以前に SKYACTIV-X の発売が遅れた際に、SKYACTIV-X についてまとめた記事を書きました。
SKYACTIV-X って何がすごいの?
https://minkara.carview.co.jp/userid/2738704/blog/42562812/
ここで冒頭に書いた SKYACTIV-X の特徴は以下の通り。
- エンジン単体の燃費率は現行の「SKYACTIV-G」と比べて最大で20~30%程度改善
- 2008年時点の同一排気量の当社ガソリンエンジンから、35~45%の改善
- 最新の「SKYACTIV-D」と同等以上の燃費率
しかし実際に SKYACTIV-X が発売されて半年、日本では売れ行きも大して良くなく、高いと言われてしまう SKYACTIV-X の何が良いのか、改めて記事にしようかと思いました。
あえて言うなら、
・ディーゼルエンジンと変わらない燃費
・ガソリンエンジンより伸びやかな走り
そう書くと、WLTC燃費の数値を比較して、いやいや何言っているんだと言われそうですが、あえてそう書きます。
■ SKYACTIV-X の燃費
まず、マツダが公表しているように、先代 Mazda3(アクセラ)と比べて 30% の燃費改善を果たしているのは事実です。
ただし NEDC Combined での、6MT の比較です。
数値にして約32%の改善ですから、30%程度の燃費向上という謳い文句は嘘ではありません。
■ 現実の燃費は?
マツダの謳い文句では「エンジン単体の燃費率ではディーゼルと同程度かそれ以上」ということですが、車としての実際の実力はどの程度なのでしょうか。
ディーゼルとの燃費を比較する場合、Mazda3 も CX-30 も、SKYACTIV-D 1.8 を搭載していますから、このエンジンとの比較になってしまいます。
| X PROACTIV | XD PROACITV |
---|
WTLC | 17.2km/L | 19.8km/L |
WTLC 市街地 | 13.7km/L | 16.4km/L |
WTLC 郊外 | 17.6km/L | 19.7km/L |
WTLC 高速 | 17.6km/L | 21.8km/L |
Mada3 X PROACTIVE の WLTC燃費は 17.2km/L に対して、XD PROACTIVE は 19.8km/L と、結構見劣りします。
しかしこれはあまりに SKYACTIV-X にとって不利、不公平な比較。
だって SKYACTV-D 1.8 は、SKYACTIV-D 1.5 の後継で、ディーゼルエンジンの中でも燃費に優れたエンジンです。その代わりトルクはともかく、馬力は 117馬力ですからね。180馬力の SKYACTIV-X と比べるべきエンジンじゃありません。
本来であれば、SKYACTIV-X は SKYACTIV-D 2.2 と比較すべきもの。
でも残念ながら SKYACTIV-D 2.2 は Mazda3 や CX-30 には搭載されていませんから直接比較できません。
ではどうやって比較するのか。
そこで、SKYACTIV-G 2.0 を基準に、SKYACTIV-D 1.8/2.2 と SKYACTIV-X を比較してみましょう。
まずは現行 Mazda6 の 2.0S PROACTIV と XD PROACTIV の比較です。
| 2.0S PROACTIV | XD PROACITV | 燃費改善率 |
---|
WTLC | 15.0 | 17.8 | 119% |
WTLC 市街地 | 11.7 | 13.9 | 119% |
WTLC 郊外 | 15.4 | 17.6 | 114% |
WTLC 高速 | 17.2 | 20.8 | 121% |
念の為、現行 CX-5 の 2.0S PROACTIV と XD PROACTIV を比較してみましょう。
| 2.0S PROACTIV | XD PROACITV | 燃費改善率 |
---|
WTLC | 14.6 | 17.4 | 119% |
WTLC 市街地 | 11.9 | 13.9 | 117% |
WTLC 郊外 | 15.1 | 17.6 | 117% |
WTLC 高速 | 16.2 | 19.6 | 121% |
SKYACTIV-G2.0 と SKYACTIV-D2.2 を比較すると、どの車種もほぼ 120% 前後の燃費改善率です。
次に Mazda3 の SKYACTIV-G 2.0 と SKYACTIV-D 1.8 を比べてみましょう。
| 2.0S PROACTIV | XD PROACITV | 燃費改善率 |
---|
WTLC | 15.6 | 19.8 | 127% |
WTLC 市街地 | 12.1 | 16.4 | 136% |
WTLC 郊外 | 15.8 | 19.7 | 125% |
WTLC 高速 | 17.7 | 21.8 | 123% |
この通り、SKYACTIV-D 2.2 は 120% 前後の燃費改善率なのに対して、SKYACTIV-D 1.8 は WLTC市街地で 136%(日本ではこれが重要)、全体でも 130% 近い改善を見せています。
特に市街地が重要な日本では、SKYACTIV-D の中でも 1.8 は 2.5L NA ガソリンエンジン並みのトルクがありながら、燃料代はハイブリッドに匹敵する様なエンジンなんです。
それでは Mazda3 の SKYACTIV-G2.0 と SKYACTIV-X を比べてみましょう。
| 2.0S PROACTIV | X PROACITV | 燃費改善率 |
---|
WTLC | 15.6 | 17.2 | 110% |
WTLC 市街地 | 12.1 | 13.7 | 113% |
WTLC 郊外 | 15.8 | 17.6 | 111% |
WTLC 高速 | 17.7 | 19.0 | 107% |
ほぼ 110% 前後の燃費改善率です。
SKYACTIV-D 2.2 と比べても見劣りしてるじゃん!
