「ミシッ…」
「ドガガガガ‼」
「ドドーーーーーン❕」
それは突然きた。
「うあああああああ!なんや?なんや?」
シェイクされるように激しく揺れる床、ガラスの割れる音、轟音のような地鳴り…
平成7年1月17日午前5時46分
夜明け前の冷え切った神戸の街を突然震度7の大地震が襲った。
JR神戸駅にほど近い3階建てのアパートの1階で寝ていた俺は一体何が起きたのか分からなかった。
部屋にトラックでも突っ込んだのかと思ったが、立ち上がることのできない揺れと天井からパラパラと降ってくる砂?(揺れで2階が下がってきたため)で「これ地震か⁉」と理解した。(神戸はこれまで地震がほとんど無かった)
隣の部屋には12月に生まれたばかりの子供と妻が寝ていた。
助けに行きたいが俺は布団の上で四つん這いになったままどうすることもできずただ前後に激しく揺さぶられ続けた。
「おい!大丈夫か?今そっち行く‼」
停電のせいで何も見えない。
なんとか立ち上がると横揺れで壁に左半身をぶつけた。
床が盛り上がり、天井はバキバキと音を立てた。
(アカン、ここまでか…)
俺は生まれて初めて死を覚悟した……
キッチンの方では「ドスン‼ガシャン‼」と冷蔵庫や食器棚が倒れる音がした。
(なんも見えん…)
激しく揺れる暗闇の中手を伸ばすと柱に当たった。
柱につかまりながら隣の寝室の戸を開けよろめきながら中へ駆け込んだ。
(どこにおるんや…!?)
膝をつきながら手を伸ばすと布団の上にしゃがんでいる妻に当たった。
外の外灯も全て停電しているため全く何も見えない状態なのだ。
俺「大丈夫か?○○(子供の名前)は?」
妻「大丈夫!今抱いてる!」
俺「この家はもう潰れる!外に出るぞ‼」
子供を抱いている妻の手を右手で引き、左手は壁を探りながら玄関へと向かう…
暗闇の中倒れたテレビやタンスをまたぎ、割れた窓ガラスをパリパリ踏みながら…
(なんとか間に合ってくれ… 外に出るまで…)
俺は藁にもすがる思いで祈った。
斜めになっている玄関ドアが半開きになっているのが辛うじて見えた。
「出れる!早よ来い!」
子供を抱いた妻を前にやり俺は後ろへ回った。
まだ揺れは収まらない…
玄関ドアがこの世とあの世の境目に見えた…
俺たち3人は助かった。
住んでいたアパートは倒壊ギリギリの状態で傾きながら耐えていた。
近くの交番に避難するともうたくさんの人たちで溢れかえっていた。
生まれたばかりの子供がいると言う事で毛布を貸していただき子供と妻は暖かいストーブのそばに座らせてもらった。
不思議にその日はなかなか夜が明けなかったような気がする。
周りが明るくなってきた頃俺は近くのマンションの屋上に上がってみた。
そこで俺の目に映ったのは恐ろしい光景だった…
市内中いろんな所からモクモクと黒い煙が立ち昇り長田区方面は赤い炎が広がりその一帯は黒い雲に覆われていた。
不意に空からひらひらと黒いものが降ってきた…
まるで黒い雪のように…
よく見てみるとそれは火事で遠くから風に乗り降ってきた「煤(すす)」だった…
何も考えられなかった…
生まれ育った街が変わり果てていく姿をただ呆然と見つめていた…
俺たち家族はこの数日後に妻の実家北海道の函館へ渡った。
震災により子供のミルクやオムツが手に入らなくなったからだ。
荷物をまとめ、1日かけて船で関空まで行き(陸路は壊滅的)函館空港までの搭乗手続きをした。
当時乗っていた愛車赤のFC3S(サバンナRX-7)を置き去りにして…
大阪は神戸の惨状がウソのように平穏に見えた。
生まれたばかりの(生後1ヶ月)赤ん坊を飛行機に乗せるのは心配だったが離陸時、着陸時には手で耳を塞いであげて事なきを得た。(気圧の変化による鼓膜への影響が心配だった)
機内で俺の前の席に座ったサラリーマン風の男がおもむろに「バサッ」と新聞を開いた。
大きな見出しに
「さらば、神戸」とあった。
どうやら俺たちみたいな人が大勢いるらしい…
俺は飛び立つ空から複雑な気持ちで小さくなっていく西の街(神戸方面)を見下ろした…
俺はあの日を忘れない…
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Posted at
2023/01/17 10:26:20