歩きでバーを目指した。

…提督は別棟の一室の前に到着した。

…ここに来るのは3ヶ月弱振り。

…もっとも、その時は飲む為にここに来たわけではないのだが…。

…ギィ…カランカラン…

開けたドアに取り付けられた呼び鈴が鳴り、提督は室内に入ると、入り口に流し目を送くる人がいた。


提督「お邪魔するよ〜」

那智「む、よく来たな提督!さ、こっちだ!」


既に中にいた那智の手招きで提督は妙高姉妹が集まっているカウンター席に着いた。

…因みに提督が着座したカウンター席は、妙高と那智の間で那智の右横に足柄、妙高の左横に羽黒といった配置だ。

そして、今のところバー内にいるのは妙高型姉妹のみだ。


提督「いやぁ…ちょっと遅くなって悪いね…土産の酒を見繕っていたら遅くなっちゃって…」

那智「おぉ…気遣いに感謝する…何を持ってきたんだ?」

提督「んと…ウィスキーと日本酒…日本酒は冷やしてきてあるけど、一旦冷蔵庫に入れとくよ」

那智「そいつは楽しみだな…さあ、提督、まずは提督の持ってきたコイツで乾杯と行こうじゃないか」


那智の右手には、提督の持ってきたウィスキーが掲げられた。


那智「ほぅ…提督はニッカ派か?なかなか良い趣味だな…」

提督「あぁ…個人の頂きものでな…普段はニッカのお手頃なやつばかり飲んでるもんだからって、とびきり上等なのを送ってくれたんだよ」

那智「ふふ、THE NIKKA か…!…上等な酒で楽しみだが…すまない…私はいつものダルマなんだが…」

提督「良いって良いって、俺はダルマも好きさ。…まあ今回は飲み会参加の記念日ってことで皆で飲もうさ」


…提督が来る前にすでに飲み始めていたんだろう。

那智も足柄も妙高も、ほんのり肌が赤みがかっていた。

…羽黒はウーロン茶をちびちび飲んでいるようだが…。

提督はふと思った。

ここに着任して早3年以上の月日が過ぎたが、何だかんだ言って艦娘達と肩を並べて酒を飲むのは初めてかも…いや、初めてだなと少し感慨深さのようなものを感じた。

いつも素面の時は厳しい表情を浮かべている那智も、何だかとても上機嫌だ。


那智「ふふ…すまないが提督の取っておきを勝手に開けさせてもらったぞ。まずは私の酌を受けてくれないか?」

提督「おお、いつもの如く仕事が早いね…それじゃあお願いします…」


提督の持つロックアイスの入ったグラスに、瓶から琥珀色の液体が流れ出て、それと同時に瓶から小気味の良い " トクトクトク… " とグラスに注がれる音が流れる。

その光景は、バーカウンターの間接照明に照らされて、その流れ入る琥珀色の液体がとても艷やかに映し出される。


提督「…雰囲気って大事だな…いつもの部屋の照明ではこの情景は拝めないよ…」

那智「ふふ…そうだろう?まぁこれも提督の計らいのお陰だがな。ここに来て飲む酒は格別なんだ」

提督「…そっかぁ…喜んでもらえているのなら嬉しいよ…那智もどう?グラスは…」

那智「むっ…いかんな…ちょっと待っててくれ…」


そう言うと那智は先にグラスに入っていたウィスキーをグイッと一気に飲み干した。


提督「おぉう…無理しなくてもいいのに…」

那智「ぷはぁ…なぁに…折角提督の取っておきを注いでもらうんだ。混じり気があっては提督と酒の両者に失礼というものだ」

提督「…ん、ありがとう…それじゃあ注ぐよ…」

那智「おとと…ふふふ…こうして貴様と酒を酌み交わすときが来るとはな…」

提督「…そだなぁ…俺も今さっき思ってて感慨深さがあったよ…」

足柄「んぐ…ぷはぁっ!…提督ぅ〜私にも注いでもらえないかしら?」


提督と那智がお互いの思いに耽っていると、足柄がグラスを空にして割り込んできた。


提督「おおっと、もちろん…ほら…ちゃんと受けてくれよ…」

足柄「…うふふ♪提督、ありがと♪」

提督「まだ乾杯はしてないからちょっと待っててくれよ?」

足柄「もっちろんよ♪」


いつも隙がない足柄だが、酒の席では少しフワフワしてるんだな…あくまで主観だが。


提督「…妙高は…日本酒?」

妙高「す、すみません提督…ウィスキーは少し…」

足柄「妙高姉さんはウィスキーが苦手なの」

提督「…なんと…」

妙高「も、申し訳ありません…」


…確かに妙高の手元にある酒は、冷ややかなガラス細工で彩られた徳利とお猪口が置かれていた冷酒であった。


提督「…ん、ちょっと待ってて…」

それを見た提督は席から立ち、カウンター内に入った。


妙高「て…提督?」

提督「んーっと…職人さんに言ってたから一式…あるいは代替品があるはず…」


提督はそう言うと、カウンター内の棚を探し始めた。

…すると程なく…。


提督「…お?…おお、これこれ…冷たい酒用の冷すピッチャー発見♪」


出てきたのは、容器ごと入れて、その周囲に氷を入れて冷すのに使うステンレス製の少し小さめのピッチャーだった。

そこに提督は冷蔵庫に入れた日本酒の一升瓶を出してきて、それをガラスの2合徳利に移し替えてピッチャーに投入。

そこへ氷を大量に敷き詰めて、暫く冷たくて美味しい冷酒が飲めるよう用意した。


妙高「まぁ…♪お心遣い痛み入ります提督♪」

提督「やっぱり好きな酒は一番いい状態で飲んで欲しいからね…これは親戚筋から送られてくる地酒の" 萩乃露 " と言ってね…なんだかこれが一番しっくり来たのを覚えてくれてて、この時期は冷酒用のこれを送ってくれるんだよ…さ、どうだろうか?酌を受けてくれるかい?」

妙高「…もう…その言い方はズルいですよ提督…」


妙高はそう言うと、手元にあったお猪口に入っていた冷酒を、クイッとひと飲みして、空にしたお猪口を提督に差し出した。


提督「ふふ…みんな強いなぁ…」

妙高「それは提督と姉妹で飲める初めての楽しいお酒ですもの…受けないとバチが当たってしまいますよ♪」


まるで涼やかな水が流れて落ちるようにダウンライトに照らされた冷酒が、妙高が差し出したお猪口に注がれる。

…うむ、やはりこれはこれで趣があって実に日本らしい。


提督「…よし…それじゃあ…羽黒はどうする?そのままでいいかい?」


そして妙高型最後の1人となった羽黒に声をかけた提督。

流石に自分以外の姉妹が全員提督の酌を受けているのを目の当たりにしていたのもあってか…。


羽黒「…あ、はい!…ええっと…お猪口をいただけますか?1杯くらいなら大丈夫ですので…」

提督「ん、そうか…お猪口はっと…これだな。さぁ、手に取って手に取って。注がせてもらうよ」

羽黒「はい…司令官さん…ありがとうございます…///」


おずおずと両手でお猪口を差し出したが、なんだか嬉しそうに提督の酌を受けた羽黒。


提督「それじゃあ全員行き渡ったところで…皆ありがとう…こんな席を設けてくれて…こうやってみんなと飲める日が来るとは思っても見なかったから、とても嬉しく思うよ…今日という良き日の記念に乾杯!」

妙高型一同「「「「乾杯っ!」」」」


カシャシャン♪

互いの盃を触れ合わせ、何とも言えない上品な音色が響き渡った。


提督「ん…あぁ…やっぱりコイツぁ美味いな…グイグイ行くのは勿体ない…」

那智「ん…ほぅ…この芳醇な樽とピートの香りが鼻腔を通る度に感じる何とも言えない幸福感…そして仄かな甘み…素晴らしいなコレは…たまにはニッカも悪くないかもしれんな…っ!」

足柄「…っ!…やだ…美味し…っ!これホントいいお酒ね♪」

妙高「…まぁ…あっさりしているのに果物のように甘い…どんどん飲んでしまいますね〜♪」

羽黒「…わわ…///お酒なのにお酒じゃないみたい…美味しいです…」

提督「ふふ…皆の口に合って良かったよ…ホントは1人でノンビリ飲む気だったんだけど、持ってきてほんとに良かった…羽黒?気に入ったのなら1本つけようか?」


羽黒が持っているお猪口には、注いだ日本酒は飲ま干されていた。
羽黒本人はどうしようか迷っていると…。


妙高「…提督、それはいけません…羽黒は飲むペースを配分できないので…私につけていただけませんか?一緒に分け合って飲みますので」

提督「ん、そっか…羽黒はそれでいいかな?」

羽黒「は、はい…お気遣いありがとうございます…///」

提督「…だったら折角用意してくれた席だが、のんびり座っては飲んでいられないな…どれ…よっこいせっと…」


提督はカウンター内にあった座面が小さくて、背の高い椅子を姉妹の座る対面に置いて、そこに座った。


那智「はは…貴様がそこにいると、まるでバーの店主のようだな」

提督「…それっぽくカクテルでも覚えようかな」

足柄「あっはっは♪そんな事やってたら提督の仕事はいつするのよ〜」

提督「…それもそっか…でも任務や上司部下の関係以外で、そういう交わり方も良いかなって思っちゃたりしてるんだよなぁ…」

足柄「くぅ〜…嬉しい事言ってくれるわよね…でもね…そんなことしたら提督ぶっ倒れちゃうかもしれないって…ホントに無理はしないでよ?」


陽気な声色が一転、少し足柄のトーンが少し下がった。


提督「あぁそりゃもちろんさ…でもまあ今は…こうしてこっちに座ってみんなの顔を見て飲んでいる方が性に合うかな…何だか安心するんだ」

那智「くくく…本当に店主のようだな」

足柄「にゃははっ♪それじゃあ私達が提督の初めてのお客ね♪」


一瞬トーンが下がった足柄だったが、直ぐに切り替わった。

…酒が回ってるからなのだろう。

感情の抑揚の差が普段に比べたら顕著だった。


提督「はっはっはっ!そいつぁいいなぁ」


こうしてカウンター越しでの酒を酌み交わしながらの対話が始まった頃…。

…ギィ…カランカラン…。

バーの入り口が不意に開いた。

提督の目線はまっ先にそちらに向かった。


???「なんか楽しそうだねぇ〜♪あたしも混ぜてくれよ〜♪…て…てててっ!提督じゃんっ?!」

???「…?何慌てふためいてるのよアンタは…あら
…提督じゃない。カウンター内に入っちゃって何してるの?」


2人の艦娘がバーに入ってきた。


提督「あぁ、隼鷹に飛鷹…お邪魔してるよ」


先頭に入ってきて早々に提督の存在に気が付いて、慌てているこの艦娘が、提督に引きずられてバーから強制退場させられた2人の片方。

紫色の髪は腰より長く、その上は四方八方へくせっ毛でピョコピョコ跳ね、赤のブラウスの上に白と緑のベスト、その上から狩衣風の白い上着を羽織り、赤のズボン袴。

彼女が飛鷹型 航空母艦 2番艦 隼鷹。

その次に入ってきた艦娘は、隼鷹の髪とは対象的に艶のあるストレートの黒く長い髪を背中まで伸ばし、赤のブラウスの上から白い狩衣風の上着を着て、ズボン袴の隼鷹とは違い赤の袴を穿いている艦娘は、隼鷹の姉に当たる、飛鷹型 航空母艦 1番艦 飛鷹だ。


提督「隼鷹に付添で飛鷹が来るとは珍しいな…」

飛鷹「最近、お酒の量を控えてくれてるし、たまには付き合ってあげようかなって思ってね…まさか提督がここに居るなんてラッキーだわ♪」

提督「よかったらカウンター席に2人で座る?俺はここに座ってるし、まだ席に空きはあるよ」

飛鷹「あら♪それじゃあ遠慮なく座るわね、羽黒、隣お邪魔するわね」

羽黒「あ、はい、どうぞ飛鷹さん」


飛鷹はそう言うとスッと流れるような動作で羽黒の横のカウンター席に座った。

…服装的には結構嵩張る服装なのに、器用なものだ…その辺りはやはり元客船出身だけあって、動作に気品を感じる。

…この席に座ってて良かったな…こういった艦娘達の細やかな仕草も見ることができるのだから、成り行きでカウンター内に座った事が提督としては結果的に良い作用に働いたようだ。

…が、そうでない者も…。


提督「…ん?隼鷹、どうした?突っ立って無いで座ったらどうだ?」


…そう、こっ酷くしかられた事がある隼鷹だ。


隼鷹「うぇぇっ?!…いや〜あたしは他所に座るよ…め、迷惑かけたら悪いしさっ」


…隼鷹は何やら白々しい態度。

あの一件から任務の命令等では特に問題は無かったが、普段の生活での絡みが随分減ったのは、提督も肌で感じていた。

…余程怒鳴られたのが堪えて引きずっているのだろう。

隼鷹には出来れば同じカウンター席に座ってほしいのだが、どうすれば座るかと提督は思案を始めた。


飛鷹「ちょっと隼鷹、私が付き合ってあげてるのにそういう事するわけ?」

隼鷹「い、いやだってさぁ…」

提督「…冷で中々イケる日本酒を用意したんだがナァー… (棒) 」

隼鷹「!!」

妙高「ふふふ♪美味しいですよ?隼鷹さん」


妙高も提督の内心を汲み取ってか、援護射撃を始めた。


隼鷹「うぎぎぎ…」


…提督の前で醜態を晒すのが嫌なのか、飲みだしたら調子づいてしまいそうな自分を戒めようと揺らいでいるのか…恐らく色んなの内心が働いて隼鷹は、躊躇っていた。

…提督は思い切ってみた。


提督「…ええい、焦れったい。那智、足柄、軽空母 隼鷹を拿捕し、カウンター席まで曳行せよ」

那智・足柄「!…了解っ!」

隼鷹「えぇぇっ?!ちょっ…まっ…」


提督から隼鷹をカウンター席に着かせるように命を受けた那智と足柄は、素早く立ち上がって、そのまま狼狽えてる隼鷹を2人掛かりで両腕を抱えて、有無も言わさずカウンター席に曳行した。


那智「大人しく連れて行かれる方が良いぞ…悪く思うな…何せ提督は直々の命令だからな…」

足柄「前の事で怖いのは分かるけど、せ〜っかく提督が心を開いてお酒の席に来てくれてるのよ〜?…さぁ…大人しく観念しなさいなっ…」

隼鷹「ちょ…2人共…顔がおっかねぇってぇ…わかったから乱暴しないでおくれよ…」


流石に重巡2隻相手では分が悪いと悟った隼鷹は、那智と足柄にされるがまま、そのままの配置でカウンター席に着座した。


提督「2人共ありがとう、悪いな隼鷹…手荒な真似をした…詫びといっちゃなんだが、酌を受けてくれるかい?」

隼鷹「い、いや…いいって…でも、いいんかい?」

提督「ん?いいって何が?」

隼鷹「…前に迷惑かけたこと…怒ってない?」

提督「…俺も冷静じゃなかったしな…それに隼鷹も相応の罰を受けたんだからおあいこさ…まぁ今後は気を付けて飲んでくれればそれでいいし…」

隼鷹「う…うん…わかった…それじゃあ…提督のお気に入りの日本酒…貰おうかな…///」

提督「あいよ、冷一丁〜」

飛鷹「ぷふっ…提督それ居酒屋じゃない?」

提督「…おおっと、しまった (棒) 」


提督はうっかりを表現するために、手の平で軽く自分の額を叩いた。

あっはっはっはっはっ!

