
昨年のオートサロンで公表された、BHオークションという存在。海外でいえば、クラシックカーの品評会、そしてそのオークションというのは頻繁に行われ、そしてその模様が公開されているのが一般的だそうな。ヨーロッパは勿論、アメリカでも開催されていたが、日本にはその文化がない。しかし、昨今のクラシックカー高騰に加え、最近各社で始まったレストアサービス等で、クラシックカーへの意識が高まっている。今こそが、日本発のコレクタブルカー・オークション好機。1年の準備期間を経て、和太鼓の演奏と共に幕を開ける。
Lot.001 ホンダS800

特別顧問の堺正章氏の開会宣言と共に、まず本日の一台目、ホンダS800がスタッフに押されて壇上へ。御覧の通り、通常のオープンモデルをクーペスタイルへボディを変更。フルレストアが施されているこの一台は、68年式。開始価格は400万円と、まだ普通のクラシックカーの価格。
クリス・ペプラーのコンダクトにより、値段が刻まれて行く。450万円、500万円・・・。50万円刻みのこのオークション、全部で16台がエントリーされている。勿論、目当ての1台だけ、という人もいるだろうし、複数台狙いの人もいるだろう。
1台目となるS800は、850万円で落札。S800の相場値がイメージないものだから妥当かは分からないが、まずまずの出だしといえるだろう。
Lot.002 スカイラインGT-R

初代スカイラインGT-R、通称ハコスカGT-Rは、クーペスタイルの方が印象に強いものの、実は4ドアハードトップもラインアップがされていた。生産台数としては、こちらのハードトップの方が少なく、希少性はこちらの方が高い。この個体もフルレストアが行われ、ホイールはこの時代の旧車によく似合う、ワタナベ製のものに変更されている。
開始価格は600万円。相場から見れば、安価な所からスタートだが、一気に価格は跳ね上がっていく。50万円刻みで刻まれて行った価格は、いつの間にか1000万円を超える。が、超えたあたりから10万円刻みの競り合いが始まる。
ヤフオクという場でオークションで何度か商品を落札したことがあるが、価格自体は最後の5分で決まる事が大体である。1000円刻みとかになってくると、後に引けない気持ちも勿論出てくるわけで…それは、クルマと言う高額商品、それもコレクタブルカーという一品物を目の前に、ギャラリーもいるという場で相手の顔も見えるような場であれば、勿論のことだろう。1240万、1250万・・・競り合いを続けてジリジリと上がる価格は、ついに1310万円でストップ。まあまあ、相場といえる価格で落札されたと言えるだろう。
Lot.005 スプーン S2000 ST-4

Lot.3 ダットサンフェアレディ2000、Lot.4 トヨタ スポーツ800は、それぞれ400万円→1050万円、100万円→860万円で落札と、そこまで大きな接戦にはならず、順当に落札されていく。続いて登場したのは、今回出品の中では初めてのチューニングカー、スプーンS2000 ST-4。
最後のS2000ホワイトボディを基に制作され、S耐に参戦していたマシン。スプーン自らのチューニングが施されており、その疾走する姿はデモランという形で私も見たことがある。ベース車両という意味では最後のホワイトボディという希少価値はあるものの、S耐というマイナーレースで、そこまで伝説的な活躍を果たした、というイメージもなく、知る人ぞ知る…というところはあるのだが。
開始価格は350万円と、比較的見慣れた数字からスタート。400万円、450万円というところまでは順当に価格は上がるが、前の4台程の速いペースではない。500万円を超えたあたりでは値段が渋り始め、625万円で頭打ち。なにやら壇上では、電話での調整が続いているようだが…しばらくの沈黙、ラストコールがクリス・ペプラーによってなされる中、ついに落札価格に至らず、オークション不成立となった。壇上の感触では、最低落札価格は650万円だった可能性があり後もう一声、足りなかったのだろう。こういったオークションの場合、ノーマル車両ないし、ノーマルを維持したレストアの個体の方が高値が付くと言われるが、それを証明するかのようなオークション結果となった。
Lot.006 デトマソパンテーラ Gr.4

パガーニが台頭する前の時代、フェラーリ、ランボルギーニに続くスーパーカーメーカーとしても印象があるのが、デトマソ。パンテーラというモデルを作成し、そして今のパガーニのように多数のラインアップが存在したと言われているが、実は生でこのクルマを見るのは初めて、というほどに希少性は高い。
なおかつ、出品モデルはGr.4という生産台数10台未満。さらには日本の公道を走れるように、法規基準をクリアできるように改造が施されているという。勿論、日本ではスーパーカーレースでカウンタックと接戦を繰り広げた、という経緯もあり、スーパーカーマニアとしては珠玉の名車といえるだろう。
開始価格は2000万円と、スーパーカーとしては順当な価格から開始。なるほど、価格も一気にどんどん跳ね上がっていく。既に新車のフェラーリが買えるような金額に至って尚、価格は上がり続け、3300万円で頭打ち、らくさつの運びとなった。
Lot.007 日産スカイラインGT-R V-SpecⅡ Nur

