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むらっち2のブログ一覧

2016年11月14日 イイね!

Z Car DAYS

Z Car DAYS

じゃっきーWaka さんが運営するWEBサイト


Z Car DAYS  に


当方の原作 「Def busta」 がUPされました!



編集した生原稿を PDFファイル で読めるようにしています♪







Wakaさんありがとうございます m(=^▽^=)m


そしてお疲れ様でした!






皆さま、よろしくど~ぞ








ごめんなすって





Posted at 2016/11/14 20:22:17 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年11月12日 イイね!

Def busta 第一章・あとがきのようなもの

 長々とお付き合い頂き、本当にありがとうございます。また、当時勢いだけで書いたような乱筆乱文の嵐を、最後まで読んでくれた方や、本作品に関わって頂けた皆様に、この場をもちまして、再度心よりお礼を申し上げます。


 さて、Def busta はこの後も第二章 Recovery line (輪道 成海 編)、第三章 legacy (レース編 『ここから主人公の一人称』 ) と続き完結編へと突入します。そこで折角ですので、主人公・下村と当方の事を少々紹介させて頂きます。


 自分の中でこの人物が登場したのは、いまから20数年前、当方が22歳の時でした。某全国誌の「ロー○ライダー・AMAスーパーバイク列伝」に当方の KZ1000Mk.Ⅱ が載ったことに端を発します。当時、諸事情から本名を伏せてオーナー名を「下村 貴」とさせて頂いたのが、彼の誕生の瞬間でした(笑)
 それから、ワープロ(当時W)のキーボード練習を含め、このバイクを通して知り合った人や物事を、下村目線で面白おかしく日記のように書きだしたのが 「むらっち劇場」 の始まりでもありました。


 当初 「下村 貴」 は当方の分身でした。しかし時が進むにつれ、親友の良いところであったり、あるショップのオーナーさんであったり、憧れるような人物であったり、あらゆる人達の良い部分を吸収し、現在の主人公が出来上がったのです。


 それから時が過ぎ、27歳の頃、ひょんなこから当方の 「むらっち劇場」 を読んだ友人から、面白いから何かに投稿してみなよ!? などと言われ、調子にのった当方は、無謀にも某雑誌の「マンガ原作大賞」に応募するようになりました。


 そしてそんな挑戦を続け、10年が経過した頃、みんカラでお知り合いになれた 「 しんむらけーいちろー先生 」 にマンガ原作の書き方の手ほどきと、参考書籍の情報提供を頂き、個人的に懇意にさせて頂いている、元KAWASAKI・Z 1 デザイナーの多田先生から、Z1 開発物語の裏話なんかも教えて頂き、当時実際にあった事件なんかも途中途中に織り交ぜ、みん友さんである「 メリーセブン3号 」さんにも物語を読んで貰い、多数のダメ出しを頂きつつ(笑)ようやく完成させたのが、今回の「Def busta第一章」なのです。よく、どの辺が当時あった事件なの?という質問を頂きますが、そこは物語を読みながら、どこがそうなのか想像し楽しんで頂けたら幸いに思います。


 また、この物語を読んで「面白いからウチの雑誌に載せませんか?」と誘ってくれたのが、現カービート統括本部長のノッシーさんでありました。そうして 「Def busta 下村 」 は陽の当たる場所へと躍り出たのです。
これこそまさに「足かけ10年」ですね。



 今回、Wakaさんからお誘い&説得を受け、貴兄が運営する WEBサイト 「 Z car DAYS 」 に当方の作品を掲載して頂くにあたり、再編集をしながら物語を読んでいると、とても恥ずかしい気持ちになっていたりします。今ならこんな書き方しないのになぁ~とか、あ~ソコはそうじゃないだろ ! とか、ソコはこうだ ! とかとか。色々ですね(笑)


 しかしながら、どんどん編集が進むにつれ、その恥ずかしさと共に、自分の中で少し白けていた気持ちに喝が入りました。この物語を書き上げた時の熱い気持ちがムクムクと湧き上がってきているのです。希望・大望・願望・野望・野心・大心・大志。そんな気持ちが吹き出し、創作に対するモチベーションの高さに繋がってきていたりもします。


 ですので、冒頭でもお伝えしたように、恥を忍んで可能な限り大きな修正は加えず、自分自身への喝のつもりもありつつ、少しでも当時の熱意なんかも感じて頂けたら ! と思い、一部の人だけではなく、多くの人の目に触れて貰おうと、発表させて頂いた次第なのです。


 まだまだ進化の途中、夢の途中です。今後も精進を続けていきますので、読者の皆様におかれましては、飽くことなくお付き合い頂けることを切にお願いいたしまして、一先ずは第一章の幕を閉じさせて頂きます。






むらっち2





Posted at 2016/11/12 15:00:46 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年11月12日 イイね!

Def busta 第一章・最終話

Def busta 第一章・最終話
















      決断



そんな襲撃事件から一夜明け、十勝晴れの抜けるような青空が広がった日、その事件はMBM十勝研究所・KAMUI社格納庫内に曇天模様を落としこんだ。
皆の前で電話を受けているレイ。心配そうな面持ちの作業員達。それから、少し離れた位置の作業台には、下村が腰からもたれかかっていた。
その暗雲たる原因の電話主は、今回の事件の黒幕であったから他ならない。


電話口の向こう側は他社の重役室。そこへ、電話の主が窓際に自分のシルエットを落とす。
無言のレイ 「…」








そんなレイに電話主は、上から見下ろすような口調で語ってきた。

「さて姫君。もう貴女の出番ではないですよ。堀井さんに代わって頂けますか?」




レイは受話器を握る手に力が入り、怒りに震える唇で彼の言葉を復唱した。

「貴方がたは 《 零 》の性能ダウンを望んでいるのね… エンジンを600ccにして、バッテリー出力を20%も落とせと仰るのですね。それはうちの親会社も理解していると…」