こうして飛鷹型の2人を織り交ぜての飲み会も、酒が進むにつれて隼鷹の中にあった、わだかまりも少なくなったのか、いつもの調子が戻ってきた。


提督「…ありゃ…予想はしてたけど、萩乃露なくなっちゃった…」

隼鷹「えぇ〜提督ぅ〜なくなっちゃったの?」


やはり筋金入りの酒豪艦。

人数が多いとはいえ、一升瓶の半分近くを軽々と飲み干した。


隼鷹「なくなったなら仕方ないさ〜♪あたしはあそこに積んである酒のどれかを飲むよ〜。提督♪ごっそさん♪」


…まあ、一升瓶半分の量で元気になってくれたのなら安いものだ。



提督「どういたしまして、あんまり飲みすぎるなよ?」

隼鷹「はぁーい♪」


そう言うと、隼鷹は席を立ってお中元で贈られてきた酒が積まれたテーブルまでヒラヒラと歩いて、テーブルに着いたらそれらを入念に吟味していた。


飛鷹「…提督、ありがとうね…隼鷹あの一件以来、監視の面では楽だったんだけど、ちょっと元気が無かったのよね…」

提督「ん、でもちょっと隼鷹のやつ飲み方変わったな…前は片っ端から飲んでた節が見受けられたけど、今は量も減って、種類も選んで飲んでる感じがするよ…でも実際どう?見境なく飲んでた時と、今とどっちが良い?」

飛鷹「う〜ん…ちょっと難しいわね…ひょっとしたら私ってば苦労性なのかもね…注意とか介抱がなくなったらなくなったで寂しかったりもするわ…」

提督「…うん、そんな気はしてた…でも今の隼鷹の加減だと飛鷹も良い顔してると思うよ。肩の力が抜けててる気がする…」


左手で頬杖をしながら提督は、次に飲みたい酒を選んでいる隼鷹の背中を見てから、飛鷹に視点を移してジッと飛鷹の目を見た。


飛鷹「ちょっ…///何言ってんの…ばか…///」


隼鷹に日本酒をほとんど持っていかれたので、飛鷹は今、提督が持ってきたウィスキーを飲んでいて、提督にそう言われると、ロックアイスの入ったグラスを両手で持って口元を隠すようにちびりちびりと飲んでいた。


提督「ん?見たまんまを言ってるつもりだけど?」

飛鷹「く、口説いたって何も出ないんだからっ…///」

提督「そんなつもりはないんだけどなぁ…まあ俺としては皆の仕草が見ながら話してゆっくり酒が飲めるこの席が、性に合うというか…こういうのも良いなって…」

飛鷹「ふふ…でも貴方らしいわ…見てて分かるもの…今の提督、凄く柔らかい表情してるわ」

提督「…そっか…いい酒が飲めているならそれでいいや…」

飛鷹「…もう一杯…ニッカをいただけないかしら?」

提督「ん、グラス替えようか?」

飛鷹「ううん、そのまま氷を足してくれたら良いわ」

提督「あいよ」


飛鷹から受け取ったグラスに手早くロックアイスを足してから飛鷹にグラス返すと、提督はそのグラスにウィスキーを注いだ。


飛鷹「…ふふふ♪ホントに砕けたバーの店主みたい」

提督「…それ今日散々言われたわ…きっと俺はそういう属性持ちなんだろうなァ…」

飛鷹「なぁにそれ?うふふふ…」

足柄「提督〜?ニッカまだあるぅ?隼鷹が持ってきたのと飲み比べしたいのぉ〜」

提督「もうちょいあるぞ…氷はどうする?」

足柄「テイスティングに氷は不要よ〜。」

提督「…テイスティングて、もうベロベロじゃんか…」

足柄「にゃははぁ〜♪楽しいからいっぱい飲んじゃったぁ〜♪」

提督「…程々にな」

隼鷹「ひゃっは〜♪提督持ってきたウィスキーも美味いなぁ〜♪ガバガバいくのが勿体ないよ〜」

提督「…とか言ってガバガバいってるし…」

飛鷹「…すっかり元に戻ったかも…」

提督「それはそれで良いんだって…可愛いもんだ」

飛鷹「ふふ…提督、何だか店主である前に父親みたいよ」

提督「…まあ何かその表現は強ち違いないのかもしれない…」

妙高「羽黒…羽黒っ!」

羽黒「…うにゃぁ…もう飲めまないれすぅ…///」

提督「…こっちはこっちで潰れちゃったかー」


いつの間にやら、羽黒はカウンターに突っ伏して寝かかっていた。


提督「…妙高、とりあえずソファが空いてるから、そこに羽黒を寝かせてきたらどう?タオルケットを持ってくるよ」

妙高「す、すみません…よろしくお願いします」

飛鷹「(…うん、優しいお父さんっぽいわ…)」


その光景を見ながら飛鷹は内心こう思っていたのだった…。

提督が初めての参加した飲み会は、こうして夜が更けてゆき…。


2300時

提督「…妙高、羽黒は大丈夫?」

妙高「ご心配なく…羽黒は部屋にしっかり連れ帰りますので、提督はそのまま私室へお帰りください」

羽黒「司令官さん、妙高姉さん…ご迷惑をかけてすみません…」


時刻もいい時間になって飲み会はお開きとなり、バーの片付けを済ましてから全員で退室して、鍵を閉めた。

羽黒はお開きになる直前までソファで寝ていたので、少し酔いが覚めて自力で立つ事ができていた。


妙高「いいのよ…楽しかったんでしょ?」

羽黒「…う、うん…///」


羽黒のその言葉を聞いた提督は、今回の飲み会に参加して良かったと心から思えた。


提督「それなら良かった…それだけが聞けたら十分さ。…たまの事なんだから甘えなって」

妙高「…ただ、足柄は大丈夫が怪しいものですが…」


妙高はそう言うと、じとーっとした目で目を流す先には、グデングデンになって那智に肩を借りている足柄の姿…。


足柄「うぉーっ♪もう一軒いっとこーっ♪」

那智「馬鹿者…明日お前は朝から教鞭に務めるんだろうが…帰るぞ…提督、我々はこれで失礼する…またこういう機会が持てるといいな」

提督「おう、道中気を付けてな。今度は普段飲みの酒を持ってくるし、また参加するよ」

那智「ふふ…楽しみにしているぞ…それではまた明日」

提督「ん、おやすみ…足柄もちゃんと寝るんだぞ」

足柄「はぁ〜い♪」


結構な量を飲んでいた筈の那智だが、ブレることなく足柄に肩を貸したまま曳航していった。


飛鷹「…それじゃあ提督、私達もお暇させてもらわね…また明日」

隼鷹「提督っ♪今日はあんがとねっ。また参加してくれよな〜?」


那智と足柄を見送って次に飛鷹と隼鷹も提督に声を掛けた。


提督「おう、今日はお疲れ様…隼鷹が酔ってるのにシャンと立ってるのって新鮮に見えるな…」

隼鷹「さ、流石にもう提督の前でお痛はしないってぇ〜…」

飛鷹「うふふ…やっと加減ってモノがわかったから私も助かるわ」

提督「ははは…また飲み会には参加するよ…じゃあおやすみ飛鷹、隼鷹。明日もよろしく頼むよ」

飛鷹「おやすみなさい」

隼鷹「おやすみぃ〜♪」


空母寮に向かって歩き始めた2人を見送って、提督は、鍵を返納するべく執務室に向かって、歩こうと動いた。


妙高「提督、お供します」

提督「…ん?妙高に羽黒…まだ居たのかい?」


提督は後ろから声を掛けられたので、歩くのをやめて声のした方向に振り向いた

…そういえば見送ってなかったなと思っていた、妙高と羽黒が提督の後ろに控えていた。


妙高「ええ、提督を私室まで護送します」

提督「…構わないけど、結構遠周りじゃないかい…?それに羽黒もいるし…」

羽黒「あ、あの…私も残るって妙高姉さんにお願いして…」

提督「…そうだったのか…それじゃあお付き合いお願いするよ」

妙高・羽黒「「了解です」」


提督は両サイドに妙高と羽黒を引き連れて、まずは執務室へ向かった。

…羽黒の足取りが少し危なっかしかったので、少しゆっくりと歩きながら。


妙高「提督…今宵の飲み会の申し出、有難うございました。私達姉妹、提督ととても楽しい時間が共有できました」

提督「ん…それなら良かった…俺もとても充実した気分で歩いてるところだよ…ところで羽黒?」

羽黒「は、はい、何でしょうか?司令官さん…」

提督「…隼鷹達の叱責騒ぎでなんか怖がらせたみたいで、悪かったなぁ…」

羽黒「えっ?!い、いえいえいえ!あれは私が勝手にっ…」

妙高「羽黒…声が大きいですよ…」

羽黒「あうっ…すみません…」

提督「…でも勇気を出してバーに来てくれただろう?あの時凄く羽黒は成長したなって強く思ったんだ」

羽黒「そ…そうでしょうか?」

提督「もちろんさ、だからさ、無理にとは言わないけど、また皆の都合が合ったら羽黒と皆と色んな話がしたいんだ…その時はまた来てほしいな…」

羽黒「…はいっ…また…ご一緒したいですっ…///」

妙高「(ふふふ…良かったわね、羽黒…)」


ゆっくり歩きながらささやき声で話しながら執務室、私室へと向かい…。


提督「…無事俺の部屋に到着…妙高・羽黒、付き合ってくれてありがとう」

妙高「いえ、私達がしたいだけなので、お気になさらないでください」

羽黒「(コクコク)」

提督「…お礼は頭撫でたらいい?」

妙高「…え?」


突然の提督の発言に先程まで朗らかな妙高の表情が固まった。


妙高「…提督…何を仰っているのか意味がわからないのですが…」

提督「…ごめん…この前、摩耶と鳥海に護送してもらった後の会話聞こえてた…」

妙高「っっっっ!!///」

羽黒「えっ?…えぇっ?」


妙高の顔は一気に真っ赤になった。

…そして何が起こったか理解できていない羽黒は、目線が提督と妙高の間で、右往左往していた。

…そう、先日の見回り組の宿直室に提督が久々に訪問して、深夜に帰って来た時の事だ。

その時に交わされていた妙高と摩耶と鳥海の会話がドア越しに提督に聞こえていたのだ。


妙高「えぇ…えっ?いや…その…///」

羽黒「(…わぁ…妙高姉さん顔が真っ赤で狼狽えてる…かわいい…)」

提督「…と、言う訳で自己解釈した結果、今後は見送りしてくれた娘にはナデナデを報酬するべしと判断したんで、大人しく撫でられてください(笑)」

妙高「は、はは…はいぃぃぃ…///」

羽黒「え、ええっと…私も…していただけるんですか?」

提督「もちろん漏れなく」

羽黒「…っ!…お、お願いしますっ」

提督「ほれほれ、2人共、ちこう寄らんか〜よ〜しよし〜」


なでなでなでなで


妙高「んっ…///」

羽黒「はわ〜…///」


妙高は恥じらいながらも嬉しそうに、羽黒は目を細めて気持ち良さそうに提督のなでなでを受けていた。

…やはり、撫でられた直後の2人は、体の周囲にキラキラと星が散りばめられているように見えたのであった…。


提督「…ん、改めて護送に感謝、帰りも気を付けてな…それじゃあおやすみ2人共。また明日…」

妙高「おぉ、お、おやすみなさいませ提督っ、では私はこれでっ…」

羽黒「あわわ…司令官さん、おやすみなさいっ…失礼しますっ…姉さ〜んっ、待ってくださ〜い…」

提督「ん、お疲れ様、また明日…おやすみ」


嬉しさと羞恥がごちゃまぜになったか、妙高は競歩のようなペースで自室に向かって歩き出し、出遅れた羽黒は酔いが覚めたようでしっかりした足取りで妙高を追いかけるのであった。


提督「…うん、手応えはあったな…」


妙高にしても羽黒にしても…。

今日も色々な艦娘と交友できたし、明日はどうなるかなぁ…。

提督は2人の姿が見えなくなった廊下を見ながら、そんな事を考えていたが、それもつかの間。

自室に入って明日に備えて寝ようとドアに手を掛けた。

かさっ…

…何やら物音がした。

提督の視線が音のした場所へ移ると、そこには丁寧に折られた手紙が置かれていた。


提督「(なんだろうか?)」

表側には " 提督へ " 記されており、折込まれた紙の後ろには、縦に " 大和 " と記されていた。

…夕方の騒ぎの話だろうか?

そう思いつつ、手紙を持って私室内に入り、適当に床に座って大和がしたためたであろう手紙を読んだ。


「「提督へ、握り飯と汚れた肌を拭うタオルの差し入れ、ありがとう。おかげで紐じい思いをせずに武蔵と夜を越せそうだ。以後はこのような事が無いよう努める所存だ。また明日も指揮をよろしく頼む。 長門 武蔵

-追伸-この手紙の文面は長門さんが書いて、最後の名前の書かれた行は、2人に書いてもらいました。私も武蔵をしっかり御せるよう、日々の鍛錬に精進いたしますので、何卒、ご指導、ご鞭撻の程をよろしくお願いいたします。 大和」



提督「…はは…ウチの娘達は皆達筆過ぎだっての…」


彼女等の字面だけで誰がどこを書いたか手に取るようにわかった提督は、思わず笑みがこぼれた。

明日はどんな1日になるだろうかと、思いを馳せながら提督は、受け取った手紙を書斎の引き出しにそっと仕舞った。

………
……


今年の梅雨は長い…。

…だがもうすぐ目の前。

梅雨明けはもうすぐ目の前まで来ていた。

……………
…………
………
……


最後までの黙読、お疲れ様でした!(_ _)

今回は長かった!めっちゃ長かった!
※分割しなかったからねw

前回のプロローグ編での1部のフラグ回収したいなぁと思っていたので、妙高姉妹連投です(笑)

…駆逐艦ももっと出さないと、と思ったんですが、出したいなぁと思っていた娘まで描きだしたら、外見や個性や提督の呼び方等を調べながら制作している内に、だいぶ時間がかかってしまいました…orz
※挫折w

色々とあり過ぎた長い今年の梅雨もあと少し…。

またこうして続編を皆さんに目を通していただけるように、日々を過ごしていきたいものです。

それではまた!
Posted at 2020/07/28 13:09:17 | コメント(0) | トラックバック(0)
2020年07月07日 イイね!

2020.7.5㈰ 舞鶴赤レンガパーク周辺 ソロ探訪

2020.7.5㈰ 舞鶴赤レンガパーク周辺 ソロ探訪皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)

さて、今回のブログのお話は、コロナ渦と言われる昨今、イマイチ情報が明確ではない海上自衛隊舞鶴基地周辺の現状を確かめる & カレーを食べる為にソロで行ったボッチ旅(笑)のお話ですw

ほいでは本編すたーとぉっ!Σ(σ・∀・)σ

※今回のブログは写真成分少し多めです。


2020.7.6㈰ 0030時 行動開始


毎週恒例のGP7オンライントーク " GP7トーーク " を途中で抜けて、いざ出撃!( ゚д゚ )

今津→小浜→舞鶴の下道ルートで、現地に向かいます。

0300時 舞鶴基地周辺に到着

夜を蠢く怪しい人(笑)の如く写真を撮って回りますw
※深夜の赤レンガパークって真っ暗で怖かった…(;^ω^)
↑逆に変質者の疑惑を向け掛けられかねないw



DDG-175 みょうこう & AOE-425 ましゅう

DDG-175 みょうこう

PG-824 はやぶさ



PG-824 はやぶさ & DE-232 せんだい & DDG-175みょうこう



…やっぱり夜景撮影は、面白い!(*^^*)

…だが…だがしかし!


…装備面でもっと拡充が必要であると、痛感したのであります!( TДT)
※リモコンとか!マトモな3脚とか!


0400時 仮眠…

流石に寝ないとキツイので、5時まで仮眠を取るべく、屋根野郎号に戻って車中泊…。


0500時 起床 いつものルーティーン(笑)


車を移動させて、そこから早朝撮影に入ります。
〜みょうこう姉さんと屋根野郎号とのツーショット〜
※さり気なくDD-130 まつゆき も居ます(笑)











〜早朝の赤レンガパーク〜
※赤レンガ駐車場や、舞鶴市役所の駐車場を行き来しました。
そして、撮影時間も色々混ざってますw















あまり今いまのストラクチャーが入り込まない様に撮ると、その当時の世界に溶け込むような感覚が、ファインダーを通しての感じられます(^^)
※屋根野郎号が写ってるやつはご愛嬌w



そして、散策中、面白そうなものを発見…。


話には聞いていたのですが、軍港内をクルーズしてくれる遊覧船があるらしく、艦が揃っているときに乗れたらいいなぁ…と思いました
(・∀・)


0630時 ひとまず五老スカイタワーへ現地確認のため移動…。


…その道中にある、舞鶴地方総監部の正門をチェック。

警備に当たられている自衛官さんに、確認を取り「しらね食堂は当面週末営業しない」という言葉を貰ってから、五老スカイタワーを目指しました…(泣)


…しらねカレーはどこまでも遠のいていく…orz


0650時 五老スカイタワーに到着


1度友達の車に乗せてもらって、1回行ったっきりだったので、自分の車で足を踏み入れるのはこれが初めて。

なので、場所確認も兼ねて現地へ向かいます。





流石に時間が早かったので人はほとんど居らず、中々良い眺めであることを再確認。


0800時 再び赤レンガパーク駐車場へ





護衛艦 しらね 主錨 ✕ 屋根野郎号

やはりコロナ渦の影響で見学もできないこともあってか、この時点でも人は疎ら…(;^ω^)

0900時の赤レンガパーク内の売店が開くまで、散策と撮影を続けます。


売店の開店早々にマグカップ・ハンカチ・キーホルダーを購入!


航空機じゃないけど中々カッコいいので、永く使っていたいですね!(*^^*)


…そして売店近くで、あれっと思って見つけてしまった、アニメの聖地認定書(笑)


このまま、遊覧船に乗ろうと思ったのですが、五老スカイタワーに下見に行っている間に、みょうこう姉さんが出かけてしまったので、今回は遊覧船乗るのを諦めました(;^ω^)


…次回の楽しみができたということで!(笑)


0930時 再び五老スカイタワーへ

きっと、しらねカレーは昨今の状態では食べられないと思っていたので、実質本命はこちら!

限定食数のある、舞鶴海自カレー「みょうこうカレー」を食す為に向かいました!(^^)


1000時 GORO SKY CAFE nanako 開店同時に入店


☆みょうこうカレー
☆肉じゃがコロッケ
☆サラダ
☆アイスクリーム
☆パック牛乳のセットです!


カレーはゴロッと形の残った牛肉を口に含んで噛めば、ほろっと砕けて、中からジワッと出てくる肉の旨味。

そして、ふんだんに使われた玉ねぎと牛肉が織り成す、しっかりとした旨味たっぷりの味わいを感じました。

口に含んだ瞬間は、まるでビーフシチューを食べているかのような気持ちですが、口に含んで旨味が出て来た直後にカレーのスパイシーさが顔を出し、これはカレーよ!という、しっかりと主張を忘れない、美味しいカレーでした!
(*´﹃`*)




至る所に刻印が打ってあって、なかなか芸の細かいプレートです…(・∀・)
※因みにこのプレート買えるそうです(笑)


そして、食後のコーヒーを飲みながら景色を…と思いましたが、生憎の天気だったので、景色を眺めるのは、またまた次回に持ち越しと言うことにしました…(;^ω^)


1100時 舞鶴を後にする

少し気になる現場があったので、そこを経由するべく、R27→R173をひたすら走り、大阪を目指します。


…その道中、エラい萌え萌えしとるやんけ能勢の看板(笑)
※写真は信号待ちの場面にてw

そして、そのままR173をひたすら南に向かって走り、大阪入り…。


大阪池田市内の交差点で信号待ちの際に、屋根野郎号は3万キロを達成!(*^^*)

そのまま走り続けて、道中の仕事の現場の進捗状況を確認した後、名神大山崎ICから京都東ICまで高跳びして、滋賀から家に帰宅することになりまして…。


1450時 帰宅

帰って早々に汚れを落とす為に、屋根式フルサービス洗車を実施(^^)

乾燥走行もバッチリ決めて、1日を締めくくりました。


☆今回走行距離
306km

☆屋根野郎号総合走行距離
30059km

☆平均燃費(MFD読)
13km/L

となりました!



