…俺は夢をみていた…
走馬灯というのだろうか…
俺が産まれたときの両親の顔… 幼稚園入園の時…
小学1年生の時の遠足や水族館の思い出…
俺が生まれてから今日までの楽しかった思い出がスライドショーのように頭の中に蘇った。
そして…
いつも行く山に虫捕りに行って虫かごいっぱいにクワガタを捕まえてホクホクで夕刻の山を駆け下り家に帰るなり…
「ただいま!オカン!こんなに採れたでクワガタ!!ほら、見てん!」
自慢げに突き出した虫かごの中には木の枝と落ち葉しか入ってなくて「あれっ!?」となってる俺にたいして…
「どれどれ…」
と振り向いたオカンの顔が黒い獅子舞だった…
「うわあああああーーーー!!」
「タッちゃん!!」
叫びながら飛び起きた俺の目の前にはタカちゃんの心配そうな顔があった。
「タカちゃん!!」
俺は思わずタカちゃんにしがみついた。
タカちゃんは地面に横たわっていた俺を抱きかかえていた。
「良かった~〜 生きとった〜 死んでしもとったらどないしよ思たで」(;´∀`)
「タカちゃん、ボクな、あのな…」
アタフタ説明しようとする俺にタカちゃんは…
「タッちゃん足怪我しとんでな。ちょっと待ってや…」
そう言って自分が着てきた半袖の青いアロハシャツを脱ぎ裾の部分から左右に「ビーーッ」と両手で引き裂いた。
そして出血していた右膝を器用に素早くぐるぐる巻きにして残った半分で俺の顔をふいた。
ふきおわったアロハの半分は無造作にポイッと捨てた。
(…足の怪我治ってなかったんや…)
「タッちゃん、アレ見てみ」
タカちゃんが顎で指したあたりを見上げると駆け下りて来た道の途中に太い木のツルが黒いシルエットになって横断していた。
ちょうど俺のおでこに当たるあたりに。
木漏れ日のトンネルは下り坂になっているうえに外灯がない所は真っ暗でちょうどそのツルは暗闇の中で高い木から垂れ下がっていた。
「タッちゃん山から下ってくるとき走ってなかったか?夜やし見えへんしちょうどアレが頭にぶつかって気絶したんやな~」
続けてタカちゃんは言った。
「タッちゃん水源地行く言うたやろ?今水源地に警察やら消防隊が捜索にいっとるわ。エラいこっちゃ(笑)」
「タカちゃんはなんでこっちやとわかったん?」
「コロのオッサン」
「!?」
「タッちゃんいつも水源地行く言うて嘘ついてこの山に行ってる言うてたで」(^^)
(バレとった〜~)(>_<)
少し下った外灯の下には「ドッドッドッ…」と重低音を響かせタカちゃんのZ2が佇んでいた…
「タッちゃん頭見せてみ…」
俺は前髪を手でかき上げタカちゃんに見せた。
「…なんともないなぁ… コブもできてないわ…石頭やなぁ、タッちゃん(笑) 足は大丈夫か?立ち上がれるか?」
「うん、大丈夫やで。タカちゃんこそ上裸で大丈夫なん!?」
「おお、暑いから気持ちエエで」(^^)
(今スポック来たらええのに…)
タカちゃんの引き締まった上半身は俺にこれ以上ないくらいの安心感を与えた。
タカちゃんはz2のミラーに引っ掛けてあった白いメットを取り上げ俺の頭にスポッと被せた。
ノーヘル、上半身裸の状態でz2に跨ったタカちゃんは「ニカッ」と笑い
「後ろに乗りや、帰るで。みんな待っとるで」(^^)
タカちゃんの背中にしがみついた瞬間z2は爆音と共に発進した。
いつもは怖いオーラを振りまいていたz2もタカちゃんの
大きく広い背中も今の俺にとってこんな頼もしく頼りになる味方はなかった。
