200車種目を迎えるにあたり、乗ることを諦めていた一台がいた。フェラーリ。クルマに魅せられた者ならば、一度は乗ってみたい、というもの。が、アテにしていた所はちょっと怪しさアリ、見込みがあったレンタカー会社は兵庫県。しかし、手軽に乗れるキャンペーンが今年で終わる。なら、もう、今しかない。カリフォルニアを神戸で、人生初フェラーリを、試させてもらおう。

目の前に佇むカリフォルニアは、ロッソコルサではなく、ビアンコ アブス…のはず。白系でも3種類くらい色があるらしいので。まあ、そこまで目立たない色ではあるが。カリフォルニアのカラーでは、オプションのアズーロカリフォルニアが非常に印象に残っているのだが、まあ、美しさはやはりぴか一ですね…。

車内に入り込んだ感覚は、以前展示車で乗ったことがある
カリフォルニアTと、そこまで大きな違いは感じない。左ハンドル、それ以上に横幅は感じるが、フロントの見切りは稜線のお蔭で見えやすい。が、右斜め後ろ視界は絶望的。ルーフを外しても、後輪にかけて上がっていくフェンダーのお蔭でとにかく見えにくい。レーンチェンジすら、こりゃ怖いったらありゃしない。今まで乗った中でも2870万円なんてクルマは、レンタルすることがそもそも初めてで、いくら車両保険で時価までは保証されているといったって、ぶつけるわけにゃいかん。

だからまあ、動き出すのはそろそろと。エンジンスタートの快音は、まあ他のスポーツカーでも味わえるようなもの。ガレージから出る時のねじれでは、ボディが結構簡単に軋む。後々走っていても思う事だが、ボディの作り込は正直それほどでもない。ドイツ車勢やGT-Rの方がはるかに上手くできている。走り出した後も、2000rpmちょっとをパドルシフトでちょっと変えながら走る、おっかなびっくり、とにかく左を左を…こんなにクルマ運転するのに緊張するのは教習所でも無かったぞ。なんというか、クラスの憧れの女の子と二人きりでデートに出かけて、あれやらこれやら、これ言ったら嫌われるとか、考え過ぎて黙り込んじゃうような感じ。楽しいとか嬉しいとか、感じない。一つ分かってんのが、意外とフツーのオープンカーなんだな…乗り心地もかなりいいし。

折角試すんだったら、と訪れた峠道だが、やっぱり狭い。事前にロードスターで予習をしておいたといっても、さすがに車格が違い過ぎる。すれ違うクルマは対岸、とにかく左側べったりついとけば大丈夫でしょ…と。とはいえ、前にはとにかく遅い車が。普通よりもペースが遅い、後ろにも長蛇の列…しかしまあ、かえってクルマとの対話が進む。ステアリングは軽やかに、右に左にクイックに切り込まれる。カーボン製のパドルシフトも反応は素直。エンジンの回転はさすがNAでフェラーリという事もあってリニアに反応してくれる。パーシャルで、充分、流すだけでもそれなりにいいよね。けどまあ、これ位のできなんだったら、それこそGT-Rや911の方がデキは良いよなぁ…

飛行機の都合もあって、レンタル残りもあと1時間。このままじゃ、コイツの良いところもわからず返却、になっちまう。幸い、復路は前にクルマもなし。ギア比がかなりワイドで、このくらいの峠だったら2-3速じゃなくて、1-2速を使った方が、それなりに走れるんだろう。
もしぶつけたら、一生払って返せばいい。責任とってやる。だから、ついて来い。
一気に踏み込む、3000rpmを超えたあたりでマフラーの音質が変わり、そして6000rpmを超えるとエンジンからF1の音が聞こえる。以前の
V8時代に聴いたあの音、窓を閉めてれば、比較的高めな音が聞こえるだけだが、窓を全開にしておけば、排気だけじゃない、エンジンからわずかに、甲高い魅惑の喘ぎ声が聞こえてくる。
迫るコーナー、強く踏み込むブレーキ。キーキー事あるごとに鳴いていたブレーキは今の方が心強い。コーナーの度に踏み込めば踏み込むほど、ブレーキの効きが良くなっていく。カーボンブレーキは、熱を入れた方が効きやすい、実感する機会があろうとは。
2速を多用してみたが、もう、ここまで来たならば、激しくさせてもらおう。ブレーキ、1速へシフトダウン。一瞬ブリッピングで喘ぎとバラッバラッ咳払い、ステアリング上部に点灯するLEDがシフトアップ直前の領域に居る事を示す。勿論、無理なシフトダウンは拒絶される。
スパッと切ったステアリング、一気に身をしならせながらついてくる。トランスアクスルによるトラクションの良さ、それ以上に実に軽やかに、右へ左へ。
感覚、即、体感、即、快感。
ここまで感じるのに、10秒もいらない。タイトなコーナーに向けて、2速→1速へシフトダウンしてブレーキ、立ち上がる、それだけでも充分、フェラーリワールドの入り口に立てる。それに何より、どうしてこう、波形が重なるような一体感に魅了されて取り込まれて行くものか。
ひたすら右に左に加速、減速、シフトダウンを繰り返してどのくらいの時間が経っただろうか。情報表示系に、何かが過熱気味という表示が。水温、油温正常範囲、ああ…そうか。排気系が過熱したらしい。ギアをオートに変更し、回転数を一気に落とす。直ぐに警告表示は消える。もう、一般道も近い。帰りは初音ミクの"ヒビカセ"でもかけて帰路につくとするか。

帰路、何事もなかったように振舞う、普通のクルマ、カリフォルニア。
クルマとして、街乗りちょっと流すだけだったら平凡。これに値札をつけるんだったら1300万円で、それでも6シリーズグランカブリオの方を選びたい。だが、そこから上乗せの1500万円が、3000rpmから上を使いまくる別世界への入場料だとしたら、むしろ安いもんだ。
フェラーリが、独特の世界観をもって、世界中を魅了し続ける理由、それはF1だけじゃない。F1のエッセンスが必ず各マシンに残っているからだという事を確信した。試乗記とか試乗動画を見て、確かに凄そうだな、という予感はしていたが、これはもう、凄いとしか言えない。逆に今回、カリフォルニアを体感したことで、試乗記でつづられている想いがもう、実感できるものだと確信が持てる。
逆に言うと、V6ターボ時代に入ってV8もターボに変わり音質が変わった現在、昔のF1の方が良かったと思っているならば、V8NAかV12が選択肢だし、さらにもっと前のV12が良いんだったらV12モデルがベスト。そして、私の選択肢なら、V8NA以上だろう。

ガレージまで、カリフォルニアをエスコートする。幸い、どこにもぶつけず、傷もつけず。無事に戻ってくることができた。安心半面、このまま乗って帰りたいと思う半面…叶うなら、コイツで首都高を走ってみたい、富士スピードウェイで思い切り踏み込んでみたい。
買えばいい。簡単な答えじゃないか。
今までお金があったら欲しい、というクルマは何台かいた。だがこいつは、フェラーリは、何をしても手に入れたい、こいつの為に資金を用意したい。Z以来、こんな事を思ったのは2回目だ。それに何より、久々に心の底から笑顔になった、笑いが止まらなかった。
好きになった理由は、それだけで充分だろ?
まったく、クリスマス・イブにとんだ禁断の果実を食べたもんだ…。
Posted at 2016/12/25 14:50:21 | |
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評 -Car Review- | クルマ