…如何だったでしょうか?

今回の屋根野郎のソロ活動日記は、ここまで。

みんなでワイワイも良いけれど、もっと舞鶴の事を知ろうと思えば、やっぱり1人で動くのも見えなかったものが見えて毎回が楽しくて、まだまだ行き足りません!(笑)(^^)


…願わくば、次回こそ、しらねカレーを食したいものです…(;^ω^)
※その時に人を集めるか否かは、その時の時勢とお店の運営次第ですかねぇ…。


ご清聴ありがとうございました!

以上、屋根野郎でした!Σ∠(`・ω・´)
Posted at 2020/07/07 17:44:48 | コメント(2) | トラックバック(0)
2020年06月26日 イイね!

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯4 深夜編

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯4 深夜編皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)

今回は♯3 の続きとなるお話です。

♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯2 昼下がり編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44127526/

♯3 夜編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44147815/

毎度ながらの長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

バトル・流血・略奪等の暗い話は描かず、ゆるーく心の移り変わりを、描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

尚、この作品は 艦隊これくしょん - 艦これ - の二次創作であります。

……………
…………
………
……


艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯4 " 深夜編 "


2200時

提督と榛名と長門の3人で提督の部屋へ行き、どんな本があるか、誰が借りてた、どういう話か、と言った事を談義をしているうちに、いい時間になったので、榛名は数冊の小説を。

長門は多ジャンルの小説と漫画を抱えて、自屋へと戻っていった。

戻っていく2人を自室の前で見送った提督。

その2人の後ろ姿を見て、これから何かが変わっていくような予感を感じながら、少しぼんやりしていた。


提督「…ふぅ…今日は色々あったなぁ…」

???「あら、提督?お疲れ様です」

???「ほう…貴様がもう自室前に居るとは…珍しいな」


そんな電気の薄明かりの下、自室前の廊下に立っている提督に声を掛けてくる者が…。

提督が声を掛けてきた2人に対して、手を軽く上げて会釈すると、その2人の艦娘がこちらに向かって歩いてきた。


提督「ん?…あぁ、そちらこそ見廻りお疲れ様、妙高、那智」


真っ先に提督に声を掛けてきたのは、長い黒髪を後ろで三つ編みにして、更にその編んだ髪を巻いたシニョン、そして目線の高さの横髪の左右にヘアピンを付けた艦娘、妙高型 重巡洋艦 1番艦 妙高 。

その妙高の後に、声を掛けてきた男勝りな武人然の口調、膝くらいの長さまで伸びた黒髪を左側で纏めるサイドポニーの艦娘は、妙高型 重巡洋艦 2番艦 那智。

この泊地では、持ち回りで戦艦、空母、重巡、軽巡の数名が、その晩の見廻りを行う事となっていて、今日の重巡枠はここにいる妙高と那智と言う訳だ。


妙高「いえ、これも持ち回りの務めですから…今日は何かあったのですか?」

提督「ん?あぁ…今日は演習組とお茶会をする為に、秘書代理の吹雪と霧島が手伝ってくれたお陰で、早上がりできたんだ」

妙高「まぁ…左様でしたか…そう言えば先程、長門さんと榛名さんに、自室に帰るところと出くわしたのですが…」

提督「あぁ、あの2人に小説やらを貸したな…何冊か持っていってもらったよ。仕事終わりに借りたい本があるって言ってな。まぁ俺も絡んでるから時間については少し大目に見てやってくれ」

妙高「え、えぇ…それはもちろんなのですが、秘書艦の榛名さんはわかりますが、なぜ長門さんが…」

提督「ん?…あぁ…ちょっと話し込む事があってな…その話の流れで本を貸すことになったんだよ」

妙高「左様でしたか、了解です。理解しました」

提督「…ところで妙高と那智は、今は見廻りの最中?」

妙高「?いえ、これから宿直室に戻るところですが?」

那智「日向と瑞鶴、摩耶、鳥海…あと名取と交代だな」


因みに今見廻りに出ているのは、その他には、

戦艦勢は伊勢。

空母勢は翔鶴。

軽巡勢は五十鈴だ。


提督「…ん、そっか…急なんだけど、一緒について行ってもいい?他の見廻組の様子も見ておきたくてさ…」

妙高「えっ?!よろしいのですか?そのまま就寝されるのかと…」

那智「…貴様、どういう風の吹き回しだ?」


提督のいきなりの申し出に、妙高は驚きつつも好意的な反応。

それに対して那智は、提督の申し出に対して、少し訝しげな表情を浮かべた。


提督「ん…たまにはそんな日があっても、良いんじゃないかな…?長い事、宿直室にお邪魔もしてないし…もし迷惑ならすぐ部屋に戻るけど…」

妙高「と、とんでもない!皆も喜びます!」

那智「…私も貴様とこういった時に、久々に話が出来るのも…まぁ悪くないか…」

提督「ん、それじゃあ、お邪魔させてもらうよ」


こうして、提督は何かの気まぐれで、妙高と那智と一緒に宿直室へ向かう事となった。

………
……


妙高「…まぁ…そのようなことが…」

那智「貴様としても我々にとっても、それは喜ばしい事だな」


宿直室へ向かう道中、提督は先程の出来事を掻い摘んで、2人に話した。

提督はその話を聞いた2人の反応は、好意的ではあったが…。


妙高「…でも私達も貴方の事をお慕いしているのをお忘れ無きよう、よろしくお願いしますね」

那智「そうだな…近々の晩にどうだ?妙高型一堂といつもの飲み仲間の面々で、呑みながら貴様と話というのは?」


やはり、これまでの提督の態度に思うところがあったのか、積極的に交友を深めようとアプローチをしてきた。


提督「ん…そうだなぁ…仕事が早く片付いて、トラブル事案がなければ、お邪魔したいなぁ…と言っても俺、あんまり酒の方は強くないよ?好きではあるけど…」

妙高「大丈夫ですよ。私もついていますし…羽黒もそれ程強くないですが、姉妹でよくお酒を酌み交わしています」

提督「おお、それはいいなぁ…皆仲がいいことはいい事だよ…それに妙高が付いてくれてるなら安心だよ…隼鷹辺りが俺を潰しにかかってきそうで、ちょっと心配だったりして…」

那智「む、まぁ…やりかねんな…アイツは…」


提督が呟いた話の中で出てきた艦娘、隼鷹は飛鷹型 航空母艦の2番艦で、酒豪で通っている艦娘だ。

…オマケに酒癖も悪い。

…と言いつつも、ここにいる那智も、この泊地における酒豪勢の一角に位置する艦娘なのだが…。


那智「わ、私は酔いはするが、量と素行は自制しているぞ!」


提督と妙高の目線が刺さった所で、すかさず弁明を入れる那智。


妙高「…素行は良いとして、量は少し飲み過ぎじゃないかしらね…」

提督「あ、やっぱ姉妹の目線的にはそうなんだ」

妙高「ええ…呑兵衛が集まるとこう…相乗効果といいますか…」

提督「…あぁー…」


少し困ったような仕草を見せる妙高を見た提督は、その表情の先にある風景が目に浮かび、妙に納得してしまった。


那智「ぐっ…!ふ…2人してなんだっ!妙高姉さんは、私の体の心配をしてくれているようだが、提督!貴様はなんなんだ!妙な納得のし方などしおってからにっ!」

提督・妙高「那智、消灯時間過ぎてるから静かに…」

那智「くっ…お、覚えていろよ提督っ…」

提督「(…あれ?これもしかして、酒の席で潰されるフラグが立った?)」


近日中に開かれる妙高型4姉妹と呑兵衛連合合同の飲み会の際の、一抹の不安を抱く提督なのであった…。

そんな話をしていたら、あっという間に当直の艦娘達が詰めている宿直室に着いた。

…ガチャ


妙高「皆さんお疲れ様です、ただ今戻りました」

那智「戻ったぞ」

???「あー、お帰り妙高、那智…ん?誰か居るの?」

妙高「ええ伊勢さん♪珍しいお客さんです。提督、どうぞお入りください」

提督「みんなお疲れ様…ちょっと様子を見に来たんだけど、邪魔するよ」


妙高と那智の後ろについていくように、部屋に入った提督。


???「あっれ〜?提督じゃん!珍しい〜こんな時間に何をしてんの?」


部屋に入ると、入口から直ぐに置かれているソファーに腰掛けて、湯呑でお茶を飲んでいる艦娘が提督の存在に気が付いた。

茶色みの勝った黒髪で、後で赤紐で束ねられたポニーテール、白の和服調の上着に黒インナーを着込んだ艦娘が、陽気に提督に声を掛けてきた。


提督「おう、ゆっくりしてるところ悪いね、伊勢、お邪魔するよ」

伊勢「いや〜いいっていいって♪良かったらここ座んなよ〜」


そういうとすかさず、自分が座っているソファーの横に座るように勧めてくる艦娘は、伊勢型戦艦 1番艦 伊勢だ。


提督「ん、悪いね、それじゃあ遠慮なく…」

伊勢「どーぞどーぞ♪おーい翔鶴ぅ〜。妙高と那智と五十鈴の分と、もう一杯お茶の追加できるかなァ?」


すると伊勢は宿直室の隣に併設された、キッチン室に向かって、別の艦娘に声を掛け始めた。

…すると、その部屋から流れるような銀髪のロングヘアで赤いヘアバンド、袴に似た服装をした艦娘が顔を覗かせた。


???「伊勢さんどうしたんですか…あら?て、提督?!お疲れ様です!た、只今皆さんの分のお茶を淹れますね!」


すると提督の顔を見るやいなや、その艦娘は直ぐにキッチン室の奥へと顔を引っ込めて、お茶を淹れる準備を始めた。


提督「いや、俺の分は後でいいよ翔鶴。先に見回り組の娘達の分を優先してくれ」

妙高「それでは私は、翔鶴さんを手伝ってきます」

那智「了解だ、それじゃあ妙高姉さんのお言葉に甘えて私は、座って待つとしよう」


そうして、中央の机を囲むように配置され、お互い向かい合って配置さた、2人掛けと1人掛けのソファーの2人掛けのソファーで向かい合って座った提督と伊勢と那智。


伊勢「いや〜ホンっと珍しいね!提督どーしたの?」

提督「いやぁ、偶然と気まぐれが重なってなぁ…それに長い事ここの様子を見に来れていなかったし、たまには良いかなってさ」

伊勢「いいよいいよ♪私は、大歓迎だよ〜♪」

提督「…ん?そう言えば、五十鈴はどうした?もう交代でここに帰ってきてると思ったんだが…」

伊勢「ん?あぁ〜五十鈴なら今、仮眠室でレポートの纏めをしてるよ〜」

提督「…勉強?…あぁ…海防艦の訓練のか」


先から名前の出ている五十鈴は、長良型 軽巡洋艦 2番艦の艦娘で、この泊地では早い段階で第2次改装をして、永きに渡り彼女の特筆すべき能力である、対潜・対空訓練の教官として、駆逐艦や海防艦をしごいてきた歴戦艦なのだ。


提督「最近海防艦の泊地周辺の対潜哨戒が、とても安定してきたよな…これも海防艦達を五十鈴が仕込んでくれたお陰だよ…」

那智「我々重巡勢では、対潜分野は及ばない事だからな…敵潜が蠢いている海域では、とても心強いな」

伊勢「私ら航戦もカ号積めるから、対潜の真似事は出来るけど、あそこまでの火力と精度ってなるとねぇ〜…でも提督〜。こういう事は面と向かって褒めてあげないといけないよ〜?」

提督「ん、そうだな…」


ガラガラ…

ソファーに腰掛けていた3人が、五十鈴の話をしていたら仮眠室の引き戸が開いた。

そこから新たな艦娘出て来た。


???「ふぅ…終わったぁ〜…翔鶴さんのお茶淹れるの手伝お…あら?提督じゃないの?何やってんのこんな所で」

提督「あぁ、お疲れ様、五十鈴。ちょっと様子を覗きに来たら、一服の集まりに緊急参戦になった」 


少し青味掛かった長い黒髪に、白のリボンで左右に束ねられたツインテール。
健康的に日焼けした肌に、巫女服を模したセーラー服纏っている彼女が、3人で噂していた、長良型 軽巡洋艦 2番艦 五十鈴である。


五十鈴「…ふぅん…私がここに入る時に、何となく私の話をしてたみたいだけど…?」

提督「ん?あぁ、駆逐艦や海防艦を五十鈴が鍛えてくれたお陰で、最近は頼もしい対潜戦力になったって話をしててな。だよな?」

伊勢「そそ♪」

那智「うむ、我々では手足が出ない相手だからな…とても助かっている…」

五十鈴「ん、んもう…褒めたって何も出ないわよ…///」


全会一致の褒め言葉に照れる五十鈴。


???「ふふ…それなら私も、五十鈴ちゃんにお礼を言わないといけませんね。随伴艦の娘達の鍛錬の賜物で、私達は上を向いて戦っていられるのだから…」


そんな五十鈴に追い打ちを掛けるように、話しかけてきたのは、先程キッチン室に姿を引っ込めていた、長髪の銀髪の艦娘がお盆にお茶を人数分載せて、ソファーの所まで来ていた。


五十鈴「あーもう!翔鶴さんまで!みんなして何なのよ〜っ!///」


この長髪の銀髪の艦娘が、翔鶴型 航空母艦 1番艦 翔鶴だ。


五十鈴「もーっ!全部これもそれもみんな提督のせいだわっ!」

提督「…おい、なんでそうなる?!」

伊勢「にゃっははっ♪まーまー五十鈴ったら、そんなに照れなさんなって〜。私達も真面目な話、感謝してるんだからさ〜」

那智「そうだ、もっと誇ってもいいと思うがな」

妙高「…あら?なんの話ですか?」


そうこうしているうちに、翔鶴の手伝いで片付け終わった妙高が、ソファーまで戻ってきた。


翔鶴「あぁ妙高さん、実は五十鈴ちゃんのね…」

五十鈴「あぁーっもう!あっという間に広がっちゃうじゃないのっ!///」

一堂「ハハハハハッ」


宿直室に談笑が溢れる。

普段から皆、提督と喋っていない訳では無いのだが、こういった機会がとても久々だった事もあってか、話のネタが尽きず色々な話をした。

………
……


提督「…ありゃ?お茶切らしたか…どれ…淹れてくるか…皆お茶のおかわりはいるかい?」


会話が弾めばお茶も進む。

提督の手元にある湯呑にはお茶が残っていなかったので、自分のを淹れるついでにみんなの分も聞いて淹れてくる事にした。


伊勢「あ、いいタイミング♪私おかわり欲しい〜」

妙高「私は、まだ残ってますので大丈夫です」

那智「私も今は大丈夫だ」

五十鈴「私は、頂こうかしら…お願いするわ」

提督「ん、了解…翔鶴はどうする?」

翔鶴「…あ、その…私、お手伝いします!」

提督「ん?そうか?なら一緒に行くか」


提督と翔鶴はソファを立って、一緒にキッチン室に入ってお茶の準備をすることにした。

…そして湯を沸かし始めた頃に、翔鶴が提督に対して話しかけた。


翔鶴「…提督?」

提督「ん?どうかした?」

翔鶴「今晩の見回りが始まった直後に、加賀さんからお話を聞きました…ケッコン艦に対する提督の対応が、大きく変わると…」

提督「おおう…もうそっちにも話が行ってるのか…」

翔鶴「はい…これからは提督の公私を、皆で支えていくと言う話でした。それに…わ、私も提督より指輪を賜った身ですので…その…」


…そう言うと翔鶴は、大切そうに左手の薬指あたりを撫で始めた。

撫でている右手の影から見え隠れしているのは、先程、榛名達も装着していた、銀色の指輪…。

そう、提督はここにいる翔鶴にも、指輪を贈っていた。

彼女の性格上、榛名以外の指輪保有者に比べて、大人しい性格な為、思っていることを言い出せないきらいがあり、きっと想いを溜め込んでいたのだろう。

今日の夜の嫁艦4人の直談判の結果が早くも出始めていた。


提督「…ん、それなら話は早いな…前よりは少しでも親密な関係が築けるように努力するから、これからもよろしくな…翔鶴」

翔鶴「…はいっ!こちらこそ何卒よろしくお願い致します!」


提督との会話で普段見せない笑顔で、翔鶴は嬉しそうに話していた。


提督「(…他の嫁艦と比べて、油断していたら翔鶴にはあっさり自分の醜態を晒してしまいそうで怖い…)」

翔鶴「…?」

提督「(…こういう普段しっかりしてる中に何処か抜けてる娘は…こう…母性をすごく感じるな…)」


…提督は自身の陥落は近いかもしれないと、心の何処かで思っていた。


0000時

…ガチャ

日付変更線を跨ぐ頃。

まだ談義を続けていた提督と艦娘達がいる宿直室のドアが開いた。


???「ただいまー、異常は無かったけど、一部の軽巡が相変わらず徘徊してたんで、部屋に押し戻して来ました〜。…って、なぁーんか楽しそうな声が聞こえるね…って?!提督さんじゃん!何やってんの?」