先ほど濡らした(^.^;パンツはだいぶ乾いていたようだったが、この状態でタカちゃんのZ2に乗るのは少し気が引けたけど考えないことにした(;'∀')
「助けに来てくれると思っとった。タカちゃん仮面ライダーみたいやな」(;^ω^)
「え?なんて⁉聞こえへん(笑)」
俺を乗せた黒馬のようなZ2はあっという間に川沿いの大きな橋の下をくぐった。
山を下る直線道路で暗闇の向こうに複数の人間と懐中電灯が見えた。
消防隊と警察の人達だった…
「うおらぁーーーーー‼じゃまやあああああ‼」(;゚Д゚)
「ブォンブォンブォンブォン❕」
タカちゃんの大声とZ2の唸る爆音にその人達は海が割れるように道を開けた…
その真ん中を突っ切るZ2…
「おい、コラ!止まれえ‼」
「おまえ、ヘルメットはーーー?」
懐中電灯を向けられ次々と怒号が飛び交う中、タカちゃんは
「こっちは怪我人のせとんじゃああああーーーー‼ ダボクレーーーーー!!」
ひときわ大きな怒鳴り声を上げた。
いきり立っていたその人達はタカちゃんのその一言で固まった。
俺は身を小さくして丸まり必死にタカちゃんにしがみついていた。
「ああ、見つかったんかーー良かったーー」
走り抜ける爆音に混じって誰かの安堵の声が聞えた。
狼の遠吠えのようなZ2の排気音とともに俺は家まであっという間に帰ってきた…
付近には数台のパトカーやレスキュー車、覆面パトカーまでが赤ランプを回したまま停まっていた。
家の前にはたくさんの人がいて「ああ、良かった~」「タッちゃん大丈夫かーーー?」
とか聞こえてきて中にはへたり込む人もいたが暗くて誰が誰だか分からなかった。
ざわめきの中から聞き覚えのあるデカい声が聞こえた。
「やっぱりそっち(の山)やったやろ!?」
コロちゃんのおっちゃんの声だった。
「ビンゴ!!」(^_-)-☆
z2のエンジンを切りながらタカちゃんは言った
安心して思わず泣きそうになった俺は強がってZ2のリアシートから飛び降りてみせた。
被っていたヘルメットのせいでバランスを崩し尻もちをついた。
その時いきなり誰かに「ズボッ」とヘルメットを脱がされた…
一瞬スポックと日本兵が頭をかすめたが目の前にいたのはコロちゃんのおっちゃんだった…俺の頭の先から足のつま先まで凝視していた。
「ケガしてんのは足だけか?タッちゃん?他はどこも痛くないか?」
「うん」(`・ω・´)
「君がタツオ君やな?心配したでー。ちょっと話し聞かせてくれる?」
一人の警官が手帳を開きながら割って入ってきた…
「そんなん明日でええねん!今何時や思とるねん‼」
上半身裸でZ2を押しながらタカちゃんが吠えた。
救急隊員に足の傷を応急処置してもらいながら今更オカンがいない事に気が付いた。
「おっちゃん、オカンは?」
「タッちゃん行方不明になってからさっきまで気丈に振る舞ってたんやけどなあ倒れてしもて今家で横になってるわ…」
「でも心配せんでええで、ちょっとショックが大きかっただけで救急隊員さんが診てくれたからなぁ」
「ああ、オカン‼」(゚д゚)
救急隊員が右膝に包帯を巻いている手を振り払い立ち上がり俺は家に走った。
急いで開けた玄関ドアの奥には布団に寝てるオカンと心配そうに見守る仲のいい近所のおばちゃん達がいた。
「ホラッ、帰ってきたで‼」
「ああ…タッちゃん」
オカンは布団からむっくり起き上がった…その胸にはひまわりのサンダルが抱かれていた…
…それは去年俺が貯めた小遣いで初めてオカンに買ってあげた誕生日プレゼントだった…
捨ててあるはずの……
いつも履いていて古くなったオカンの白いサンダルは足の甲の部分が切れていてそれを白いテープで補修していた。