レイの周りで作業員達がどよめく。
電話の向こう側では、余裕の態度で煙草に火を点ける男の姿がある。

「そのとおりですよ姫君。しかしこれは世界中のバイク・クルマメーカーの意見なのです。それを伝える憎まれ役を、私どもが代表して、行っているだけなのです」





「ふぅ~」 とのんびり煙を吐く電話主。

「抜きん出た高性能は必要無いのです。新技術を投入しても、他社の製品と同性能くらいにしておけば良いのですよ」





『詰みだ』 そんな言葉が彼の頭をよぎる。これはビジネスという名の狩り、そう、捕食者の余裕でもあった。相手を自分の思い通り、手の平で転がしながらコントロール化におく。時に希望も与えながら、一気に地獄へ叩き落とすべく狙いをすまし、獲物の息の根を止める。

ほぼ想定内で動いている自分の計算高さに満足し、そんな自己陶酔から彼は、右の口元を嫌らしく吊り上げ、もう一度心の中で 『詰みだ』 そんな言葉を呟いた。





固く結んだ口元に力が入るレイ。
ニヤニヤと勝ち誇り、下卑た笑みを漏らす電話主。

「貴方がたの《零》は言わば驚異なのです。その新技術で存在が脅かされる会社が沢山あるのです。国内だけではなく、石油輸出国やレアアース提供国との、国交問題にすらなりかねない事態なのですよ」





また煙草の煙を一息吐く。

「発売するなと言っている訳ではありません。譲歩策のご提案をしているのですよ」






今にも高笑いしたい衝動を必死に抑え、言葉だけは冷静に吐き出す。

「さあ、お分かり頂けたら堀井さんに代わって下さい姫君」








その時レイは、自分の中で何かが “プツン” と切れたのを感じ取った。目を大きく見開き、突然声を張る。




「ふざけたこと言わないで !! 」




無言で目を細める電話主。 更に吼えるレイ。

「良い物を造りたい !! 世界一の物を造りたい !! そんな技術屋の想いをないがしろにして、お金儲けや外交しか考えないアナタ達には、もうウンザリよ !! 」





一度大きく息を吸い再度咬みつく。

「絶対アナタ達の好きにはさせない!これからは私が全てを背負って立つんだからぁーー !! 」






それは、おおよそ人との争い事を避け、あまり目立たぬよう、控えめに歩んできたレイの人生において、初めて牙を立てた瞬間であった。絶対に許せない相手への怒りが、彼女の殻を破り、捕食者への反撃に転じたのだ。





まだ無言の電話主。 それからレイは 『ふっ』 と口元に笑みを浮かべた。

「そうそう。一つ言っておきますね。私達は、この技術を独占するつもりはありませんでしたのよ」




《 零 》 を見つめるレイ。

「それは世界中のバイク乗り達のために、衰退しつつあるこの国の産業のために ! 」






次には、机を掌で強く叩き言い放つ。

「それは新しい時代のためなのよ !! 」






驚いた表情でレイを見つめる堀井は、心の中で 『お嬢様… ついに目覚めたのか !? 』 と呟き、エールを送った。





「ふぅ~~」 一息深呼吸したレイは、怒りの様相を隠し、至って冷静に語り出した。

「しかし気が変わりましたわ。この新技術は、当分の間ウチで独占させて頂きます。特に貴方がたにはお教えしません。ねっHN社の重役さん…。確か府月(ふづき)さんでしたよねぇ」






電話主にとっては想定外の事態が発生した。努めて冷静を装うのだが、動揺は隠しきれなかった。
『 ! ! ? ? 』 慌てた様子が言葉に出る。

「な、なんの事だ !? 」





不適な笑みでレイは続けた。

「以前お会いした事がありましたわよねぇ。なんとなく声に聞き覚えがありましたの。あと、粗暴な外国人のご友人達にも、よろしくお伝え下さいませ」


そしてレイは、非常に荒っぽく受話器を叩きつけ通話を切った。







“シン” と周囲が静まりかえる。 そんな中おもむろに、作業員の稲葉が口を開いた。

「エンジンが600ccで、バッテリー出力20%ダウンって…いったい…」





堀井も重たい口を開く。

「確かに本社から、その旨の連絡があったわい…。そこでこの電話だ…」






皆が下を向いてしまった。重い敗戦ムードが漂う。
しかし、それに見兼ねたレイが、懸命に明るく振舞った。一人ひとり全員に声をかけた。

「大丈夫だよぉ ! これまで皆でやってきた事は、絶対無駄にはさせないから !! 」





同じく、作業員の中田も口を開く

「でも本社が…もうどうすることも…」





涙が流れそうになる。だがここで引くわけにはいかない。レイは必死で皆を励ました。

「皆で現場の想いをぶつけようよ !! 本社だって絶対に分かってくれるよぉ !! どうしたの ? 堀井さんまでそんな顔してぇ !! 」





レイの懸命さが痛々しかった。 「 完全にヤラレた… 」 辛そうな表情の堀井。

「お嬢様…」






まさしく絶望の一言だった。本社の意向に逆らってまでこの開発は続けられない。ましてや他メーカー各社による圧力。 足掻らいようのない、権力によるメガトン級の一撃。完全なる負け戦だった。
重い雰囲気に包まれる一同。ついにはレイまでもが、言葉を失いかけた時だった。






突如後方から能天気な下村の声が届く。

「別にいいじゃねーかよ」











全員が一斉に、下村に視線を移した。先ほどと同じ態勢で、作業台に腰からもたれかかっている下村。

「スケールダウンしたっていいじゃねーか。まずは世に出さなきゃ始まらねーよ。それに…」






思わず息をのむレイ。

「それになに?」





下村は自信に満ちた満面の笑みを見せる。

「それに、カスタムで元の性能を、すぐに取り戻せるようにしときゃいいじゃねーかよ。KAMUI社のカスタム部門とか作ってよぉ。あんた等の親会社じゃ○リーアートだったか?他にも、○スモとか、T○Dとか、色々あるじゃねーの。そう考えるとよぉ、なんだかワクワクしてこねーか?」