???「只今戻りました〜…?ええっ?!何でここに提督さんがっ?!」

提督「んん?おう、お疲れ様〜瑞鶴、名取、久々に気紛れでお邪魔してるんだよ」


宿直室に帰ってきたのは、少し緑掛かった黒髪が翔鶴とは対照的で、白紐で左右に束ねられたツインテール、性格も対照的で、物静かな姉に対して妹は物怖せず、砕けた物言い。

彼女が翔鶴の妹にあたる、翔鶴型 航空母艦 2番艦 瑞鶴だ。

そしてもう1人、瑞鶴の影に隠れて入って来るやいなや、提督の存在に驚いた娘。

茶髪のショートボブで白のカチューシャで、ここでお喋りをしていた五十鈴とお揃いの服装を纏った艦娘は、長良型 軽巡洋艦 3番艦 名取だ。


瑞鶴「ちょっと〜提督さん〜?来るなら来るで言ってよね〜。折角なのにお喋りできないじゃんか〜。も〜、ふて腐れるぞ〜!」


そう言うと瑞鶴は提督にソファー越しに戯れ付いた。


翔鶴「こ、こら瑞鶴っ!」


慌てて注意する翔鶴を尻目に、瑞鶴は屈託のない無邪気な表情で、愉快そうにしながら提督に戯れ付き続けている。


瑞鶴「にひひっ♪翔鶴姉も提督さんの嫁艦なんだからさ〜、戯れ付いたらいーじゃん♪」

提督「…おい瑞鶴…人前で戯れ付くのは控えろって…」

瑞鶴「ちぇーっ、ノリ悪いなぁ…(…翔鶴姉と一緒に提督さんとくっつきたかったなぁ…)」


提督に窘められると、瑞鶴はあっさりと提督から離れた。


瑞鶴「翔鶴姉、五十鈴、見回りの交代の時間だよー」

翔鶴「そうね…それでは提督、私は見回りに出ますので、お先に失礼します…瑞鶴?あまり提督にご迷惑をかけては駄目よ?」

瑞鶴「…提督さんが満更じゃなかったら、おっけ…」

翔鶴「 ず い か く ? 」

瑞鶴「ひぇっ…じょ、冗談だよぅ…」


…提督の目には今、翔鶴の目元に黒い影が見えた気がした…。

大人しい子ほど怒らせると怖いよね…うん。


翔鶴「全くもう…それでは提督、行ってきます」

五十鈴「…それじゃあ翔鶴さんの随伴で、私も出るわ…提督、失礼するわ」

提督「あぁ、2人とも泊地内だけど気を付けてな」


帰ってきた瑞鶴と名取と交代で翔鶴と五十鈴が、部屋を出ていった。

2人を見送った提督と宿直室にいた面々。

その中で何やら先程からソワソワしている名取が、提督の目に付いた。


提督「…名取、ここ最近、困ったことはないかい?」

名取「ひゃっ!」


突然の提督の指名に驚く名取。


提督「…名取」

名取「は、はいっ!」

提督「はい、深呼吸…すー、はー、すー、はー…」

名取「…すー、はー、すー、はー…」


名取の慌ててぶりを見兼ねた提督は、深呼吸して見せて、名取に落ち着くように勧めた。

それに対して名取も素直にそれに応じた。


提督「…落ち着いた?」

名取「は、はい…すみません…」

提督「んにゃ構わんよ…で、質問に戻すけど、最近、困ったことはない?もしあれば遠慮なく言って欲しい」

名取「提督さん、大丈夫です…お気遣い有難うございます」

提督「…ん、そうか…俺に出来そうな事なら言ってくれよ?」

名取「は、はい…ありがとうございます!」

提督「ま、それはそうとソファー座んなよ、名取と瑞鶴の分のお茶を淹れてくる…」


そう言うと流れるような動きでソファーから立ち上がり、お茶を淹れようと動き出した提督に対しては妙高が声を掛けてきた。


妙高「いえ、提督はそのままで、私が淹れてきます」

提督「いやいや、お邪魔してるし俺が…」


ガチャッ

提督と妙高が互いにお茶を淹れると譲らずにいると、宿直室のドアが開いた。


???「ただいまーっと、異常無しで見回り終わったぜー。妙高、那智、交代しよ…。
提督に妙高、何やってんだ?」

???「只今戻りました…あら?司令官さんと妙高さん、何を言い合っているのですか?」


他の艦娘が見回りから帰ってきた。


1人目に入ってきた男勝りな口調、少し茶色掛かった黒髪のショートボブに、左目上の前髪にヘアピンと、頭上に姉妹お揃いの帽子を被った艦娘は、高雄型 重巡洋艦 3番艦 摩耶。

摩耶に続いて入ってきた2人目は、丁寧で大人しい口調、腰まで伸びた黒髪のロングヘア。
摩耶と同じ帽子を被った艦娘は、同じく、高雄型 重巡洋艦 4番艦 鳥海だ。


提督「おお、摩耶に鳥海、おかえり!…ほら、2人が帰ってきたんだから、交代で妙高と那智は見回りに行かないとだろ?」

妙高「むむ…仕方がありませんね…。それでは那智、行きましょうか。摩耶、鳥海、見回りご苦労様。それでは皆さん、提督、行ってきます」

那智「む、そうだな、では行ってくる。…提督、呑みの件は楽しみにしてるぞ…それじゃまたな」

提督「ああ、2人とも行ってらっしゃい」


少し納得行かないと言わんばかりの表情ではあったが、気持ちを切り替えた妙高と、今度の提督同席の呑みの話を楽しみにしている那智が、見回りから帰ってきた、摩耶と鳥海と交代で見回りに出て行った。


摩耶「…で?妙高と何言い合ってたんだ?」

提督「ん?…んー…私がお茶淹れます論争?」

摩耶「なんだそりゃ…疑問に疑問を投げてどーすんだよお前は…」

提督「まーまー摩耶が気にすることじゃないって…そうそう、2人とも、お茶飲む?」

鳥海「はい、もちろん頂きますが…司令官さんが、淹れる必要はないみたいですよ?」

提督「…なんと…」


鳥海にそう言われて、提督がソファーを置いてある方角を向くと、既に人数分のお茶が置かれていた。


伊勢「提督と妙高がお茶淹れ権を奪い合ってるうちに、名取が淹れてくれたよ〜」

提督「…なんてこったい…名取、ありがとう…」

名取「い、いえいえ…ついでですので…」

摩耶「お、サンキュー♪名取。遠慮なくいただくぜ〜」

鳥海「名取さん、ありがとうございます。…はぁ…落ち着きますねぇ…」

摩耶「ずず…ふぅ……てかよ…何でシレッと提督も混じってるんだ?」


摩耶はお茶を啜りながら、提督がここに居るのが珍しい為か、疑問をぶつけてきた。


提督「ん?あぁ…早く仕事が上がって部屋の前の廊下でボンヤリしてたら、見回りをしていた妙高達と遭遇して、久しぶりに見回り組の顔を見たいって言って付いてきたら、すっかり居着いちゃったんだよ」

摩耶「ふーん…ま、そう言う事なら話し相手に付き合って貰うけどなっ!」

鳥海「ふふふ…ここにお越しになるのは、本当に久しぶりですね…それだけこの泊地も大きくなって司令官さんも、お忙しくなったと言う事なのですが…とても嬉しいです♪」

提督「もちろん付き合うよ、こういう機会が少なくなっていたのが、気掛かりでもあったから、みんなの顔が見れて嬉しいよ…ところで伊勢、日向かまだ帰ってきてないよな?」

伊勢「うーん…何処ほっつき歩いてるのかなぁ…滅多なことはないと思うんだけど…」


ガチャッ


???「呼んだか?」

伊勢「お?噂をしたら帰ってきた〜。日向お帰り〜」


噂をしていたら帰ってきた最後の見回りの伊勢の相方は、伊勢の姉妹艦、黒髪のおかっぱ頭で、伊勢と同じ服装を纏った、伊勢型 戦艦 2番艦 日向。


日向「…ほぅ?誰か客人かと思ったら、提督、君だったか」

提督「見回りお疲れ様、お邪魔してるよ日向」

日向「なぁに…気にすることはないさ。伊勢、今のところはこの泊地での異常はない…交代だ」

伊勢「はいよ〜っと。そんじゃみんな行ってくるね〜。提督、またね♪」

提督「あぁ、伊勢、行ってらっしゃい」


最後に帰ってきた日向と交代で、伊勢が手をヒラヒラさせてそのままドアの先、廊下へと見回りのために出て行った。


日向「…しかし本当に珍しいな…君がこんな時間のこんな場所に出没するとは…」

提督「仕事が早く上がってね、見回り中の妙高達に…」


提督がこれまでに会った艦娘達に、話してきた事をそのまま話したのを皮切りに、見回りメンバー総入れ替えで会話が始まった。

………
……


…いつの間にか話をするグループは2つに分かれていて、会話の内容で自然と別れたようだ。

提督は日向と瑞鶴と。

摩耶と鳥海、そして名取は別の話をしていた。

………
……


瑞鶴「ねーねー、提督さん。そういえば見回り前に加賀さんに聞いたんだけどさ…」

提督「ん?あぁ…瑞鶴も加賀から聞いたんだな…」

瑞鶴「…ほんとに呼び捨てで呼ぶようになったんだ…」

提督「…そうだな…本人達の希望でもあったし、さん付けを取っ払った…まだ時間が経ってないからちょっと違和感があるけど…」

瑞鶴「ふーん…なぁんか…距離が一気に縮んだ感じがするよねぇ…ん? " 達 " って事は、他にもさん付けを外した人がいるの?」

提督「あぁ…長門と陸奥だな」

瑞鶴「へぇ…意外な人たちの名前が挙がったわね…てかさ、提督さん。さん付けにしてた人達って、なんでさん付けにしてたの?加賀さんはなんとなくわかるけど、長門さんと陸奥さんはなんで?」

提督「…あー…」

日向「…原因は長門だったな…提督」


提督と瑞鶴との会話に日向が注釈を入れてきた。


瑞鶴「…へ?そうなの?日向さん?」

日向「あぁ…まぁ、その辺は提督が説明するだろう…なぁ?」

提督「そだね…長門がこの泊地に着任したての頃だったんだけど…」

瑞鶴「うんうん」

提督「…練度を早く上げたくて旗艦にして、暫く置いていて、演習に送り出すのにいつもやってるアレをやったんだ…」

瑞鶴「アレって…あー、あの肩を軽叩きのやつよね?」

提督「そしたら " 気安く触れてくれるな " って、突き飛ばされた事があってな…」

瑞鶴「…あー…」

提督「みんなは大概それしても嫌がる素振りを見せなかった上に明らかに気合が入っていたから、長門にやっても大丈夫だろうって思ってて、やったらメッチャ睨まれて、しばらくトラウマになったんだよ…」

瑞鶴「へぇ〜…」

日向「そうだったなぁ…その当時の長門よりも先に着任した私も含む戦艦たちに、よく相談していたものな」

提督「あの時は大変お世話になりました…」

日向「ふふ…まぁいいってことさ…お陰で上手く事が運んで、揉める事も無くなったからな」


提督は日向に向かって頭を下げて、日向はそれを懐かしむ様な表情で、提督の感謝を受け取った。


提督「…その後は、色んな点でビクビクしながら長門の鍛錬は続けて、漸く一次改装を終えて一定の練度まで行ってからも、肩ポンはしてこなかったなぁ…」

瑞鶴「ふーん…あ、でも今日の…じゃなかった、昨日の桂島泊地との主力同士の演習の時は、長門さんに肩ポンしてなかったっけ?」

提督「…よく見てたな…アレはビスマルクにやった後に要求されたからやった…ってだけだな…」

瑞鶴「その時さ私、2番スロープに居て見えてたからね…でもさ、それって矛盾してない?ビスマルクさんって結構なプライドの塊じゃない?なのに何で肩ポンしたの?」

提督「アレは練度の事もあるし、今までの分厚い積み重ねで大丈夫って確証があったからな…現に気合入ってたろ?」

瑞鶴「まぁそうだけどさ…だからか…提督さんの艦娘それぞれで間合いの取り方が微妙に違うのは…」

提督「まあ、親しき仲にも礼儀あり、だしな…長門だけの話ではなくて、あんまりベタベタ触られるのは嫌だろうから…」

瑞鶴「まあ…そうよね…(私は触れてもらえると嬉しいけどね…自分から触れに行ってるのもあるけど…)」

日向「…まあ今だから言う話だか、長門の名誉の為に他言無用だ…聞くか?」

瑞鶴「えっ?なに?箝口令?…これでも軍人の端くれ、物によっては墓場まで持ってくわ」

提督「もちろんだ、彼女の誇りはウチの泊地の誇りだからな…」

日向「…長門が1次改装を終えて、練度の数値の後半に入った頃だ…」

提督・瑞鶴「……」

日向「…長門に相談されたんだ…提督は何で自分と触れ合ってくれないのか…とな」

提督・瑞鶴「…えっ?」


その話に、提督と瑞鶴の頭の上にクエッションが、散りばめられたような状態になった。


日向「…まあ、私は以前に提督にもその件で相談されたから、提督が長門との距離を微妙に取る理由も知っていたからな…で、長門に言ったんだ、着任して間もない頃に避けられるような事をしたんじゃないか…とな…」

提督・瑞鶴「(…うわぁ…ど直球…)」

日向「…長門は暫く考えていたが、アイツの記憶の奥底に埋もれていたんだろう、提督を突き飛ばした時の事を思い出した瞬間、顔の色を変えて、脂汗をかいて頭を抱えていたよ…」

提督「…で、そんな長門にどんな言葉をかけたの?」

日向「当時のアイツは、自身の事で必死だったからな…それは仕方がない事…過去よりこれから提督との信頼と親密を築いていけばいい…と言ったが、どうも生真面目で不器用な長門の性分のせいで、練度の上限目一杯になるまで、言い出せなかったんだろうな…ま、提督から指輪を貰ってからは、幾分マシになったが、左手を見てはため息を付いている場面をよく見たな…あと自分以外の艦娘と提督が歩いているのを見たら…ひどく複雑そうな表情だったな…」

提督「(…めっちゃ申し訳ない気持ちが…)」

瑞鶴「(うわぁ…長門さん…意外と…滅茶苦茶純…)」

日向「…ま、私から言えることはこれだけだ…相談を受けた身としては、それを踏まえて君には長門と接してやって欲しいな…」

提督「…日向…言ってくれてありがとう…」

日向「ふふ…なぁに…特別な瑞雲を私に寄越してくれたら、それでいいさ」

提督「…日向に持たせている六三四空を優先的に改修することを確約するよ」

日向「…まぁ…そうなるな…無理にとは言わないさ…だが、ありがとう」

瑞鶴「(…提督さんも大変だなぁ…)…ん?じゃあ陸奥さんはなんで?」

提督「ん?陸奥は…完全に長門のとばっちりだなぁ…」

瑞鶴「…えぇ〜…まさかのオチ…」


うわマジかよ…と呆れた顔で提督を見る瑞鶴。


提督「…陸奥は長門の後に着任だったんだけど、着任する直前に長門とあの悶着があったから、そりゃ警戒もするよ…まず普段の言動が何考えてるか分からなかったこと、長門の妹だったからってことで、出撃には頻繁に出していたけど、基本近寄らなかったな…暫くはそんなんが続いてたけど、ふとした時に陸奥が、さり気ない気配りをしてる場面に出くわしてから、それから少しずつ出撃前の艦娘達の状態についての相談したり頼ったりして、今に至る感じかな…」

瑞鶴「ふーん…頼れるお姉さん…みたいな感じ?」

提督「ん、その表現がドンピシャだな」

日向「…(まあ…提督は知らない様だが、深酒をした時の陸奥はそんな雰囲気は皆無の、提督に焦がれる乙女だがな…この点は提督自身が見るべきだし…アイツの名誉の為に黙っておこう…)」


