■論理的な思考とは
本来は、根拠があって、結論を導くのが論理的な思考です。
しかし、意外と多くの人は、結論を先に想像して、その結論に都合の良い根拠を主張するということをやってしまいます。
これは学者であっても陥る罠です(
特に文系)
そういう人は、結論Aを導くための根拠Aが否定されると、根拠Bを持ち出し、それが否定されると根拠Cを持ち出し、永久に結論Aを否定しようとしません。
こんなのは議論とは言いません。
しかしこういう罠があるからこそ、印象というのは大事だし、新聞やテレビや雑誌は「印象操作」に躍起になる訳です。
■総理のご意向
本当に世の中にはバカしかいないのかと思ったのが、加計学園騒ぎ。
発端となったのは、誰がいつ作ったかもわからない「総理のご意向」と書かれた文書。
新聞やテレビでは、一斉に「総理のご意向」という一文だけを取り上げて、「加計学園獣医学部設立は、総理の友人である加計氏と総理の強い意向を踏まえてのものではないか、そしてその陰には何らかの不正が絡んでいるのではない」と印象操作を繰り返した訳です。
でも、その総理のご意向とやらの文書ですが、どれだけの人が全文を読んでいるのでしょうか。
ここにある一文を抜き出します。
「国家戦略特区諮問会議決定」という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見えるのではないか。
総理からの指示に見せかけなければならない、ということは総理からの指示ではないということです。
■総理からの指示に見せかける理由
この文書は誰が書いたのか、何時書いたのかも記載されていない、メモ程度の内容でしかないものですが、2016年9月26日に、文科省の牧野課長補佐が省内調整のために作成したものなのがわかっています。
なぜこのメモを牧野課長補佐は作ったのか、実はこの直前に牧野課長補佐はやらかしてしまっているのです。
■なぜ獣医学部を作ってはいけないの?
新たな大学や、新たな学部を作るには、学校基本法に基づく文科省の審査が必要です。
審査が必要なのは、必要な教育水準を維持するためなので当然ですが、逆に言えば法律上は、必要な教育水準さえ維持できれば、本来は自由に大学や学部を作れるのです。
しかし医学部や獣医学部は、新たな学部を作ることについては文科省は門前払いという形で「審査さえしない」という政策を取り続けてきたのです。
これは医師や獣医師をむやみに増やさない、医師も獣医師も社会に必要な人数は揃っている、という見解から、法律ではなく自分達が定めた省令に基づいて審査を門前払いしてきました。
これが岩盤規制と言われるもの。
加計学園は2006年頃から獣医学部の誘致を進めてきましたが、この岩盤規制によって法律で定められている審査すら門前払いされ、新規設立が認められてこなかったのです。
■潮目が変わったのが民主党政権
2007年、2008年と自民党政権では加計学園の獣医学部新設の提案が認められてこなかった訳ですが、2009年に民主党政権となり、「加計学園の獣医学部新設について実現に向けて検討」ということになりました。
2010年1月には、愛媛の加藤敏幸代議士(民主党)が、獣医師の定員増と獣医師の偏在問題について国会で質問。
2011年6月には、岡山の江田五月法相(民主党)など岡山・愛媛選出議員が獣医関係の特区勉強会を開催。
その後、自民党に政権が戻ってからは、実は5回も却下されています。
■牧野課長補佐のやらかし
やっと獣医学部新設に希望が見えてきたのは、2015年に加計学園が国家戦略特別区に申請してから。
2015年6月8日から国家戦略特区WGで、内閣府、農水省、文科省との合同ヒアリングが何度か行われましたが、その時の議事録が面白いです。
文科省「加計学園さん、獣医師が必要だというなら、その根拠を出してください」
内閣府「いやいや、獣医師が足りてるというなら、文科省が足りている根拠を出してください」
(文科省「え?」)
文科省「獣医師は足りてますよね、ねえ農水省さん」
農水省「獣医師の品質さえ確保できれば増やしても困らないです」
内閣府「獣医学部で学んだからといって獣医師になるとは限らないし」
(文科省「ええ?」)
内閣府「獣医師が十分に足りていると言えないなら獣医学部設立の方向で」
という流れが、2016年9月16日のWGヒアリングまでにあり、獣医学部設立を認めたくない文科省も、設立の方向で省内を調整しなければならなくなったのです。
(何しろ52年ぶりですから、審査のノウハウすら残っていない)
そしてその結果、2016年9月26日に作られていたのが『「国家戦略特区諮問会議決定」という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見えるのではないか。』です。
省内調整を「総理のご意向」で進めようとした訳です。
ちなみに余談ですが、このWGヒアリングが進められていた 2016年4月には、民進党が「地方創生に関する特別委員会」を開き、岡山選出の高井崇志議員(民進党)が、国家戦略特区に対して、加計学園の獣医学部開設を要望していたりします。
■加計学園ありきだったのでは?
加計学園ありきだったのは、加計学園を誘致した加戸元愛媛県知事も認めています。
何しろ、多くの大学に声をかけて、今治市への獣医学部新設の誘いに乗ったのは、加計学園ただ1校だったそうですから。
普通、他の大学はあえて文科省と喧嘩したくないんですよ。
だから加計学園しかいなかった、加計学園がいなかったら獣医学部新設はできなかった、という意味での加計学園ありき、ということです。
何も知らない人、何も調べない人の中は「加計学園と京産大が獣医学部新設に向けて1つの椅子を争った」と思い込んでいる人もいるようですが、これも新聞やテレビの印象操作です。
加計学園は今治特区案件、京産大が関西特区案件と、全く別々の案件であって、公募されるとしたらそれぞれ「1校だけ」が認められるのです。
■朝日新聞や毎日新聞の報道は?