一瞬の沈黙の後、そこで一気に空気が変わった。
レイは、今にも泣き出しそうだった表情から一変、笑顔がこぼれ落ちた。作業員達の表情も一気に明るくなる。

「そうか… そうだよな !! その手があったか !! それなら本社の意向にも逆らわず、こちらの事業拡大にも、繋げていく事が出来るぞ !! スケールダウンしたって 《 K A M U I 零 》 は健在なんだ !! 」









感心した様子の堀井。

「ふう…。全くなんて奴じゃ。本当に恐れ入るよ下村君」





瞳を輝かせる下村の、屈託ない笑顔がそこにあった。





それから堀井は 『まいった』 という様子で、高らかに大笑いを始めた。

「があっはっはっはっ。僥倖(ぎょうこう)、正しく僥倖じゃのう!全くたいしたもんじゃ !! があっはっはっはっはっは」






















      モーターサイクルショー



明けて翌年の3月。東京モーターサイクルショー20XXが開催された。
会場内は超満員の大賑わい。一般客にマスコミ。いつになく盛大な様子で、KAMUIのブースは特に注目を集めていた。












その時アナウンスが叫んだ。


「 K A M U I ブース !! 」








注目のステージには、白いベールがかけられた、1台のバイクあった。


「今ここに、新時代モーターサイクルの登場だぁ !! 待ちに待ったそのバイクの名は 《 M S T 零 》 だあーーーー !! 」


その合図と共に、2人のキャンギャルが白いベールをめくる。同時に観客からは、歓喜のどよめきが起こった。
中からは金属光沢・白銀色の 《 零 》 が現われ、斜め下から照射したライトは、とても神々しく 《 M S T 零 》 を光輝せていた。







それから一斉に、無数のフラッシュが発光し、ファンファーレの如くそのバイクを祝福した。そう、あの時の雷鳴のように。





その会場、そのブースはひときわ熱気を帯び、いつまでも歓声が絶えなかった。


















          ケリ





モーターサイクルショー会場の屋外。その道路脇には、荷物がパッキングされたZ1000MkⅡが、黄昏の夕陽に照らされ佇んでいた。

そこへ、デスペラードジャケットを着た下村が歩み寄り、おもむろにエンジンをかける。軽くセルが回り、Zと呼ばれるバイク特有の、虎が喉を鳴らすような 「ゴロゴロ」 という、野太い排気音とメカノイズが響いた。





不意に、スリムなダークスーツに身を固めた姿のレイが、下村の後方から声をかけてきた。

「下村くん。やっぱり来てくれたのね」










嬉しそうな表情のレイ。下村も屈託のない笑顔を見せる。

「おう。もちろんだよ二宮。格好良いデビューだったじゃねーか」





レイは少しはにかみながら答えた。

「うん。それもこれも全部下村くんのお陰だよ」





手をヒラヒラとさせる下村。

「はっは。俺ぁ何にもしてねーよ」





「あっ ! そうだ !! 」


レイは大切な事を一つ思い出した。

「そういえば《MST零》の意味、まだ言ってなかったよね」。





「ん?」 という表情で軽く頷く下村。 そこで夕陽をバックにしたレイが言った。

「とても大事な事よ、よく聞いてね❤」







少し溜めをつくる。次の言葉は。


「 MBM SPCIAL TRADITINAL ZERO ( MBM 社の特別な伝統の零 )、そして MY DEAR PARTNER OF SIMOMURA TAKASHI ( 親愛なる相棒・下村 貴 ) そのイニシャルから MST にしたのよ❤」






急に顔が真っ赤になった。照れ笑いの下村。

「なんだよオイ。こっ恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ」





その様子を見て、腕を後ろに組み、楽しそうにするレイ。

「私ね、あのとき下村くんが現われてくれて、本当に嬉しかったの」





また「うん?」という表情の下村。 それからレイは頬を赤く染めた。

「私ね、思わず神様に感謝しちゃった。だってね、高校の頃ずっと憧れていた下村くんが突然現れて、私の事を助けてくれたんだもん」





こういう場面には慣れていない下村は、非常に照れくさくてたまらなかった。
それから、おもむろに空を見上げるレイ。

「私ね、南條の名前がずっと重かったの…。だから下村くんが、昔と変わらず、私の事を二宮って呼んでくれて、本当に嬉しかったの」







軽く頷く下村。

「そっか…」






“すっ” と下村に近寄るレイ。

「だからね、私も下村くんがよく言う“ケリ”をつけたいの」





それからレイは、左の掌で下村の目を覆った。少し冷たいが柔らかい掌の感触がとても心地よい。しかし、やはり照れてしまう。

「はは。何やってんだよ」






そう言いながら、レイの手を優しく握り、ゆっくりと引き離したその時、突然レイが下村の唇に自分の唇を重ね合せた。
全ての時が止まり、そこには2人だけの、濃密で甘美な世界が広がった。胸の高鳴りが体温を急上昇させる。












そうして2人の唇がゆっくりと離れ、互いに見つめ合う。
それからレイは優しく微笑み、瞳から溢れ出た一筋の涙を、指先で軽く拭った。

「これが私からのお礼。そしてまだ二宮だった頃の、自分へのケリ」





更に見つめ合う2人。

「二宮…」

下村は言葉に詰まってしまった。






「これでようやく、私の青春時代にもケリがつけられたよ」

やはりレイの微笑みはとても優しい。












そんなレイがとても愛おしかった。このまま強く抱きしめ、この場から連れ去ってしまいたい。下村はそんな衝動にも駆り立てられていた。だが、KAMUI で 幸せそうにしていたレイの笑顔や、堀井達作業員の笑顔も、同時に思い出していた。 