提督と瑞鶴がそう話をしている傍ら、日向は陸奥の本性を知っているものの、黙って表面上の理想像を積み重ねている2人を温かい目で見守っているのであった…。


0100時

話し相手が変わって色んな話をしているうちに、普段提督が就寝する時間になっていた。


提督「…ん…もうこんな時間か…ボチボチお暇するかな…」

摩耶「ん?結構いい時間だな…いつも仕事上がりしてる時間じゃねえか?」

提督「…んん…通りで思考が回らないと思った…」

摩耶「おいおい大丈夫かよ、提督?加賀さん達に無理すんなって言われたんだろ?」

鳥海「…そうです!司令官さんはもうお休みになられたほうが良いと思います!」

提督「ん…それじゃあ部屋戻るわ…みんな、話に付き合ってくれてありがとう…見回りの残り時間頑張ってくれ…ふぁ…おやすみ…」


そう見回り組の艦娘達に言うと、提督は宿直室を出て、私室に向かって歩き始めた。

執務の残業後の時とはまた違う疲労感が、提督にまとわり付いていたが、提督自身はそれを嫌とは思っていなかった。

久々ということもあったが、とても充実した気持ちになっていた。

…今日はよく眠れそうだ。

………
……


摩耶「…おう、提督」


心地よい疲労感を感じながら廊下を歩いていた提督の後ろから、摩耶と鳥海が追い掛けてきて声を掛けてきた。


提督「ん?どうした?摩耶、鳥海」

摩耶「…心配だから部屋まで送ってくわ…何もないだろうけど、何かあったら嫁艦連中に顔向けできねぇし…」

鳥海「私もご一緒します」

提督「…ん、2人とも悪いな…気遣いありがと…」

摩耶「れ、礼なんて要らねぇっつーの…バーカ…///」

鳥海「はい♪短い間ですがエスコートさせていただきます♪」


私室への帰り道の道中、提督は摩耶と鳥海に付き添われて、私室に戻った。


摩耶「…よし…護送完了だ…提督、ちゃんと歯ァ磨いててさっさと寝るんだぞ?」

提督「んー…そうするよぉ…2人とも付き添いありがとうな〜」


なでなで…

疲れが急に来たのか、思考鈍化した提督は、摩耶と鳥海の頭を撫でた。


摩耶「んなっ!ここ、子供扱いすんな!クソがっ!///」

鳥海「はわわっ…し、司令官さんっ?!///」


摩耶は態度では反抗しつつも、撫でられることには抵抗せず、鳥海は蕩けた表情で提督にされるがままになっていた。

提督が手を撫でるのをやめた頃には、心無しか2人はキラキラしている様だ。

………
……



摩耶「は、早く寝ろっ…いいなっ…早く寝ねぇと嫁艦連中にチクるぞっ…///」

提督「ん、それはやだなぁ…わかったからそんなに怒らないでくれよ〜…それじゃあ、見回りの残り時間頑張ってな…おやすみぃ〜…」

鳥海「…はっ、はい…おやすみなさい…(…やだ、司令官さん…かわいい…)///」


キィ…バタン…


摩耶「……はぁぁぁぁっ…何なんだよアイツはよぉ…受けるこっちの身にもなれっつーんだ///」

鳥海「…その割には随分ご機嫌そうね…摩耶…」

摩耶「うう、うるせぇやいっ!…あ、やっべ…」

???「…随分と賑やかですね…提督の私室前で何をしているんですか?」

摩耶・鳥海「…あ…」


摩耶が気付いた時には時既に遅し…。

油の切れたゼンマイ人形の様に首を、声のした方角に向けた摩耶と鳥海。

その視線の先には、穏やかそうな声色とは裏腹に、笑顔が笑顔じゃない表情で仁王立ちしている妙高。

…そしてその後ろに控えて、摩耶と鳥海に同情の視線を送る那智が居た。


妙高「…貴方達…随分と提督と距離が近かったようですね…先程の状況を詳しく説明して貰えるかしら?」

摩耶「おおお、落ち着け妙高…あたし等は提督を私室まで護送しただけだっ…頭撫でてきたのはアイツが寝ぼけて勝手にやってきただけのことで…」

鳥海「ま、摩耶っ…それは…」

妙高「…頭を撫でて貰った…?」

那智「(摩耶…それは機雷だ…)」


摩耶の説明の中の " 撫でてられた "というフレーズが、妙高の目尻を吊り上げさせた。


妙高「…貴方達…不謹慎ですっ…提督が寝ぼけていたとはいえ、公衆の面前でそのようなっ…」

摩耶「ちょっ…!ちょっと待った…!あたし等がねだったわけじゃねぇっ…」

鳥海「…(り…理不尽ですっ!)」

那智「…(…妙高姉さんは、真面目で通っているからな…成り行きとは言え、労せず出来てしまう2人の立ち位置が羨ましいんだろう…何せ姉妹との酒の席で、提督に撫でられたりといった類の事は、されたことがほぼ無いと嘆いていた時もあったからな…)」

妙高「…貴方達、今から宿直室に戻るのね?…では、これから深夜の廊下で声を張った件と、提督に撫でられた件で、たっぷりお話をお聞きします…
い い で す ね ? 」

摩耶・鳥海「ひ、ヒェ〜…」

那智「(…南無…)」

………
……


〜同時刻 ところ変わって、ある戦艦寮の1室〜


比叡「Zzz…むにゃあ……しれぇ…わたひのあいでんてぃてぃ…とらないれぇ…Zzz…」

………
……


こうしてささやかながらも、大きい変化を見せつつある佐伯泊地の1日は、それぞれの終わりと始まりの境界線を跨ぎ、また新たな1日が始まるのであった…。

……………
…………
………
……


最後まで黙読、お疲れ様でした!m(_ _)m

これにて、1部が完結とはなりますが、今後はこの1部での展開をベースとした短編で、色んな艦娘達との交友を描けるといいなぁ…と思ってます。

…駆逐艦の出演…吹雪しか出とらんしね…(笑)(;^ω^)

今後は本編プレーをベースに時事ネタをぶっ混むことも増えるとは思いますが、気長にお付き合いできる方は、何卒よろしくお願いします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

ではまた!
Posted at 2020/07/10 12:03:10 | コメント(0) | トラックバック(0)
2020年06月26日 イイね!

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯3 夜編

皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)

今回は♯2 の続きとなるお話です。

♯1 午前編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/

♯2 昼下がり編
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44127526/


毎度ながらの長文となりますが、気長にお付き合いくださいませ…。

バトル・流血・略奪等の暗い話は描かず、ゆるーく心の移り変わりを、描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

それでは、本編へと移りますが、ブログとしては超長文となる事は必至なので、気長にお付き合いくださいませ…(_ _)

……………
…………
………
……



艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯3 " 夜編 "


1940時

提督は間宮で夕食を取り、その後、明日の準備をするものの、午後からの追い上げで仕事が片付いていて、指定の時間まで少しばかりの静かな時間を執務室で過ごしていた提督。

…因みに榛名は今現在、席を外している。

提督「(着任したての最初の頃は.ひたすら失敗ばかり…まぁ経験も無けりゃ、艦娘達とどう接していいかもわからなかった、ってのもあったけど…その頃は吹雪が、付きっきりで付き合ってくれてたなぁ…)」


…提督は古時計の秒針の音と執務席に身を任せて着任当初の事を、思い出していた。

今でこそ、そこそこ立派な内装で執務室を装い、威厳と季節感が漂う執務室だが、着任当初の頃は、本当に何も無くて、艦娘も駆逐艦の吹雪しかいなくて、建物に対して全く人数が合ってなくて幽霊屋敷のようだったあの頃、そこらに置いてあったちゃぶ台やらダンボールの上で、書類仕事をしていた頃が懐かしい。

新たに艦娘を建造したり、海域で勝利して水面に沈む古の軍艦の魂を拾い上げて、次々と艦娘達を仲間に迎え入れ、それに伴い拡張、拡張を繰り返し、ここまで大きくなった佐伯泊地。

…そして迎えた深海棲艦の大規模攻勢による、本土防衛戦を、この泊地の皆で誰1人欠く事無く乗り切って、この時初めて祖国の為に、仕事が出来ていると実感出来た瞬間でもあった。

…そんな提督が泊地に着任してから、3ヶ月後に導入してから、そこからずっと苦楽と共に、この部屋の秒針を刻み続けた古時計が、今は提督以外の誰もいない執務室で、当時と変わらず時を刻み続けている。

その音で、時の流れを感じている提督。


提督「(…あぁ…この音を1人で静かに聞いていると、眠くなってきた…これから加賀さん達との話があるのに…)」

蓄積され続けた疲労と、いつもと違う出来事があったせいか、提督のまぶたは徐々に重みを増してゆき…。

………
……


提督「………すぅ…」


2000時を目前に控えて、提督は椅子に腰掛けたまま、うたた寝をしてしまった…。

………
……



コンコンコン


榛名「…提督、榛名です…約束の時間ですが、今開けてもよろしいですか?」

提督「……………」

榛名「…提督?」

長門「…?榛名、代わってくれ」


…ガチャ…


長門「…提督、入るぞ…」

提督「……………」

長門「…珍しい事もあるものだな…」

陸奥「…長門?どうしたの?」

長門「寝ている…提督が執務室で…」

陸奥「あらあら…ホントだわ…見事に寝落ちてるわね…」

加賀「(この時間は大抵、机にかじり付いて、書類処理と明日の準備に追われている筈…今日は早く仕事を終えたから、静かに何かを考えている内に落ちてしまったようね…)」

榛名「…初めて、提督の寝顔を見たかもしれません…(…安らかな寝顔…)」


執務室に、入ってきたのは、長門・陸奥・加賀、そして榛名の4人であった。

…そして背もたれに寄りかかって眠る提督の座る椅子の周りに4人共集まった


長門「…ふふ…不思議なものだな…」

陸奥・加賀・榛名「???」

長門「提督の事は、殆ど知っているつもりだったが…寝顔の1つさえ知らなかったんだな…とな…」

陸奥「…そうねぇ…一緒にずっとやってきたのにね…ふふっ♪思っていたよりかわいい寝顔よね…」

榛名「…でもどうしましょう?…起こすのは忍びないのですが、お話の件もありますし…」

加賀「…提督の寝顔を見ていたい気もしますが、本来の目的の為なので、致し方がありません…榛名さん、提督を起こしてもらえないかしら?」

榛名「え…えぇ?!榛名がですか?!…そ、それなら加賀さんや長門さんが…」

長門・加賀「謹んで断らさせて(貰う)(いただきます)」

榛名「え…えぇぇぇ…む、陸奥さぁ〜ん…」

陸奥「…1番気心の知れてる娘に起こされる方が、提督も嬉しいんじゃないかしら?」

榛名「そ、そんなぁ〜…」


議論の末に退路を絶たれて、半ば半べそ気味になる榛名。


陸奥「(…だってこの面々で唯一、榛名だけが呼び捨てなんだもん… )」

長門・加賀「(…後学の為に、榛名が提督をどう起こすか見てみたい…)」

榛名「う、うぅうぅ〜…///」


羞恥で顔を真っ赤にしながら、とうとう観念したのか、榛名は提督の両肩をそっと揺すり始めた。


榛名「…て、提督…起きてください…もう約束の時間です…」


ユサユサ…


提督「…んん……むにゃぁ…( ˘ω˘)」

榛名「(…やだ、かわいい…///)」


不用意に漏れた提督の声と寝顔に魅入って、動きと思考回路が、止まる榛名。


長門・陸奥・加賀「じーーーーーっ…」

榛名「…ハッ!///」


…が、他の3人の「2人だけの世界を創っているんじゃない、さっさと起こせ」と言わんばかりの目線が突き刺さり、我に帰る榛名。


榛名「てて、提督っ!起きてください!時間が、過ぎてますよ!」


ユサユサ!ユサユサ!


提督「んんっ!…ふぅぅん…あれ?…はるな?」


最初より少しばかり強い口調と肩ゆすりで、提督は寝ぼけながらも目を開けた。


提督「…いまなんじぃ?」


提督は寝ぼけながら、先程まで子守唄になっていた古時計に目線を移した。


古時計 「 2010時 」カコン…カコン…

提督「…ゑ?」

古時計 「 2011時 」ガコン…カコン…


古時計は無情に時を進めていた。


提督「…ふ…」

榛名「…提督?」


時計を見た瞬間、提督は血の気が引いて顔面蒼白になった。


提督「ファァァァァっ!寝過ごしたぁァァっ!」


…そしてここに居る全員が、聞いたことがない提督の発狂した声が執務室に、木霊したのであった。


榛名「っ!…はぅぅ…」


そんな提督の発狂を真正面の至近距離で聞いていた榛名は目を白黒させて、他の3人も目を点にしていた。


提督「マズイ!時間厳守と言われてたのに寝落ちしちまったぁっ!めちゃくちゃ加賀さんに艦爆されるっ!」

………
……


加賀「(…頭に来ました)」

長門・陸奥「…あ"」

加賀「…心外ね…私はその時間に執務室に居てとは言っていたけれど、起きていろとは言ってないわ…提督にとっての私は、そんなにも度量の無い女なのかしら…
大 概 に し て ほ し い も の ね …」


提督その言葉が気に触ったのか、表情の起伏の少ない加賀の目尻が吊り上がる。


加賀「…何なら提督のお望みどおり、執務室諸共爆撃して差し上げますが…?」

提督「ヒ、ヒェーーーーッ!!」


………
……


〜艦娘宿舎 戦艦寮のとある一室〜


比叡「へっくしゅん!…うー…」

霧島「…比叡お姉さま?風邪ですか?」


………
……


〜所戻り 執務室〜


長門「…おい加賀、落ち着け…」

加賀「フーっ…フーっ……ふぅ……す…すみません…つい取り乱してしまいました…」

提督「皆申し訳ない!古時計の秒針の音色を聞いていたら、寝落ちしてた!」

榛名「い、いえ…はるなはだいじょうぶれす…」

陸奥「…榛名の被害が結構大きいわね…」


艤装展開した加賀が、もう少しで執務室を灰にする寸前で長門の仲裁が入り、事なきを得て、提督の発狂ボイスをド至近距離で聞いた榛名は、フラフラしながら立っていて、その榛名に寄り添って支える陸奥。


長門「…現状でまともに話せる者が居ないな、提督、今回の話、私からの言わせてもらうが構わないか?」

提督「は、ハイ!どうぞ!」


このままでは埒が明かないと判断した長門が、提督に対して話を始めた。

…その提督はというと、先程の加賀の逆鱗に触れて、眠気はとうに失せて姿勢を正していた。


長門「単刀直入に言う…提督よ…ここに集まった4人の共通点はなんだと思う?」


そんな提督に対して、長門はそう問い掛けた。


提督「…え?…我が泊地の精鋭中の精鋭?」

長門「…確かにそうだか、正解ではない…」

提督「…みんな大型艦…?」

長門「…なんでそうなる…」


一瞬、長門の眉も吊り上がりそうになったが、加賀が先にやらかしそうになった手前、自制することができた。

…そして、そういう機微には敏感な提督は、更に考え込んだが、みんなの顔を見てふと気が付く。


提督「…あ…ゆびわ…」

長門「ふぅ…ようやく気が付いてくれたか…」


やっと正解にたどり着いた提督に対して、満足のいく答えを得たを長門は、おもむろに左手の手袋を取り始めた

そして、左手の手袋を脱ぎ取ると左手の甲を提督に向けた。

…その薬指には淡く輝く、銀色の指輪が付けられていた。


長門「…そうだ…我々の共通点は、この " ケッコンカッコカリ " の指輪を、提督より賜った者だ。」


ーケッコンカッコカリの指輪とは?ー

練度の上限は通常なら練度99で、それ以上の数字にはならないのだが、練度99に達した艦娘にこの指輪を贈ると、練度は100を突破し、耐久の上昇、更なる上の練度への成長と更なる能力の持続的な上昇、燃料消費・消費弾薬の低減、運の向上、といった付与効果が得られる装備品。

更に言えば、艦娘に指輪を贈って上限を開放する事で、上昇する練度に合わせて更に提督に対する親密度すらも上げる要因を作る代物。

…そして、ここに居る4人は皆、提督から指輪を賜った艦娘と言う訳だ。
(…余談だがこの泊地では他にも指輪保持者は数名居る)

………
……


話はこちらに戻り…


長門「…そうして提督より賜った指輪を、肌見放さず付けている訳だが、その以前の指輪を頂くより前から、変わらないものがある…」

提督「…変わらないもの?」

長門「…私や陸奥、加賀、そしてここにいる榛名も含む、提督を慕う者に対する貴方の態度だ」

提督「…あ」

………
……


陸奥「「なんだか距離を置かれているみたいだから、お姉さん、少し悲しいわ」」

………
……


今日の午前中の演習前の招集後の、陸奥の去り際のセリフが、また提督の頭を過ぎった。


提督「…俺はあくまでも、艦である皆を運用する者でしかない…皆が何不自由無く、海を駆け巡るり、国民と国土と海を護ってもらう為に、働くのが俺の仕事だよ」


…だが提督もこの一線は譲れなかった。

提督は自分の立場としての、模範的な回答を出す。


長門「確かにその志は素晴らしい。私達も提督のその心意気に突き動かされ、提督の元に仕えられることを誇りに思っている…だがっ!」

提督「…だが?」

長門「…今更だが長く仕えてきて、先程初めて提督の寝顔を見た…それがとても愛おしく思えたんだ…」

提督「………ふぉぉ…男の寝落ちの寝顔が愛おしいだとぉぉぉおぅ…不覚過ぎる…」


…みんなの前で寝顔を晒したのが、余程恥ずかしかったのだろう。

提督は両手で顔を覆いながら、椅子の上で仰け反っていた。


長門「…提督は先程の醜態として恥ずかしがるがな…。…もっとも、私達も出逢って間もない頃なら、なんの感慨もなく叩き起こしただろう。…だが今は違う…」

提督「…?」


椅子の上を仰け反っていた提督は、長門の「違う」という言葉で動きを止め、顔を覆っていた両手をのけた。


長門「…今はその愛おしさの反面で心配で心配で仕方がない…」

提督「……えっ?…しんぱい?」


思いもしない単語が、長門の口から飛び出してきたので、オウム返しの様に同じ単語を返した。


長門「…私達は大抵の事は入渠すれば治る、治癒力を高める高速修成材を被れば、またたく間に破損箇所は癒えるし、疲労も抜ける…だが…提督は…」

提督「…うん…脆弱な人間だよ…」

長門「…そうだ…戦闘以外で何かあっても治すことができない…提督の心も体も…」

提督「……」


その言葉で、先のお茶会での一幕が思い出された。

………
……


長門「「…ふぅ…全く、そうして弛まず仕事熱心なのはいい事だが、今この場で1番休まなければならないのは、提督、貴方だ」」

………
……


そう長門に言われた事が頭に過ぎった。


長門「…私は…いつも私達に寄り添ってくれる提督が、そんな形で忽然と姿が消えてしまうことが、何よりも恐ろしい…。敵と戦い、自分か誰かが沈む事ももちろん恐ろしい事だが…それ以上に…」


そう言って長門は俯いてしまった。


提督「(…あぁ…そうか…いつの間にか皆そう想ってくれていたのか…)」


今まで艦娘たちと苦楽を共にしてきた間柄だが、あくまでもそれは公の上司という立場に、付いてきてくれているだけであって、自分を好いてくれている訳ではないと、感情に蓋をしてきた。