はい、その通りです。
でもこの SKYACTIV-D 2.2 は急速多段燃焼を採用した最新型。
アクセラで採用されていた旧型 SKYACTIV-D 2.2 と比べたらどうでしょうか。
残念ながら旧型 SKYACTIV-D 2.2 は WLTC で計測された車種がないので、先代アクセラ、CX-5 2017年式の旧型 SKYACTIV-D 2.2 と CX-5 2018年式 新型 SKYACTIV-D 2.2 の JC08 での比較になります。
JC08 | 2.0S | XD | 燃費改善率 |
---|
先代アクセラ | 19.0 | 19.6 | 103% |
CX-5 2017年式 | 16.0 | 18.0 | 113% | CX-5 2018年式 | 16.0 | 19.0 | 119% |
旧型 SKYACTIV-D 2.2 が JC08 で 103%〜113%、SKYACTIV-X が WLTC で 110% ですから、とりあえず「旧型 SKYACTIV-D 2.2 と同程度の燃費」とは言えるのではないでしょうか。
■燃費よりも走り
とはいえ、マツダの謳い文句では「エンジン単体の燃費率ではディーゼルと同程度かそれ以上」なのに、どうして車になった時には SKYACTIV-D 1.8 はもちろん、新型 SKYACTIV-D 2.2 にも見劣りする燃費になってしまったのでしょう。
そのヒントはギヤ比にあります。
| 20S 6AT | X 6AT | X 6MT |
---|
最終減速比×1速 | 14.5 | 15.5 | 14.4 |
---|
最終減速比×2速 | 8.3 | 8.8 | 8.5 |
---|
最終減速比×3速 | 5.5 | 5.9 | 6.1 |
---|
最終減速比×4速 | 4.1 | 4.4 | 4.8 |
---|
最終減速比×5速 | 3.1 | 3.3 | 3.9 |
---|
最終減速比×6速 | 2.5 | 2.6 | 3.0 |
---|
それぞれのギヤ(4速、5速、6速)、それぞれの速度(40km/h、60km/h、100kmh/h)での、エンジン回転数の違いです。(タイヤの直径を 651mm として計算)
| 20S 6AT | X 6AT | 比率 | X 6MT | 比率 |
---|
4速 40km/h | 1335rpm | 1425rpm | 107% | 1559rpm | 117% |
---|
5速 60km/h | 1492rpm | 1591rpm | 107% | 1888rpm | 127% |
---|
6速 100km/h | 1999rpm | 2132rpm | 107% | 2432rpm | 122% |
---|
こうやって見てみると、SKYACTIV-X では SKYACTIV-G 2.0 に比べて全体としてギヤ比は低く(回転数は高く)なっているのがわかるかと思います。
これは「同じギヤ、同じ速度」でも、回転数が高いということは、その分、その回転数で出せる最大出力に余裕があるということになります。例えば同じトルクだったとしても、5速 60km/h から加速する場合、20S のギヤ比と比べて X 6MT のギヤ比では 27% も最大出力が増加しているということです。
さらに SKYACTIV-X は SKYACTIV-G 2.0 に比べてエンジン自体のトルクが大きく増えています。
この違いにより 20S ではギヤを1つ落とさなければならない状況でも、X ではそのままのギヤでグングンと加速するという状況の違いが容易に想像できます。
■結論
ここまでの説明を並べると、
・WLTC より負荷が小さい NEDC 燃費では、先代アクセラと比べて 32% の向上を実現
・旧型 SKYACTIV-D 2.2 と同程度の燃費
・エンジン単体でも SKYACTIV-G 2.0 より全域でトルクを向上
・さらに Mazda3 SKYACTIV-G 2.0 よりスポーティなギヤ比であるにも関わらず WLTC で 10% 程度の燃費向上
ということです。
しかもここには書きませんでしたが、
・ガソリンNAエンジンよりも高いレスポンス
・ターボの様なターボラグはない
・エンジンのカプセル化により実燃費向上
これらを短くまとめると、
・ディーゼルエンジンと変わらない燃費
・ガソリンエンジンより伸びやかな走り
ということです。
車のドライビングが上手い人、感度が高い人なら、こんな技術的でクドい説明がなくても試乗すれば感じ取れるかと思います。
私がお世話になっているディーラーの営業の1人は、買う気もなかったのにマツダ主催の社内向け SKYACTIV-X の試乗をして、結局ロードスターを売って Mazda3 SKYACTIV-X を書いました。
どうして?と聞く私に対して「ロードスターみたいな気持ち良さがある4ドアハッチバックだったから」とのこと。
■日本で走りの良さは評価されるのか?
一番の問題は、日本の市場では走りの良さ(悪さ)はほとんど評価されないということです。マニアはもちろん、評論家だって怪しいものです。
だって
30系プリウスみたいなクソみたいな酷い車でも、何年も販売台数トップだったんですから。
これも日本の交通状況では、車の走りの良さを感じ取ることが難しいという点が大きいと思います。だって全体の4割が市街地走行で、郊外も含めて8割以上なんですから。(それでも30系プリウスはちょっと…)
WLTC と JC08 の比較と WLTC の問題点
https://minkara.carview.co.jp/userid/2738704/blog/44054078/
そんな偉そうな私ですが、買い換えるとしても SKYACTIV-D 1.8 を買うでしょうね。だって燃費がいいし、十分なトルクと馬力だし。
でも運転好き、中でも MT 好きな人は、SKYACTIV-X ってすごく良い車だと思います。
だから欧州では売れているんですね。