『ダメだ』  心で呟く。


下村は、そんな自分だけのチンケな想いで、レイの幸せや、KAMUIの未来を壊す訳にはいかない。そうとも思った。辛かった。心が張り裂けてしまいそうだった。
だが、そんな想いを振り切るように、手に取ったヘルメットを被り、レイに一つだけ確認をした。

「そっか…。覚悟したんだな 二宮…。いやこれからは 南條 零 … か」





2人はまた見つめ合った。

コクンと頷き、下村の目を真っ直ぐ見つめる美しいレイ。いま2人の胸には、さっきまで近くにいた筈の大切な人が、急に遠くに行ってしまう。そんな悲痛な想いが、何度も何度も行ったりは来たりと、去来していた。









それは精一杯の痩せ我慢。

「じゃあな…レイ」






愛しさ、切なさ、もどかしさ、はち切れんばかり想いを胸に、最後の台詞を発する。







レイは最高の笑顔で応えた。

「ふふ。ようやくだね。初めて名前で呼んでくれた❤」










『 レイ 』 一度頷き全てを飲み込んだ。それからアクセルを捻り、クラッチを繋ぐ。
今は相棒の咆哮だけが心のバランスを保つカンフル剤となっていた。決して振り返りはしなかった。下村は軽く左手を上げ、夕陽に向かい走り出した。










レイは瞳に涙を浮かべながら、いつまでもいつまでも、下村の姿を見送った。



「さようなら。私の 《 Def busta 》 … 」
























      エピローグ



すぐ近くの建物の影。そこに隠れ、2人を忌々しげに見ていた男がいた。口元には悔しそうな表情を滲ませ、激しく歯ぎしりをしていた。そしてさっきまで喫していた煙草を、手の中で握り潰す。
男は手に火傷を負ったが、そんな肉体的苦痛は、今回受けた屈辱を思うと、毛先の痛みほども感じないくらいに、怒りに打ち震えていた。



それから前に歩き出した男は、物陰から出てその全貌を現す。まだ30代半ばで、とても端正な顔立ちをしている。だがその男こそ、下村とレイにミソを付けられた、HN社の重役、府月(ふづき)本人であった。




「Def busta下村か…。その名前、よく覚えておくぞ」






府月は鋭い目つきで、走り去る下村を睨みつけていた。








第1章・完











「あとがきのようなもの」 へつづく



Posted at 2016/11/12 11:04:04 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年10月31日 イイね!

Def busta 第一章・第四話

 Def busta 第一章・第四話








      決戦


3日後、K A M U I 社 は T S W (十勝スピードウェイ)を借り上げ、K A M U I 零 の最終テスト走行を行っていた。
K A M U I 零 は、合計で3台の車両が造られていたため、最後の1台が襲撃の難を逃れていたのだ。そして最終テストがここ、TSWで実施されることとなったのである。


飛行機のジェットタービン音にも似た、全開で走るKAMUI零のモーター音は、サーキット内に軽快なドップラー効果を響き渡らせ、順調に周回を重ねていた。乗り手はもちろんレイである。
K A M U I 社 の作業員達は、サーキット内の各部に散り、その様子を見守っていた。


そしてピット内では、アウトドアチェアに腰掛け、コーヒーを飲んでいる下村と堀井の姿があった。その近くには下村の愛車Z1000MK2が置かれてある。
堀井は、顔じゅうガーゼの絆創膏だらけで、ふて腐れた下村を愉快そうに眺めてい
た。




「しかしこっぴどくヤラレたもんだのう」

随分と暢気な調子だ。更には。


「しかしそれほどヤラレて、ただの打撲程度とはのう。お前さんの身体はそのバイクと同様に、随分と頑丈なようじゃのう」


などと感心した様子でZ1000MKⅡを見つめる。
それからまた下村に向き直り、今度は真面目な表情となった。


「それにしても彼奴ら、《 零 》 を破壊したばかりに止まらず、レイお嬢様に怪我まで負わせおってからに。許せんのう ! 」


怒りの言葉を吐き捨てた。





『ズズ…』言葉を失い、コーヒーを黙って啜る下村。


「だがお嬢様の怪我が、大したことなかったのは幸いじゃわい。それに零も最後の1台は無事じゃったしのう…。その場に居合わせなかったのは不幸中の幸い…。小さな僥倖(ぎょうこう)じゃったのう」




顎髭を撫でながら、難しい顔をして堀井は続けた。どうにも痛い所を刺激され、忌々しげに堀井を見つめる下村。

「あいつ等 『ツギハコロス』 なんて言いやがったが、そりゃこっちの台詞だ」




また難しい表情で下村を見つめる堀井。

「いや…、確かに。これ以上キミは関わらん方が良いのかもしれんのう」




が、即座に鋭い視線で堀井を睨む下村。その眼光の鋭さは、堀井を一瞬たじろがせるほどだった。

「ふざけんな !! こんな状況で二宮を放っておけるかよ !! 」




「ふう~」と、一息吐き、腕を組む堀井。




それから下村は急に寂しそうな表情になり小さく呟いた。

「俺が死んだって誰も悲しまねえよ。それに唯一生きてる親父だって…居ねぇも同然だ…あんな奴…」


何かを思い、次の言葉は深く飲み込んだ。それから右拳を左掌に一度打ちつけてから、語気を強め堀井に言った。

「だけどよぉ、俺は友達をゼッテー見捨てねぇ。次はきっちりケリをつけてやる !! 」





そんな下村の言葉に呼応する様に、K A M U I 零 の軽快なモーター音がピット内に響き渡る。




堀井はその音を聞きながら、遠くを見つめゆっくり頷く。

「しかし何故じゃろうのう?今日はパパラッチの空撮ヘリが、1台も飛んでいないのう。サーキットを借り上げた時は、五月蠅いくらいに飛びまわるんじゃがのう…」














同時刻、TSW・南パドック付近。






そこには物影に潜み、ストップウォッチを構える2人の人影があった。その2人組は K A M U I 社 の作業員と同じツナギを着ているが、明らかに周りとは違う空気感が漂っている。