その見守ってきた艦娘達が、いつの間にか提督が艦娘達にとっての、欠け替えのない人となっていた。


提督「(…アカン…泣きたい…でも…堪える…)」


その事にようやく気付けた提督は、目頭が熱くなったが、皆の前で泣く訳にはいかないと、堪えた。


提督「…長門さんの気持ちはわか…」

長門「呼び捨てでいい」

提督「…え?」


…言葉の途中で遮られてしまった。


長門「…周りの目を気にして、そう呼んでいるのだろう?…少なくとも、今ここに居る者は皆、提督を想う者ばかりだ…遠慮はいらない筈だ…」

提督「えっ?!…ええっと…」

長門「…榛名や金剛達は出来て、私達にはできないと?」

提督「…うっ…」

長門「…か、仮初とは言え、あなたと結ばれた身だぞっ?!こ…ここまで私達に慕わせておいて、そそ、その気持ちが受け取れないと言うのかっ!///」

提督「う…うん…わかったよ…な、 " 長門 " 」

長門「…!う、うむ…///」


半ば押し切られるように長門を呼び捨てにしたが、長門は顔を真っ赤にしながらも、とても嬉しそうな表情に溢れていた。


陸奥「(…ふふっ♪合格よ、長門♪)」


長門が一頻り喋った辺りで、榛名が陸奥の付き添いが要らなくなるまで回復したので、陸奥も長門同様に前に出た。


陸奥「…提督」

提督「…え?!あ、何?」

陸奥「めでたく長門を呼び捨てに出来たんだから、妹の私も…良いわよね?」

提督「でも話を聞いてあげるってのは?」

陸奥「あら?アレなら長門がほとんど喋っちゃったわよ?」

提督「…なんてこったい…」

陸奥「だ、か、ら、私の事も呼び捨てしてよね?」

提督「じ、じゃあ…」

陸奥「…あ♪もし言いにくかったら " むっちゃん " でもいい…」

提督「陸奥でお願いします」

陸奥「あら?あらあら?…つれないわねぇ…ま、それで勘弁してあげるわ、これからはソレでよろしくね♪///」


これ以上まごついたら、おちょくられる未来が見えていた提督は、潔く陸奥も呼び捨てする事にした。

その提督の答えに対して満足げに目を細める陸奥なのであった。


…そしてここに居る " さん " 付け勢で取り残された最後の1人…。


加賀「提督…」


加賀がおずおずと提督の前にやってきた。


加賀「先程は些細なことで、あの様な醜態を晒していまい…申し訳ありませんでした。…その上でお願いがあります。…私も呼び捨てで呼んで下さい…」


加賀は深々と提督に向かって頭を下げた。

…この泊地での加賀の着任は、赤城に継いで早かった。

ここにいる戦艦勢より先にだ。

当時は、提督に対して非常に素っ気なく、己の道を征くと言わんばかりの態度だったが、徐々に提督を認めいっていた矢先の、先の本土防衛決戦時以降、そこから提督に対する加賀の態度は、大きく変わった。

加賀がぼんやり、提督の背中を見つめる事が増えた。

ふとした事で提督の事を考えていた。

物言いが全体的に柔らかくなった。

後輩への接し方も、いい方向へ変わった。

提督はそれらの変化に、気付いてくれていた。

…加賀が提督へ向けている好意以外は…。

………
……



提督「………」

加賀「………」


時間にして数秒間の途絶える会話。

その間で、提督は加賀の機微の変化を見ていた。

提督が自分の名前を、呼び捨てで呼んでくれるまで、頭を上げる気配を見せない加賀。

…一見、加賀は平静を装っているが、よく見ると手は震えるし、目もきつく綴じてしまって、まるで告白の返事待ちの異性のように思えた。


提督「(…ならば、答えは1つ…)」

提督「…わかったよ… " 加賀 " 」

加賀「…っ!」


提督のその言葉を聞いて加賀は、顔を上げると顔を真っ赤にして、その瞳からは涙が…。


提督「…え?」

加賀「…ハッ!」


…ダッ!ドスッ!


提督「おふぅっ!」


自分が泣いていることに気付いた加賀は、俯いたまま提督に突進。

そのまま提督の胸に向かって、軽く頭突きを喰らって咽るが、何とか受け止めた。


加賀「…て、提督の服で拭かせてください…あと…い…今…顔を覗いたら…叩きます…///」

提督「…これ以上、痛いのはヤダなぁ…」


そう言うと提督は加賀の背中に、そっと両手を添えた。

………
……


榛名「(…ふふ…良かった…これで提督と私達…お互いもっとよく知れる、切っ掛けになればいいですね…♪)」


先程の提督の発狂絶叫攻撃を、まともに喰らった榛名は、既に立ち直り、晴れやかな表情になった他の3人を見て安堵を浮かべていた。


提督「…榛名?」


そんな榛名に提督は、加賀を受け止めた状態で、顔だけを向けて声をかけた。
 

榛名「あ、あぁ!はい!何でしょうか提督?」

提督「榛名も何か言いたかったんじゃないの?」

榛名「あ、あぁ…それは、" 提督と艦娘の仲の一線を一歩超える " と言う点では、皆に言われちゃいました♪」

提督「…そうだったのか…」

榛名「…なので、これからは私達に違う顔を見せてくださいね♪提督♪」

提督「…ん、みんながそれ望むのなら」


こうして、指輪を贈った艦娘への待遇の問題は、解決への一歩を歩みだしたのであった…。


提督「…それでなんだけど、皆に質問がある」

4人の嫁艦「…?」

提督「艦娘の皆との仲の一線を超える、第一歩を踏み出したのはわかるんだけど…具体的に何したらいいんだろ?こういう間柄の男女交友って、どうしたらいいか分からなくて…」

4人の嫁艦「………」


素朴な質問を4人にぶつけた提督に対し、4人は互いに見合わせて「…そっち方面考えてた?」「…いや全く」と言わんばかりに視線を交錯し合っていた。

………
……


加賀「…まずは泊地内で公 ( おおやけ ) も然りですが、私 ( わたくし ) での交友を深める…かしら?」

長門「む、そう言えば我々は、提督の私室すら見たことも、入った事も無いな」

陸奥「…あと趣味も知らないわね。食べ物の好みと料理は出来る事くらいなら、知っているけれど…」

榛名「あ、あと…まだ甘えてもらったことも無いです!」

加賀・長門・陸奥「それ ( ね ) ( だな! ) ( だわ! )」

提督「…………」


あーだこーだと4人で議論の最中、提督は黙ってその様子を見ながら、内心汗をダラダラさせていた。


提督「(…い、言えない…っ!たまにわんぱくな駆逐艦達や海防艦が、俺の部屋に突撃してくる事を…っ!)」

提督「(…そして駆逐艦達と海防艦達は知っている…特に口止めはしてないが、俺の趣味も…っ!)」


…念の為に言っておくが、誓って疚しい事ではないぞ。


榛名「そ、それからそれからぁ〜♪///…はれ?…提督?」

提督「…………」


先程から妄想の旅に旅立ちつつあった榛名が、黙り込んだ提督に気が付いた。


榛名「…ハッ!…提督っ!」


ガシィッ!


提督「うぉっ!」

榛名「て、ててて、提督っ?!まさかこの期に及んでまだ隠し事がっ?!」


榛名は、血相を変えて提督に詰め寄り、両肩を掴みグワングワン揺する。


長門「何っ!提督!水臭いぞ!折角関係が一歩進んだのだ!この際だ!洗いざらい言ってしまえっ!」


その事を聞きつけて真意を問おうと、長門も榛名と一緒になって、提督を揺すり始めた。


提督「あgagagagaっ、皆して…揺すんなぁaaaaa〜」

陸奥「あ〜らぁ…あらあらぁ…♪…まさか外に女でも居るのかしらぁ〜♪」


顔は笑っているが目が笑ってない陸奥が、榛名と長門に揺さぶられてる提督に詰め寄る。


提督「…!陸…奥…!…笑顔で…言うの…やめてぇぇ…怖い…っ!」


…ガシッ!

榛名と長門の戦艦の力で揺さぶられていた、提督は、加賀の仲裁 ( 物理 ) で止められた。


加賀「…皆さん落ち着いて…提督の言い分も聞くのも、嫁艦の努めではなくて…?」


…と言うものの、その落ち着いた声とは裏腹に、加賀のその目は疑い眼で、提督を射貫かんと降り注いでいた。


提督「あ、ありがとう加賀…(…言ってる事と目が違う…ふふふ、怖い…)」

………
……


〜ていとくの、はくじょうたいむ〜


提督「…と言う訳です…ハイ…」

長門「なん…だ…と…っ?!我々より…駆逐艦達の方が…進んでいる…だとっ?!」

陸奥「あ、あー…それは…まあ…仕方が無いことよねぇ…」

榛名「ててて、提督っ!誠に申し訳ありません〜っ!」

加賀「…提督への駆逐艦と海防艦の接触過多の傾向は、どの基地でも同じようですし、目くじらを立てて怒る必要は無いわ…みんな同じ主を慕う仲間なのだから…」


とにかく提督の言い分を聞いて、納得した4人。

…その内心はというと…。


長門「(て、提督…何と羨ましい…っ!わ、私もそこに混ぜてもらえないだろうか…)」

陸奥「(…て言うか、提督に吹っ掛けて言ったけど、よくよく考えたら提督って、主張以外はずっとこの泊地から出てないし、その出張も全部ウチの艦娘の誰かが同伴してたし…私…何焦ってるのかしら…///)」

榛名「(わ、私ったらつい…///)」

加賀「(…ふぅ…そんな事ではないかと思ってはいたけれど…露骨に安心してしまっている私が居るわ…必ず…追い付いてみせるわ…)」


…と、それぞれ思っていることは違うのだが…。


提督「…皆様、説明は以上ですがよろしいでしょうかね…?」

陸奥「…うん?え、ええ…変に疑ってごめんなさいね…」

加賀「ええ…十二分に理解しました」


…ともかく、非ぬ誤解も解けて、この騒動はひとまず落ち着いたのであった…。


2100時

大淀「佐伯湾泊地の皆さん、現在時刻2100となりました。寮内の照明を落としますので、自室外に出ている艦娘は、用がない限り自室に速やかに戻ってください。…それでは消灯」


その館内放送の直後、艦娘達の自室となっている、寮棟は一斉に明かりが消えた。

…が、施設中枢である司令部棟は、まだまだ煌々と明かりが灯っている。


加賀「…もうこんな時間なのね…話も纏まった訳ですし、そろそろお暇しようかしら…」

陸奥「そうねぇ…長門、もう帰るでしょ?」

長門「…ん?…あぁ…そうだな…いや、陸奥よ…先に行っていてくれないか?提督に個人的な頼みがあってな…」

陸奥「あらあら…いきなり抜け駆け?」

長門「…心配はいらない、そんな卑怯な真似をするものか…心配しなくてもそちら方面の話ではない」

陸奥「ごめん、冗談よ…じゃあ、先に戻っているわね。提督、榛名、お先に失礼するわ、お休み」

加賀「今日は失礼しました、それでは提督、榛名さん、長門さん、おやすみなさい」


夜も更けてきて、先に執務室を退室したのは、加賀と陸奥で、何故か長門は執務室に残った。

…因みに秘書艦である、榛名は部屋への帰り支度の為に執務室に残っていた。


提督「…?長門?まだ何か話があるのかい?」

榛名「…長門さん?言いにくい事でしたら、私は、席を外しますよ?」

長門「い、いや、提督、手短に話す…榛名もいてくれても構わない…」

提督・榛名「???」


2人の頭の上に"?"が浮かぶが、言い出すタイミングを作る為に、2人共、長門の話を聞く姿勢を取った。

それを見計らって、長門は話し始めた。


長門「その…提督…先程の話で駆逐艦や海防艦が、私室に遊びに遊びに来ると言っていたな?」


…そう、先程4人の前で暴露した、提督の私室への駆逐艦と海防艦の出入りの話だ。


提督「ん?そだね、部屋には漫画やら小説やら…ゲームだのが置いてあるからなぁ…要るかなって思って実家から持ってきたけど、そこまで暇ないし…持ってきたゲームをやりに来たり、漫画を物色していったりしてるな。それとか遊べ!とか構え!とか言う直球な娘もいるけど…」

長門「そ…そうか…提督、折り入っての頼みがある」

提督「ん?俺のできる範囲でならいいよ」

長門「…提督の持っている書物…駆逐艦達が持っていっている小説や漫画とやらを、借りたいんだが…」

提督「…え?そんな事?いいよ。何ならこの後にでも取りに来る?」

長門「…!な、なんと!本当か?!」


そう言うと長門は、執務席の机に身を乗り出した。


提督「い、いいけど、理由を聞かせてくれるかな?」


たじろぎながらも、長門の真意を問う提督。

そして、その申し出に前のめりになってしまった事を、少し恥ずかしがって、先程まで立っていた元の位置に戻る長門。


長門「じ、実は小型艦達との会話で、ずっと思っていたんだが…それらの艦種の者達の話に付いて行けなくて、手をこまねいていたんだ…」

提督「…あー…よく読み物の話ししてるなぁ、あの辺の娘等…」

長門「そうなんだ…私も知っておきたいんだ…まだ見ぬ価値観を増やしたい…折角人の姿になったのだからな。…ついでに駆逐艦や海防艦の仲も親密になれれば…なお良い…」

提督・榛名「(…メインは後者(じゃない?)(なのでは…?))」


提督と榛名は同じ事を考えながら、口に出すことなかったが、ふとお互いの顔を見合わせると、お互い少し笑ってしまった。


提督「…フフッ…」

榛名「…フッ…フフッ♪」

長門「…ぐ…2人して…この長門を!…ふんっ!2人して、せいぜい笑うがいいさっ!///」


…きっと自分の立場が邪魔して、ずっと言い出せなかったのだろう。

自分なりに必死になって告げたのに、笑われた事に対する羞恥で、顔を真っ赤にして拗ねる長門。


提督「…あぁ!申し訳ない!そういう内面があるとは思ってなかったから、つい…」

榛名「な、長門さん、ごめんなさい!悪気はないんですよ〜!」

長門「…いや、いい…この想い一度を曝け出してしまったら、気持ちが少し楽になった…」


あまりにも予想していなかった長門の反応に一転、戸惑ってすぐに、謝罪する2人。

そんな2人を見て、長門も少し落ち着いたのか、冷静になってくれた。


提督「…それじゃあ、終い支度をして上がろうか榛名。長門、すぐ終わるから待っててくれないかな?」

榛名「はい提督!」

長門「あぁ、わかった」


こうして、手早く終い支度を済ませて、3人で執務室から退出して、榛名と長門は、初めて提督の私室に、書物を借りにお邪魔する事となった。

…何故、そこに榛名も同伴したかって?


長門「私が抜け駆けをしてないと、陸奥に証明する為に証人になってもらう為だ」

榛名「私も長門さんの、その意図を組んで付いていきましたが…個人的に提督が好きな小説がどういうものかも、とても興味があったので…///」


…というのは後日2人の口から発せられるのだが、それは完全な余談である…。

……………
…………
………
……


読んでいただいた皆様、お疲れ様でした!m(_ _)m

何だかんだと、話の流れの繋がりを足したり引いたりの連続で、登場するキャラクターの事を考えながら書くと、どうしてもこの個性は書きたい!こういう姿が書きたい!…となったりして、その前後での整合性を取るのに、随分四苦八苦の連続であります…(;^ω^)
※尚、その整合性が取れていたかは、読んだ皆様に、判断をしていただきたいと思います…。

…さて、今回では、永きに渡っての提督と艦娘 ( 嫁艦 ) 達との関係が、まずは一歩進んだこの泊地での今回のお話。

次回は今回の章の最終話、"深夜編"をお届けできればと思います。

最後まで読んで頂いき、ありがとうございました!m(_ _)m

それではまた!(>ω<)ノシ
Posted at 2020/07/03 17:29:39 | コメント(0) | トラックバック(0)
2020年06月26日 イイね!

艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯2 昼下がり編

皆さん、おはこんばんちは!Σ∠(`・ω・´)

さて、本ブログは、艦これベースの屋根野郎オリジナル小説。

〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯1の続編です。


前回はコチラ
↓↓↓↓↓↓
https://minkara.carview.co.jp/userid/2501514/blog/44104145/


方針として話の流れ的には、今回と前回を含めて、数話の中での丸1日を切っ掛けに、その後に提督と色んな艦娘との交流を描くお話になれば良いなぁって思っております。

…因みにバトル・流血・略奪等の暗い話は描かず、ゆるーく心の移り変わりを、描いて行きますので、そこんとこよろしくお願いします(_ _)

…あ、基本この泊地の艦娘は、提督好き好き設定でヨロシクです(笑)

それでは、本編へと移りますが、ブログとしては超長文となる事は必至なので、気長にお付き合いくださいませ…(_ _)

……………
…………
………
……


艦隊これくしょん - 艦これ - 〜佐伯湾泊地の日々〜 ♯2 " 昼下がり編 "


1400時

昼食を食べ終えた提督と吹雪は、そのまま執務室に戻り、残った書類等の仕事に没頭している内に、お茶会の時間が迫ってきていた。

………
……


そんな会話が特にない静寂と、様々な物から発せられる生活音のみで構成されたこの空間に突如、異質な音が飛び込んできた。

Trrrrrr…
Trrrrrr…

執務室に備え付けられた内通電話だ。

机にかじりついて作業に没頭していた提督と吹雪は、この音に反応してピクリと動いた。

Trr…
カチャッ!