前半戦のハイライト、スカイラインGT-R。R34という個体そのものが、生産台数が少ないうえに、第2世代GT-Rの究極系、首都高を始めとした舞台で最強の名前を欲しいままにし、ほぼ日本のみでの販売、加えてワイルドスピードでの圧倒的な人気を誇ったために、海外では伝説的な一台となっている。
さらに加えて、V-SpecⅡ Nurという、2002年に販売終了される時に設定され、わずか5分で完売したとも言われる伝説的な限定グレードという希少性も併せ持ち、とどめの一撃は、新車未登録で工場検査と移送時に刻まれたと思われる10kmというオドメーター、極上バリモン、これを落としてもコレクターアイテムとして、走り始めてしまうのは勿体ない一台。
既に開始価格の時点で、2000万円と、相場からは考えられない程の超絶価格からスタート。しかし、その金額の上昇はとどまるところを知らず、2500万円は気が付けば圧倒言う間に到達。そこから徐々に、2600万円、2800万円とあがりつづけ、ついに3000万円に。新車でポルトフィーノ買えるどころか、GT-R nismoのニュルPKG買っても、お釣り出て来るぞ…

まだ価格は上がり、最終的には3200万円で落札。新車価格は確か、610万円、そこから考えれば、じつに5倍以上の価格が付いたわけだ。年利で26.6%…こりゃ、割のいい投資にもなるわけか?もっとも、保管等の費用は掛かるわけだが。
Lot.008 スプーンNSX-R GT Version

さて、Lot.005で落札されなかったスプーンS2000 ST-4同様、スプーンが手掛けたチューニングマシン、NSXが登場。特徴的なのは、ホモロゲとして製作されたNSX-Rと同じエアロを纏っている他、ボルトオンターボが採用されているのも一つ大きな特徴になっている。
開始価格は850万円で、前7台の中でも価格の上昇は緩やかだった。それでも着実に値段は上がり、1500万円に到達。ここから熾烈な競り合いが始まり、1650万円をこえたあたりから、10万円ずつ、値段が刻まれて行く。
方や1660万円といえば、その後即1670万円という回答、しばしの沈黙、検討の後、さらに10万円上積み、即10万追加・・・これこそ、オークションの醍醐味ともいえる、駆け引きと競り合い。後にも先にも、今回のオークションの中で最も白熱した競り合いの後、1700万円でオークション決着。決着後、ギャラリー含めて、競り落とした落札者を讃える拍手と歓声が自然に沸き上がった。
この後に続いた世界的に見ても高額なクラシックカーになっているLot.009 2000GTは、4500万円が驚異的なスピードで上昇し、7600万円で落札。Lot.010 F512TRは、検査の結果車両品質に問題が発覚し、出品取りやめとなった。
続くLot.011 JUN ボンネビル300ZXは最も入札が少なく、400万円スタート後、450万円までしか伸びずオークション不成立。Lot.012 トップシークレットTSV8012Vは600万円→900万円で落札。特にZ32というジャンルがそこまでの希少性が無く、最高速レコードを保持しているとはいえ、チューニングマシンというジャンルにあり、またトップシークレットも同様にそこまでの白熱した入札が行われなかったのは、先述の通り、チューニングマシンは高額落札がされにくい、という傾向にあるようだ。
ノーマル低走行距離のLot.013 スカイラインGT-Rは、450万円開始され、相場値よりも高額といえる800万円で落札。さすがに低走行距離とはいえ、800万円は割高が過ぎる印象である。
Lot.014 R90CK

いよいよ、メインイベントといえる一台が登場した。なぜ、このクルマがここにあるのか、という疑問が頭をよぎる。日産がグループCカーとしてル・マンを始めとした耐久レースに参戦していた時代の一台、R90CKである。
ローラとの技術提携がされていた時代のCカーがR90CKで、7台が制作、そのうちのシャシーNo.5に該当する本車両は、ル・マンでポールポジションを獲得したワークスマシンといわれている。なぜワークスマシンが、座間の記念庫で保管されていないかが、一番の疑問ではあるのだが、確か座間には、R90CKは存在していなかったと思うのだが…。
さて、開始価格は9000万円、いままでとは異なり、入札単価は500万円。開始後すぐに、1億円を突破、順当に価格は上昇し、1億6000万円を超えたところで、競り合いが始まる。1億6050万円、1億6100万円・・・刻まれる数字と入札は、電話越しのビッダーと、会場のビッダーとが競り合いを続ける。互いに入札が行われる毎に歓声と拍手が沸き上がり、ついに、1億7300万円で、会場のビッダーが落札。
今回のオークション最高額落札と、落札できたことの喜びを爆発させていたビッダーを前に、会場からは大きな歓声が沸き上がっていた。これこそ、オークションが一般に公開されている事の醍醐味ともいえるだろう。
この後に続いた最後の2台、Lot.015,Lot.016 240Zは色違い。日本に輸入された復刻版240Z 3台の内、納屋で保管されていた2台という。それぞれ、開始は450万円からだが、黄色の個体は1200万円で落札、シルバーの個体は900万円で落札の運びとなった。
なるほど、こういった形で貴重な名車を目の前に見ることそのものが楽しみでもあるし、それ以上に価格がどんどんと決まり、競り合いの緊張が見えるのもまた、観客側としてもエンターテイメントともいえる。これが初開催となったBHオークション、日本にまだまだ眠るコレクタブル・カーが日の目を見る、またこういった場で期待以上の価値が見出される等、それこそお宝鑑定団のような発掘品もある事だろう。
今注目を浴びているクラシックカーやレストアサービスをブームだけで終わらせず、文化として根付かせるという意味でも、今後の継続と発展が望まれ、そして期待をさせてくれるオークションだった。正直、3時間をかけて観る価値があるか、初めは半信半疑だったが、これはなかなか面白い。ビッダーとしての登録は当分の間望めないだろうが、もし機会があれば、参加してみたいとも、思ったり思わなかったり。