バックストレートを駆け抜けて行く K A M U I 零。
ストップウォッチを押す人影。

そんな時、コース外のエスケープゾーンを見回っていた3人の K A M U I 社・作業員が、その不振な連中を発見した。
最初に声をかけたのは、稲葉という作業員だった。

「オイ何やってんだ !? 」

その声に振り向く2人の不振な作業員。それは、K A M U I では見た事もない人間の顔であった。
稲葉が詰め寄る。

「お前ら誰だ !? 」




するとその偽装作業員は “クルリ” と向きを変え、パドックの出口方向へ逃走を始めた。

「オイちょっと待て !! 」

その場にいた稲葉、大谷、中田の3人は、その2人を追いかけようとした、が、辺りの茂みや物陰から、4名のアラブ系外国人・フロントサイト、グリップ、トリガー、バレルが現われ追跡を阻んだ。
そしてニヤニヤと、薄笑いを浮かべる外国人達。稲葉は驚いた様子で叫ぶ。

「あっ !! お前らこの前の !? 」

「オイッわかっているのか ! お前達のやっている事は犯罪だぞ !! 」





更に稲葉は、怒鳴りながら不審な2人を追おうとするが、外国人達に行く手を阻まれる。そんな騒ぎを聞きつけ、近くにいた数名のKAMUI社・作業員達が、その場に集まって来た。しかし、それでも“ニヤニヤ”と薄ら笑いで余裕を見せる外国人達。
それから程なくして、その余裕の理由を知ることになる。それは、まだ他に強力な増援がいたのだ。
なんと、またもや4名もの外国人が集まって来たのである。その中には下村を痛めつけた、ハンマーとブリッドの姿もあった。





突然ハンマーが、アラブ語で短く号令をかけた。

「●×▽~」

外国人達は、一斉に K A M U I 社 の作業員達に殴りかかった。
稲葉が自分の仲間に大声で伝えた。

「オイ ! あの逃げていく2人を捕まえろ!たぶんコイツ等の黒幕だ !! 」

「お前等ぁーーー !! 」

「応援を呼べーー ! 」





K A M U I 社 ・作業員達の怒声が飛び、その場は乱戦模様となっていった。














更に同時刻TSWピット内。




堀井がアウトドアチェアから立ち上がり、ピットボードを用意していた。

「さて、そろそろレイお嬢様をピットインさせるかのう。キミも走る用意をしておいてくれ。やはり一般人のデータも欲しいでの」




「わかった」


下村は短く答えた。それから着替えのため、その場でTシャツを脱ぎ放つ。するとそこには均整がとれ、しなやかながらも力強く、引き締まった肉体美が現われた。それからスキンズのアンダーウェアーを着用し、走り出す準備をする。




堀井は、思わずその肉体に魅せられていた。そして感嘆の言葉を呟く。

「ほほぉ~、惚れ惚れするのう。見事なまでの身体じゃわい」




下村は、さも面倒臭そうに言った。

「まったくうるせぇジジィだなぁ」




愉快そうに笑う堀井。

「ふぉっふぉっふぉっ」




その時、突然無線が鳴った。

『ピーガガ、南パドックに応援頼む!例の外国人達が暴れている !! 』




「なにぃ !? 」

堀井が叫び、急いで無線を取る。

「わかった今すぐ応援を出す !! 」




そう答えながら、その場で下村の方へ振り返る。が、そこに下村の姿は既にない。

「下村く…ん…」




突然 Z1000MKⅡのセルが回り、KERKER KR管から炸裂音にも似たエキゾーストノートが激しく吐き出され、ピット中に響き渡った。そこにはバイクに跨る下村の姿があった。

数度アクセルを捻り、少々荒っぽくクラッチを繋ぎ、暴れるリヤタイヤをコントロールしながら、ノーヘルのまま走り出す。
ピットを抜け、コースに入った途端、フル加速でタイヤスモークと共に走り去る。






バタバタと慌ただしくなるピット内。堀井はおもむろに、南パドック方向を見た。

「うむ…。頼んだぞ下村君」







南パドック付近では8人の外国人と K A M U I 社 の作業員10名が、双方入り乱れての乱闘となっていた。
しかしながら、K A M U I の作業員達は押され気味で、外国人側が優勢な状態となっていた。その中、主だって暴れているのは、例のハンマーとブリッドのコンビである。





そこでハンマーが、K A M U I の作業員・大谷を捕まえ、片腕のみで空中に吊りあげた。足をバタつかせ、その拘束から逃れようとする大谷。しかしハンマーの手は、まるで万力のような握力で、獲物を捕らえて離さない。
ブリッドが跳躍の構えに入る。大谷に跳び蹴りを見舞おうと、膝を曲げて溜めをつくる。が、そこで突然、2人の視界の端に、一台のバイクが映り込んできた。
そこに響き渡ったのは、凶悪なエキゾーストノート。Z1000MKⅡが、ハンマーとブリッドの間に突っ込んできた。

ブリッドは辛うじて後方に跳び退けたが、ハンマーは尻餅を付き、大谷への拘束を緩めてしまった。彼は息が詰まりそうな状態であったのだが、咳き込みながらも間髪を入れず、怪力のハンマーから必死で逃れた。

リヤブレーキでタイヤを滑らせながら、車体を横にして停車する下村。バイクを降り数歩、ハンマーとブリッドに近寄り、無造作に顔の絆創膏を“バリッ”と剥がした。




睨み合う3人。下村が静かに語る。

「お待ちどうさん…。さあ、ケリをつけようぜ」





『ペッ』唾を吐き、ブリッドが一歩前に出る。しかしそれを、ハンマーが太い腕で制し、下村に受けた顎の傷を、わざとらしく撫でてみせる。ブリッドはその様子を見て軽く頷き、後ろに下がった。 が、その一瞬だった。右足で地面を力強く蹴った下村が、鋭い動きで一気に間合いを詰め、ブリッドに強烈な右のコークスクリューブローを放った。