真っ先に受話器を取ったのは、吹雪だった。


吹雪「ハイっ、執務室」

???「あ、吹雪さん?大淀です」


通信室で本部とやり取りしていた大淀が執務室に連絡を入れてきた。


吹雪「あ、大淀さん!どうされましたか?」

大淀「演習に出ていた演習艦隊が間もなく佐伯泊地に帰投との一報が入りました」

吹雪「了解です!司令官にもお伝えしておきます!」

大淀「よろしくお願いします」


…カチャッ


提督「…吹雪、相手は大淀か?」


提督は書類から目線を離さず吹雪に問いかけた。


吹雪「あ、ハイっ!榛名さん達がもう間もなく泊地に帰投との事です!」

提督「ん、そうか…出迎えてやらなきゃな…よし、この書類のチェックが終わったら、第3スロープに行こうか」

吹雪「了解です!それでは早速チェックさせていただきますね!」

提督「あぁ、頼んだよ」


そうして、吹雪が書類のチェックをしているうちに、提督は出迎えの身支度を始め、身支度が終えた頃に吹雪の書類のチェックも終わったので、そのまま執務室を後にして、2人は第3スロープに向かった。

………
……


ー第3スロープー

提督と吹雪がスロープに着いてから数分後、艦隊を見送った際に出港していく艦娘達の姿形を隠していた岬の先から、佐伯泊地の面々と相手艦隊の艦影が姿を現した。

徐々に近付いてくる艦隊に対して、提督は軍帽を手に取って、その手を大きくゆっくり振り、吹雪は両手を大きくゆっくり振って、艦隊を出迎えた。


榛名「提督、佐伯泊地 演習艦隊、只今帰還しました!」


そう榛名が告げると、今回の演習に参加した一堂が全員、提督に向けての敬礼をしたので、それに対して提督も姿勢を正して、敬礼で返礼をした。


提督「今回の演習、大変お疲れ様でした。桂島泊地艦隊の皆さん、今回の演習はお互いにとって非常に有意義で貴重な経験と時間を共有できた事に対して、感謝します」

大和「桂島泊地所属、演習艦隊旗艦、大和です。今回のこちらからの申し出を真正面から受けて頂き、誠にありがとうございました。それではこちらが演習完了と内容を証明する書類となりますので、こちらの記入欄にサインの記入をよろしくお願いします致します」


そう言って相手艦隊の旗艦である大和が、提督に手渡した書類の内容を確認。


ー佐伯泊地陣営ー

旗艦 戦艦 榛名 中破判定

戦艦 長門 大破判定 ( 撃沈判定 )

戦艦 陸奥 大破判定

戦艦ビスマルク 大破判定 ( 撃沈判定 )

航空巡洋艦 鈴谷 中破判定

軽巡洋艦 阿武隈 中破判定


ー桂島泊地陣営ー

旗艦 戦艦 大和 中破判定

戦艦 ウォースパイト 大破判定 ( 撃沈判定 )

戦艦 ネルソン 大破判定 ( 撃沈判定 )

戦艦 コロラド 大破判定

重巡洋艦 摩耶 大破判定

防空巡洋艦 アトランタ 大破判定 ( 撃沈判定 )


ー結果ー
精査の結果。佐伯泊地陣営の勝利B判定 ( 戦略的勝利 ) とする。

………
……



提督「(…うっわぁ…結構ギリギリ…)」


提督は、内心ヒヤっとしつつもそれを表に出さずに、大まかな結果と書類下部に書かれた詳細を確認の後に、書類の記入欄に名前を記入して、書類を桂島泊地の大和に返した。


大和「…はい、記入を確認しました。控えはこちらになりますので、保管をよろしくお願い致します。わざわざお出迎えまでして頂いて、ご足労をお掛けしました」


提督のサインを確認した桂島泊地の大和は提督に歩み寄り、握手を交わした。


…余談だが、ちなみに演習のこの勝敗の判定の判断は、この書類に宿る精霊さんが下していたりする。

その上、小破→中破→大破→大破 ( 戦闘不能 ) 判定の段階によって、ダメージ具合で撃てない・当たらない・使えないという疑似ロックが艤装にかかるという仕組みだ。

…更に余談だが、昼戦で決着が付かずに夜戦に突入となったら、日の高い状態でどうやって夜戦するかって?
答えは各艦隊に、配備されている特殊な夜戦用のゴーグルを装着して、模擬夜戦を行うことで、日が暮れるのを待たずに夜戦の模擬体験が出来るのだ。

…ごく一部の艦娘に渡せば大喜びしそうな代物である。

???「なにっ?!夜戦?!♪」ニコニコ

………
……



提督「いやぁ…ここまでいい勝負になるとは…」

大和「はい、今回の演習は大変勉強になりました。…今回は僅差で負けてしまいましたが、次に同じような顔ぶれで一戦交える事があれば、次は負けませんので、お覚悟ください…」

提督「…わかりました、受けて立ちましょう。それまでにこちらも更に精進を重ねて行く所存ですので、桂島泊地の提督にも、よろしくお伝えください」

大和「ふふ…またお会いできる日を楽しみにしております」


そう言って提督と桂島泊地の大和は、握手を解いた。


提督「それでは、帰投まで我が泊地にて汗と汚れを流して、桂島泊地への帰投までこちらで、時間が許すまで、ゆっくりして行ってください」

大和「はい♪そちらの大淀さんにも伺っております。お心遣い感謝致します」


先程の穏やかそうに見えて内心尖っているような雰囲気から一転、朗らかな表情に変わった桂島泊地の大和は、そう言うとお辞儀をした後、踵を返して自軍側の艦娘達に指示を出していた。

それを見届けた提督も踵を返して佐伯泊地の面々の元に向かった。


提督「みんな、お疲れ様!よく踏ん張ってくれたよ!」

榛名「い、いえいえ、そんな!そのようなお言葉、は、榛名には勿体ないです…///」

長門「むぅ…勝てた事は素直に嬉しいが、あと一歩のところで撃沈判定か…まだ精進が足らぬな…」

陸奥「長門ったら、昼戦であれだけ暴れたら、目立っちゃうのも仕方がないんじゃないかしら?…ま、そういう私は昼戦で、大破貰っちゃったし、そこは反省点よねぇ…」

鈴谷「いっやぁ〜今回は阿武ちゃんと超〜逃げ回ったよ〜。ヤバい場面が何度かあったけど、その時に…」

阿武隈「あ、そうそう!ビスマルクさんに庇ってくれて、上手く切り抜けられたの!」

ビスマルク「わ、私は高速戦艦だから機動性も高い上に、装甲もアナタ達よりあるんだから…あ、あのくらい当然よ!い、いいのよ?もっと褒めても!」

鈴谷「にししっ♪…うん、ビスマルクさん、ホントにありがとー♪(ビスマルクさん、わっかりやすい〜w)」

阿武隈「ふふふっ♪ビスマルクさん、本当にありがとうございました!(ビスマルクさん、教科書通りのツンデレさんです〜♪)」


…うむ、ビスマルクもうまく溶け込めて、中々良い連帯感が確認できたんじゃ無かろうか?

提督は6人の艦娘達の反応を見て、今回の演習に大きな意義を感じていた。


提督「…あぁ、それと疲れているところを急かすようで悪いんだが、1500に金剛主催のお茶会にみんなを招待するから、ひとまずシャワーで汗と汚れを落としてきてくれ。執務室に集合だから」

榛名「金剛お姉さまが?!榛名、感激です!」

長門「おぉ…それは有り難い…では遠慮なくご相伴に預かるとしよう」

陸奥「ふふふっ♪楽しみがまた1つ増えたわね。そうと決まればテキパキお風呂を済まさなきゃね♪」

ビスマルク「ええ…その申し出、有り難く頂戴するわっ♪」

鈴谷「おぉう♪金剛さんの紅茶が飲めると来たら、こりゃのんびりしてられないねぇ〜♪」

阿武隈「あぁーん、急いでお風呂に行かないと、前髪のセットが間に合わない〜っ!」 


皆様々なリアクションをしながらワイワイと騒ぎながら桂島泊地の面々も一緒に演習組は、入渠層に併設された浴場に向かっていった。


提督「…さて吹雪…執務室に戻ってみんなが来るまでに準備しようか」

吹雪「ハイっ!司令官!書類もやっつけちゃいましょう!」

提督「おいおい…間に合うかな〜?」

吹雪「そこは気合です!」

提督「吹雪まで長門さんみたいな事言うなよなぁ…」


そう言って小走りで提督の先へ行く吹雪を、頭を掻きながら提督は追いかけていくのであった。

………
……


提督と吹雪が執務室に戻ると、執務室のドアの前には、3人の人影があった。

ちなみに提督が執務室を空けるときは基本的には鍵を施錠するのが慣例となっているので、艦娘達が執務室に入ろうと思ったら、基本的に提督が在室の時だけだったりする。


???「…あっ!テイトクぅ〜っ!演習隊の出迎え、お疲れ様デースっ!」


ズドドドドドドッ!

提督の姿を見るやいなや、その3人の内の1人が提督に目掛けて突進してきた。


提督「う、うおっ!ちょっ…!まっ…」

???「Burningぅ〜〜〜」


バッ!


???「ラァーーーーブゥっ!」


その艦娘は助走の勢いそのままに、提督に両手開きで飛び込んできた。

ドグシャッ!!


提督「くぁwせdrftgyふじこlp」


鈍い衝突音の後にその艦娘に抱き付かれたまま、廊下の床に押し倒された提督。

…そんな事はお構いなしに提督の胸に飛び込んだその艦娘は、グリグリと顔を押し付けていた。


???「んーっ♪みんなが来る前にテイトク成分の補充デース♪」

提督「ぐへぇ…相変わらず激しいな…金剛…」

金剛「んふふ〜ん♪テイトクを想う気持ちは誰にも負けないネ〜♪」


このところ構わず提督にくっついている、後頭部左右辺りにお団子ヘアーの少し茶色掛かった黒髪のロングヘアーの艦娘が、先程の電話で話していたのお茶会の主催者である、金剛型 戦艦 1番艦 金剛である。

…この熱烈アタックを毎度食らっている様子の提督だが、金剛は絶妙なさじ加減で体当りしてくるせいか、提督はぶっ倒されても、怪我もせず意識を手放さない程度の勢いにしてくれている。

…意外と計算高い面もあるのだ。


???「あぁ〜司令ずるいっ!金剛お姉さまも離れてください〜」


ぶっ倒れた提督にしがみ付いて離れない金剛に対して、何が気に入らないのかむくれっ顔で、茶色掛かった黒髪のショートヘアーで毛先が癖っ毛でちょっと跳ねている艦娘が、金剛を提督にから引き剥がそうとしている。


金剛「んふー♪比叡も一緒にやりマスカ〜?」

比叡「や、やりませんってばぁ!し、司令もなにか言ってくださぁーいっ!」


榛名や金剛と良く似た服装に緑のチェック柄のスカート。

金剛型 戦艦 2番艦 比叡である。


提督「うぉぉぉぉ…揺らすな揺らすな比叡ぃぃぃぃ」


金剛を引き剥がそうとする比叡に揺すられて、最早されるがままの状態の提督。

そんな中、執務室の前で待っていた最後の1人が、提督を揺すりまくっている ( 物理的に ) 比叡の背後にすぅっと音もなく、近寄ってきた。


???「ふんっ!」


ズビシィッ!

比叡の背後に立っていたその艦娘は、容赦なくチョップを比叡の脳天に食らわせたのだ。


比叡「フギャッ!!…ったぁ〜…な、何すんのさぁ〜霧島ぁ〜!」


比叡に対して容赦ないチョップ制裁を加え、同様の服装で黒のスカート、黒ぐろとしたショートヘアーのボブカット、更に緑の下縁フレームのメガネを掛けた艦娘、金剛型 戦艦 4番艦 霧島だ。


霧島「比叡お姉さまがここで金剛お姉さまに張り付いていたら、埒が明かないでしょう?」

比叡「むぅーーーっ!」


霧島に図星を突かれてほっぺを膨らませる比叡。

そんな比叡を他所に霧島は、比叡と金剛の間に入り、金剛に声を掛けた。


霧島「…金剛お姉さま?お茶会の準備が差し迫っているのでは?」

金剛「んふー…ハッ!そうデシタ!ワタシとした事がテイトクを発見した嬉しさのあまり二…っ!」


霧島の的確な指摘により、本来の趣旨を思い出した金剛は、床に倒れた提督の上から素早く退いて、提督の背中に右腕を掛けてスッと引き起こし、左手で提督の左手を取った。


金剛「そ、Sorryネ…テイトクぅ…」

提督「い、いや、大丈夫だから…」


先程の元気一杯の雰囲気から一転、ちょっとやり過ぎたことに対してしょぼくれる金剛。


提督「…それより早く執務室を開けないと…」

吹雪「司令官!開けおきました!」


さっきの騒動で会話に入る隙がなかった吹雪は、合鍵でさっさと執務室を開けて、騒動が収まるのを待ってくれていた。


提督「おぉ…助かる…みんな準備を急ごう」

霧島「ふふふ…流石は最古参の秘書官様。見事な機転ね♪」


クスリと微笑を浮かべながらメガネをクイッと上げて、吹雪の行動を称賛する


吹雪「い、いやぁ…今日は代理ですって〜。それにこの手の場面も初見ではないですし、変に介入しても金剛さんのパワーに圧倒されるだけなので…」


今回が初めてではないのと、諦めと対処法をすでに身につけて、霧島に対して苦笑いで答える吹雪。


金剛「うぅーっ!ブッキーも言うようになったデース…」

比叡「(あぁ…むくれ顔のお姉さまもまた…///今日も色んなお姉さまの表情が見れて幸せだなァ〜♪)」


そんな吹雪の自分に対するいなし方を身に着け始めた吹雪にむくれる金剛と、何があってもブレずに金剛推しを貫く比叡。


この姉妹が絡むと実に艦娘の性格が濃ゆいかが、よくわかる象徴的な場面である。

………
……


こうして紆余曲折ありつつも、提督と吹雪、更にそこに霧島が加わって書類を処理する班と、お茶会の準備をする金剛と比叡が、各々の役割の為に執務室内を行き来していた。

コンコンコン


加賀「…加賀です、お茶会に参加しに参りました」

提督「どうぞー」


ガチャ…


加賀「…あら?もう準備が出来つつあるのね…もう少し早く来ればよかったかしら…」

金剛「加賀サン、Noproblemネーっ!」

加賀「そう…金剛さん、お茶会に招いていただいて、ありがとうございます」

金剛「遠慮はいりまセーンっ!最高の紅茶を振舞うカラ、楽しみにしていて下サーイっ♪」

加賀「ふふ…えぇ…楽しみにしているわ」


金剛にお茶会に誘ってくれたことに対するお礼を述べてから、加賀は執務席に向かって執務席の前に立った。


加賀「提督、仕事の方はどう?」

提督「ん?もう少しでキリが付きそうだよ…これも吹雪と霧島のおかげさ…」

吹雪「何とかお茶会開催までには間に合いそうです!」

霧島「私は、御二人に資料やらの整理と書類の纏めをやっただけなので、大したことはしてないですよ」

提督「いや、やるとやらないとでは大違いさ…こうなると人海戦術は効果覿面だよ…2人共ありがとう」

吹雪・霧島「い、いえいえ…///」


改めて面と向かってお礼を言われて照れる2人。

その様子を見ていた加賀はと言うと…。


加賀「(…まったくこの人は相変わらず天然で褒め千切るんかだから…どうしょうもなく困った人だわ…)」


内心で盛大にため息を付きながら、提督をジト目で見ていたのであった…。


1500時

そんなワイワイガヤガヤとすでに騒がしい執務室に来客が…。

コンコンコン


榛名「榛名並びに演習に参加した他5名、参りました!」

提督「おっ!本日の主役が来たな…どうぞ〜」


ガチャ

パチパチパチパチ!

榛名達が部屋に入るや否や、執務室に居た全員からの拍手が湧き上がった。

そして、主賓席を設けてある場所に演習組を座らせて、部屋にいる他の艦娘達も着座して、皆が提督に視線を送った。


提督「んんっ…演習艦隊の諸君、本日の対決は色々と考えさせられる演習とはなったが、辛くも困難な任務を達成し、この泊地の力を内外に示すことができた事を誇りに思う。…また勝つこともあれば負けることもあるだろう。だが、立ち止まらずに共に歩もう…そして…」

鈴谷「ちょちょちょっ!提督ってば!」

提督「ん、なんだい鈴谷?」

鈴谷「ちょっち提督固スギィ、演習お疲れ様でしたの会なのに、それじゃあ年末年始の挨拶とか訓示と変わんないってばぁ〜」

提督「お、おぉ…何か悪い…」


フフフッ…
クスクスッ…
ハハハハハっ…

気軽な会のはずがいつもの癖でついつい固い挨拶になってしまい、鈴谷に咎められる一幕で、皆から微笑を貰って、本来の趣旨を思い出した提督。


提督「えーっと鈴谷から巻けとのお達しなので、簡潔に言う。みんなお疲れ様。この席でお茶とお茶菓子でゆっくり歓談を楽しんでほしい。それと、この席を用意してくれた金剛達に感謝するように」

金剛「Hi♪皆サーン、楽しんでいってくださいネー♪さ、ドンドン飲んでくださいネー♪」


そう言うと金剛はウィンクが合図となり、お茶会は緩やかに始まるのであった。

………
……


皆思い思いの場所で思い思いの相手と話しながらのお茶会は、和やかな時間が流れていった。

…そんな中、提督だけは執務席に座り、金剛の淹れてくれた紅茶を飲みながら、今回の演習結果の分析とまとめをしていた。

…皆呼んだは良いものの、少しタイミングを逸して、なんとなくあぶれてしまったのが実情である。


提督「(…ふむ…両軍とも夜戦で殆どが大破艦が続出したって感じか…うぉ、夜戦突入前と夜戦突入時に長門さんが暴れるだけ暴れて相手から大破を量産して、最後にワンパン食らって行動不能か…随分と頑張ってくれたみたいだなぁ…)」

提督「(鈴谷と阿武隈も宣言通りで、優勢確保の後は、2人で相手を引っ掻き回して、的を絞らせないようにしてくれてたな…そして鈴谷と阿武隈と、同じ行動をしながらも、火力を出したビスマルクが2人を庇って、その時の被弾が計5発!…随分頑張ったな…)」

提督「(陸奥さんも昼戦終了時に大破を貰うも、夜戦時に及ばずながらも相手の牽制を続けてくれていた…やっぱり長門型の2人は、頼りになるなぁ…)」

提督「(そして、めっぽう夜戦に強かった桂島泊地の摩耶と、それを補佐していたアトランタを止めたのが榛名か…榛名が止めてくれてなければ結果は分からんかったな…)」


提督がまた机にかじり付いて、報告書とにらめっこしていた時、執務席の前に立ちはだかる人影に、提督は全く気付いていなかった。

…サッ!