それを知っていた俺はもらった小遣いの中から少しづつ貯めて近所の商店街の靴屋に代わりのサンダルを買いに行った。
ただセンスのなかった俺はオカンは花が好きだという理由からどう見てもダサく見えるそのサンダルを購入しオカンの誕生日にプレゼントした。
そのサンダルにした理由はもう一つあった…
安売りのカートに乗っていたそのサンダルは俺の持ち金ギリギリの¥300だったので他を買う余地はなかった。
(当時の俺の小遣い1ヶ月分が¥300、普通は1日¥100くらいだったと思う)
でもオカンはすごく喜んでくれて履くのもったいないけど毎日履くわな、ありがとう(^^)と言ってくれた。
俺も照れくさかったがすごく嬉しかった。
同じ週のある日のこと…
学校帰りに友達数人とたまたま商店街を通ったとき…
「おい、見てみ、このサンダルだっさー!! (笑)」
「ほんまや三百円やって〜〜(笑)こんなん履く奴コジ○やんハッハッハーー」
通りかかった靴屋の店の前のカートに山積みになっていたひまわりのサンダルに気づいた友達が手に取りこっちに向けておどけて見せた。
「コジ○サンダルやーーーー!!」(゚∀゚)←クソガキ
俺は顔から火が出る程恥ずかしくなり居ても立っても居られなくなったが
「ほ、ほんまやな~~(笑)」
と引きつりながらも相槌を打った…
そしてその日家に帰るなり俺はオカンに
「誕生日にあげたサンダル絶対履かんといて!それか捨ててや!」
と怒鳴った。
オカンはちょうどそのサンダルを履いて外へ洗濯物を干しに行くとこだった。
「なんでなん?どうしたん?アンタに貰ったオカンの大事なもの捨てれるわけないやないの!」
とびっくりした顔で言ったが
「俺が履くな言うとんねん!嫌や言うとんねん!!オカン捨てへんかったら俺が捨てる!!」
俺は半狂乱で叫んだ。
「わかった、わかったから…何があったんか知れへんけど明日捨てるから今日は履かせて、な?」
「ほんまやな!絶対やな!そのサンダルのせいで俺めっちゃ恥かいたわ!なんで俺ん家こんな貧乏なん!?俺はコジ○ちゃうううーーー!!うわぁぁぁん(泣)」
オカンは泣き崩れる俺の背中をさすりながら何度も「ゴメンな、ゴメンな…」と繰り返した…
俺の背中をさするオカンの手も震えていた…
次の日からオカンのサンダルはあのボロくて白いやつに変わっていた…
すっかり捨てたと思い込んでいたあのひまわりのサンダルが脱力したオカンの両腕からスローモーションのように落ちた。
「オカンーーーーーーーーー!!」
周りの目もはばからずサンダルを落とし空いたオカンの胸に俺は飛び込んだ。
オカンは両腕を差し出し4年生にもなった俺を強く抱きしめた…
「オカン、ゴメンな、ゴメンな…」(´Д⊂
あの日オカンが言ったセリフを今度は俺が言っていた。
あの日俺がオカンをどれだけ傷つけたか、どれだけ悲しい思いをさせたかそれが今やっとわかった気がした…
オカンは「うん、うん。」と優しく頷いていた…
オカンに抱きつき下を向いて泣く俺の目の前にサンダルがあった…
その時ひまわりと目!?が合った…
その目は確かに(オカンをもう泣かせるなよ)と言っていた…
その日を堺に俺はその山には行かなくなった。
ひまわりのサンダルもその日以来見たことは無い…
今も家のどこかにひまわりのサンダルが隠してあるのかも知れない…
〜小悪魔外伝😈💧〜 [完]
最後まで読んでいただきありがとうございました。 tatsu
〜「小悪魔引退とあの日の後日談」〜 へ続く