「っだらぁーーーー !! 」






下村必殺の右拳は、唸りを上げてブリッドの顎を正確に捉えた。生木が折れる音にも似た骨が砕ける音と共に、ブリッドは顎を歪めたまま後方に転げ回り、そのまま動かなくなる。それは一瞬の出来事であり、あまりにも強烈な一撃だった。

「ふんっ」




一息吐き、次に下村は、ハンマーの方へ向きを変え、右手で『来い』というジェスチャーをして、サウスポーのヒットマンスタイルに構えた。
ハンマーは眉間に深くしわを寄せ、凶悪な表情で片言の日本語をつぶやく。

「オマエハコロス…」







今度はハンマーが、鈍重なフットワークで下村との間合いを詰め、強烈な右ストレートを放ってくる。
下村はそのパンチを、左ダッキングで交わしつつ懐へ掻い潜り、同時に腰を鋭く回転させ渾身の左ショベルフックを、相手の右脇腹・レバー目掛けて打ち込む。しかしハンマーは、右膝を持ちあげた脚のブロックで、容易くブローを止めてしまった。だがそこで攻撃の手は緩めない下村。間髪を入れず、右のブーメランフックを顔面に向け打ち込むが、それもブロックされてしまう。






そこからハンマーの反撃が早い。ガードした左腕で下村の右拳を払い退け、そのまま左フックを飛ばしてくる。大きく弧を描く左拳。それをスウェイバックで軽くいなす下村。だが次には、ハンマーの右フロントキックが下村の胸元に飛んだ。
それは流石に避けきれず、両腕のクロスガードで蹴りを直接受ける。しかし余りにも力強いその威力は、地面に踏ん張っている下村の身体を、易々と約1メートルも後方へ押し下げたのだ。
強烈な一撃だった。バックステップで間合いを取る下村。両腕に痺れの残るガードの隙間から、ハンマーを睨みつける。






右の口角を吊り上らせ、歪んだ笑みを漏らすハンマー。そしてまた、サイのように重たいフットワークで力強く詰め寄り、フェイントである左右のワンツーと、右ローキックを放った後、大本命である、地を這うような低空から、左アッパーカットのコンビネーションブローを放ってきた。
右ローのフェイントを、脚でガードした下村は、目を“カッ”と見開き、今度は左足で鋭く地面を蹴り、自分の身体を右前方へ瞬間移動するかの如く飛ばし、間欠泉の様に吹き上げてくる凶悪なハンマーのアッパーカットを交わす。その拳は唸りを上げて空を切った。
そして下村のしなやかな肉体が、宙へと舞った。






そこからはハンマーが感じた、長い長いスローモーションのような瞬間。破滅への序章であった。
血走った目を “ぎょっ” と見開く。そこで目にしたものは、下村が自分の横で、木綿布の如く軽やかに “フワリ” と跳び上がる様だった。


『ムリダ…カワセナイ…』 ハンマーは心の中で呟き覚悟した。


「っだらぁーーーー !! 」





下村の気合一閃!!





その声は、全てのものに喝を入れ、半ば強制的に、ハンマーの刻をも動かし出した。
交わし切れないそのスピード。驚異的な全身のバネから繰り出される、強烈な右の跳び膝蹴りが放たれた。







ほんの一瞬だった。瞬き数回にも満たないくらいの短い瞬間。下村の右膝はハンマーの顔面に深くめり込み、嫌な音が彼の頭の奥に響いた。それからその巨体は、フラフラとその場を漂った後に膝が折れ、土埃を舞い上がらせながら、前のめりに地面へ倒れ、真っ暗な闇の中に意識が沈んでいった。








下村は、地べたで小さく痙攣し、失神したハンマーを見下ろしていた。

「ふんっ」




それからゆっくりと周囲を見渡す。K A M U I 社 の作業員達は、多少の怪我をしているものの、大事は無い様子で、外国人達全員を取り押さえていた。

「ふう」一息つき警戒を解く。

「皆なかなかヤルじゃねーのよ」




そんな独り言を言ったその時、下村の背後で、口から血を流し、顎が外れた状態のブリッドが、ダガーナイフを手に、幽鬼の如く“フラリ”と立ち上がった。
ブリッドは、言葉にならない叫び声を上げ、ナイフを振りかざし下村に襲いかかる。

「アガアアアーーーー」

「 !? 」 振り返る下村。

「ヤベェ!」




残心を解いてしまった後の、一瞬の出来事。完全に不意を突かれた。そしてダガーナイフが下村に振りおろされる。

「ガアアアーーーー」





刹那、音もなく、突然ブリッドの横面に、バイクのフロントタイヤがめり込み、派手に弾き跳ばされる。それはまるで、糸の切れた凧のようだった。宙を飛んだ後、回転しながら何度も地面を転げ回り、最後はボロボロになり沈んでいった。今度こそ、立ち上がってくることはなかった。




下村は少々驚いた様子でガードを解く。そこで目にしたのは、KAMUI零に乗ったレイの姿だった。ヘルメットを脱いだレイは怒りの表情で、瞳に涙を溜めていた。




「零の仇よーーー!!」


誰とはなくそう叫び、今度はぼろぼろと大粒の涙が頬を伝った。

「うっ…うっ…うっ…」




緊張が切れたのだろう。いろいろな感情が込み上げて来る。
下村はそんなレイを、そっと抱き寄せ、優しく抱擁した。

「もう大丈夫だ…。大丈夫だよ」

何度も何度も優しく語りかける。レイは下村の胸で、小さく震えていた。










つづく

Posted at 2016/10/31 15:02:20 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2016年10月24日 イイね!