この流れをきちんと説明すべきなのが、本来の報道なのですが、
加計学園の新学部「総理のご意向」 文科省に記録文書
https://www.asahi.com/articles/ASK5K0494K5JUTIL08N.html
岡山・加計学園
獣医学部新設計画 野党、徹底追及へ 集中審議要求
https://mainichi.jp/articles/20170518/ddm/002/100/124000c
この通り、見事なまでに、
「国家戦略特区諮問会議決定」という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見えるのではないか。
という一文は隠されています。
記事では全文紹介すらされていません。
「政府は国民に説明しろ」とか偉そうな人がたまにいますけど、政府は官房長官会見とかでも丁寧に説明していますよ。議事録も議論の中身がわかる程度には公開されています。それでも理解できないのは、政府の説明が足りないんじゃなくて、ひたすら新聞やテレビを鵜呑みにする国民が悪いんですよ。
■反撃してこない政治家ではなく、国民を攻撃したら反撃された毎日新聞
政治家、特に政権与党の政治家にはどんなデマを書いても反撃をしてこないのでいい気になったのでしょう。
毎日新聞は新聞一面で、特区WGの原英史氏を貶める記事を連載しました。
「政治報道冤罪」毎日新聞と戦う 政策シンクタンク代表 原英史
https://www.sankei.com/column/news/190628/clm1906280005-n1.html
ところが原英史氏は元官僚とはいえ、今は公務員でもなく一国民に過ぎません。
すぐさま様々な媒体で反論し、毎日新聞を訴えたのです。
これだけの記事を書いておきながら、毎日新聞は訴訟の場でこのように言い訳したそう。
1、あの記事は原英史のことを書いたのではない。
2、写真を貼り間違えた。
3、「会食」は間違えだった、「団欒」だった。
4、それも原英史の知り合いのことを書いた。
5、本人のことを書いたのではない。
毎日新聞が執拗に続ける「イジメ報道」について考える
https://diamond.jp/articles/-/206320
毎日新聞なんか読んでいたらバカになりますよ。
■この文書は誰がばら撒いたのか
この文書をマスコミにばら撒いたのは、あの前川
助平喜平元文科省事務次官と言われています。そしてそれを最初に記事にしたのはNHK。
この方、例の貧困調査でも有名ですが、文科省事務次官を辞任することになったのは、天下りの再就職あっせんに主導的役割だったから。
文部科学省における再就職等問題に係る調査報告
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/04/19/1382987_04.pdf
ですから当然、5600万円と言われる退職金受け取りについて、野党、新聞、テレビからかなり批判されていました。
行政のゆがみ究明を
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-02-06/2017020603_02_1.html
それが加計学園ネタを提供した途端、野党、新聞、テレビからはヒーロー扱いですからね。
官僚は本当に頭がいい。
結果的にこの騒ぎで得をしたのは「5600万円の退職金の追求を逃れたい元事務次官」と「岩盤規制を堅持したい既得権益側の役人」な訳です。バカな国民は、その道具にされたということ。
こうやって安易な政権批判に乗っかって、見事自分への追求を逃れた人がもう一組います。
そう、森友学園の籠池夫妻です。
森友学園騒ぎでは、当初保守系小学校を作るとして寄付金集めを行い、それが頓挫すると辻元清美議員らの働きかけに乗っかり、反政権の急先鋒として振る舞うことで見事、自分への追求を逃れました。
そして今更になって「辻元清美議員らが自分をコントロールしようとしてた、騙された」とやってる訳です。
籠池夫妻の動画・SNS発信が話題 野党や反政権と距離
https://www.sankei.com/politics/news/200508/plt2005080019-n1.html
いやほんと、天下りあっせん官僚といい、詐欺事件の主犯といい、素晴らしい身の振り方です。
■森友・加計学園騒ぎ以降の特区案件は停滞
岩盤規制に風穴を空け、既得権益を壊し、経済的発展を図るのが特区の役割でした。
しかし、特区に名乗りを挙げると、既得権益側の強大な力で、新聞やテレビが総力をあげて悪者にされるというのがわかった今、あえて火中の栗を拾おうなんて人はいません。
高橋洋一(嘉悦大)
https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1207250264895311874
「カケ以降、特区は動いていない。一部自民、一部野党、一部マスコミは既得権側をサポートしたため、特区が動かなくなり、その他既得権者はほっと一息し枕を高くしている。既得権を守るためにアベガーというわけだった」
何しろ民主党で追求の急先鋒だった玉木雄一郎議員は、香川県獣医師会副会長の父親を持ち、獣医学部を新設することに強く反対をする日本獣医師会から100万円の政治献金を受けていますからね。
結果として、族議員と既得権益と岩盤規制を守ったのは、新聞とテレビを盲信した国民自身だった訳です。
それでも政権批判をしたいのが野党、新聞、テレビです。
だって、族議員や官僚に恩は売れるし、新聞の購読者層は老人だし、テレビの視聴者層はオバさんですからね、妬みや怒りは視聴率につながるんです。