するとその人影は、提督が食い入るように見ていた報告書を取り上げたのだ。


提督「…えっ?あ…」


一瞬の出来事だったので、何が起こったか分からず見上げると、そこには報告書を摘んでいる長門がいた。

その表情は少し呆れているように見えた。

…もちろん長門も場の空気を読んで、あまり大振りに動かずに行動を起こした。
…周りは提督と長門とのやり取りを気にしている艦娘は一部を除いてはいない。


長門「…ふぅ…全く、そうして弛まず仕事熱心なのはいい事だが、今この場で1番休まなければならないのは、提督、貴方だ」

提督「え?えぇ?」


何でそんなことを言われるか訳がわからず、目を白黒させている提督に、長門はさらに言葉を投げ掛けた。


長門「折角、金剛が淹れてくれた紅茶も冷めてしまうし、もう紅茶がカップから無くなりそうじゃないか、さっさと執務席から席を外して皆がいる場所へ行けこの馬鹿者」

提督「ア、ハイ…」


周りを威圧しない程度の指向性を確保しつつも、威圧感たっぷりの長門の存在感に、そそくさと執務席から退散して、とりあえず金剛の元へ、紅茶のお代わりをしに向かう提督。

そんなすごすごと退散する提督の後ろ姿を見ていた長門はというと…。


長門「(…違う!違うんだ提督っ!こうじゃないんだっ!…もっと…もっとこう…優しい声のかけ方があるだろうがっ!一体何をしてるんだ私はっ!)」


…提督には効果覿面だった反面、本人が思っていた方向性とは、違うアプローチだったのか、長門は眉間にシワを寄せて、他の皆に悟らせないように目元を右手で軽く覆って、自責の念に苛まれていた。

…ひとしきり後悔した後に、いつもの表情にまで立て直し、元の席に戻った長門。

…その様子の一挙手一投足を見ていた陸奥は、視線はまっすぐ向いたままに、憮然とした表情で紅茶を啜りながら、ボソリと呟いた。


陸奥「…ふぅ…最後の間髪入れずに入れた " 馬鹿者 " はあり得ないわ…100点中30点よ、長門…」

長門「<((´・ω・`))>」


陸奥の冷ややかな言葉が、演習の時とは違うダメージになって長門の心に深々と突き刺さり、震えながら頭を抱える始末…。

…上手く気遣いのできる妹は、不器用な姉には辛辣なのであった…。


…そんなやり取りが背後で行われているとは露知らずの提督は、紅茶のお代わりを貰うべく、金剛に声をかけていた。

提督「あ、金剛、紅茶のお代わりを貰えるかな?」

金剛「Oh!もちろんデース♪」


金剛が紅茶をポットからソーサーに注ぐ動作を眺めていると、後ろから提督に向けての声が飛んできた。


鈴谷「あ!提督やっとこっち来た!ちょっちこっち来るしぃー」

提督「あ、あぁ、わかった、金剛お茶ありがとう」

金剛「ふふっ♪気にしないで下さいネー♪皆提督と話したくて仕方がないんダヨ♪行ってあげて下サイ」

提督「ん、わかった、じゃあまた後で」


そう言うと、鈴谷たちが座っているソファに向かった提督。

そこには鈴谷を筆頭に阿武隈・吹雪・榛名・加賀が座っていた。


提督「やぁ、みんな楽しくやってるかい?」

鈴谷「うん♪紅茶もお菓子も美味しいし、色んな人とお話も出来るとなりゃお茶もお菓子も進むねぇぃ〜♪」

阿武隈「ホントです〜♪提督♪私達も呼んでくれて本当にありがとうございます♪」

吹雪「…あの…さっきから気になったんですけど、長門さん頭抱えてますけど何かあったんでしょうか?」

榛名「…えぇっと…先の演習で、大破で行動不能になったとはいえ、戦績的にはMVPでしたし…どこか具合でも悪いのでしょうか…?」

加賀「…吹雪さん、榛名さん、あまり気にしないであげた方がいいわ…あれはあれで、おそらく今は一杯一杯だろうから…」

吹雪・榛名「?????」

提督「いや、このお茶会はあくまで榛名と金剛達のお茶会に便乗させてもらっているだけだよ…俺は立場上の関係でそれをお願いできる立場にあるだけでしか無いよ…みんな良い娘ばかりで有り難い限りだ」

………
……



鈴谷「…えぇー…提督…それマジで言ってんの?」


「うっわ、ちょっと待って何言ってんのこの人」みたいな顔を浮かべる鈴谷。


阿武隈「うーん…そんなに謙遜することはないと思うんですけどぉ…」


「私は本当に感謝してるのになぁ…」と気持ちが伝わらないことに歯痒そうな表情を浮かべる阿武隈。


吹雪「(…うーん…個人的にはやっぱり司令部は上官としては、これほど適した方はいないと思うんだけど…今となってはちょっと、みんなの気持ちを考えたら手遅れ感が…)」


今の各艦娘の心模様を見透かすように、今の状況を注視している吹雪。


榛名「(提督…私達の好意は本物のはずなのに…やっぱり上司と部下という立場があって、甘えて下さらないのでしょうか…榛名…ちょっと寂しいです…)」


自分が提督に向けている好意は本物だと確信しているのに、受け取ってもらえず、自分が艦娘である事が少し妬ましく思う榛名。


加賀「(…元々、職務に徹される方だとは存じていますが…流石にこれは、お灸を据える必要があるかもしれませんね…誠実すぎるのも考えものです…)」


自身、やきもきしていた事もあってか、この状況に業を煮やして、思い切って行動に移そうと考えている加賀。


提督「…あれ?なんか俺、変なこと言った?」


…そして、そんな艦娘各々の想いも露知らず、一体何事?と言わんばかりに戸惑う提督。


陸奥「(はぁ〜…ホンっと提督ったら鈍感なんだから…まぁ、これ位好意に鈍感な人じゃ無いと、務まらない職場なのはわかるけど、いい加減じれったいわよねぇ…)」


加賀同様、今の現状に焦れったさを感じて、現状を打開するには、直接殴りこむしかないと考えている陸奥。


長門「(むぅ…どうすれば…どうすればこの気持ちが提督に伝えられるんだ…こんなにも提督の事を慕っているというのに…)」


先程の提督に向けてしまった、無意識な威圧と毒気満々の陸奥のツッコミのダメージから立ち直れず、腕を組んで悶々と黙りこぐっている長門。
 

ビスマルク「…?えっ?みんなしてどうしたというの??」


まだまだ、提督に対してまだ好意を抱いてなくて、他の艦娘達のそれぞれの想いを、組み取れずにいるビスマルク。


金剛「(…テイトクは誠実な御方デス…今は立場上の関係で、ワタシ達の好意が素直に受け取れないでいるみたいだカラ、何か切っ掛けがあれば、関係が一気に進む気がするデスネ…)」


…今は給仕に徹して、少し離れた視点で冷静に全体の雰囲気を察知して、答えは出しているが、紅茶を啜りながら素知らぬ顔を貫いている金剛。


比叡「(…なんだか変な空気が漂いつつあるなぁ…私だってホントは司令の事は、憎からず想ってるけど、強敵揃いな上に金剛姉さまの手前、抜け駆けはちょっと…)」


何だかんだ言いつつも、提督の事は好きと自覚するものの、既に提督に対しての好意が全開の金剛の手前を気にする比叡。


霧島「(…ふむ…この空間にいる顔ぶれだけでも、この状態…これが他の艦娘達にも及べば、ひと悶着有りそうですね…ま、かく言う私も、他人事ではないんですけどね…)」


今後起こりうる騒動を予感しながらも、その騒動に参加する気満々の霧島。


…そんな各々が "思うところあり" の状態で少しお茶会全体のトーンが下がったのを見かねた吹雪が、突然立ち上がった。


吹雪「あ、あの金剛さん!」

金剛「ン?ブッキーどうしましたカ?」

吹雪「こ、紅茶のお代わりを所望しますっ!」


吹雪のその声はあまりにも大きな声だったので、皆の視線は吹雪に集中するも…。


金剛「フフーン♪気に入ってくれたんデスネ、ブッキー、さぁ何杯でも飲むデース!ささっ、みんなも遠慮は無しデスヨーっ!」


その思いを汲んで、金剛も負けないくらい明るい声で答えて、場の空気を丸めたのであった…。

…一瞬、変な空気が漂ったお茶会だが、吹雪の素っ頓狂な一言と、金剛の機転で何とか場を立て直し、その後は特に目立った変化はなく、お茶会は1700時まで行われて、その後は各々の都合があるため、お茶会は解散となった。


1800時

………
……


加賀「…陸奥さん、ちょっといいかしら…」

陸奥「…あら?加賀、奇遇ね。私も丁度あなたに声をかけようと思っていたの」


お茶会解散直後の執務室前の廊下。


加賀は陸奥を呼び止め、それがわかっていたかのような口振りの陸奥。


加賀「…私から提督へ今晩、話があると伝えておこうと思っているのだけれど…それでもいいかしら?」

陸奥「ホント?それは助かるわ…それじゃあ私は、長門に示し合わせをしておくわね」

加賀「ええ、そちらもよろしくお願いします…これは今後の私達の為でもありますから、ここらで提督にお灸を吸える必要がある…と…」

陸奥「…ええ…私も同意見だわ…提督を見てるといい加減焦れったくってね…ここらでガツンと言っておきたいと思っていたの」

加賀「…それでは、今宵の突撃の時間が決まり次第、メールでお知らせしますので、示し合わせの方は改めてよろしくお願いします」

陸奥「はぁい♪任せておいて♪」


陸奥はそう言うと、手をヒラヒラ振って歩きだし、先程から加賀との会話の間「何事?」と言うような顔で、陸奥を待っていた長門と部屋に戻っていった。


加賀「…さて…そうと決まれば…」

………
……


〜同時刻 執務室〜


提督「…しかし、あれだな、金剛の紅茶のストックって、どんだけ持ってんだ?ド○えもんのポケットみたいに、ホイホイと出てきたけど…」

榛名「ふふふ…金剛お姉さまは気に入った紅茶の何種類かを常時大量にストックされてますので、それらを切らした事は一度もないんですよ。…たまに個人的な探究心で変わった紅茶を少量取り寄せて、試飲は欠かさずされてますね」

提督「むぅ…紅茶も凝ると、中々奥が深そうだな…」


吹雪や霧島の助力によって、お茶会前に殆どの仕事を終えていた提督は、本来の秘書官である榛名と一緒に、仕事の詰めの作業をしながら、先程のお茶会の余韻に浸っていた。


提督「…またあんな時間を、みんなで共有したいものだ…」

榛名「…ええ…あ、あの…提督…少しよろしいでしょうか?」

提督「ん?なんだろう?」

榛名「え、えぇっ…と…その…」

提督「…?」


先程の会話に比べて、何やら歯切れの悪い口調の榛名に対して、少し違和感を感じた提督。


提督「…何か思うことがあれば、遠慮なく言っていいよ?」

榛名「…て…くは…わ…したち…とを…おも…ですか?」

提督「…ん?すまない、聞き取れない箇所があったんだけど…」

榛名「…!で…ですから提督はっ……!」


コンコンコン


榛名がもう一度想いを切りだそうとした矢先に、執務室への訪問者のノックにより、遮られてしまった。

会話の最中にノックされたドアに気を取られた2人。

榛名が「来訪者を優先してくれ」と言わんばかりに、自分の発言を引っ込めて俯いてしまった。

そんな榛名に申し訳無さを感じながら、提督はドアの向こうから声を掛けてくる相手は誰かということに集中した。


加賀「…提督、加賀です。今、中に入って話をしても大丈夫かしら?」

提督「…あれ?…はい、どうぞー」


ガチャ…

先程執務室から退室した加賀が、ものの数分後にまた執務室を訪れてきたのだ。


提督「加賀さん?どうかした?何か忘れ物とか…?」

加賀「…ええ、そうね…似て非なるもの…かしら…」

提督「???」


加賀の何やら抽象的な物言いに、少し困惑の表情を露わにする提督。


榛名「…あの…加賀さん?私は席を外しましょうか?」


何か込み入った話であると察した榛名は、自分はこの場にいない方がいいかと気遣って、加賀に提案する…が…。


加賀「…いいえ、榛名さん…あなたにもこの場に居てもらわないと、話にならないわ」

榛名「…えっ…」


…しかし、逆にここに居ろと言わんばかりに、榛名の申し出を却下した加賀は、提督に向かって話を続けた。


加賀「…提督、今宵2000に予定はあるかしら?」

提督「2000?夕食の後だし、仕事はもう少しで片付くから、大丈夫」

加賀「…そう…なら決まりね。2000に私 " 達 " にその時間をください…良いですね?」

提督「わ、わかった…とても重要な話かい?」

加賀「…ええ…私達にとって…とても重要な話ですので、その時間には必ず執務室に居て下さい…あぁ、それと榛名さん…」

榛名「…?」

加賀「…あなたもその席に参加する事。よろしくて?」

榛名「えっ…わ、私も…ですか?」


予想外の展開で、困惑を隠せない状態の榛名に痺れを切らした加賀は更に畳み掛ける。


加賀「…提督、少し榛名さんを借りるわね」

提督「え?…ア、ハイ…」


提督に許可を得た加賀は、榛名の手を引っ張り、執務室の隅まで連れて行った。


加賀「…あなた…提督に言いたいことがあるんじゃなくて?」

榛名「…っ!」


提督には聞こえない声量で、明確な指摘に対して、榛名は動揺を隠せず、揺れる瞳で加賀の目を見る。


加賀「…大丈夫…そう思っているのはあなただけではないのよ…後で私と長門さんと陸奥さんが来るから…」

榛名「…あ…」


加賀その言葉を聞いた榛名は、その言葉の意味を察して、表情が少し落ち着く。


加賀「…ん、少しマシな顔つきになったわね…じゃ、2000にまたここで落ち合いましょう」

榛名「…はい…加賀さん…」

加賀「…提督、今の段階での私からの話は以上よ。榛名さんを返すわね」


加賀はそう言うと榛名の肩を軽く叩いて「もう行っていい」と言って、榛名は秘書艦席に戻ってきた。


加賀「では提督、話の続きは2000にしますので、時間厳守でよろしくお願いします…
す っ ぽ か し た ら 承 知 し ま せ ん か ら …」


提督「り…りょうかい…」


加賀の最後の念押しの言葉と形相に、凄まじい威圧感を感じた提督は内心震えた。


加賀「…別に取って食いはしないから、安心して頂戴。…では後程…失礼しました」


…ガチャン…


先程凄まれたのが嘘のように素に戻った加賀は、退出していった…。

………
……


加賀「…はぁ…」


執務室を出て自室に戻る廊下の途中、加賀はふと立ち止まり、ため息をついた。


加賀「(…またやってしまったわ…これじゃあ長門さんと変わらないわね…)」


先程の一部始終で、提督に対する自分の態度に、念を押すために仕方がなかったとはいえ、もっと良い言葉遣いが出来なかったのかと、自嘲する加賀なのであった…。

………
……


〜同時刻の執務室〜


提督「…榛名も思うところがあるのかい?」

榛名「…はい…ですが、今は言えません…」

提督「…ん…そっか…」

榛名「…提督」

提督「…どうした?」

榛名「…ちゃんと…受け止めてくださいね?」

提督「ん…?うん?」


そう言うと榛名は俯いてしまい、その真意は2000時に持ち越される事となった…。

……………
…………
………
……


お疲れ様です!

今回はここで閉めようと思います。

…これはシリーズを通しての言える事なのですが、タイトルにした割には、全く舞台としている場所の土地感が、全く臭わないお話となってしまいましたが、今後の話の中で徐々に小出しででも、出していければなぁ…と言う風に思っています。
※手っ取り早い解決方法は、現地に行って空気感を掴む事なんですが…。
(流石に遠くて無理w)

…書きたいことを書いているうちに、書ききれなくなった ( 書くと超長くなるw ) ので、今回はここで区切りをつけます。

…さて、次回はこの泊地での、提督と艦娘達( 主に特定の艦娘 ) の今までとは違う関係へ変わっていく " 夜編 " を描こうと思います。

少しお暇がある方は、覗きに来てください〜(_ _)

最後まで読んでいただきありがとうございました!m(_ _)m

それでは、また!(>ω<)ノシ
Posted at 2020/06/26 22:17:08 | コメント(0) | トラックバック(0)

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