Def busta 第一章・第三話

Def busta 第一章・第三話








      K A M U I


次の日、十勝管内OT町に位置する MBM十勝研究所。そのテストコースが広がる広大な敷地内に、レイは下村を招待した。

北海道は、まさしくテストコース王国である。日本車はもちろん外国車、その他、世界各国のタイヤメーカーまで。先進国のあらゆるメーカーが、この地でテストを行うのだ。
そんな MBM社 K A M U I 第三格納庫内で、下村、レイ、堀井が、白いツナギを着た作業員達に整備されている 《 K A M U I 零 》 を見ながら話をしていた。
堀井は深く刻まれた顔の皺と、長い眉毛に年輪を感じる老人であるが、その瞳の奥底には、只ならぬ雰囲気も兼ね備えている人物であった。


 
「下村くん。キミも 《 零 》 に惹き付けられてしまったようじゃな」




若干白みを帯びた堀井の眼は、何とも用心深い様子で、下村を見つめていた。しかし下村は何も臆することなく、自分の本心を真っ直ぐに伝えた。




「ああ。それもある。でもそれ以上に、二宮が困ってたから助けたいんだよ」




実に下村らしい、実直で痛快な答えだった。それを愉快そうに笑う堀井。




「ふぉっふぉっふぉっ。僥倖(ぎょうこう)じゃのう。君のことはレイお嬢様から聞いておるわい。仲間思いで、バイクが大好きなガキ大将 《Def busta下村 》 。そんな風に呼ばれておったんだってだってのう。ふぉっふぉっふぉっ」




どうやらこの老人に気に入られた様だが、思わず苦笑いの下村。

「そんな事は別にどうでもいい。それより二宮がお嬢様って、一体どういう事なんだよ?」




堀井はちょっと不気味とも思える “ニッタリ” とした妖しい含み笑いを浮かべ、下村の肩にぽんと手を置いた。

「なんじゃ知らんかったのか?レイお嬢様はのう、過去にワシと零戦開発に携わった、MBM社4代目社長・南條輝彦の落とし種。つまり、我社の跡取りとなる方なんじゃよ」





【回想始まり】

そして、格納庫の大きな扉の外に見える青空を見つめながら、堀井は若き頃の自分と、南條輝彦が、大空で編隊飛行する零戦を、満足げに眺めていた事を思い出していた。

【回想終わり】






その時レイが、堀井の横で慌てて両手をバタつかせながら言った。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ。確かに子供がいなかった本家は、うちのお母さんが亡くなったあと、私を温かく迎え入れてくれて、今は南條姓になったけど…」

 それからレイは、俯き加減で下村を“チラリ”と見たあと、小声で続けた。

「うちのお母さんは…いわゆるお妾で…その子供の私が跡取りなんて…いくらなんでも荷が重すぎるよぉ…」




それを聞き、大声でレイに喝を入れる堀井。

「んなぁ~にを言っとるんじゃあー- ! ワシは現当主代理の洋子様から、レイ様を頼むと言われとるんじゃあ ! いま南條家の血筋は、レイ様唯一人! これからはレイ様が MBM社を背負って立つんじゃあーーー !! 」




そんな大声に気押され、困った表情で下村を見つめるレイ。しかし下村はそんなレイを見て、心底安心した様子で言った。

「そっか…、なんか事情は色々あったんだろうけどよ、良い人達に巡り合ったんだな、二宮」




屈託なく微笑む下村に見つめられ、頬を赤く染めるレイ。




堀井もその様子を見つめ、何か納得したように何度か頷いた。

「下村くん、キミはレイお嬢様の恩人じゃ。ゆっくりして行きなさい。なんなら暫く滞在していっても構わんぞ」




それを聞き、急に子供のように瞳を輝かせる下村。

「マジでかジっちゃん !? なんだったらよぉ、俺もその 《 零 》 に乗ってもいいか !? 」




そんな下村の勢いに、少々引き気味の堀井は、額に一筋の汗を流していた。

「うう~む…お前さん…、少々厚かましいのう…」


本音がポロリと出た。しかしそんな事は関係なく、下村は更に瞳を輝かせていた。













      C r i s i s


翌日のS峠。そこで深夜の公道テストが行われようとしていた。2台の K A M U I 零 に跨る下村とレイ。
なんと下村の希望が、そのまま通り、《零》 に乗る事が許されたのだ。
K A M U I 零 に跨った下村は、昨日、堀井に聞いた、このバイクのスペックを回想していた。






【回想始まり】


堀井は非常に興奮した様子で下村に語った。

「このバイクに名付けられた 《 零 》 とは、我社の 《 零式艦上戦闘機 》 を指し、軽量コンパクトでハイパワー、旋回性と航続距離に特化した、新たなるバイク。始まりの 《 零 》 でもあるんじゃ!!」




《 零 》 を見つめる下村と堀井。

「零の心臓は 902cc、水冷2バルブ2気筒、ツインプラグエンジンと、強烈な電気モーターが内蔵されておる。それに、新開発のバッテリーパックとダイナモは、超短時間で充電を完了させる。モーターに切り替えた時の凄まじさは、もう見ておろうに」





黙って頷く下村。堀井は真面目な顔つきで話を続ける。

「その強烈なパワーを受け止めるシャシは、クロモリ鋼で形成された、強靭かつしなやかなトラスフレームじゃ!!このデザインはのう、レイお嬢様の提案なんじゃ。ギミックの効いた未来的デザインも良いが、バイクがもっともバイクらしく、美しいデザインを採用したんじゃよ」




少々いぶかしげな表情の下村。

「ふ~ん。しっかし 902cc ってよう、まさか KW社 の “マジックナイン” の真似かよ?それに今の時代2バルブって、どうなのよ?」




そんな質問を見透かしたように、妖しく “ ニッタリ ” と笑う堀井。

「単に他社を真似したんじゃないぞ。何十年も世界中の技術者達が、ガソリンエンジンを研究した結果、1気筒あたり450ccくらいが、綺麗に上まで回って、下でもパンチの効く最適値だと分かってきたんじゃ。もちろん我が社でものう。そこでスリムかつトルクの出しやすい、直列2気筒エンジンを採用し、×2 で 902cc としたんじゃよ。それにのう。時として2バルブエンジンは、4バルブエンジンを凌駕することがあるんじゃよ」


