
日経BP社の情報サイトで今月8日に発表された記事から引用。
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超小型モビリティの規格づくりに国土交通省が動き出した。高齢化や温暖化対策で効果が期待できるが、安全性の確保が焦点だ。
国土交通省は交通政策審議会の技術安全ワーキンググループで、超小型モビリティのニーズや安全性の確保などを議論し、5月をめどに新規格の策定について方向性を示す。同省は既に2010年度から6自治体で実証実験を実施し、超小型モビリティの課題の抽出を進めてきた。2011年度は具体的な規格案作りを念頭に、実験を続ける。早ければ2012年度中に規格案が固まる可能性がある。
超小型モビリティは自転車以上、軽自動車未満となる電動機を動力とした電気自動車(EV)の一種で、買い物や通院など主に短距離の移動に使う。現在の道路運送車両法では軽自動車未満の規格として第1種原動機付き自転車があり、いわゆる「ミニカー」と呼ばれる車両がこれに当たる。衝突安全基準などが無い代わりに、乗車定員は原則1人で、高速道路には乗れない。一方、軽自動車は定員4人で高速道路も走れるが、厳しい衝突安全基準がある。
超小型モビリティは、第1種原動機付き自転車と軽自動車のすき間を埋める規格と考えられている。小型軽量のEVならCO2の排出削減に寄与し、燃料費も節約できる。
---引用ここまで---
いいね~、ようやくこういう動きがメディアでも公表されるようになってきたか。
記事にもあるが、やはり動向を見守りたいのは衝突安全性の折り合いをどこで付けるかにつきるね。
わたしは最初期の軽自動車規格にあてはまる乗り物があればいいと思っている。
しかしこの軽自動車規格は、日本の経済成長と共にどんどん大型化してきた。
その理由の一つが衝突安全性の確保だった。
年々、エンジンの製造技術が向上したおかげでスピードが出せる乗り物になってくると、衝突時に乗員を守る性能を向上させる必要性が高まった。
クラッシャブルゾーンを確保するために外寸は大きくなり、キャビンが潰れないだけの剛性を確保するために補強部材が増え、必然的に車体は重くなった。
重量増加に伴って、高速道路や急勾配の幹線道での動力性能を落とさないために排気量が大きくなる。
連鎖的に軽自動車の動力性能と安全基準が引き上げられ、今では法規でも自動車アセスメントでも、普通車と同じ基準が適用されている。
安全性が確保されて、なおかつ快適になったのはいいことだけれど、近年の軽自動車の購買層にとっての用途はセカンドカーである場合が多く、その用途には大きくなりすぎたように思う。
ならば今の軽自動車規格の枠にとらわれない、昔の軽自動車のような車を作ればいいじゃないか。
だけど、世の中そんなに単純じゃなかった。
大半のユーザーからしてみれば、どうせ同じだけの税金を払うんだったら、排気量が大きくて室内空間が広い方がいいに決まってる。
メーカーにして見りゃ、作っても見向きもされないようなクルマは儲けが出ないから作りたくない。
ダイハツ・ミゼットIIとかスズキ・ツインといった挑戦的なクルマが登場しても結局短命に終わったということは、市場が受け入れてくれなかった結果なのだろう。
ここで一転して、電気自動車(EV)の話。
EVの環境性能について、わたしは“CO2削減”がそれほど大きなメリットだとは思っていない。(その理由はここでは割愛する)
むしろ騒音とヒートアイランド現象の抑制に寄与することに価値を感じる。
また、モーターの動力特性は小排気量のエンジンよりも街乗り向きで、前述のセカンドカーとして使われる軽自動車の代替にぴったりなのだ。
ならばアイ・ミーブは、登場と同時に一気に普及してもおかしくなかったはずなのだけど、やっぱり世の中単純じゃない。
「軽自動車」であるからには、その法的基準を満たした上に、従来の軽自動車と比べても見劣りしない性能が求められてしまう。
韓国CT&Tの
e-ZONE(7kW=9.5PS)やイタリアの
ジラソーレ(8.5kW=11.5PS)は現行の規格では軽自動車に分類されることになるが、一般的なユーザーの視点で「軽自動車」としてこれらのクルマを眺めてみると、ちょっと物足りない。
こんなクルマに興味を持つのはわたしのような好き者ぐらいだろう。
高速道路や峠越えの国道を快適に走れる動力性能と、4人が乗車しても余裕のある室内空間、そして大きな室内空間をカバーしうる高出力の空調機器、これが今の軽自動車に最低限求められている性能だ。
それだけのモノを走らせようとするとモーターの出力が高い物を要求され、その消費電力をまかなうために巨大なバッテリーが必要になる。
その結果、車両価格は460万円と、とてもわたしのような庶民がセカンドカーとして買える値段ではなくなってしまった。
高くて普及しないから、量産効果で値段が下がる期待も薄くなる。
果たしてセカンドカーとして使われるシーンに軽自動車規格いっぱいの性能が必要だろうか。
先日アイ・ミーブ(47kW=64PS)に試乗してフルスロットルをくれてやったら、アルトワークスなんかとうてい追いつけないような加速を見せた。
モーターだったら低速域のトルクは十分だから、馬力で言うならせいぜい30PSぐらい、いや20PSでも十分なんじゃないだろうか。
乗車定員は2名でいい。
“街乗りにターゲットを絞ったEV”
これなら庶民でも買えて、普及できるものが作れるかもしれない。
それにはまず規格を作って、軽自動車よりも経済的な負担が軽い物にすればユーザーも欲しがることだろう。
売れる見込みが立てば、メーカーも作りたがるだろう。
だからといって、50ccのミニカーのように陳腐な作りで、街乗りさえもおぼつかない動力性能ではダメだ。
ミニカーよりも使い出があり、軽自動車よりも経済負担と環境負荷が軽い乗り物、それが冒頭に紹介した国交省の言う超小型モビリティの構想だ。
さて、衝突安全性の話に戻るが、たとえ100km/hで高速道路を走ることを想定していなくても、動力性能をそこそこ満足できる物にするからには、それに見合った頑丈さが必要になる。
それに車重の重い他車と衝突したとき、軽いクルマ(車体の変形が少ない構造であったとしても)は不利なので、そのような厳しい条件での安全性について、どう線引きをつけるのかが課題だろう。
考慮しなければならない課題も多いが、いよいよ面白くなってきた。
画像はわたしもちょっとだけ、ある部品の搭載検討を手伝った、タンデム2名乗車のコンセプトカー