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2018年07月01日

SKYACTIV-D 1.5 は、なぜ 1.8 になったのか

□ VWディーゼルゲート事件

2015年9月18日、アメリカの環境保護局(EPA)が記者会見を行い、VWが排ガス検査時に不正を行っていたと発表しました。
これがのちにVWディーゼルゲートと呼ばれる事件の始まりでした。

不正が発覚したのは、米国の環境問題NPOの調査が切っ掛けでした。彼らが実走行時の排ガスを計測すると、走行時に基準値の最大40倍もの窒素酸化物(NOx)が排出されていることが判明したのです。
台上試験にくらべて実走行時(RDE)は、加速度や速度の違いで NOx の排出量は多くなるものですが、それにしても多すぎたのです。
VWは当初、ソフトウエアの誤作動だとして2014年12月にリコールを行ったのですが、当然のことながら改善は見られず、最終的に VWは検査時に不正を行っていたことを認めざるを得なくなりました。

 第318回:VWのディーゼル不正はなぜ起きたのか――
 エンジン開発のプロフェッショナルが事件の背景を語る
 http://www.webcg.net/articles/-/33361

□ 実走行時の排ガス規制(RDE)への影響

当時、欧州では排ガス規制を台上試験だけではなく実走行時(RDE)でも行う方針は決まっていました。
しかし RDE をめぐっては欧州委員会と欧州自動車工業会(ACEA)などの間で綱引きがあり、自動車メーカーとしては、できるだけ規制をゆるくしてほしい、そうでないと技術的に規制を実現できないと主張していたのです。

ところがこの VWディーゼルゲート事件で欧州自動車工業会(ACEA)は欧州委員会に一気に押し切られ、次のように規制を実施することとなりました。



 欧州における検査方法見直しの動向について
 http://www.mlit.go.jp/common/001121839.pdf

つまり、台上試験の NOx 基準値である 80mg/km に対して、新型車は2017年9月1日から、継続生産車も2019年9月1日からは 2.1倍の 168mg/km(EURO6d-TEMP)の規制を守らなければならなくなりました。
更には新型車は2020年1月1日から、継続生産車も2021年1月1日からは、120mg/km となるのです。(Euro6d)

□ マツダの SKYACTIV-D 1.5 はどうなのか

まずはVWディーゼルゲート事件直後に行われた、国交省の調査です。



 排出ガス路上走行試験等結果取りまとめ (国産自動車)
 http://www.mlit.go.jp/common/001121838.pdf

この時の走行コースは、調布の交通安全環境研究所から都内を走行して練馬ICから関越道を通り、鶴ヶ島ICで降りてバイパスを通って熊谷運動公園に至るというルートです。

 排出ガス不正事案を受けたディーゼル乗用車等検査方法見直し検討会 中間とりまとめ
 https://www.env.go.jp/air/car/conf_diesel/ref01.pdf

この結果、SKYACTIV-D 1.5 のデミオおよび 2.2 の CX-5 は、実走行時でもほぼ台上試験(JC08モード)と同等の排出量となる、非常に優秀な成績を納めました。

では SKYACTIV-D 1.5 は、そのまま欧州の新しい排ガス規制をクリアできるのでしょうか。

欧州でもドイツの automotor und sport誌が、独自に実走行時の排ガス試験(RDE)を行なっています。

 日経Automotive 2016年3月号 公道排ガス試験 どのディーゼル車がクリーンか
 http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/mag/15/318380/201603/

これはシュトゥットガルトからケンゲン、アイヒェルブルクを経由してショルンドルフに至る約 100km を走行し、排出された NOx を測定するもので、前述の Euro6d(-TEMP)の測定方法とは異なりますから、この測定結果をもって Euro6d(-TEMP)に適合しているかどうかは語れません。

しかし、競合他車と比べることはできます。

結論から言えば、VWディーゼルゲート事件が発覚した直後、2015年末時点で試験が行われた、Euro6 (Euro6d-TEMPではありません) に適合したディーゼル車、6車種と比較して、SKYACTIV-D 1.5 を搭載した CX-3 は3番目に位置していました。