堀井の眼光に、更に妖しさが増す。

「その秘密はツインプラグじゃ。知っての通りツインプラグエンジンは、多少の粗悪ガソリンを入れても、ノッキング等の異常燃焼を起こさないよう、セッティングすることが可能じゃからのう。言い換えればのう、セットアップをちょいと変えるだけで、世界中の道のどこででも、容易に走ることができるんじゃよ」




苦笑いの下村。今度は一言皮肉を言ってみた。

「アンタ等の親会社は、最近ずいぶんと萎れているように見えたけど、なかなか面白れぇことやってんじゃねーのよ」


それから堀井は、また妖しく“ニッタリ”と笑って見せた。


【回想終わり】







そんな昨日の事を思い浮かべながら、下村はKAMUI零のタンクの辺りを撫でていた。
その時だった。何者かが靴で小砂利を弾いた音が右後方で聞えた。ほぼ本能的にその音に反応した瞬間、そこで何かの影が宙に跳び上がった。

反射的に右腕のガードを上げる下村。しかし、そのガードは完全には間に合わず、何者かの跳び蹴りを、首筋に受けてしまった。その蹴りで体勢を崩した下村は、K A M U I 零 と共にけたたましい音をたてながら、路面に転がった。




「っだらぁーーー !! 」

下村の戦闘スイッチが入る。転がりながら体勢を整え、片膝をつき相手を見据えると、そこには小柄なアラブ系外国人・ブリッドが立っていた。







「っんだらテメェーーー !! 」




吼える下村。が、次の危機が迫る。視界の端に巨大な左拳のアッパーカットが、迫り来るのを見た。
間一髪、辛うじてその拳を両腕でガードしたのだが、その怪力の持ち主、大男のアラブ系外国人・ハンマーは、パンチの力だけで下村の身体を軽々と空中に舞い上がらせた。








「ぬぁっ」

思わず叫ぶ下村。それと同調するように、小男のブリッドが、見事なまでの跳躍力で空中に跳び上がるのと同時に、鋭く回転し強烈なローリングソバットを、下村の腹部に深々とめり込ませる。

「がぁはっ!」

息を激しく吐き出す下村。地面に叩きつけられ、転がりながらも、必死に体勢を立て直そうと、再度立て膝になった時だった、間髪を入れず、大男の右フックが下村の顔面を捉えた。
その威力、それはまるでスレッジハンマー(大型のハンマー) にでも殴られたような衝撃だった。その破壊的な一撃は、脳髄にまで突き抜け、痺れる身体ごと、派手に吹っ飛ばされてしまった。 
しかも、それでハンマーとブリッドのコンビネーションは終わらない。追い討ちは、下村が吹っ飛ばされた先に待ち構えていた。まず、ブリッドの左ハイキックが、強烈な炸裂音と共に右の首筋を捕える。
そこで遂に下村は、意識が飛びかかった。目からは光が失われ、酔っぱらいのように、足元がふらつき千鳥足となる。それから数歩進んだ後、急に膝が “ ガクン ” と折れ、崩れかかった時だった。非情なまでのハンマーのパンチが強襲する。
それは打ちおろしの右ブーメランフック。止めとばかりに、下村目掛けて放たれた。巨大な右拳が弧を描き襲いかかる。








「いやぁぁぁぁーーーー !! 」


その時、遠のきそうになる意識のなか、レイの声だけがはっきりと聞こえてきた。


「二…宮…」


下村の身体はその声に呼応した。切れかかった意識が再び戻ったのだ。眼に光が宿る。瞬時にいま置かれている状況を理解した。
歯を食いしばり、一歩前に出た足に踏ん張りを利かせる。それから近寄って来たハンマーの顎にめがけて、渾身の力を振り絞り、右脚を鋭く跳ね上げた。

「っだらあーーーー!!」




が、惜しかった。決まればカウンターとなる必殺の一撃だったのだが、その爪先は相手の顎をかすめただけで、虚しく空を切ってしまった。




そして一瞬止まった時間のなか、ハンマーと眼が合う。

「くそったれ…」




“ ボゴッッ ” 巨大な右拳が、下村の顔面に直撃し、そのまま身体ごと路上に激しく叩き付けられる。 それで終わりだった。




ハンマーとブリッドが、倒れている下村を見下ろしていた。もう完全に体がいう事をきかない。下村は薄れゆく意識の中、ブリッドが片言の日本語で、自分への警告を発しているのが聞き取れた。

「シロウトガコレイジョウカカワルナ。ツギハコロス」




周囲はKAMUIの作業員と、数名のアラブ系外国人達が入り乱れ、乱闘模様になっていった。












「はっ…」


目を覚ました下村。視界が狭い。左目は瞼が腫れあがり開かず、固まりかけている大量の鼻血は、顔面を赤く染めていた。

「イテテ…クソッ…」


後頭部を押さえながら、バキバキと音を立てるように痛む体に鞭を打ち、やっとの思いで起き上りながら周囲を見渡した時、驚愕の事実を目の当たりにして、思考が固まってしまった。

そこには、KAMUI社の全員が顔に痣を作り、道路上に座り込む姿と、バラバラに破壊され、屑鉄と変わり果てた、無残なKAMUI零の姿があったのだから。




「いやぁぁぁーーー」


レイは口元から一筋の血を流しながら、破壊されたKAMUI零のパーツを手に、悲痛な慟哭をあげ続けていた。

「どうして…どうしてなの…こんなのいやだよぉ…」


流れる涙から、痛々しいほどの想いが伝わってくる。




「くそったれが…」


激しく歯軋りをした下村は、やりきれない想いで一言吐き捨てた。










つづく

Posted at 2016/10/24 20:41:45 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

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「91時限目 第2弾!カントク冒険隊! 神の湯へ http://cvw.jp/b/381698/45694253/
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2020/05/23 23:46:46
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2020/05/17 15:25:11
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