他車が NOx 吸着還元触媒や、SCR(選択還元触媒)のどちらか、または両方を搭載しているのに対して、そのどちらもない SKYACTIV-D 1.5 が7車種中3位とは、大変良く健闘しています。
とは言え NOx 排出量は 284mg/km、台上試験での基準値 80mg/km の 3.6倍ですから、余裕で Euro6d に適合しそうだとは思えません。

国交省の測定値に比べて排出量が多くなっている理由は、やはり日本国内より格段に負荷が高いという面があるように思います。
シュトゥットガルト市内こそ最高時速 50km/h ですが高低差はあり、そこからケンゲンまでは最高時速 80km/h、ケンゲンからアイヘェルベルクはアウトバーンで最高時速 130km/h、そしてショルンドルフまでは高低差と速度変化が伴っての最高時速 100km/h です。
実際、ケンゲンからアイヘェルベルクのアウトバーンでは、基準値の7.3倍もの NOx を排出しています。

今後の実走行時の排ガス試験(RDE)、つまり Euro6d(-TEMP)への対応については、CX-3 の開発者が次のように答えています。

 マツダCX-3 開発者インタビュー これが集大成
 http://www.webcg.net/articles/-/38791

「NOx(窒素酸化物)の排出量は、排気量の小さいエンジンほど早く立ち上がってきます(=より低負荷の状態からNOxの排出量が増える)。マツダではこのモデルから燃費表示をJC08からWLTCモードに変更しています。さらにRDEまで見たときに、NOxの立ち上がりを遅らせて高負荷まで使える状態でモードテストを走りきるためには、このくらいの排気量が必要でした。もちろん1.5リッターでも後処理装置を付ければクリアできると思いますが、マツダとしてはそれは“なし”でやりたかった。」(冨山主査)

エンジン出力(排気量)に比べて負荷が軽いほど、NOx の排出量は減る、だから排気量を増やして負荷を減らし NOx の排出量を減らす必要がある。D1.5 だと前出のNOx 吸着還元触媒や、SCR(選択還元触媒)が必要になるが、それを避けるために排気量を増やした、ということになります。

□ 日本への影響

日本でもこの VWディーゼルゲート事件の影響は少なくありません。
国交省は「排出ガス不正事案を受けたディーゼル乗用車等検査方法見直し検討会」を立ち上げ、日本では予定されていなかった実走行時の排ガス規制(RDE)を提言しています。

 排出ガス不正事案を受けたディーゼル乗用車等検査方法見直し検討会
 https://www.env.go.jp/air/car/conf_diesel/post_9.html

『このため、路上走行検査については、欧州の路上走行試験法を参考とし、同試験法 における評価手法である Moving Averaging Window 法を採用しつつ、日本と欧州の 走行環境(走行速度、気温等)、WLTC(乗用車等世界統一試験サイクル)の適用フェ イズの違いを考慮して、別紙2の路上走行検査方法とするとともに、路上走行検査に おける NOx 排出量は台上規制値の 2.0 倍までとして導入することが適当である。』

□ 排気量増加のメリットとデメリット

人は古来から、車の車格を排気量で判断してきました。
デミオに 1.3L は適正、1.5L は大きめ、1.8L は過大、と言う人は少なくありません。
車の車格を排気量で判断する人は、排気量が大きくなるほどエンジンのトルクと出力が上がり、その分重くなり、燃費も悪くなるという意識があるのだと思います。

しかし、SKYACTIV-D 1.8 は 1.5 と同等の最大トルク、ほぼ同等の最大出力、ほぼ同等の重さです。
違うのは税金と燃費と排ガスだけで、燃費と排ガスは向上します。

となると、SKYACTIV-D 1.5 が 1.8 に全面的に置き換わるのは私は当然だと思いますが、それでも抵抗がある人はいるのでしょうね。

□追記

やはりこの記事の通り、マツダは新開発の排気量1.8Lのディーゼルで、尿素SCR(選択型還元触媒)を使わずに、2020年から欧州で始まる厳しい排ガス規制を達成する見通しなのだそうです。

 ディーゼル再興にのろし 常識を覆すマツダ、20年規制達成へ
 https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/00795/

□実は・・・

2015年の一般財団法人日中経済協会、日中省エネルギー・環境総合フォーラムで人見光男常務(当時)が発表した中に、「大排気量はコストフリーのエミッションデバイス」だとする発表がすでにありました。



ここに書かれている通り、小排気量の SKYACTIV-D1.5 は、D2.2 に比べて比較的低トルクのうちから NOx の排出量が増えています。

つまり、低負荷領域しか使わない燃費測定である欧州規格 NEDC から、現実の負荷に近い WLTC や、実際に走行して測定する RDE に移行すると、低トルクのうちから NOx の排出量が増える D1.5 は不利だということです。

2015年の時点で、ちゃんとそういったことも発表していたとは。

□追記の追記

モーターファン誌が私のブログよりずっとわかりやすい記事を公開していますね。

 排気量258ccアップ。マツダCX-3が積むSKYACTIV-D1.8はなぜ排気量を大きくしたのか?
 https://motor-fan.jp/tech/10005758
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Posted at 2018/07/02 12:26:41

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この記事へのコメント

2018年7月3日 21:22
こんばんは。
日本人、ヒエラルキーもありますが…排気量大きいと効率(燃費)が悪い。無駄な余裕。
という考えから抜けれてないのが問題で。
ヴィッツのリッターカー(昔でいうシャレードか)も日本人らしいのかも。
ただヨーロッパもNAで排気量小さいのが多いですがね。小さいのをコキ使う文化。


最初デミオの1.5Dが発売が2014か2013年に分かった時の正直な感想は若干小さいなと私は思いました。
理由は
・デミオのガソリン理想排気量は1.5L程度だと思ってたので
それに理想な排気量ディーゼルは1.7か1.8程度だろうと。
後からガソリン1.5が遅れて追加はイツだ!
と2015年の購入時に悩んだ。(ようやく追加になりそうですが)

・過去に1.7Dもマツダにあったのも知ってたし、理想より排気区分優先させたなと。
で日本だけじゃなくタイの優遇税制。発売してないが将来的にインドも?
そしてマツダの言う
「なんとか(エンジンベイ)押し込んだ」というのは…まぁ…そうか?(笑)という印象。
更に狭い他社も何とか入れてるけど。

こんな印象でした。


コメントへの返答
2018年7月22日 11:28
>排気量大きいと効率(燃費)が悪い。無駄な余裕。
という考えから抜けれてないのが問題で。

まさにその通りで、それでもノッキングを起こすガソリンエンジンにターボを取り付けるのが大好きとか。

マツダはずっと以前から「余裕の排気量を低負荷で使うのが一番理に適っていて燃費も良い、化石燃料を無駄遣いさせているのは旧態依然の税制だ」と主張しています。

ということで、デミオのガソリンエンジンの理想排気量は1.5程度というのは同感です。
で、ディーゼルはさらに排気量が必要です。というのも空気量の余裕がないと、EGRなども効かせられないからです。
となると、ガソリンエンジンと同様に余裕を見ると 1.8 かな、と。

欧州のダウンサイジング信仰がRDE(実走行での排ガス規制)によって不利になり、マツダの主張通りライトサイジングに移行しつつある中、マツダのダウンサイジングエンジン(と私が以前から主張している) D1.5 が 1.8 にライトサイジングされるのは、非常に興味深いです。
2018年8月9日 21:03
コメントします。
ライトサイジングは良いですね。

1.8でも1.5でも同じ重さとは、そもそも共通ブロックの1.5がとても重いということでしょう。

又ディーゼル車はガソリン車より約60キロくらい前輪荷重が重いです。高速向きです。
コメントへの返答
2018年8月13日 14:46
コメントありがとうございます。

結果的に軽量な D1.8 が実用化されると、D1.5 は重いエンジンではないかと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。

まず、D1.8 と D1.5 は共通のエンジンブロックではないはずです。
マツダはエンジンも混流生産で、しかもNCでシリンダーの穴あけまで行うため、他社の様にエンジンブロックを共通化する必要がありません。

D1.8 は D1.5 と同等の最大トルクと最大馬力ですから強度を高める必要はありませんが、シリンダーサイズが大きくなっていますから、ブロックは多少大きくなっているはずです。

その分の重量増を、ピストンやクランクなどの部品の軽量化で補い、同等の重量に収めたという説明がされています。

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「@おとぅさん 軽油ってレギュラーガソリンと比べて、店舗によって値段のばらつきが大きいと思います。」
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